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秘密の書庫
しおりを挟む 男に案内されたのは、書物庫と呼ぶに相応しい無数の本と、綺麗に整列するように並べられた棚に隙間もないほど本が詰め込まれている。男の持つ火を灯した明かりが、奥へと進む歩みに合わせて揺れ動き、見える景色を変えていく。
「驚いたな。ただの港町にこれ程の本があるとは・・・」
「ここにあるのは大した物じゃありません。町長が近隣の諸国や町との貿易で取引した、どこにでもあるような普通の本です」
デイヴィスは男の話に疑問を感じた。役に立つかも知れないと言っておきながら、男はここに陳列された本の山を“どこにでもあるような普通の本“だと言う。それならば何故、デイヴィスを引き留めてまで案内したのか分からない。
「おい、それならなんでわざわざ俺をこんなところに連れて来た?」
「いえ、目的の場所はここではありません。もう少し進んだところに、重要な書物を保管している隠し部屋があるのです」
「また隠し部屋か・・・。そんなに町の者達に見られては都合の悪い物があるのか?」
男は書物庫の奥にある棚にまでやって来ると、徐に棚に詰め込まれた本を、指で傾けては戻すという行動を数回、本を変えながら繰り返した。すると本棚が勝手に音を立てながら動き出し、一人分の小さな道を開けた。
如何にもな隠し通路。これ程手の込んだ作りで隠す書物とは、一体どんな内容の物なのか。そしてそんな物を、危機的状況とはいえ、余所者の海賊であるデイヴィスに公開してしまっていいのだろうか。
真っ暗で先の見えない細い通路を、頼りない明かりだけで進む二人。通路には見渡すほどのものもなく、デイヴィスはただ、男の後ろ姿だけを見て歩みを進める。
男の持つ明かりが通路の先で広がる。突き当たりへやって来ると、男は壁にそっと手を添えて暫くすると、突き当たりの壁が動き出し、新たな部屋への道を開く。
漸く開けた場所に出ると、男は入り口付近の壁にある照明に、手に持っている明かりの火を灯す。そしてデイヴィスを連れ、奥の方へと歩いて行き、机の上に灯りを置いた。
「お待たせしました、ここです」
薄暗い部屋には、羊皮紙を筒状に丸めた書類がいくつも四角く区切られた棚に入れられている。男は灯りをデイヴィスに渡し、部屋の中にある書類は自由に見て構わないと言った。
デイヴィスが試しに一つ手に取り、机の上に広げてみると、当時の町の様子が書かれていた。この書類を記している町長が、今の立場に就任してからの町の発展や出来事、貿易の内容や町を訪れた者達のことまで、事細かく記されている。
「こんなに細かく書いているのか・・・。だが一体何のために?」
「この町に伝わる古い慣わしだったそうです・・・」
「“だった“?今は書いてないのか?」
「今のハンク町長から二世代ほど前から、このような慣わしは無くなったそうです。先代の町長方は、あまり周りの者や外部の者を信用していなかったようで、次の世代の町長達に町を守るよう用心させる意味でも、誰が信用に当たり誰が疑わしいのかを残していたみたいです」
用心深いと言うのか、気が触れているような行いに思える。そうまでして周りの人間達のことを調べ上げなければならないほど、町は追い詰められていたのだろうか。
だが、今となってはその慣わしはなくなり、町の人々は手を取り合い生活しているのだという。デイヴィスからすれば、漸く正気に戻ったのかと呆れる慣わしだった。
「幸か不幸か、その慣わしとやらを途絶えさせたばっかりに、今こんなことになってるがな・・・」
皮肉なものだ。必要性を疑うような無意味だと思っていたことを止めた途端、それを後悔させるように病が流行り、人々を疑心暗鬼にしてしまった。
「しかし、このようなことは他の国や町でも起こり得ることです。何もこんなことをしなくても、人は困難を乗り越えることが出来ると言うことです。私達も今、過去の遺産を捨てて新たな道を歩み始める時だと思うのです」
これまで話を聞いてきた者達の中で、この男が一番まともな思考をしている。町がこのような状態の中にあるというのに、寧ろここまで冷静でいられるのも怪しく感じる。
ある程度目を通し、デイヴィスは次々に棚の書類を引っ張り出しては机に広げる。近い世代のものだと、貿易相手の情勢や新たな取引の品など、病に関わるかもしれないものの情報を探ることができる。
逆に遠い世代の書類には、本当にそんなことを行っていたのかと疑うような、狂信的な儀式のことや生贄に関する諸術などが、悍ましく記載されている。
「だがこんな物、俺みてぇな余所者に見せちまってよかったのか?」
「急を要することです。町長も分かってくれるでしょう。出来ることならば知られずに済むことに越したことはありませんが・・・」
このような重要書類を勝手に、それも余所者に公開したと知られれば、この男も無事では済まないだろう。何らかの罰や町からの追放、最悪の場合命を奪われても不思議ではない。
第一、何故男はこのような場所を知っているのか。それほど重要な情報や、町の住人達に知られてはならないことが書かれた物を保管する場所など、余程信頼されていなければ知ることすらできない筈。
「アンタは一体何者なんだ?こんな場所を知らされているということは、町長に相当信頼されているようだが?」
「そんなことはありませんよ。私の家系が長らくこの町の町長の従者として仕えてきた賜物ですよ。私の力ではありません」
男の事について話を聞いている内に、デイヴィスは気になるものを発見した。それは遠い先祖が記した、漁業の繁栄を祈願する悍ましき儀式の詳細が記された書物だった。
そこには儀式で使われていたとされる、町の入り江にある引き潮時に入れるようになるという洞窟の場所が記されていた。
「驚いたな。ただの港町にこれ程の本があるとは・・・」
「ここにあるのは大した物じゃありません。町長が近隣の諸国や町との貿易で取引した、どこにでもあるような普通の本です」
デイヴィスは男の話に疑問を感じた。役に立つかも知れないと言っておきながら、男はここに陳列された本の山を“どこにでもあるような普通の本“だと言う。それならば何故、デイヴィスを引き留めてまで案内したのか分からない。
「おい、それならなんでわざわざ俺をこんなところに連れて来た?」
「いえ、目的の場所はここではありません。もう少し進んだところに、重要な書物を保管している隠し部屋があるのです」
「また隠し部屋か・・・。そんなに町の者達に見られては都合の悪い物があるのか?」
男は書物庫の奥にある棚にまでやって来ると、徐に棚に詰め込まれた本を、指で傾けては戻すという行動を数回、本を変えながら繰り返した。すると本棚が勝手に音を立てながら動き出し、一人分の小さな道を開けた。
如何にもな隠し通路。これ程手の込んだ作りで隠す書物とは、一体どんな内容の物なのか。そしてそんな物を、危機的状況とはいえ、余所者の海賊であるデイヴィスに公開してしまっていいのだろうか。
真っ暗で先の見えない細い通路を、頼りない明かりだけで進む二人。通路には見渡すほどのものもなく、デイヴィスはただ、男の後ろ姿だけを見て歩みを進める。
男の持つ明かりが通路の先で広がる。突き当たりへやって来ると、男は壁にそっと手を添えて暫くすると、突き当たりの壁が動き出し、新たな部屋への道を開く。
漸く開けた場所に出ると、男は入り口付近の壁にある照明に、手に持っている明かりの火を灯す。そしてデイヴィスを連れ、奥の方へと歩いて行き、机の上に灯りを置いた。
「お待たせしました、ここです」
薄暗い部屋には、羊皮紙を筒状に丸めた書類がいくつも四角く区切られた棚に入れられている。男は灯りをデイヴィスに渡し、部屋の中にある書類は自由に見て構わないと言った。
デイヴィスが試しに一つ手に取り、机の上に広げてみると、当時の町の様子が書かれていた。この書類を記している町長が、今の立場に就任してからの町の発展や出来事、貿易の内容や町を訪れた者達のことまで、事細かく記されている。
「こんなに細かく書いているのか・・・。だが一体何のために?」
「この町に伝わる古い慣わしだったそうです・・・」
「“だった“?今は書いてないのか?」
「今のハンク町長から二世代ほど前から、このような慣わしは無くなったそうです。先代の町長方は、あまり周りの者や外部の者を信用していなかったようで、次の世代の町長達に町を守るよう用心させる意味でも、誰が信用に当たり誰が疑わしいのかを残していたみたいです」
用心深いと言うのか、気が触れているような行いに思える。そうまでして周りの人間達のことを調べ上げなければならないほど、町は追い詰められていたのだろうか。
だが、今となってはその慣わしはなくなり、町の人々は手を取り合い生活しているのだという。デイヴィスからすれば、漸く正気に戻ったのかと呆れる慣わしだった。
「幸か不幸か、その慣わしとやらを途絶えさせたばっかりに、今こんなことになってるがな・・・」
皮肉なものだ。必要性を疑うような無意味だと思っていたことを止めた途端、それを後悔させるように病が流行り、人々を疑心暗鬼にしてしまった。
「しかし、このようなことは他の国や町でも起こり得ることです。何もこんなことをしなくても、人は困難を乗り越えることが出来ると言うことです。私達も今、過去の遺産を捨てて新たな道を歩み始める時だと思うのです」
これまで話を聞いてきた者達の中で、この男が一番まともな思考をしている。町がこのような状態の中にあるというのに、寧ろここまで冷静でいられるのも怪しく感じる。
ある程度目を通し、デイヴィスは次々に棚の書類を引っ張り出しては机に広げる。近い世代のものだと、貿易相手の情勢や新たな取引の品など、病に関わるかもしれないものの情報を探ることができる。
逆に遠い世代の書類には、本当にそんなことを行っていたのかと疑うような、狂信的な儀式のことや生贄に関する諸術などが、悍ましく記載されている。
「だがこんな物、俺みてぇな余所者に見せちまってよかったのか?」
「急を要することです。町長も分かってくれるでしょう。出来ることならば知られずに済むことに越したことはありませんが・・・」
このような重要書類を勝手に、それも余所者に公開したと知られれば、この男も無事では済まないだろう。何らかの罰や町からの追放、最悪の場合命を奪われても不思議ではない。
第一、何故男はこのような場所を知っているのか。それほど重要な情報や、町の住人達に知られてはならないことが書かれた物を保管する場所など、余程信頼されていなければ知ることすらできない筈。
「アンタは一体何者なんだ?こんな場所を知らされているということは、町長に相当信頼されているようだが?」
「そんなことはありませんよ。私の家系が長らくこの町の町長の従者として仕えてきた賜物ですよ。私の力ではありません」
男の事について話を聞いている内に、デイヴィスは気になるものを発見した。それは遠い先祖が記した、漁業の繁栄を祈願する悍ましき儀式の詳細が記された書物だった。
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