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送り届けた夢の続き
しおりを挟む しかし、シンの思い切ったように発した言葉とはまるで違い、キングの放った言葉は真逆に限りなく精錬された、鋭く簡潔なものだった。
「あぁ、デイヴィスなら死んだよ・・・」
「えっ・・・」
ある程度予想は出来ていた。彼の口からそう語られるであろうことも想定し、心の準備は整っていた筈だったのだが、キングの声色すら変えず即答で返された言葉に、思わず思考が止められてしまう。
言葉の出てこないシンに代わり、彼の思考を読み取ったキングが彼の言葉を代弁するように話始める。
「俺が殺したのかって?そうだねぇ・・・原因を作っちゃったのは俺かもしれないけど、誓って俺は殺してないよ」
普段のような飄々とした態度や声色ではない。それどころか、これまでのキングの様子からは想像が出来ないくらい落ち着いている。彼の言ったデイヴィスを死という運命の航路へ進ませてしまった要因。
それは、レイチェルというデイヴィスの妹の所在にあった。幼少の時に妹と生き別れになってしまったデイヴィスは、その後彼女の所在を探るため尽力した。
苦労の甲斐もあり、デイヴィスは有力な情報を手にすることとなる。それは、妹レイチェルが奴隷売買に出されたというものだった。
当然、喜ばしい情報ではなかったが、それでも彼女がその時点で生きていたという証明にもなったことに、一先ず安堵したのだという。
そこから更に情報を突き詰めていくと、何でもシー・ギャングなる組織が交易を行う中に、奴隷売買をしているという噂を入手したデイヴィスは、それからというものの組織のボスであるキングに狙いを定め、彼のことを追い始めたのだという。
唯一の肉親を、まるで物のように扱う連中が許せなかったのだろう。デイヴィスの中にあったのは何も正義の心などではない。身内の者をそんな扱いにされたのなら、誰しもがそう思うだろう。彼の中に芽生えた復讐心だけが、その時の彼を動かしていた。
当然と言えば当然かもしれないが、デイヴィスという男がキングのことを探しているという情報は、当人の元にも届いていた。
それからキングは、仕事の合間にデイヴィスという男が何者なのかを調べるようになり、彼が買い取り保護していたレイチェルの兄であることを知る。
だがキング、二人の関係性を知りながらも、そのことを告げることなくデイヴィスが自身の力でキングの元へやって来るのを待つことにしたのだ。
何故そんな周りくどいことをしたのかは定かではないが、キングは何も失うことなく何かを得ようとする者に力を貸すような人間ではない。
デイヴィスにそれだけの、強い思いがあるのかどうかを見定める為でもあったのだろう。それ以上にキングが危惧していたのは、大した決意や信念もなく奴隷を家族の元へ帰しても、その人間の価値が変わることはないと知っていたのだ。
本当に追い求めるのなら、例え相手がギャングという危険な組織であろうと、どこにいるのかさえ分からずとも、死に物狂いで探し出す筈なのだ。それが大切であればあるほど、どんな力に頼ろうとも目的を果たそうとする。
それはその人間を強く逞しく成長させ、求められた者の心にも追い求める者との大きな絆を育むことになる。
キングが何よりも嫌うのは、軽い思いで何かを得ようとする傲慢で怠惰な人の醜さだった。そして、デイヴィスがレースでキングの暗殺計画の為に、裏で動いているという情報を入手した彼は、デイヴィスの覚悟を認め、二人の為に最高の舞台を用意しようとしていた。
だが、デイヴィスやキングの思惑の裏で、静かにその時を待つ強かな者が潜んでいようとは、この時の誰しもが思いもしなかった。
「じゃぁ・・・一体誰が・・・」
シンはキングの船で起きた真相を知らずに、デイヴィスと別れてしまった。それはデイヴィスも望んでいたことだった。自分の私念に全く関係のない、出会ったばかりのシン達を巻き込みたくなかった。
結果として、レース上で知り合ったデイヴィスにシンがどうやって協力していたのかまでは、キングも知る由もなかったのだ。
そして、デイヴィスは漸く妹のレイチェルと再会を果たすが、何の因果だろうか。デイヴィスは嘗ての仲間であった人物によって、キングとレイチェルの真実を知ると共に命を絶たれてしまった。
「ウォルター・ケネディっつぅ、デイヴィスが海賊団を結成していた頃の部下だよ。よっぽどデイヴィスの事を恨んでたんだろうねぇ・・・。奴の動きだけは俺にも分からなかったよ。完璧なまでにひた隠しにしてきた、鋭く研ぎ澄まされた刃は、とても常人には身につけられない武器だよ・・・」
キングは感服したかのように語る。実際、ウォルターの徹底した隠蔽と、自分の心を押し殺してでも叶えたいという、漆黒というベールに包まれた憎悪は、世界中を巡ろうとお目にかかれるものですらないだろう。
「奴はデイヴィスを殺した後、レースを放棄して消えた。バーソロミュー・ロバーツってしてるぅ?彼も会場にいないでしょ。そりゃぁ親友が殺されて、平然としていられるような奴だったら、ここまで協力してないもんね」
キングにはレースがある。それに守らねばならない命も多く抱えていて、とてもウォルターを追えるような状況になかった。そもそも、キングにとっては関係のない事。彼が仇を取ることなど考えられる筈もない。
