616 / 1,646
狂気のレースの覇者
しおりを挟む
案内されたのは海岸が一望できる高台のスタジアムだった。屋根は一部にしかなく吹き抜けとなっており、太陽の日差しと心地の良い潮風が印象的な気持ちの良い場所だった。
観客席には溢れんばかりの人で埋め尽くされている。それどころか、廊下や会場の外にまで人が溢れており、身動きが取れないほどの密集していた。
順位の審議が終わるまで治療を受けていた四人が、スタッフに連れられスタジアムに姿を現す。すると、彼らの姿を捉えた者達から一斉に歓声が上がり、町中から響いているような大喝采が巻き起こる。
「ッ・・・!凄い歓声だ・・・」
「当然ですよ。地元の人は勿論、外からも多くの人々が集まる近隣の国々の中でも特に大きな大会ですから」
鳴り止まない拍手と賛美の声の中を、やや眉を潜ませながら進むシン。用意されたステージ上に続く階段を上がると、それぞれの方向から激闘を繰り広げた戦友達の姿が視界に入った。
ゴール直後の彼らとは違い、ある程度落ち着きを取り戻している。それでも、まだ順位を知らされていないのだろう。辺りをゆっくり見渡し、犯行現場で手掛かりを探す探偵のように順位のヒントになるものを探している。
決められた立ち位置なのだろうか。彼らをステージ上に案内したスタッフ達が、一礼をしてその場を後にする。それから間も無くして、スタジアムの上部に設置されたスピーカーから、開会式の時にも話をしていた支配人の男の声がし始めた。
「会場にお集まりの皆様。モニター越しにご覧の皆様。大変長らくお待たせしました。フォリーキャナルレース史上、初めてとなるデッドヒート。大いに盛り上がり、楽しんでいただけたかと思います。そして何より、歴史的名勝負を繰り広げて下さった彼らに、今一度賛美と称賛の拍手をッ!」
支配人の男の言葉に乗せられ、割れんばかりの拍手が会場から天に向けて響き渡る。指笛や様々な楽器の音も入り混じり、会場の盛り上がりは最高潮に達する。
「それでは皆様お待ちかね・・・。何より、当の彼らが最も知りたがっているであろう、今大会の到着順位優勝者を発表致します。厳正なる審議と度重なる映像確認の結果、勝利を収めたのは・・・」
会場が一気に静まり返る。先程までの歓声が嘘のように消え去り、ざわざわと落ち着かない声がこだまする。そして誰よりも順位を知りたがっていた彼らは、固唾を呑んでその時を待った。
全身の神経が研ぎ澄まされ、身体や額を流れる汗の滴の動きがまるで誰かに触られているかのようにはっきりと伝わる。彼らのレースは、その順位を耳にした時に初めて決着がつく。
そして、支配人の第一声が発せられると同時に、一人の男が立ち上がり意外なほど大きな雄叫びと動きで、勝利の喜びを表した。
「チン・シー海賊団所属ッ!海賊界でも最強の武術の達人とも名高い、“リーウ・ハオラン“選手だぁぁぁ!!」
再び大地を震わせるほどの大歓声がスタジアムに響き渡る。彼とは正反対に、身体の力が一気に抜けたかのように緊張から解き放たれる三人。
悔しさはある。だが、彼らの中に誰一人として後悔を抱く者はいなかった。誰が優勝していてもおかしくない僅差の戦い。それは実力だけでなく、勝利の女神さえも魅了した走りだったのかもしれない。
冷静で感情をあまり表に出さない人物かとばかり思っていた、リーウ・ハオランという男。その男がこれほどまでに感情を爆発させたのだ。余程この勝利が嬉しかったのだろう。
シンは、その後のことをあまりよく覚えていなかった。全身を覆っていた緊張感は、彼の身体からこれ以上ないほどの脱力感を生み出した。
しかし、その後の歓声は収まることがなかったのだ。同時に会場内に響いたのは驚きと困惑にも似た騒めきだった。それは特にシン以外の、レースの常連や関係者などの間でより多く騒がれた。
大元の内容は想像がついた。恐らく順位に関することだろう。だが優勝者は既に発表された。一体これ以上何に驚くというのか。それが分からないのは、この会場でシンだけだろう。
優勝者であるハオランの名を告げた後、支配人の男はそれ以降の順位を続けて発表していった。
「皆様・・・我々を驚かせるサプライズはまだもう一つあります。惜しくも優勝は逃したものの、映えある二位に輝いたのは・・・。今大会初参加となる“シン“選手だッ!!」
今まで滅多なことで揺らぐことのなかった不動の上位三チーム。チン・シー海賊団が一位で入ったとなれば、後の順位は前後しようとシー・ギャングのキングか、エイヴリー海賊団のマクシムで決まりだとばかり思われていた。
主催側や観客も、その三チームの内どこが優勝するのだろうかという予想しかされていなかった。しかし、会場の皆の意表をつくように二位へと潜り込んできたのは、無名の人物であり更にはこのフォリーキャナルレース初参加となるダークホースだった。
観客席には溢れんばかりの人で埋め尽くされている。それどころか、廊下や会場の外にまで人が溢れており、身動きが取れないほどの密集していた。
順位の審議が終わるまで治療を受けていた四人が、スタッフに連れられスタジアムに姿を現す。すると、彼らの姿を捉えた者達から一斉に歓声が上がり、町中から響いているような大喝采が巻き起こる。
「ッ・・・!凄い歓声だ・・・」
「当然ですよ。地元の人は勿論、外からも多くの人々が集まる近隣の国々の中でも特に大きな大会ですから」
鳴り止まない拍手と賛美の声の中を、やや眉を潜ませながら進むシン。用意されたステージ上に続く階段を上がると、それぞれの方向から激闘を繰り広げた戦友達の姿が視界に入った。
ゴール直後の彼らとは違い、ある程度落ち着きを取り戻している。それでも、まだ順位を知らされていないのだろう。辺りをゆっくり見渡し、犯行現場で手掛かりを探す探偵のように順位のヒントになるものを探している。
決められた立ち位置なのだろうか。彼らをステージ上に案内したスタッフ達が、一礼をしてその場を後にする。それから間も無くして、スタジアムの上部に設置されたスピーカーから、開会式の時にも話をしていた支配人の男の声がし始めた。
