526 / 1,646
さらば愛しき命
しおりを挟む
そして、彼らの緊張を弾けさせるような予想だにしていなかった形で、計画実行の時が訪れる。キングの船団中央付近。恐らくキング本人と潜入したデイヴィスがいるであろう辺りで大きな爆発が起きたのだ。
だがそれは、彼らの計画にはないこと。戦闘による事故だろうか。キングの船団は大きな騒ぎになっている。この騒ぎに乗じれば、それこそ奇襲が上手くいくのではないかというほどだ。
しかし彼らを戦地へ向かわせる合図とは異なっている。デイヴィスの信号弾はまだ上がっていない。何か不測の事態でも起きたのだろうか。疑問を抱きながらも、ロバーツ達はデイヴィスを信じ、彼の合図を待っていた。
潜水艦で海中を進み、目標近くで待機する彼らの知らぬところで、キングの船では彼らの不安が的中するかのように、デイヴィスを奈落の底へ突き落とす惨劇が起こっていたのだ。
「レイチェルッ!しっかりしろッ!あぁ、どうしてこんな・・・。折角再開出来たというのに・・・」
「ぁ・・・・兄・・・さん・・・」
彼女はデイヴィスのことを覚えていた。対面した時は、一緒に暮らしていた頃のデイヴィスとは変わっていた為、気付くのに時間がかかったが、その顔のパーツ一つ一つに、兄であるハウエル・デイヴィスの面影があった。
長年引き離されていたことで、どう反応したらいいのか戸惑っていたレイチェル。二人の様子を見て、キングが彼女に武器を捨てて近づいてくるよう指示を出した。
互いの顔を見つめ合い、懐かしむように流れる時を忘れ、当時の光景が脳裏に蘇る。だが、二人の再会を邪魔するように、何かが彼らの間に割って入るように訪れ、そして爆発した。
それは、渡鳥だった。
しかし、リヴァイアサンによる天候の変化が激しいこの戦地に、何故このような鳥が紛れていたのか。否、それは鳥などではなく、何者かによって差し向けられた、鳥の形をした爆弾だったのだ。
鳥の接近にいち早く気がついたキング。彼もこんなところに渡鳥がいることに疑念を抱いていた。しかし、気がついた時にはその鳥型の爆弾は滑空し、キングの船へと襲いかかっていた。
デイヴィスの拘束を振り払い、彼を地に張り倒したキングは、船員達に大きな怒号で警鐘を鳴らした。一機目の鳥型の爆弾が船に突き刺さるように衝突すると、煙幕のように爆炎と煙を周囲に撒き散らした。
連なるように二機三機と、追従していた鳥が煙の中へ入る。キングが最後に目にした時、鳥は煙の中へ入ると標的を初めから定めていたかのように、急に方向を変えていたのだ。そこからどこへ向かったのかまでは、確認することは出来なかったが、その後すぐに数回の爆発が起きた。
キングによって窮地を救われたデイヴィスは、煙で見失う妹の姿を探した。ゆっくりと煙が薄れていく中で、彼が目にした光景はあまりにも残酷だった。
漸く再会出来た筈のレイチェルは、大きく身体を損壊して甲板に転がっていたのだ。片足はなく、血溜まりの中に焼け焦げた状態で動かない妹を目にしたデイヴィスは、震えた声で駆け寄り、熱を帯びた彼女の身体を抱き起す。
「駄目だ!いくな!いかないでくれッ・・・!」
「兄・・・さん・・・、違うの。ボスは・・・キングは兄さんの思うような人じゃないの・・・」
やっと聴けた妹の声は喉を焼かれたように酷く掠れ、元の声がどんなものだったのかさえ、分からないほど変わってしまっていた。だが、今のデイヴィスにそんな事はどうでもよかった。
何とかして妹の命をこの世に繋ぎ止めていたい。その為なら何だってする。この命で妹が助かるのなら、迷う事なく喜んで差し出す。だからどうか、連れて行かないでくれと、今まで信じてきたことさえないような神に、祈りを捧げる。
