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真相と失意
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少年は師の教えに反き、隠れて人の身体を使った研究を行っていた。町の住人達を欺き、スミスの作り出した薬以上のモノを生み出していた。漁師達にはスミスの薬と称し、自ら作り出した薬と差し替え、彼らの病の進行具合を調整していたのだ。
「気になることといえば、どうやって遺体を洞窟まで持っていったかだな。大人の身体をお前のようなガキが運ぶには重すぎる。それに人目に付くってもんだろ?」
「・・・病にかかった人が、助けを求めて町を抜け出して行くんだよ。一向に先に進まない町長らの交易に、みんな我慢の限界だったんだ。そんな人達は、夜な夜な他の人達に見つからないように出ていく・・・。そこを狙ったんだ」
病を町の外に広めたとなれば、港町に住む者達はただでは済まない。病の発症条件や感染経路、研究が進まない限り、これ以上外に感染を広げない為にも、港町ごとなかったことにされかねない。
他国との条件を満たす為にも、港町の住人達は返事を待つしかなかったのだ。だが、命の危機になれば、人を言葉や罰を与えるだけでは、制することなど出来ない。助かりたいと思うのは皆等しく同じ気持ちなのだから。
そんな中で、頼りの書簡に返事がなく、ただ時間を浪費していくだけでは、こうなるのも時間の問題だった。
「だが、生きる為に必死な人間を捉えるなど、容易なことではなかっただろ?」
「診療所には最新の設備や、充実した機材はない。でも、初歩的な薬くらいは揃ってるんだ。睡眠薬を使ったんだよ。吹き矢のように、針に量を調整して入れ、物陰から町を抜け出そうとする人達を眠らせていった。町を出るには、アンタが抜け出した洞窟の通路の先の道を通る必要がある」
洞窟から抜け出したデイヴィスは、ややひらけた道へ出ると、町の方を目指し歩みを進めた。初めて来た土地にも関わらず、迷うことなく戻れたことから、洞窟の抜け道から町までの道のりに分かれ道などなかったことが分かる。
「都合が良かったんだよ、あそこは・・・。洞窟のことは、町長の家に薬を持って行く時に知った。先生が患者を見ていると、別の部屋から静かに外へ出ていく人影を見たんだ。何でコソコソしているのか気になって、その人が出てきたところを調べると、普段そこにはないところに通路があった」
その人物は恐らくハーマンのことだろう。デイヴィスが町長のいる建物に聴取しにいった帰りに、声をかけてきた人物。隠し部屋への行き方を知るのは、ハンクの家族や親族のみと言っていたが、他所者のデイヴィスに協力的だったのは、彼だけだ。
それに彼は、あの部屋によく入り浸っている様子でもあった。何か家族や親族の間でよくない立場にあるのだろう。居場所のない彼は、あの薄暗い部屋で、ひたすら秘密を守り続けてきた。しかし、それも町の危機と共に崩れ去るのをハーマンは悟ったのだ。
「その先にある部屋には、この町の歴史や地理に関する資料がたくさんあった。それで洞窟のことと、そこへ通じる隠し通路のことを知ったんだ。それにあの近くには昔、貯水池を作る計画があったみたいなんだけで、天災でその計画は頓挫したってあった。それを利用して、洞窟内を一掃する仕組みを作った・・・」
医学を学ぶだけあった、賢いことを思いつくものだと、デイヴィスは少年の発想と行動力に素直に感心した。
「驚いたな・・・。だが、お前をそこまで駆り立てた動機は何だったんだ?」
デイヴィスが容疑を認めたかのように口を開くアンスティスに質問すると、少年はやや口を閉し沈黙すると、俯いた様子で動かなくなる。計画を実行する前のことを思い出しているのだろうか。
人を殺してまでも叶えたいことがあったのだ。相応の覚悟をしていたことだろう。その為に師であるスミスまで出し抜いたのだから・・・。
「先生を助けたかった・・・。それだけだよ。ただ一人、先生だけは何としても助けたかったんだ・・・。どんな犠牲を払おうと・・・」
ここでデイヴィスは、あることを思い出し、疑問に思った。アンスティスは人体実験により、スミス以上に病について詳しくなっていた。そして、漁師の者達の病の進行具合を薬で調整できるまでになっていた。
つまり、この町に蔓延する錆の病を治す方法を見つけたのではないだろうか。なのに、何故今彼はスミスを治そうとしないのだろうか。それとも、病のことを知ることは出来ても、治す手段は見つからなかったのか。
「待て・・・。それで結局お前は、病を治す方法を見つけたのか?」
「感染してからそれ程時間が経っていない、或いは進行度が軽度だったり、症状の出る場所にもよるから、完全に治せる訳じゃない・・・」
それを聞いてデイヴィスはホッとした。彼の仲間達は感染してから時間も浅く、症状も命に関わるようなものではなかった。デイヴィスが町に繰り出している間、スミスが彼らの症状を診てくれていたのだ。
結果、命に関わるような場所に症状が現れている者や、重症者はいなかったと、無事である船員に伝えていた。後は、この少年を刺激しないようにし、彼の作った薬を手に入れる必要がある。
だが、それを勘繰ったのか少年はデイヴィスが口を開く前に、釘を刺すように鋭い脅しをかけてきた。
「・・・俺がアンタの仲間を助けるとでも・・・?先生はもう・・・目的は果たせなくなった・・・。誰かを救う気なんてない。病気と一緒に心中してやるさ・・・」
