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向けられた殺意
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海の神への生贄の結果とはこんなものかと、デイヴィスは海水に晒され魚やプランクトンなどに血肉を還元した人骨の魂に敬意を払う。自ら望んでこうなった訳ではないだろう。だがきっと、家族や愛する者達の為に自らを犠牲にしたのかと思うと、こんな風習になんの意味があったのかと考えざるを得ない。
「アンタの犠牲が、残された者達の運命を明るく照らしたことを祈るよ・・・。そして願わくば、ここで何かしらの手がかりをッ・・・」
病の手がかりを探し始めようとしたその時、広間の更に奥の方から何かの物音がした。同時に、大量の水が岩場を駆け抜けるような音が、次第にデイヴィスの元へやって来たのだ。
「何ッ・・・!罠かッ!?」
急ぎ流されぬよう、掴まれそうな岩場を探し手をかけるデイヴィス。しかし、向かってくる水流の流れが強く、無慈悲にもその手は剥がされ、押し寄せる波にデイヴィスは拐われていった。
水位は洞窟の天井スレスレまで上昇し、激しい波が立っている中で人間が満足に呼吸出来るスペースなどなくなっていた。
ダミアンやハーマンは、満潮になるにはまだまだ時間があると言っていた。案内を途中で引き上げたのは、デイヴィスを騙す為の嘘だったのか。初めからこの町の者など、信用すべきではなかった。
後悔の念に駆られながらも、デイヴィスは必死に水流の中を泳ごうと、水をかき分ける。しかし、妙なことは他にもあった。突然押し寄せてきた水流に、満足な息を保っていられなかったデイヴィスは、自らを襲ったその波の水を飲み込んでしまった。
だが、流れてきた水は海水ではなかったのだ。特有の塩水のようなしょっぱさがなかった。洞窟が水で満たされるのは、海からやって来る海水だけ。それなのに海水ではなく、別の水が流れて来たと言うことは、これは自然に起きたことではなく、人為的な者であることが分かる。
僅かに流れが弱まると、デイヴィスは腕を伸ばし、再び岩場や天井に掴めるところを探す。辛うじて指の掛かるところを見つけると、そのまま上へ上へと、指を離さぬようにゆっくり上がっていく。
しかし、その手が洞窟の天井に触れた時、デイヴィスは察した。今ここに、息を吸えるところはない。だが、若干ではあるが初めに比べて流れは弱まった。
つまり、この流れは永久ではないということだ。それでも水位が下がるかどうかは定かではない。何処から流れ込んでくるか分からないこの水で、洞窟の水位が上がりきるとは思えない。外は海であり、恐らくこの水も外の海へと合流していることだろう。
このまま流れのままに外を目指すか、それとも流れに逆らい、水の勢いがなくなり水位が下がるのを待つか。
デイヴィスは、先に進むことを選んだ。元より海賊である彼は、ある程度泳ぎと肺活量には自信があった。だがそれも、水に慣れ親しんでいる者の範疇の域を出ない。限界は必ず来る。
そして最初の不意打ちにより、残りの息の半分以上を消費してしまった。長くは持たない。なるべく天井付近を進み、流れに逆らうように前へと進んでいくデイヴィス。
前へ進むか、後ろへ下がるか。もし本当に海の神がいたとするならば、真実へ向かおうとする勇気ある者に味方するだろう。デイヴィスは神に愛された。
残りの息が尽きようとしていた時、天井を掴む指が水の魔の手から逃れ風を感じたのだ。そこには空気がある。急ぎ顔を風に晒される指の元へと引き上げると、僅かなスペースではあるが呼吸するポイントを見つけることができた。
「クソッ・・・!一体誰がこんなことを・・・。秘密を知られる前に殺そうってのか?だが逃がさねぇ・・・。これをやった奴は今、俺を始末したと思って油断してるはず・・・。まだ近くにいる筈だ。そいつがこの町の真実を知ってるはずなんだからな・・・!」