「キングは・・・私を・・・私達孤児を助けてくれたの・・・。彼がしているのは人身売買じゃない・・・。それは世間を欺くためのもの・・・」
キングが行っていたのは奴隷貿易などではなかった。彼は様々な事情により、家族を失った孤児や、奴隷として商品にされている子供達を集め、一人でも生きていく術を教え込んでいたのだ。
そして、そんな彼らを引き取ってもいいという者や、子供に恵まれなかった者達の元へ、彼らを送り届けていたのだ。
勿論、引き渡した先でどのような扱いを受けるかは分からない。だが、キングの組織が常に見張っているという重圧は、彼ら孤児を守るには十分過ぎるほど強固なものだった。
故に、引き渡した後に不幸な目にあった孤児達は一人もいない。キングは彼らが一人前の大人になるまで見張っていた。自分で判断し、行動できる年頃になるまでは、俺が彼らの親代わりとなってやる。
だがその先はお前達の人生だ。悪さに手を染めようが野垂れ死のうが、知ったことではない。キングが手を貸すのは、あくまで一人で生きていくことが出来ない年齢の間だけ。それ以降は、例え助けを求められようが赤の他人。対価無しにして手を貸すことなどなかった。
「キングは・・・私達の命の恩人なの。だから・・・どうか恨まないであげて・・・」
「分かったからッ!もうしゃべるな!頼むから・・・あぁ、どうか神よ。妹を連れていかないでくれ・・・」
声を上げる度、その生気は失われどんどん小さくなっていくのを聞き、デイヴィスはレイチェルの身体から人の温もりが消えていくのを、肌で感じていた。
彼女が最期に語ったのは、デイヴィスが恨みの矛先を向けていたキングの真実。それはデイヴィスの想像していたものではなく、寧ろ真逆のものだった。キングはデイヴィスと別れた後のレイチェルを救い出し、安全を確保してくれていたのだ。
それだけではない。キングは彼女に生きていく術や様々な技術、そしてまだ見ぬ世界のことを教えてくれた。まだ引き取り先の見つかっていなかったレイチェルは、キングの側近として彼の船に乗せられ、最も安全なところで様々なことを学んでいたのだった。
もう長くはない、その今にも消えてしまいそうな命の灯火を、必死に絶やさないようにするデイヴィス。そこへ、二人を突き刺すように鋭利な鉄の塊が貫いた。
生き絶えて横になる妹の手を握り、寄り添うように倒れるデイヴィス。苦しみから解放されたように、安らかに眠る妹の表情を見ながら最期を迎えようとするデイヴィスの視界に、一人の男が近づいてくる。
「会いたかったぜ?デイヴィス。この時をずっと夢に見てきた・・・。漸く友の復讐を果たせた!そして俺の願いが叶った!目の前で最愛の妹を殺された気分はどうだぁ?このクソ野郎ッ!」
既に魂は旅立ってしまったが、彼女がそこに確かにいたという証明でもあるその身体に足を乗せる男。デイヴィスが朦朧とする意識の中で、その足を辿り視線ゆっくりと登らせていく。
そこでデイヴィスが目にしたのは、予想外の人物だった。
だがそれは、彼らの計画にはないこと。戦闘による事故だろうか。キングの船団は大きな騒ぎになっている。この騒ぎに乗じれば、それこそ奇襲が上手くいくのではないかというほどだ。
しかし彼らを戦地へ向かわせる合図とは異なっている。デイヴィスの信号弾はまだ上がっていない。何か不測の事態でも起きたのだろうか。疑問を抱きながらも、ロバーツ達はデイヴィスを信じ、彼の合図を待っていた。
潜水艦で海中を進み、目標近くで待機する彼らの知らぬところで、キングの船では彼らの不安が的中するかのように、デイヴィスを奈落の底へ突き落とす惨劇が起こっていたのだ。
「レイチェルッ!しっかりしろッ!あぁ、どうしてこんな・・・。折角再開出来たというのに・・・」
