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神代 コウ

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真剣勝負

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 シンやマクシムがボードの特性を使い、影や鋼糸を飛ばしていたように、キングは範囲に入った者を無重力状態にする結界を、前方に撃ち放ち仕掛けていたのだ。

 これにより、本来届かない範囲であろうと能力を発揮することが可能となった。目視で見分けるのは困難で、ましてやレースのような競り合っている状況でその罠を特定するなど不可能に近い。

 意外だったのは、命を奪うような罠ではなかったことだ。彼の能力であれば、重力をかけて海に沈めることも、今よりも重力を軽くし、空高く浮かせて海面に叩きつけらば、もう追ってくる心配もないだろう。

 何故排除するような攻撃をしなかったのか。ハオランやマクシムの攻撃は一歩間違えれば命を落としかねないものだった。それでも、やはり彼らの攻撃にはリヴァイアサンやロロネーらに向けるような殺意は無いように見受けられる。

 これは彼らなりの流儀なのだろうか。殺し合いではなく、あくまでレースの上でのことなのだという。しかし、初めにも説明があった通り、何でも有りのなのがこのフォリーキャナルレース。

 レースの常連者達の間で結ばれている決まり事や盟約でもあるのだろうか。

 シン達が宙に浮いている間に、体勢を立て直したキングが悠々と彼らの下を通り、追い抜いていく。通り抜け様に彼は、シン達の方を振り返り見世物小屋でも見るかのような表情で、彼らを挑発した。

 「何の考えもなしに俺がやられる訳無いじゃなぁ~い。もうすぐゴールだからって油断したんじゃないのぉ~?」

 「クッ・・・!待ってろよ、必ず追いついてやるからな!」

 「だと良いけどねぇ~」

 三人を代表してマクシムが彼の挑発を受け流す。手を振りながら呑気に先へと進んでいくキング。それに引き換えシン達は、いつ解除されるかも分からぬ無重力の檻から解放されるのを待つしかなかった。

 すると、まるで諦めているかのように落ち着いた様子のハオランが、突然シンに今の気持ちを打ち明け始める。

 「今回のレースは、色々と波乱が多くありました・・・。その中であなた方に出会えて、共に戦えたのは名誉なことでした」

 「どうしたんだ?突然」

 「私は嬉しいのです。これまでのレースは、チームとしての勝利に貢献することで、皆と歓喜と栄光を分かち合うものでした。今回もそれについては変わりませんが、いつもと違うのは最後の勝敗を分ける決め手が、我々個人の働きにかかっているということです」

 これまでのレースでは、今回のようにレイド戦や不測の事態で分断されることがなく、海賊団同士の団体戦でゴールを迎えていた。それが今回、リヴァイアサンという今までにない苦戦を強いられるレイド戦となり、普段追い付くことすら叶わなかった海賊達にもレイド戦を味わう機会があった。

 そしてその巨体から流れる血液で足を取られ、シン達のようにツバキの開発したボードを持つ者が先に血の海を抜け、海賊団の勝利を背負いゴールへと向かった。

 ハオランのいう通り、謂わば彼らはそれぞれの海賊団の代表者。勝利の責務と期待を背負い、今ここにいる。

 「嬉しいんですよ。純粋に個人の実力で、順位が決まるっていうことが・・・」

 「嬉しい?珍しいな。普通は与えられた期待と責任が大きいほど、人はsの重圧で重くなるというのに・・・」

 「そういうものですかね。少なくとも私は、単純に負けたくないという気持ちだけでレースを走ることが楽しいのです。勿論、主人に勝利を届けなければならないというプレッシャーもあります。ですが、彼の方は私達の努力の結果を責めるような人ではありません。人に結果を託すのであれば、それ以上のものを期待するのは間違っている。その場に居れなかった自分が悪いとおっしゃる方だ・・・」

 あの強気な人格を見ていれば、容易に想像出来そうな台詞だった。チン・シーは部下に慕われる威厳のある人物だ。例えハオランがこの競り合いに負けたとしても、その場に居れなかった自分が悪いと、キッパリ諦めそうな潔さがあるように思える。

 彼女に限ったことではない。エイヴリーやキングの部下達も、勝敗を託した人物の結果を責めるような輩はいないだろう。人の手に結果を委ねたのなら、委ねたのも自分の責任であることを理解しているのだ。

 それが思わしくない結果であったことを嘆くのなら、初めから委ねるべきではない。託された人間に責任があるのではなく、託した人間の判断に責任があるのだから。

 「さぁ、そろそろ彼の能力が切れそうです。エンジンをフルスロットルでかけておいた方がいいですよ?じゃないと出遅れてしまいますから」

 「いいのか?そんなアドバイスをして。そんな話を聞かされて、情に流されるような奴じゃぁねぇぞ?」

 マクシムがハオランの忠告を聞き、どんな話をされようと順位を譲る気はないという意思を彼に伝える。無論、そんなことを望む人物では無いことは分かっているつもりだった。それならそれで、彼も心の内をハオランに伝えておこうと思ったのだろう。

 「勿論ですよ。譲られた勝利に何の価値もありません。私は全力であなた方と、勝利をかけて戦えることを望みます。だから・・・覚悟してくださいね」

 そう嬉しそうに語るハオランの言葉には、手を抜かぬという硬い意志があった。もし前に出るようなことがあれば、間違いなくキングにしていた攻撃がシン達の身にも降りかかることになる。

 当然、そんな脅しに怯むマクシムではない。彼もエイヴリー海賊団の看板を背負いこの場にいる。そしてシンも、彼の言葉を聞いてからでは、安全策をとり手を抜こうという気も起きなかった。

 これだけ彼が自分を評価してくれているのだ。ここで情に流され勝利を譲るようなことああれば、それこそ彼に失礼というものだ。

 徐々に身体が重くなるのを感じる。ハオランの言っていた通り、キングの無重力の檻から解放される時が近づいているのだろう。恐らく時間で解放されるか、キング自身との距離で解除させる仕組みになっているに違いない。

 その証拠に、キングの影が離れれば離れるほど彼らの身体は海面へと降りていた。そして海面にボードがつくと、勢いよく水飛沫を噴出し、今かいまかと走り出す時を待っていた。

 キングの影が小さくなり、波にそのシルエットが飲まれた時、彼ら三人に課せられた足枷が外され、猛獣を解き放ったかのように三台のボードが海域に三つのラインを引く。
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