World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
589 / 1,646

鍛え上げられた人間兵器

しおりを挟む
 一人の人間が抑え込めるような質量の魔物ではない。だが、彼らの目にはそのあり得ないような光景が写っていた。それまで何度か力を披露していたキングだったが、エイヴリーやチン・シーに感化され、実力を表し始めた。

 キングがリヴァイアサンの頭部を海面に倒すように抑えつけたおかげで、砲身の角度を変えることが出来なくなってしまったレールガンでも、狙えるようなところにまで下がってきた。

 これにより、レールガンを治す必要がなくなったエイヴリーは、このチャンスをものにせんと、修復に使っていた能力を全て、再装填の為に費やす。直接エイヴリーが手を加えることで、レールガンの再装填が加速する。

 しかし、それには相応のリスクを伴い、大量の魔力を消費してしまうことになる。今までエイヴリーがレールガンの再装填に手を加えなかったのは、それを杞憂してのことだった。

 だがキングの全力を持ってしても、解き放たれたリヴァイアサンの力を完全に抑え込むには至らなかったのだ。あともう少しというところで、リヴァイアサンの頭部はレールガンの射線から僅かに上のところで踏み止まっていた。

 「ッ・・・俺ちゃんも焼きが回ってきたか?全力でやってんだけどねぇ~ッ・・・!」

 惜しいところで下がり切らないリヴァイアサンの頭部を見て、キングの力を持ってしても、やはりあそこまで巨大な魔物を押さえつけるのは不可能なのかと見つめるエイヴリー。

 「・・・?様子がおかしいな・・・」

 「どうしたんです?」

 「デカブツの頭が、もう少しってところでレールガンの射線上まで降りてこねぇ・・・。奴が意図的にあそこで留めてるとは思えねぇ。つまり、奴の力を持ってしても、あれが限界ってこった・・・」

 希望を見出していたところに、聞きたくもない真実を聞かされたかのような反応を示す船員。これではレールガンの装填が完了しても頭部を狙うことは出来ず、結局可動装置の修復作業を行わなければならない。

 「ではどうしますか?このまま装填が完了し次第、修復するしかないということでしょうか・・・?」

 「そうだな・・・。或いは、デカブツの頭部を上から叩き伏せられるだけの力があれば、コイツでぶち抜いてやるんだが・・・」

 エイヴリーが含んだ言い方をしたのは、彼らにこれ以上悪い知らせを伝えない為だった。キングがあれ程苦戦するリヴァイアサンの頭部を、そう簡単に押さえつけられるものではない。

 それこそキングの能力に匹敵するか、至らずとも劣らぬ実力がなければ不可能。エイヴリー自身を含めたエイヴリー海賊団の面々は、強力な力や能力を持つ者はいても、巨大な魔物を押さえつけられるような怪力に特化した者はいない。

 それはキングのシー・ギャングの幹部達も同じで、ダラーヒムがパワータイプの攻撃が可能ではあるが、錬金術で巨大な物を作り出すだけの物資が必要になる。

 だがそれを実現させようとすれば、海上にある海賊船をいくつ使うことになるのか、想像すら出来ない。それでは何人の命と船を犠牲に、漸く賭けの場に立てるかという、メリットに見合わぬリスクが要求される。

 雲行きが怪しくなる最終決戦の場に、荒波を割いて向かってくる一人の人物がいた。

 各々がそれぞれの役割に必死になり、この場に近づく影に気付かぬ中、その人物は海面でリヴァイアサンの首元で踏ん張っているキングを見つけ、何をしようとしているのかを悟ると、彼を邪魔しないようにリヴァイアサンへ近づく。

 そして巨大な大木のように太い首に近づくと、目にも止まらぬ素早い拳を数回打ち込む。すると突然、リヴァイアサンはバランスを崩したかのようにぐらりとよろめき、頭部が海面に近づく。

 突然軽くなったことに驚くキング。抜かりない彼は、そんな不測の事態があっても力を緩めることなく、逆に踏ん張りを効かせリヴァイアサンの頭部を下がったところで固定させる。

 「何だ・・・?誰か来たのかッ?」

 すると、リヴァイアサンの首に攻撃を打ち込んだ人物が口を開く。

 「何という肉の壁・・・。私の指圧が根幹にまで届かない・・・!?」

 リヴァイアサンの頭部に起きる異変を見ていたチン・シーは、その人物の接近を誰よりも早く感知していた。何故そのようなことが出来たのか。

 それは彼女が、その人物と深い関わりのある人物であるが故だった。この作用はシンの中にもまだ残っており、彼女がレイドの戦場を詳しく特定出来たのも、彼らのその気配を感知していたからだったのだ。

 「おぉ・・・無事であったか。まさか此度のレイドがこれ程の事態になっているとも知らず、苦労をかけたな・・・“ハオラン“」

 シー・ギャングの幹部であるスユーフと共に、リヴァイアサンの身体を攻撃していたハオランが、いつの間にか攻撃を引き上げ一人でこんなところにまでやって来ていた。

 彼はリヴァイアサンへの攻撃を続ける最中、空を駆ける炎の鳥の姿を視界に捉えていた。そんな事ができる人物など、彼の中では自分が所属するチン・シー海賊団の連携弓技でしか見たことがなかった。

 すぐにチン・シーが戦場にやってきた事を悟ると、彼はスユーフに彼女の元へ行きたいと伝え、スユーフを彼の船団へ送り届け、急いでリヴァイアサンの頭部があるこの場までやって来たのだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

聖剣を錬成した宮廷錬金術師。国王にコストカットで追放されてしまう~お前の作ったアイテムが必要だから戻ってこいと言われても、もう遅い!

つくも
ファンタジー
錬金術士学院を首席で卒業し、念願であった宮廷錬金術師になったエルクはコストカットで王国を追放されてしまう。 しかし国王は知らなかった。王国に代々伝わる聖剣が偽物で、エルクがこっそりと本物の聖剣を錬成してすり替えていたという事に。 宮廷から追放され、途方に暮れていたエルクに声を掛けてきたのは、冒険者学校で講師をしていた時のかつての教え子達であった。 「————先生。私達と一緒に冒険者になりませんか?」  悩んでいたエルクは教え子である彼女等の手を取り、冒険者になった。 ————これは、不当な評価を受けていた世界最強錬金術師の冒険譚。錬金術師として規格外の力を持つ彼の実力は次第に世界中に轟く事になる————。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...