呼吸を整え、デイヴィスは再び水流の中を進む。最大の窮地を逃れた彼に、押し寄せる水の勢いも恐れをなしたのか、勢いと水位がゆっくりと下がっていくのが分かる。
暫く泳いだ後に、水が流れ込んできたであろう細い通路が見つかる。本来、その入り口はもっと小さかったのだろうが、水の勢いで岩場が壊れ、中に入ることは出来ないが何処からか光が差し込んでいるのが遠くに見える。
「外に通じていたのか?蓄えていた水が一気に流れ込んできていたのか。雨水を溜め込む貯水蔵でもあったのか・・・。少なからず、ここの構造や地理に詳しい人間の仕業と見て間違いない」
洞窟の存在自体、多くの人間が知っているものではない。容疑者は絞られてくる。漁師サイドの者達は、ダミアンと近しい者しか洞窟の奥にこんな場所があるということを知らない。
そして町長サイドには、この場所が記された書物がある。だが、その書物のある部屋への入り口は、こちらもハンクに近しい家族や親族しか知らない。
つまり、デイヴィスが話を聞いていた時に側にいた人間が犯人である可能性が高い。或いは、ダミアンやハンク、ギルバートやハーマンの中に、デイヴィスを殺そうとしている者がいるということだ。
「ここからは外に出られない・・・。別の道を探すか」
水流は収まってきたが、まだ水位は高いまま。デイヴィスは水を掻き分けながら、別の通路を探す。すると、洞窟の地図に見覚えのない場所に、人が辛うじて通れそうな隙間がある。
身を細くして通り抜けると、その先には地上へ上がるように上へ上がる道があった。このまま不用心に駆け上がっていったのでは、出待ちをされかねない。既に現場を立ち去っているかもしれないが、デイヴィスはなるべく音を縦にように慎重に進む。
やがて漸く水から解放されたデイヴィスは、光の差し込む方へ歩みを進め、漸く外の空気を吸うことが出来た。
周りに人の気配はない。石橋を叩いて渡るかのように、慎重に辺りの安全を確認しながら洞窟から身を出す。近くには大きな穴と、水門を開けるような仕組みの装置がある。ここに誰かがいたことは間違いない。
「アンタの犠牲が、残された者達の運命を明るく照らしたことを祈るよ・・・。そして願わくば、ここで何かしらの手がかりをッ・・・」
病の手がかりを探し始めようとしたその時、広間の更に奥の方から何かの物音がした。同時に、大量の水が岩場を駆け抜けるような音が、次第にデイヴィスの元へやって来たのだ。
「何ッ・・・!罠かッ!?」
急ぎ流されぬよう、掴まれそうな岩場を探し手をかけるデイヴィス。しかし、向かってくる水流の流れが強く、無慈悲にもその手は剥がされ、押し寄せる波にデイヴィスは拐われていった。
水位は洞窟の天井スレスレまで上昇し、激しい波が立っている中で人間が満足に呼吸出来るスペースなどなくなっていた。
ダミアンやハーマンは、満潮になるにはまだまだ時間があると言っていた。案内を途中で引き上げたのは、デイヴィスを騙す為の嘘だったのか。初めからこの町の者など、信用すべきではなかった。
後悔の念に駆られながらも、デイヴィスは必死に水流の中を泳ごうと、水をかき分ける。しかし、妙なことは他にもあった。突然押し寄せてきた水流に、満足な息を保っていられなかったデイヴィスは、自らを襲ったその波の水を飲み込んでしまった。
だが、流れてきた水は海水ではなかったのだ。特有の塩水のようなしょっぱさがなかった。洞窟が水で満たされるのは、海からやって来る海水だけ。それなのに海水ではなく、別の水が流れて来たと言うことは、これは自然に起きたことではなく、人為的な者であることが分かる。
僅かに流れが弱まると、デイヴィスは腕を伸ばし、再び岩場や天井に掴めるところを探す。辛うじて指の掛かるところを見つけると、そのまま上へ上へと、指を離さぬようにゆっくり上がっていく。