「あぁ、デイヴィスなら死んだよ・・・」
「えっ・・・」
ある程度予想は出来ていた。彼の口からそう語られるであろうことも想定し、心の準備は整っていた筈だったのだが、キングの声色すら変えず即答で返された言葉に、思わず思考が止められてしまう。
言葉の出てこないシンに代わり、彼の思考を読み取ったキングが彼の言葉を代弁するように話始める。
「俺が殺したのかって?そうだねぇ・・・原因を作っちゃったのは俺かもしれないけど、誓って俺は殺してないよ」
普段のような飄々とした態度や声色ではない。それどころか、これまでのキングの様子からは想像が出来ないくらい落ち着いている。彼の言ったデイヴィスを死という運命の航路へ進ませてしまった要因。
それは、レイチェルというデイヴィスの妹の所在にあった。幼少の時に妹と生き別れになってしまったデイヴィスは、その後彼女の所在を探るため尽力した。
苦労の甲斐もあり、デイヴィスは有力な情報を手にすることとなる。それは、妹レイチェルが奴隷売買に出されたというものだった。
当然、喜ばしい情報ではなかったが、それでも彼女がその時点で生きていたという証明にもなったことに、一先ず安堵したのだという。
そこから更に情報を突き詰めていくと、何でもシー・ギャングなる組織が交易を行う中に、奴隷売買をしているという噂を入手したデイヴィスは、それからというものの組織のボスであるキングに狙いを定め、彼のことを追い始めたのだという。
唯一の肉親を、まるで物のように扱う連中が許せなかったのだろう。デイヴィスの中にあったのは何も正義の心などではない。身内の者をそんな扱いにされたのなら、誰しもがそう思うだろう。彼の中に芽生えた復讐心だけが、その時の彼を動かしていた。
当然と言えば当然かもしれないが、デイヴィスという男がキングのことを探しているという情報は、当人の元にも届いていた。
それからキングは、仕事の合間にデイヴィスという男が何者なのかを調べるようになり、彼が買い取り保護していたレイチェルの兄であることを知る。
だがキング、二人の関係性を知りながらも、そのことを告げることなくデイヴィスが自身の力でキングの元へやって来るのを待つことにしたのだ。
何故そんな周りくどいことをしたのかは定かではないが、キングは何も失うことなく何かを得ようとする者に力を貸すような人間ではない。
デイヴィスにそれだけの、強い思いがあるのかどうかを見定める為でもあったのだろう。それ以上にキングが危惧していたのは、大した決意や信念もなく奴隷を家族の元へ帰しても、その人間の価値が変わることはないと知っていたのだ。
本当に追い求めるのなら、例え相手がギャングという危険な組織であろうと、どこにいるのかさえ分からずとも、死に物狂いで探し出す筈なのだ。それが大切であればあるほど、どんな力に頼ろうとも目的を果たそうとする。
それはその人間を強く逞しく成長させ、求められた者の心にも追い求める者との大きな絆を育むことになる。
キングが何よりも嫌うのは、軽い思いで何かを得ようとする傲慢で怠惰な人の醜さだった。そして、デイヴィスがレースでキングの暗殺計画の為に、裏で動いているという情報を入手した彼は、デイヴィスの覚悟を認め、二人の為に最高の舞台を用意しようとしていた。
だが、デイヴィスやキングの思惑の裏で、静かにその時を待つ強かな者が潜んでいようとは、この時の誰しもが思いもしなかった。
「じゃぁ・・・一体誰が・・・」
シンはキングの船で起きた真相を知らずに、デイヴィスと別れてしまった。それはデイヴィスも望んでいたことだった。自分の私念に全く関係のない、出会ったばかりのシン達を巻き込みたくなかった。
結果として、レース上で知り合ったデイヴィスにシンがどうやって協力していたのかまでは、キングも知る由もなかったのだ。
そして、デイヴィスは漸く妹のレイチェルと再会を果たすが、何の因果だろうか。デイヴィスは嘗ての仲間であった人物によって、キングとレイチェルの真実を知ると共に命を絶たれてしまった。
「ウォルター・ケネディっつぅ、デイヴィスが海賊団を結成していた頃の部下だよ。よっぽどデイヴィスの事を恨んでたんだろうねぇ・・・。奴の動きだけは俺にも分からなかったよ。完璧なまでにひた隠しにしてきた、鋭く研ぎ澄まされた刃は、とても常人には身につけられない武器だよ・・・」
キングは感服したかのように語る。実際、ウォルターの徹底した隠蔽と、自分の心を押し殺してでも叶えたいという、漆黒というベールに包まれた憎悪は、世界中を巡ろうとお目にかかれるものですらないだろう。
「奴はデイヴィスを殺した後、レースを放棄して消えた。バーソロミュー・ロバーツってしてるぅ?彼も会場にいないでしょ。そりゃぁ親友が殺されて、平然としていられるような奴だったら、ここまで協力してないもんね」
キングにはレースがある。それに守らねばならない命も多く抱えていて、とてもウォルターを追えるような状況になかった。そもそも、キングにとっては関係のない事。彼が仇を取ることなど考えられる筈もない。
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