World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
527 / 1,646

解釈違い

しおりを挟む
 キングの船で爆発を起こし、妹のレイチェルをデイヴィスの目の前で無惨にも殺したのは、彼のキング暗殺計画実行へ向け、尽力していた筈の“ウォルター“だった。

 「お前は・・・ウォルター・・・?何故ここに・・・」

 「何故ぇッ!?アンタを殺しに来たに決まってるだろ。それも屈辱に塗れた惨めな死を送りに来たんだ。気に入ってくれたか?」

 何故ウォルターがデイヴィスに対し、これほど強く憎しみを抱いていたのか。それはデイヴィスがまだ、自身の海賊団を指揮する船長であった頃の話。

 ロバーツの知る通り、デイヴィスはとても仲間を大事にしていた。それこそ仲間の危機には、全力で助けに向かうほど。だがそれによって犠牲になる命もあった。

 ウォルターの親友も、その内の一人だったのだ。仲間の窮地に、全軍を上げて殴り込みに向かおうとしていたデイヴィス。しかし、その前の戦闘で負傷した親友を、ウォルターは休ませたいと船長に伝える。

 「デイヴィス!頼む、少しでいいんだ・・・。こいつを休ませてやりたい!」

 傷を負った親友を抱え、ウォルターがデイヴィスの元へやって来る。その腕は血に塗れていた。傷は深く、既に致命傷の域にまで達しているのが、素人目にも分かるほどだった。

 「いいや・・・。一刻も早く囚われた仲間達を助けにいく。奴らもこれ程早く反撃に出るとは思っていないだろう。物資を整えられてからではもう遅いんだ。彼はここに置いていけ。そして武器を持て、ウォルター」

 「こいつを見殺しにするのか!?」

 声を荒立てるウォルターの方を、振り返ることなく通り過ぎるデイヴィス。彼は決してウォルターの親友を見殺しにした訳ではなかった。もう助からないであろう傷を負った者を、再び戦地へ連れて行くのはあまりに酷なことだ。

 怪我人がいては、気の迷いが生まれ戦闘に集中できない。それはウォルターだけに限らず、共に大海原を旅してきた仲間達ならば、誰しもがそうだろう。デイヴィスもその例外てはなかった。

 死の間際くらい、静かに逝かせてやりたいという思いで言った言葉は、ウォルターの耳に別の意味として捉えられてしまっていたのだ。

 「ウッ・・・ウォルター・・・。よせ、船長のいう通りだ・・・」

 「何を言ってる!?まだ助かる!すぐに治療を受けさせてやるからな!」

 「・・・・・」

 ウォルターは現実が受け入れられないでいた。彼の目には、親友の血で染まる自身の腕など目に入っていなかった。治療さえ受けられれば、親友は治るのだと。再び世界を旅して回れるのだと、そう信じて盲信していた。

 やっとの思いで搾り出した親友の声も、こうなってしまっては最早、彼の耳に届くことはないだろう。何とかして逸るウォルターを止めようとしたが、親友の意識は限界に近づいていた。

 戦地へ向かう途中でウォルターはアンスティスを見つけ、彼に治療を頼む。だがその反応はデイヴィスと同じだった。薬学に詳しいアンスティスは、デイヴィス以上に彼の親友の状態を一目で把握できた。

 助からないのは明らか。それでも必死にせがんでくるウォルター。だが薬品も包帯も、数には限りがある。彼にとっては酷なことかもしれないが、決して無駄にできるものではなかった。

 アンスティスは彼の気を収めるため、衛生的ではなかったが今施せることはこれくらいだと、自らの衣類を引き裂きウォルターの親友の止血を行った。だが、裂かれた衣類に染み込むのは、既に致死量に達するほど流れ出てしまった親友の血だけだった。

 結局、ウォルターは仲間を救出する戦いには加わらず、そのまま親友の最期を見送った。仲間の為に全力を尽くすのが、デイヴィス海賊団の掟。指示を聞かず勝手な振る舞いをしたウォルターは、幹部へ昇格する権利を剥奪され、自身の部隊を持つことも許されなくなった。

 これは他の船員達へ意を示すものでもある。掟は厳守されるべきもの。さもなければ味方を窮地へと追い込むことに繋がる。それは断じて容認できることではない。

 ウォルターもそれが分からない男ではなかった。それでも、彼の中であの時デイヴィスにかけられた言葉は、深く心の奥底に刻まれたのだ。刻まれた傷は深くなる一方。それはやがて憎悪となって、彼の心を蝕んでいった。

 ウォルターの怒りに満ちた表情を見ながら、デイヴィスは爆発によって受けた傷に苦しみの表情を浮かべる。しかし、ウォルターの恨みはデイヴィスのキングへ対する恨みと似ていると、彼はこの時思っていた。

 「・・・すまなかったな・・・ウォルター・・・」

 この時、デイヴィスの中にあったのは、彼への怒りでも憎しみでもなく、ただ自身と同じ道を辿ろうとしている、ウォルターへの哀れみだった。憎しみに駆り立てられ、目標を見失い心の赴くままに盲信してしまった姿が、自分を写す鏡のようだ。

 「やっと搾り出した言葉がそれか?命乞いをしろ!靴の裏にキスしながら、助けて下さいってなッ!」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

転移先は勇者と呼ばれた男のもとだった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
 人魔戦争。  それは魔人と人族の戦争。  その規模は計り知れず、2年の時を経て終戦。  勝敗は人族に旗が上がったものの、人族にも魔人にも深い心の傷を残した。  それを良しとせず立ち上がったのは魔王を打ち果たした勇者である。  勇者は終戦後、すぐに国を建国。  そして見事、平和協定条約を結びつけ、法をつくる事で世界を平和へと導いた。  それから25年後。  1人の子供が異世界に降り立つ。      

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる

朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。 彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...