しかし、その手が洞窟の天井に触れた時、デイヴィスは察した。今ここに、息を吸えるところはない。だが、若干ではあるが初めに比べて流れは弱まった。
つまり、この流れは永久ではないということだ。それでも水位が下がるかどうかは定かではない。何処から流れ込んでくるか分からないこの水で、洞窟の水位が上がりきるとは思えない。外は海であり、恐らくこの水も外の海へと合流していることだろう。
このまま流れのままに外を目指すか、それとも流れに逆らい、水の勢いがなくなり水位が下がるのを待つか。
デイヴィスは、先に進むことを選んだ。元より海賊である彼は、ある程度泳ぎと肺活量には自信があった。だがそれも、水に慣れ親しんでいる者の範疇の域を出ない。限界は必ず来る。
そして最初の不意打ちにより、残りの息の半分以上を消費してしまった。長くは持たない。なるべく天井付近を進み、流れに逆らうように前へと進んでいくデイヴィス。
前へ進むか、後ろへ下がるか。もし本当に海の神がいたとするならば、真実へ向かおうとする勇気ある者に味方するだろう。デイヴィスは神に愛された。
残りの息が尽きようとしていた時、天井を掴む指が水の魔の手から逃れ風を感じたのだ。そこには空気がある。急ぎ顔を風に晒される指の元へと引き上げると、僅かなスペースではあるが呼吸するポイントを見つけることができた。
「クソッ・・・!一体誰がこんなことを・・・。秘密を知られる前に殺そうってのか?だが逃がさねぇ・・・。これをやった奴は今、俺を始末したと思って油断してるはず・・・。まだ近くにいる筈だ。そいつがこの町の真実を知ってるはずなんだからな・・・!」
呼吸を整え、デイヴィスは再び水流の中を進む。最大の窮地を逃れた彼に、押し寄せる水の勢いも恐れをなしたのか、勢いと水位がゆっくりと下がっていくのが分かる。
暫く泳いだ後に、水が流れ込んできたであろう細い通路が見つかる。本来、その入り口はもっと小さかったのだろうが、水の勢いで岩場が壊れ、中に入ることは出来ないが何処からか光が差し込んでいるのが遠くに見える。
「外に通じていたのか?蓄えていた水が一気に流れ込んできていたのか。雨水を溜め込む貯水蔵でもあったのか・・・。少なからず、ここの構造や地理に詳しい人間の仕業と見て間違いない」
洞窟の存在自体、多くの人間が知っているものではない。容疑者は絞られてくる。漁師サイドの者達は、ダミアンと近しい者しか洞窟の奥にこんな場所があるということを知らない。
そして町長サイドには、この場所が記された書物がある。だが、その書物のある部屋への入り口は、こちらもハンクに近しい家族や親族しか知らない。
つまり、デイヴィスが話を聞いていた時に側にいた人間が犯人である可能性が高い。或いは、ダミアンやハンク、ギルバートやハーマンの中に、デイヴィスを殺そうとしている者がいるということだ。
「ここからは外に出られない・・・。別の道を探すか」
水流は収まってきたが、まだ水位は高いまま。デイヴィスは水を掻き分けながら、別の通路を探す。すると、洞窟の地図に見覚えのない場所に、人が辛うじて通れそうな隙間がある。
身を細くして通り抜けると、その先には地上へ上がるように上へ上がる道があった。このまま不用心に駆け上がっていったのでは、出待ちをされかねない。既に現場を立ち去っているかもしれないが、デイヴィスはなるべく音を縦にように慎重に進む。
やがて漸く水から解放されたデイヴィスは、光の差し込む方へ歩みを進め、漸く外の空気を吸うことが出来た。
周りに人の気配はない。石橋を叩いて渡るかのように、慎重に辺りの安全を確認しながら洞窟から身を出す。近くには大きな穴と、水門を開けるような仕組みの装置がある。ここに誰かがいたことは間違いない。
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