World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
635 / 1,646

運命の分岐点

しおりを挟む
 行き先も告げずにどこかへ行こうとするシンを呼び止めるミア。彼女の大分酒が入り、顔を赤らめてはいるが意識はしっかりしているような口ぶりだった。

 その点に関しては、そこらの男や日頃から酒を飲んでいそうな海賊達よりもよっぽど強そうに見える。一体どこでこれだけ酒に強くなったのだろう。

 「ん?トイレかぁ?」

 「いや、その・・・キングに会いに行ってくる」

 シンの言葉に頭を少しだけ傾けて、その真意を問う。仮にも彼はギャングのボス。組織のリーダーが、たかがレースにたまたま参加しただけの者に面会してくれるのだろうか。

 「会えるのか?どうせ部下の奴らが周りを警備してるだろう」

 「あぁ、それでも話しておきたいことがあるから・・・」

 暫くの間があった後、彼女は何かを察したのか深くは聞かずに、まるで子供を送り出すかのような口調で言う。

 「そっか・・・。まぁ迷わないようにな。初めての地だからな、何か目印でも決めて行くといい」

 「ありがとう。ミアもあまり飲み過ぎるなよ?」

 厄介者を追い払うように、手首をぶらぶらとさせるミア。僅かに聞こえてくるミアの小言を背に、シンはシー・ギャングが宴を繰り広げている場所へと向かう。

 途中、スタッフらしき人などに道やキングの居場所を聞きながら、目的の場所へと向かう。すると、明らかにレースへ参加していた以上の人数を集めるキングの姿が見えた。

 人だかりを避けながら進んでいくと、急に何かに腕を掴まれる。驚きと共に腕を掴んだものの方へ視線を送ると、そこには筋肉質で大柄の大男がシンの行く手を阻んでいた。

 「アンタ、ここはシー・ギャングの貸し切りだぜ。それとも、それを知っててカチコミに来たんかねぇ?」

 あまりに大きな姿と、身体に響くような低い声に思わず息を呑む。それほど荒っぽい口調ではなかったが、確実に牽制の意が込められている。

 「おっ・・・俺はシンという。キングと話がしたくて来たんだ。彼に伝えてもらえないか?ダメならこのまま帰るから・・・」

 暫くの間、大男の眼光がシンのことをじっと捉える。まるで蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。緊張の汗が背中を伝う。すると大男は、近くにいた者に客がキングに会いたがっていることを伝えるように話す。

 シンだけでなく、大男に呼ばれた者も同じく緊張に強張った様子だったことから、どうやらこの大男は立場の上の者なのだろう。

 彼は知らなかったが、彼を引き止めた大男こそシー・ギャングの幹部が一人、ダラーヒムだったのだ。キングの守りについているとするならば、この男を置いて他にいない。

 シンの方へ睨みつけるような鋭い視線がいくつも集まる。肌を刺すようなピリピリとした空気の中、人だかりの向こうからレースの時に何度も耳にした聞き馴染みのある声が、シンを呼んだ。

 「シンちゃ~ん!来てくれたのぉ~?いいよいいよ、通しちゃって!」

 人だかりが左右に分かれ、埋もれていた道が姿を現すようにキングの元へ続く道が出来上がる。恐る恐るその道へ足を進めるシン。それと同時に、彼の動きに合わせて周囲の者達の視線も、彼を追うようについてくる。

 その後ろを、ピッタリと逃げ道を断つようにダラーヒムが後を追い、再び道が塞がれていく。そしてゴール間際で競り合ったキングと再会する。

 「どうしたの、わざわざ会いに来てくれるなんてぇ。君もシー・ギャングに入りたくなっちゃったぁ~?」

 相変わらず本気なのか冗談なのか分からないトーンで話しかけてくるキングに対し、至って真面目な話をする。彼が真摯に上止めてくれるかどうかは、分からないがせっかく来たのだ。言いたいことは全て伝えておくことにしたシン。

 「デイヴィスって、知ってるか?どこを探しても見当たらないんだ・・・」

 シンはデイヴィスがどうなったのかを知らない。暗殺を目論んでキングの船に侵入していったのだ。当然、キングがここにいるということは、彼らによって捕まっているか、或いは・・・。

 その全てを知っているであろう本人から、直接聞きたかったのだ。そこで漸く思いを受け止められる。有耶無耶にしたまま、この地を去ることは出来ない。短い間だったが、デイヴィスからは色々なものを学んだ気がするシン。

 勝手ではあるが、恩師と思っている人間がどうなったのか。一人の男の、一人の人間の運命を決める分岐点。それがどのような航路を辿るのか、見届けることで何か得るものがあるのかもしれない。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...