「会場にお集まりの皆様。モニター越しにご覧の皆様。大変長らくお待たせしました。フォリーキャナルレース史上、初めてとなるデッドヒート。大いに盛り上がり、楽しんでいただけたかと思います。そして何より、歴史的名勝負を繰り広げて下さった彼らに、今一度賛美と称賛の拍手をッ!」
支配人の男の言葉に乗せられ、割れんばかりの拍手が会場から天に向けて響き渡る。指笛や様々な楽器の音も入り混じり、会場の盛り上がりは最高潮に達する。
「それでは皆様お待ちかね・・・。何より、当の彼らが最も知りたがっているであろう、今大会の到着順位優勝者を発表致します。厳正なる審議と度重なる映像確認の結果、勝利を収めたのは・・・」
会場が一気に静まり返る。先程までの歓声が嘘のように消え去り、ざわざわと落ち着かない声がこだまする。そして誰よりも順位を知りたがっていた彼らは、固唾を呑んでその時を待った。
全身の神経が研ぎ澄まされ、身体や額を流れる汗の滴の動きがまるで誰かに触られているかのようにはっきりと伝わる。彼らのレースは、その順位を耳にした時に初めて決着がつく。
そして、支配人の第一声が発せられると同時に、一人の男が立ち上がり意外なほど大きな雄叫びと動きで、勝利の喜びを表した。
「チン・シー海賊団所属ッ!海賊界でも最強の武術の達人とも名高い、“リーウ・ハオラン“選手だぁぁぁ!!」
再び大地を震わせるほどの大歓声がスタジアムに響き渡る。彼とは正反対に、身体の力が一気に抜けたかのように緊張から解き放たれる三人。
悔しさはある。だが、彼らの中に誰一人として後悔を抱く者はいなかった。誰が優勝していてもおかしくない僅差の戦い。それは実力だけでなく、勝利の女神さえも魅了した走りだったのかもしれない。
冷静で感情をあまり表に出さない人物かとばかり思っていた、リーウ・ハオランという男。その男がこれほどまでに感情を爆発させたのだ。余程この勝利が嬉しかったのだろう。
シンは、その後のことをあまりよく覚えていなかった。全身を覆っていた緊張感は、彼の身体からこれ以上ないほどの脱力感を生み出した。
しかし、その後の歓声は収まることがなかったのだ。同時に会場内に響いたのは驚きと困惑にも似た騒めきだった。それは特にシン以外の、レースの常連や関係者などの間でより多く騒がれた。
大元の内容は想像がついた。恐らく順位に関することだろう。だが優勝者は既に発表された。一体これ以上何に驚くというのか。それが分からないのは、この会場でシンだけだろう。
優勝者であるハオランの名を告げた後、支配人の男はそれ以降の順位を続けて発表していった。
「皆様・・・我々を驚かせるサプライズはまだもう一つあります。惜しくも優勝は逃したものの、映えある二位に輝いたのは・・・。今大会初参加となる“シン“選手だッ!!」
今まで滅多なことで揺らぐことのなかった不動の上位三チーム。チン・シー海賊団が一位で入ったとなれば、後の順位は前後しようとシー・ギャングのキングか、エイヴリー海賊団のマクシムで決まりだとばかり思われていた。
主催側や観客も、その三チームの内どこが優勝するのだろうかという予想しかされていなかった。しかし、会場の皆の意表をつくように二位へと潜り込んできたのは、無名の人物であり更にはこのフォリーキャナルレース初参加となるダークホースだった。
0
お気に入りに追加
310
あなたにおすすめの小説
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転生貴族の異世界無双生活
guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。
彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。
その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか!
ハーレム弱めです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと
Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】
山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。
好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。
やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。
転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。
そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。
更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。
これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。
もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。
──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。
いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。
理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。
あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか?
----------
覗いて下さり、ありがとうございます!
10時19時投稿、全話予約投稿済みです。
5話くらいから話が動き出します?
✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!
べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる