576 / 1,646
怪物の背に
しおりを挟む
だが、それが一体どんな仕組みなのか、どうやって作動しているのかさえシンには分からない。呪術というものに疎く、ゲームとしての知識、所謂ステータスダウンや行動の制限、魔力の消失や場合によっては命を削るものもある。
そんなありきたりなもの。或いは、彼の現実世界にあるような、迷信や噂の中にあるような相手を呪う儀式など、シンの中にある知識はその程度で、何処まで呪術なのか、そもそもこれが本当に呪術なのかさえハッキリとは分かっていない。
そんな彼の背中を押すように、漠然とした目標に向かおうと思ったのは、ある者の声による助言があったからだった。だが、今彼らが居るのはまさに海の上。他の誰かが居るなどあり得ないことだ。
ならば一体、その声は誰のものなのか。それは彼らをここまで導いた、ミアの新たな力であり、共に戦う友の声だったのだ。
「あれが見える?・・・何か凄い力を感じる・・・。とても人のものとは思えないほどの・・・」
「なッ・・・!何者だ!?どこにいる?」
「あら、彼女はまだ私のことを話していなかったのね・・・。私はウンディーネ。ミアの錬金術に呼応して姿を得た精霊よ」
シンとツクヨは、その淡く発光する小さな姿をした、羽の生えた青白い女性を見て言葉を失った。所謂、精霊や妖精という言葉で思い浮かべるような、自在に飛び回る小人そのままの姿をしていた。
彼らもこのレースで新たな力を手に入れてきた。故にミアの身にも新たな変化があったとしても不思議ではない。しかし、何も語らなかったことから、このWoFの世界へ転移出来るようになってからの経験が一番長いミアは、二人の成長速度と差があるものだと思っていた。
意図して考えてことはなかったが、これまで彼らに、ゲームでいうところのレベルアップのような現象を迎えたことがなかった。しかし、確実に彼らはこの世界の人々と接し、モンスターや敵対者との戦闘の中で成長している。
無論、クラスや状況によって個人差はあるだろうが、ミアの錬金術が成長したことで、意思を持つ精霊ウンディーネが生まれたことに、二人は彼女の成長の幅を目の当たりにした。
そしてウンディーネは、リヴァイアサンの背に仕掛けられた何かに気づいたシンに、あるお願い事をする。それはシンも望んでいたことで、この状況で断る理由などなかった。
「貴方に頼みがあるわ。私をあそこまで連れて行ってくれないかしら?」
「ちょうど気になっていたところだ。だが俺の力では、あそこまで登れそうにない・・・。それに俺がいなくても、一人で行けるんじゃないか?」
「それが出来たらお願いなんかしてないわ。それに、私がミアの元を離れて、自分の意思で別の場所へ向かうには、生きた依代が必要なのよ・・・。未知なら私が作るから任せて」
二人をマクシムの落下地点まで送り届ける目的を果たしたウンディーネ。それはミアの意思であった為、彼女から離れることが出来たが、本来の宿主であるミアの意思に関係なく何処かへと飛び去っていくことは、ウンディーネには出来ないのだという。
ミアあってこその、その姿。彼女の意思なくして姿を止めることが出来ないのだそうだ。しかし、ミアの指示になくとも、彼女の心にある二人を助けて欲しいという願いがあれば、対象者であるシンとツクヨを仮の依代とし、ついて行くことが出来る。
流石にあの場へマクシムを連れたまま向かうことは出来ないので、シンはツクヨに彼をミアとツバキの居る船まで送り届けるよう伝える。彼もそれに了承し、シンとウンディーネがリヴァイアサンの元へ向かったことをミア達に伝えてくると言い残し、ツクヨは来た道を戻って行った。
彼を見送り、再び目的地であるリヴァイアサンの背を見上げるシン。爆発後の様子を伺っているのは、何も彼らだけではなかった。
エイヴリー海賊団は一時攻撃を中断、レールガンの次弾装填の準備だけ進め、無闇に煙の中へ向かわせることなく、ロイクの竜騎士隊にも前線から後退させ、船に群がる小型モンスターの排除に専念させていた。
そして、後方より火矢で怪鳥を作り出し狙撃していたチン・シー海賊団は、爆発後一羽の火の鳥を煙の中へ送り込むも、何かに衝突するような音や形跡もなく、彼方へ飛び去っていった。その後は、これ以上撃ち込んでも無駄になると、船団を前進させる。
その頃、襲撃を受けていたキングの船団も、エイヴリー海賊団による派手な戦闘に誘われるように、最もダメージを稼げるであろう頭部の方へと向かって来ていた。
そんなありきたりなもの。或いは、彼の現実世界にあるような、迷信や噂の中にあるような相手を呪う儀式など、シンの中にある知識はその程度で、何処まで呪術なのか、そもそもこれが本当に呪術なのかさえハッキリとは分かっていない。
そんな彼の背中を押すように、漠然とした目標に向かおうと思ったのは、ある者の声による助言があったからだった。だが、今彼らが居るのはまさに海の上。他の誰かが居るなどあり得ないことだ。
ならば一体、その声は誰のものなのか。それは彼らをここまで導いた、ミアの新たな力であり、共に戦う友の声だったのだ。
「あれが見える?・・・何か凄い力を感じる・・・。とても人のものとは思えないほどの・・・」
「なッ・・・!何者だ!?どこにいる?」
「あら、彼女はまだ私のことを話していなかったのね・・・。私はウンディーネ。ミアの錬金術に呼応して姿を得た精霊よ」
シンとツクヨは、その淡く発光する小さな姿をした、羽の生えた青白い女性を見て言葉を失った。所謂、精霊や妖精という言葉で思い浮かべるような、自在に飛び回る小人そのままの姿をしていた。
彼らもこのレースで新たな力を手に入れてきた。故にミアの身にも新たな変化があったとしても不思議ではない。しかし、何も語らなかったことから、このWoFの世界へ転移出来るようになってからの経験が一番長いミアは、二人の成長速度と差があるものだと思っていた。
意図して考えてことはなかったが、これまで彼らに、ゲームでいうところのレベルアップのような現象を迎えたことがなかった。しかし、確実に彼らはこの世界の人々と接し、モンスターや敵対者との戦闘の中で成長している。
無論、クラスや状況によって個人差はあるだろうが、ミアの錬金術が成長したことで、意思を持つ精霊ウンディーネが生まれたことに、二人は彼女の成長の幅を目の当たりにした。
そしてウンディーネは、リヴァイアサンの背に仕掛けられた何かに気づいたシンに、あるお願い事をする。それはシンも望んでいたことで、この状況で断る理由などなかった。
「貴方に頼みがあるわ。私をあそこまで連れて行ってくれないかしら?」
「ちょうど気になっていたところだ。だが俺の力では、あそこまで登れそうにない・・・。それに俺がいなくても、一人で行けるんじゃないか?」
「それが出来たらお願いなんかしてないわ。それに、私がミアの元を離れて、自分の意思で別の場所へ向かうには、生きた依代が必要なのよ・・・。未知なら私が作るから任せて」
二人をマクシムの落下地点まで送り届ける目的を果たしたウンディーネ。それはミアの意思であった為、彼女から離れることが出来たが、本来の宿主であるミアの意思に関係なく何処かへと飛び去っていくことは、ウンディーネには出来ないのだという。
ミアあってこその、その姿。彼女の意思なくして姿を止めることが出来ないのだそうだ。しかし、ミアの指示になくとも、彼女の心にある二人を助けて欲しいという願いがあれば、対象者であるシンとツクヨを仮の依代とし、ついて行くことが出来る。
流石にあの場へマクシムを連れたまま向かうことは出来ないので、シンはツクヨに彼をミアとツバキの居る船まで送り届けるよう伝える。彼もそれに了承し、シンとウンディーネがリヴァイアサンの元へ向かったことをミア達に伝えてくると言い残し、ツクヨは来た道を戻って行った。
彼を見送り、再び目的地であるリヴァイアサンの背を見上げるシン。爆発後の様子を伺っているのは、何も彼らだけではなかった。
エイヴリー海賊団は一時攻撃を中断、レールガンの次弾装填の準備だけ進め、無闇に煙の中へ向かわせることなく、ロイクの竜騎士隊にも前線から後退させ、船に群がる小型モンスターの排除に専念させていた。
そして、後方より火矢で怪鳥を作り出し狙撃していたチン・シー海賊団は、爆発後一羽の火の鳥を煙の中へ送り込むも、何かに衝突するような音や形跡もなく、彼方へ飛び去っていった。その後は、これ以上撃ち込んでも無駄になると、船団を前進させる。
その頃、襲撃を受けていたキングの船団も、エイヴリー海賊団による派手な戦闘に誘われるように、最もダメージを稼げるであろう頭部の方へと向かって来ていた。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる