World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
564 / 1,646

実験の証拠と成果

しおりを挟む
 町長には、ここで匿っている者達の分を渡し、また後で町の住人達の分を持って来ると伝えるデイヴィス。すると、ハンクは彼を呼び止め、スミスが今どうしているのかと尋ねて来た。

 「彼は今どうしている?」

 デイヴィスは一瞬、本当のことを言おうかどう迷った。ここに直接本人が現れなかったのは、町長や町の住人達とのいざこざがあったが故に出てこれなかったで済む。

 彼がもう助からないと知ったら、ハンクら町長サイドの人間や町の住人達はどう思うのだろう。彼の死を悲しむ人はここにいるのだろうか。最期に仲を取り持つべきか、死後に彼らがスミスの死を悲しみ、後悔する日が訪れるのを待たせておくべきか。

 しかし、たまたま港にやって来た余所者の海賊が、そこまで気にすることでもないだろう。あくまで彼らの目的は、仲間の治療と回復にあった。後のことは、ここに住む町の者達の間で解決することだ。

 思わず口を紡いだデイヴィスは、ハンク町長に事実をそのまま伝えた。

 「彼は・・・スミスはもう助からない・・・。症状が身体の内部にまで及んでしまっているようだ。この薬ではもう、どうすることもできない・・・」

 話を聞いたハンクは、思いの外悲しい顔をしていた。本当は彼らも、そこまでスミスのことを恨んでいる訳ではなかったのかもしれない。ただ、周りがそういう空気をしていたから、自分もそうしなければならないのだという風潮があったように思える。

 「そうか・・・。彼は今、診療所にいるんだな?最期に言葉を送らせてもらっても良いだろうか・・・?」

 「どうしてそれを俺に聞く?俺達ぁ部外者だ。これからのことを決めるのはアンタらなんじゃねぇのか・・・」

 彼の返しに、ハンクはどうしてそんな当たり前のことにも気づけないのかと、鼻で笑って顔を逸らした。

 「それもそうだ。だが、お前達にも感謝してるよ。ありがとう・・・」

 デイヴィスは早く行けとばかりに、野良犬でも追い払うような手の素振りを取ると、ハンクは彼に背を向けて、診療所にいるスミスの元へと一人向かっていった。

 一番の問題であった町長サイドの説得も上手くいき、デイヴィスは残りの漁師達の元へ、アンスティスの薬を届けにいく。

 こちらは初めから、わりかし協力的であった為、ハンクら町長達よりは話を通しやすいだろう。しかし、当然ながら彼らにも、重症の者や内臓へ転移してしまった者は救えないという事実と、スミスが長くないことを伝えねばならない。

 スミスへの恨みがある中、彼と取引をしていた漁師達にとっては、ハンクら以上に驚く結果を告げられることだろう。

 ハンクがスミスを前にした時、どんな話をするのかと想像しながら、デイヴィスは港へとやってくる。だが、ログハウスに近づこうとも、ダミアンの賑やかな声が聞こえてこない。

 人の出入りもないところを見ると、今日のところの仕事を終え安静にいているのだろうと、デイヴィスはログハウスの扉を開ける。すると、開口一番に放たれた言葉は、漁師達が何者かを探しているといったものだった。

 「彼は見つかりましッ・・・えっ?」

 「・・・?」

 初め、何を言われているのか理解できなかったデイヴィス。同じく、中にいた漁師の男も思わぬ来客に驚いているようだった。別の誰かを待っていたのだろうか。

 「アンタは確か・・・ハーマンさんと洞窟に行った筈の・・・」

 「デイヴィスだ、ダミアンに話したいことがある」

 しかし、中を見渡せど何処にもダミアンの姿はない。何処かへ出掛けているのだろうか。確か、デイヴィスらが洞窟へ向かう前、彼女は用事があるといい二人と別れた。その用事がまだ済んでいないのだろうか。

 「・・・見た感じいないようだが・・・。まだ帰ってないのか?」

 「アンタとハーマンさんが出てった後、直ぐに用事を済ませて帰って来たよ。いや、それどころじゃない。早く洞窟に行ってやってくれ。アンタを探してる筈だから」

 「俺を・・・?」

 何か用事でもあるのか。全く心当たりのないデイヴィスは、何故ダミアンが自分を探しているのか分からなかった。だが、直ぐにその理由に気づき始める。

 もしかしたら彼女は、洞窟で起きた不足の事態を聞き、デイヴィスを探してくれているのかもしれない。直ぐに漁師の男に急かされるままログハウスを後にすると、入り江の洞窟の方へと向かった。

 ハーマンに案内された時から、既に時間も進んでいるため、水位が僅かに上がって来ているのが見えた。それに、アンスティスによって押し流された水の量も相待って、洞窟が満たされるのが早くなっていた。

 「おいおい・・・あの中に入って行ったんじゃねぇだろうな・・・」

 水位は既に、彼の行動を躊躇わせる量に達していた。素人がこの水位の中、洞窟に入っていけば生きて帰ってこれないかもしれない。

 だがそれでも、ダミアンは心配して捜索してくれているのだと思うと、早く戻ってきたことを知らせてやらないと、取り返しのつかないことになってしまう。

 デイヴィスは意を決し、洞窟の入り口へとやって来る。すると突然、何者かに肩を掴まれる。心臓が飛び出そうなほど驚くデイヴィスが、その手の主人の方を振り返ると、そこには探しに来た筈のダミアンと、デイヴィスをここまで案内したハーマンが立っていた。

 「無茶すんじゃねぇよ。ほら、戻るぞ」

 「アンタら・・・!てっきり俺を探しに入っちまったのかと・・・」

 「話は後だ。早く丘に上がろう。ここに居ては危険だ」

 三人は直ぐにその場を離れ、ログハウスの方へ向かって戻っていく。その途中で、これまでの経緯を話してくれたハーマン。

 洞窟の途中までデイヴィスを案内した彼は、その後入り口の方まで戻り、デイヴィスに告げた通り洞窟の外で彼の帰りを待っていた。すると、奥から突然洞窟内部を覆い尽くすほどの水が押し寄せて来るのを感じたハーマンは、一度洞窟から離れ、吐き出すように洞窟から溢れ出る水を見送った。

 初めは突然の出来事に唖然といていたハーマンだったが、中にデイヴィスがいたことを思い出し、必死に彼の姿を探した。しかし、当然見つかるはずもなく、手に負えないと思った彼は、ロウハウスに戻りダミアンに事情を話すと、二人で洞窟へと戻り、デイヴィスを探したのだという。

 だがその時には既に、デイヴィスは別の抜け道から洞窟を抜け出し、犯人の後を追っていた。

 「無事で何よりだが、アンタが戻って来たということは、何か掴めたのか?」

 「あぁ、だが掴めたのは昔の儀式の跡と、その痕跡だけだった・・・」

 デイヴィスは嘘をついた。洞窟にはアンスティスが人体実験を行っていた証拠や、あろうことか彼を水死させようとした罠まで仕掛けられていた。

 しかしその罠も、デイヴィスを殺そうとした時の水圧で壊れ、もう使われることはない。それに洞窟内部にあった証拠も、今となっては海へ流されてしまい、最早見つけることなど不可能。

 そして何より、アンスティスを貶めるのが目的ではない。今となっては、彼の研究なくして病の治療薬など生み出されることはなかったのだから。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...