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解釈違い
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キングの船で爆発を起こし、妹のレイチェルをデイヴィスの目の前で無惨にも殺したのは、彼のキング暗殺計画実行へ向け、尽力していた筈の“ウォルター“だった。
「お前は・・・ウォルター・・・?何故ここに・・・」
「何故ぇッ!?アンタを殺しに来たに決まってるだろ。それも屈辱に塗れた惨めな死を送りに来たんだ。気に入ってくれたか?」
何故ウォルターがデイヴィスに対し、これほど強く憎しみを抱いていたのか。それはデイヴィスがまだ、自身の海賊団を指揮する船長であった頃の話。
ロバーツの知る通り、デイヴィスはとても仲間を大事にしていた。それこそ仲間の危機には、全力で助けに向かうほど。だがそれによって犠牲になる命もあった。
ウォルターの親友も、その内の一人だったのだ。仲間の窮地に、全軍を上げて殴り込みに向かおうとしていたデイヴィス。しかし、その前の戦闘で負傷した親友を、ウォルターは休ませたいと船長に伝える。
「デイヴィス!頼む、少しでいいんだ・・・。こいつを休ませてやりたい!」
傷を負った親友を抱え、ウォルターがデイヴィスの元へやって来る。その腕は血に塗れていた。傷は深く、既に致命傷の域にまで達しているのが、素人目にも分かるほどだった。
「いいや・・・。一刻も早く囚われた仲間達を助けにいく。奴らもこれ程早く反撃に出るとは思っていないだろう。物資を整えられてからではもう遅いんだ。彼はここに置いていけ。そして武器を持て、ウォルター」
「こいつを見殺しにするのか!?」
声を荒立てるウォルターの方を、振り返ることなく通り過ぎるデイヴィス。彼は決してウォルターの親友を見殺しにした訳ではなかった。もう助からないであろう傷を負った者を、再び戦地へ連れて行くのはあまりに酷なことだ。
怪我人がいては、気の迷いが生まれ戦闘に集中できない。それはウォルターだけに限らず、共に大海原を旅してきた仲間達ならば、誰しもがそうだろう。デイヴィスもその例外てはなかった。
死の間際くらい、静かに逝かせてやりたいという思いで言った言葉は、ウォルターの耳に別の意味として捉えられてしまっていたのだ。
「ウッ・・・ウォルター・・・。よせ、船長のいう通りだ・・・」
「何を言ってる!?まだ助かる!すぐに治療を受けさせてやるからな!」
「・・・・・」
ウォルターは現実が受け入れられないでいた。彼の目には、親友の血で染まる自身の腕など目に入っていなかった。治療さえ受けられれば、親友は治るのだと。再び世界を旅して回れるのだと、そう信じて盲信していた。
やっとの思いで搾り出した親友の声も、こうなってしまっては最早、彼の耳に届くことはないだろう。何とかして逸るウォルターを止めようとしたが、親友の意識は限界に近づいていた。
戦地へ向かう途中でウォルターはアンスティスを見つけ、彼に治療を頼む。だがその反応はデイヴィスと同じだった。薬学に詳しいアンスティスは、デイヴィス以上に彼の親友の状態を一目で把握できた。
助からないのは明らか。それでも必死にせがんでくるウォルター。だが薬品も包帯も、数には限りがある。彼にとっては酷なことかもしれないが、決して無駄にできるものではなかった。
アンスティスは彼の気を収めるため、衛生的ではなかったが今施せることはこれくらいだと、自らの衣類を引き裂きウォルターの親友の止血を行った。だが、裂かれた衣類に染み込むのは、既に致死量に達するほど流れ出てしまった親友の血だけだった。
結局、ウォルターは仲間を救出する戦いには加わらず、そのまま親友の最期を見送った。仲間の為に全力を尽くすのが、デイヴィス海賊団の掟。指示を聞かず勝手な振る舞いをしたウォルターは、幹部へ昇格する権利を剥奪され、自身の部隊を持つことも許されなくなった。
これは他の船員達へ意を示すものでもある。掟は厳守されるべきもの。さもなければ味方を窮地へと追い込むことに繋がる。それは断じて容認できることではない。
ウォルターもそれが分からない男ではなかった。それでも、彼の中であの時デイヴィスにかけられた言葉は、深く心の奥底に刻まれたのだ。刻まれた傷は深くなる一方。それはやがて憎悪となって、彼の心を蝕んでいった。
ウォルターの怒りに満ちた表情を見ながら、デイヴィスは爆発によって受けた傷に苦しみの表情を浮かべる。しかし、ウォルターの恨みはデイヴィスのキングへ対する恨みと似ていると、彼はこの時思っていた。
「・・・すまなかったな・・・ウォルター・・・」
この時、デイヴィスの中にあったのは、彼への怒りでも憎しみでもなく、ただ自身と同じ道を辿ろうとしている、ウォルターへの哀れみだった。憎しみに駆り立てられ、目標を見失い心の赴くままに盲信してしまった姿が、自分を写す鏡のようだ。
「やっと搾り出した言葉がそれか?命乞いをしろ!靴の裏にキスしながら、助けて下さいってなッ!」
「お前は・・・ウォルター・・・?何故ここに・・・」
「何故ぇッ!?アンタを殺しに来たに決まってるだろ。それも屈辱に塗れた惨めな死を送りに来たんだ。気に入ってくれたか?」
何故ウォルターがデイヴィスに対し、これほど強く憎しみを抱いていたのか。それはデイヴィスがまだ、自身の海賊団を指揮する船長であった頃の話。
ロバーツの知る通り、デイヴィスはとても仲間を大事にしていた。それこそ仲間の危機には、全力で助けに向かうほど。だがそれによって犠牲になる命もあった。
ウォルターの親友も、その内の一人だったのだ。仲間の窮地に、全軍を上げて殴り込みに向かおうとしていたデイヴィス。しかし、その前の戦闘で負傷した親友を、ウォルターは休ませたいと船長に伝える。
「デイヴィス!頼む、少しでいいんだ・・・。こいつを休ませてやりたい!」
傷を負った親友を抱え、ウォルターがデイヴィスの元へやって来る。その腕は血に塗れていた。傷は深く、既に致命傷の域にまで達しているのが、素人目にも分かるほどだった。
「いいや・・・。一刻も早く囚われた仲間達を助けにいく。奴らもこれ程早く反撃に出るとは思っていないだろう。物資を整えられてからではもう遅いんだ。彼はここに置いていけ。そして武器を持て、ウォルター」
「こいつを見殺しにするのか!?」
声を荒立てるウォルターの方を、振り返ることなく通り過ぎるデイヴィス。彼は決してウォルターの親友を見殺しにした訳ではなかった。もう助からないであろう傷を負った者を、再び戦地へ連れて行くのはあまりに酷なことだ。
怪我人がいては、気の迷いが生まれ戦闘に集中できない。それはウォルターだけに限らず、共に大海原を旅してきた仲間達ならば、誰しもがそうだろう。デイヴィスもその例外てはなかった。
死の間際くらい、静かに逝かせてやりたいという思いで言った言葉は、ウォルターの耳に別の意味として捉えられてしまっていたのだ。
「ウッ・・・ウォルター・・・。よせ、船長のいう通りだ・・・」
「何を言ってる!?まだ助かる!すぐに治療を受けさせてやるからな!」
「・・・・・」
ウォルターは現実が受け入れられないでいた。彼の目には、親友の血で染まる自身の腕など目に入っていなかった。治療さえ受けられれば、親友は治るのだと。再び世界を旅して回れるのだと、そう信じて盲信していた。
やっとの思いで搾り出した親友の声も、こうなってしまっては最早、彼の耳に届くことはないだろう。何とかして逸るウォルターを止めようとしたが、親友の意識は限界に近づいていた。
戦地へ向かう途中でウォルターはアンスティスを見つけ、彼に治療を頼む。だがその反応はデイヴィスと同じだった。薬学に詳しいアンスティスは、デイヴィス以上に彼の親友の状態を一目で把握できた。
助からないのは明らか。それでも必死にせがんでくるウォルター。だが薬品も包帯も、数には限りがある。彼にとっては酷なことかもしれないが、決して無駄にできるものではなかった。
アンスティスは彼の気を収めるため、衛生的ではなかったが今施せることはこれくらいだと、自らの衣類を引き裂きウォルターの親友の止血を行った。だが、裂かれた衣類に染み込むのは、既に致死量に達するほど流れ出てしまった親友の血だけだった。
結局、ウォルターは仲間を救出する戦いには加わらず、そのまま親友の最期を見送った。仲間の為に全力を尽くすのが、デイヴィス海賊団の掟。指示を聞かず勝手な振る舞いをしたウォルターは、幹部へ昇格する権利を剥奪され、自身の部隊を持つことも許されなくなった。
これは他の船員達へ意を示すものでもある。掟は厳守されるべきもの。さもなければ味方を窮地へと追い込むことに繋がる。それは断じて容認できることではない。
ウォルターもそれが分からない男ではなかった。それでも、彼の中であの時デイヴィスにかけられた言葉は、深く心の奥底に刻まれたのだ。刻まれた傷は深くなる一方。それはやがて憎悪となって、彼の心を蝕んでいった。
ウォルターの怒りに満ちた表情を見ながら、デイヴィスは爆発によって受けた傷に苦しみの表情を浮かべる。しかし、ウォルターの恨みはデイヴィスのキングへ対する恨みと似ていると、彼はこの時思っていた。
「・・・すまなかったな・・・ウォルター・・・」
この時、デイヴィスの中にあったのは、彼への怒りでも憎しみでもなく、ただ自身と同じ道を辿ろうとしている、ウォルターへの哀れみだった。憎しみに駆り立てられ、目標を見失い心の赴くままに盲信してしまった姿が、自分を写す鏡のようだ。
「やっと搾り出した言葉がそれか?命乞いをしろ!靴の裏にキスしながら、助けて下さいってなッ!」
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