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神代 コウ

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さらば愛しき命

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 そして、彼らの緊張を弾けさせるような予想だにしていなかった形で、計画実行の時が訪れる。キングの船団中央付近。恐らくキング本人と潜入したデイヴィスがいるであろう辺りで大きな爆発が起きたのだ。

 だがそれは、彼らの計画にはないこと。戦闘による事故だろうか。キングの船団は大きな騒ぎになっている。この騒ぎに乗じれば、それこそ奇襲が上手くいくのではないかというほどだ。

 しかし彼らを戦地へ向かわせる合図とは異なっている。デイヴィスの信号弾はまだ上がっていない。何か不測の事態でも起きたのだろうか。疑問を抱きながらも、ロバーツ達はデイヴィスを信じ、彼の合図を待っていた。

 潜水艦で海中を進み、目標近くで待機する彼らの知らぬところで、キングの船では彼らの不安が的中するかのように、デイヴィスを奈落の底へ突き落とす惨劇が起こっていたのだ。

 「レイチェルッ!しっかりしろッ!あぁ、どうしてこんな・・・。折角再開出来たというのに・・・」

 「ぁ・・・・兄・・・さん・・・」

 彼女はデイヴィスのことを覚えていた。対面した時は、一緒に暮らしていた頃のデイヴィスとは変わっていた為、気付くのに時間がかかったが、その顔のパーツ一つ一つに、兄であるハウエル・デイヴィスの面影があった。

 長年引き離されていたことで、どう反応したらいいのか戸惑っていたレイチェル。二人の様子を見て、キングが彼女に武器を捨てて近づいてくるよう指示を出した。

 互いの顔を見つめ合い、懐かしむように流れる時を忘れ、当時の光景が脳裏に蘇る。だが、二人の再会を邪魔するように、何かが彼らの間に割って入るように訪れ、そして爆発した。

 それは、渡鳥だった。

 しかし、リヴァイアサンによる天候の変化が激しいこの戦地に、何故このような鳥が紛れていたのか。否、それは鳥などではなく、何者かによって差し向けられた、鳥の形をした爆弾だったのだ。

 鳥の接近にいち早く気がついたキング。彼もこんなところに渡鳥がいることに疑念を抱いていた。しかし、気がついた時にはその鳥型の爆弾は滑空し、キングの船へと襲いかかっていた。

 デイヴィスの拘束を振り払い、彼を地に張り倒したキングは、船員達に大きな怒号で警鐘を鳴らした。一機目の鳥型の爆弾が船に突き刺さるように衝突すると、煙幕のように爆炎と煙を周囲に撒き散らした。

 連なるように二機三機と、追従していた鳥が煙の中へ入る。キングが最後に目にした時、鳥は煙の中へ入ると標的を初めから定めていたかのように、急に方向を変えていたのだ。そこからどこへ向かったのかまでは、確認することは出来なかったが、その後すぐに数回の爆発が起きた。

 キングによって窮地を救われたデイヴィスは、煙で見失う妹の姿を探した。ゆっくりと煙が薄れていく中で、彼が目にした光景はあまりにも残酷だった。

 漸く再会出来た筈のレイチェルは、大きく身体を損壊して甲板に転がっていたのだ。片足はなく、血溜まりの中に焼け焦げた状態で動かない妹を目にしたデイヴィスは、震えた声で駆け寄り、熱を帯びた彼女の身体を抱き起す。

 「駄目だ!いくな!いかないでくれッ・・・!」

 「兄・・・さん・・・、違うの。ボスは・・・キングは兄さんの思うような人じゃないの・・・」

 やっと聴けた妹の声は喉を焼かれたように酷く掠れ、元の声がどんなものだったのかさえ、分からないほど変わってしまっていた。だが、今のデイヴィスにそんな事はどうでもよかった。

 何とかして妹の命をこの世に繋ぎ止めていたい。その為なら何だってする。この命で妹が助かるのなら、迷う事なく喜んで差し出す。だからどうか、連れて行かないでくれと、今まで信じてきたことさえないような神に、祈りを捧げる。

 「キングは・・・私を・・・私達孤児を助けてくれたの・・・。彼がしているのは人身売買じゃない・・・。それは世間を欺くためのもの・・・」

 キングが行っていたのは奴隷貿易などではなかった。彼は様々な事情により、家族を失った孤児や、奴隷として商品にされている子供達を集め、一人でも生きていく術を教え込んでいたのだ。

 そして、そんな彼らを引き取ってもいいという者や、子供に恵まれなかった者達の元へ、彼らを送り届けていたのだ。

 勿論、引き渡した先でどのような扱いを受けるかは分からない。だが、キングの組織が常に見張っているという重圧は、彼ら孤児を守るには十分過ぎるほど強固なものだった。

 故に、引き渡した後に不幸な目にあった孤児達は一人もいない。キングは彼らが一人前の大人になるまで見張っていた。自分で判断し、行動できる年頃になるまでは、俺が彼らの親代わりとなってやる。

 だがその先はお前達の人生だ。悪さに手を染めようが野垂れ死のうが、知ったことではない。キングが手を貸すのは、あくまで一人で生きていくことが出来ない年齢の間だけ。それ以降は、例え助けを求められようが赤の他人。対価無しにして手を貸すことなどなかった。

 「キングは・・・私達の命の恩人なの。だから・・・どうか恨まないであげて・・・」

 「分かったからッ!もうしゃべるな!頼むから・・・あぁ、どうか神よ。妹を連れていかないでくれ・・・」

 声を上げる度、その生気は失われどんどん小さくなっていくのを聞き、デイヴィスはレイチェルの身体から人の温もりが消えていくのを、肌で感じていた。

 彼女が最期に語ったのは、デイヴィスが恨みの矛先を向けていたキングの真実。それはデイヴィスの想像していたものではなく、寧ろ真逆のものだった。キングはデイヴィスと別れた後のレイチェルを救い出し、安全を確保してくれていたのだ。

 それだけではない。キングは彼女に生きていく術や様々な技術、そしてまだ見ぬ世界のことを教えてくれた。まだ引き取り先の見つかっていなかったレイチェルは、キングの側近として彼の船に乗せられ、最も安全なところで様々なことを学んでいたのだった。

 もう長くはない、その今にも消えてしまいそうな命の灯火を、必死に絶やさないようにするデイヴィス。そこへ、二人を突き刺すように鋭利な鉄の塊が貫いた。

 生き絶えて横になる妹の手を握り、寄り添うように倒れるデイヴィス。苦しみから解放されたように、安らかに眠る妹の表情を見ながら最期を迎えようとするデイヴィスの視界に、一人の男が近づいてくる。

 「会いたかったぜ?デイヴィス。この時をずっと夢に見てきた・・・。漸く友の復讐を果たせた!そして俺の願いが叶った!目の前で最愛の妹を殺された気分はどうだぁ?このクソ野郎ッ!」

 既に魂は旅立ってしまったが、彼女がそこに確かにいたという証明でもあるその身体に足を乗せる男。デイヴィスが朦朧とする意識の中で、その足を辿り視線ゆっくりと登らせていく。

 そこでデイヴィスが目にしたのは、予想外の人物だった。
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