アンスティスの見立てでは、どうやらスミスは既に救えない域にまで達してしまっているようだ。彼の恩師であり、こんなことをした目的でもあるスミスを失うことで、アンスティスは自暴自棄になってしまった。
何とかして彼の説得をして協力を仰ぐか、薬が何処にあるのか、どのくらい残っているのかを聞き出さなければ、これまでの苦労が全て水の泡になってしまう。
「気になることといえば、どうやって遺体を洞窟まで持っていったかだな。大人の身体をお前のようなガキが運ぶには重すぎる。それに人目に付くってもんだろ?」
「・・・病にかかった人が、助けを求めて町を抜け出して行くんだよ。一向に先に進まない町長らの交易に、みんな我慢の限界だったんだ。そんな人達は、夜な夜な他の人達に見つからないように出ていく・・・。そこを狙ったんだ」
病を町の外に広めたとなれば、港町に住む者達はただでは済まない。病の発症条件や感染経路、研究が進まない限り、これ以上外に感染を広げない為にも、港町ごとなかったことにされかねない。
他国との条件を満たす為にも、港町の住人達は返事を待つしかなかったのだ。だが、命の危機になれば、人を言葉や罰を与えるだけでは、制することなど出来ない。助かりたいと思うのは皆等しく同じ気持ちなのだから。
そんな中で、頼りの書簡に返事がなく、ただ時間を浪費していくだけでは、こうなるのも時間の問題だった。
「だが、生きる為に必死な人間を捉えるなど、容易なことではなかっただろ?」
「診療所には最新の設備や、充実した機材はない。でも、初歩的な薬くらいは揃ってるんだ。睡眠薬を使ったんだよ。吹き矢のように、針に量を調整して入れ、物陰から町を抜け出そうとする人達を眠らせていった。町を出るには、アンタが抜け出した洞窟の通路の先の道を通る必要がある」
洞窟から抜け出したデイヴィスは、ややひらけた道へ出ると、町の方を目指し歩みを進めた。初めて来た土地にも関わらず、迷うことなく戻れたことから、洞窟の抜け道から町までの道のりに分かれ道などなかったことが分かる。
「都合が良かったんだよ、あそこは・・・。洞窟のことは、町長の家に薬を持って行く時に知った。先生が患者を見ていると、別の部屋から静かに外へ出ていく人影を見たんだ。何でコソコソしているのか気になって、その人が出てきたところを調べると、普段そこにはないところに通路があった」
その人物は恐らくハーマンのことだろう。デイヴィスが町長のいる建物に聴取しにいった帰りに、声をかけてきた人物。隠し部屋への行き方を知るのは、ハンクの家族や親族のみと言っていたが、他所者のデイヴィスに協力的だったのは、彼だけだ。
それに彼は、あの部屋によく入り浸っている様子でもあった。何か家族や親族の間でよくない立場にあるのだろう。居場所のない彼は、あの薄暗い部屋で、ひたすら秘密を守り続けてきた。しかし、それも町の危機と共に崩れ去るのをハーマンは悟ったのだ。
「その先にある部屋には、この町の歴史や地理に関する資料がたくさんあった。それで洞窟のことと、そこへ通じる隠し通路のことを知ったんだ。それにあの近くには昔、貯水池を作る計画があったみたいなんだけで、天災でその計画は頓挫したってあった。それを利用して、洞窟内を一掃する仕組みを作った・・・」
医学を学ぶだけあった、賢いことを思いつくものだと、デイヴィスは少年の発想と行動力に素直に感心した。
「驚いたな・・・。だが、お前をそこまで駆り立てた動機は何だったんだ?」
デイヴィスが容疑を認めたかのように口を開くアンスティスに質問すると、少年はやや口を閉し沈黙すると、俯いた様子で動かなくなる。計画を実行する前のことを思い出しているのだろうか。
人を殺してまでも叶えたいことがあったのだ。相応の覚悟をしていたことだろう。その為に師であるスミスまで出し抜いたのだから・・・。
「先生を助けたかった・・・。それだけだよ。ただ一人、先生だけは何としても助けたかったんだ・・・。どんな犠牲を払おうと・・・」
ここでデイヴィスは、あることを思い出し、疑問に思った。アンスティスは人体実験により、スミス以上に病について詳しくなっていた。そして、漁師の者達の病の進行具合を薬で調整できるまでになっていた。
つまり、この町に蔓延する錆の病を治す方法を見つけたのではないだろうか。なのに、何故今彼はスミスを治そうとしないのだろうか。それとも、病のことを知ることは出来ても、治す手段は見つからなかったのか。
「待て・・・。それで結局お前は、病を治す方法を見つけたのか?」
「感染してからそれ程時間が経っていない、或いは進行度が軽度だったり、症状の出る場所にもよるから、完全に治せる訳じゃない・・・」
それを聞いてデイヴィスはホッとした。彼の仲間達は感染してから時間も浅く、症状も命に関わるようなものではなかった。デイヴィスが町に繰り出している間、スミスが彼らの症状を診てくれていたのだ。
結果、命に関わるような場所に症状が現れている者や、重症者はいなかったと、無事である船員に伝えていた。後は、この少年を刺激しないようにし、彼の作った薬を手に入れる必要がある。
だが、それを勘繰ったのか少年はデイヴィスが口を開く前に、釘を刺すように鋭い脅しをかけてきた。
「・・・俺がアンタの仲間を助けるとでも・・・?先生はもう・・・目的は果たせなくなった・・・。誰かを救う気なんてない。病気と一緒に心中してやるさ・・・」
アンスティスの見立てでは、どうやらスミスは既に救えない域にまで達してしまっているようだ。彼の恩師であり、こんなことをした目的でもあるスミスを失うことで、アンスティスは自暴自棄になってしまった。
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