World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
626 / 1,646

第二陣の到着

しおりを挟む
 騎乗する彼女にエイヴリーの放った砲弾が近づくと、僅かにシャーロットの視線が冷たく黒光りした球体に向けられる。しかし、如何に魔法に愛されているシャーロットであろうと、その正確な狙いから逃れる術はなかったのだ。

 跳躍をしたのはあくまで跨っている馬による力。彼女の意思でそれを捻じ曲げることなど出来ない。

 シャーロットはまるで、自分の前に聳え立つ壁に阻まれてしまう運命を受け入れるように、どこか落ち着いた表情をしている。危機せまる状況下において、何故そんな余裕があるのかは定かではなないが、何か考えがあるのだろうか。

 だが、砲弾はそのままシャーロットに命中し、彼女とその愛馬を打ち砕いてしまう。彼女の作り出した氷像と同様に、粉々になった身体は周囲へ飛散し、結晶となってしまう。

 「当たった・・・!」

 「いや、あれは・・・」

 エイヴリーの砲撃は見事に命中したが、それは人に命中した反応にしてはあまりにも異質なもの。血が一滴も見られなければ、そもそも粉々に砕けること自体がおかしいのだ。

 狐に化かされたかのような景色に、エイヴリーは本物のシャーロットに繋がる手掛かりはないかと目を凝らす。

 すると、彼女の身体が飛散した場所よりも手前に、景色にヒビの入ったような僅かな変化がみられた。よく観察すると、砲弾が氷を突き破ったような跡も見られる。

 「あの女狐・・・。氷で薄い鏡を作ってやがった。それも一枚や二枚じゃぁねぇ・・・。いろんな方向から自分が見られるように細工してやがったんだ」

 馬に乗り跳躍したシャーロットの周りには、彼らの気付かぬ内に紙のように薄い氷の膜が、様々な角度で設置されていたのだ。本体の彼女はそこにはおらず、エイヴリーが撃ち抜いたのは反射により映し出された彼女の虚像に過ぎなかったのだ。

 それでは一体、虚像を作り出していた本体のシャーロットはどこにいたのか。周囲の視線を上空に集めている間、シャーロットは倒れた大木の上を駆け抜けていた。

 シャーロットは既に海岸に到着しており、後はゴールテープを切るのみという状態だった。エイヴリーの戦艦の方へと振り向いた彼女は、口角を上げて勝利を確信した表情で笑う。

 「もう少し、女というものを学んだ方がいいのではないか?エイヴリー。彩のない世界では、知り得ぬ景色もあろう」

 「一杯食わされたか・・・。まさかここまで接戦になるとは、思いもしなかったぞ、シャーロット。だが、次はこうはいかん」

 四着目にゴールへ辿り着いたのは、アイスベリーこと氷の女王、シャーロット・デ・ベリーで確定した。

 彼女は単騎でのレース参戦だったので、ここで総合得点が計算される。道中の島で入手した財宝やアイテム。倒してきたモンスターと海賊の数。そして、レイド戦における貢献度と、到着順位がポイントとして換算される。

 彼らが参加するこのレース、フォリーキャナルレース史上、単騎での優勝は片手で数えられるくらいの記録しか残っていない。それも、レースのルールは周期的に変更されており、その記録の全てが単純な到着順位によるものだった。

 つまり、今回のような団体での参加がメインとなる総合点で順位を決めるルールでは、優勝した者はいないのだ。シャーロット自身、優勝が不可能であることは分かっていた。

 それでも参加したのは、恐らくどうしても欲しかった何かがあったのだろう。そしてゴールした彼女の満足そうな表情から、それは手に入ったとみていいだろう。

 シャーロットのゴールに続こうと、速度を上げたジャウカーンが、どさくさに紛れるようにして直進する。彼が離れることで、砲台に伝わる熱は徐々に冷めていったが、それでも素手で触るのはまだ不可能だった。

 「小僧も、調子に乗りよってからに・・・!」

 「いいじゃないですかぁ~、エイヴリーの“旦那“!俺が一人ゴールしたところで、順位は大きく変わらんでしょ」

 エイヴリーはシャーロットを狙ったその手で、旧時代の砲台を動かし角度をつけると、問答無用で一発の砲弾を彼に向けて撃ち放った。

 「お前に先を越されたってことが、癇に障るってんだよッ・・・!」

 砲弾はジャウカーンの船に命中し、大きな穴を開ける。小型船はバランスを崩しながら、黒々とした煙をあげる。

 「あらら・・・。俺の時はえらく冷静じゃないの・・・」

 その一撃が致命打になったのか、アラートがなる中でジャウカーンは何とかして海岸へと船を走らせる。如何にも危険な煙をあげる彼の船を見て、海岸に集まっていた観客は遠くへと非難を開始する。

 「どいてどいて~!爆発しちゃうよぉ~!」

 既にブレーキ機能が停止してしまっているのだろうか。速度を落とすことなく海岸へ突っ込んでいくジャウカーンの小型船。海面に残るシャーロットの氷を溶かし、滑り込むようにゴールテープを切って海岸へ打ち上がる。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...