「ぁ・・・・兄・・・さん・・・」
彼女はデイヴィスのことを覚えていた。対面した時は、一緒に暮らしていた頃のデイヴィスとは変わっていた為、気付くのに時間がかかったが、その顔のパーツ一つ一つに、兄であるハウエル・デイヴィスの面影があった。
長年引き離されていたことで、どう反応したらいいのか戸惑っていたレイチェル。二人の様子を見て、キングが彼女に武器を捨てて近づいてくるよう指示を出した。
互いの顔を見つめ合い、懐かしむように流れる時を忘れ、当時の光景が脳裏に蘇る。だが、二人の再会を邪魔するように、何かが彼らの間に割って入るように訪れ、そして爆発した。
それは、渡鳥だった。
しかし、リヴァイアサンによる天候の変化が激しいこの戦地に、何故このような鳥が紛れていたのか。否、それは鳥などではなく、何者かによって差し向けられた、鳥の形をした爆弾だったのだ。
鳥の接近にいち早く気がついたキング。彼もこんなところに渡鳥がいることに疑念を抱いていた。しかし、気がついた時にはその鳥型の爆弾は滑空し、キングの船へと襲いかかっていた。
デイヴィスの拘束を振り払い、彼を地に張り倒したキングは、船員達に大きな怒号で警鐘を鳴らした。一機目の鳥型の爆弾が船に突き刺さるように衝突すると、煙幕のように爆炎と煙を周囲に撒き散らした。
連なるように二機三機と、追従していた鳥が煙の中へ入る。キングが最後に目にした時、鳥は煙の中へ入ると標的を初めから定めていたかのように、急に方向を変えていたのだ。そこからどこへ向かったのかまでは、確認することは出来なかったが、その後すぐに数回の爆発が起きた。
キングによって窮地を救われたデイヴィスは、煙で見失う妹の姿を探した。ゆっくりと煙が薄れていく中で、彼が目にした光景はあまりにも残酷だった。
漸く再会出来た筈のレイチェルは、大きく身体を損壊して甲板に転がっていたのだ。片足はなく、血溜まりの中に焼け焦げた状態で動かない妹を目にしたデイヴィスは、震えた声で駆け寄り、熱を帯びた彼女の身体を抱き起す。
「駄目だ!いくな!いかないでくれッ・・・!」
「兄・・・さん・・・、違うの。ボスは・・・キングは兄さんの思うような人じゃないの・・・」
やっと聴けた妹の声は喉を焼かれたように酷く掠れ、元の声がどんなものだったのかさえ、分からないほど変わってしまっていた。だが、今のデイヴィスにそんな事はどうでもよかった。
何とかして妹の命をこの世に繋ぎ止めていたい。その為なら何だってする。この命で妹が助かるのなら、迷う事なく喜んで差し出す。だからどうか、連れて行かないでくれと、今まで信じてきたことさえないような神に、祈りを捧げる。
「キングは・・・私を・・・私達孤児を助けてくれたの・・・。彼がしているのは人身売買じゃない・・・。それは世間を欺くためのもの・・・」
キングが行っていたのは奴隷貿易などではなかった。彼は様々な事情により、家族を失った孤児や、奴隷として商品にされている子供達を集め、一人でも生きていく術を教え込んでいたのだ。
そして、そんな彼らを引き取ってもいいという者や、子供に恵まれなかった者達の元へ、彼らを送り届けていたのだ。
勿論、引き渡した先でどのような扱いを受けるかは分からない。だが、キングの組織が常に見張っているという重圧は、彼ら孤児を守るには十分過ぎるほど強固なものだった。
故に、引き渡した後に不幸な目にあった孤児達は一人もいない。キングは彼らが一人前の大人になるまで見張っていた。自分で判断し、行動できる年頃になるまでは、俺が彼らの親代わりとなってやる。
だがその先はお前達の人生だ。悪さに手を染めようが野垂れ死のうが、知ったことではない。キングが手を貸すのは、あくまで一人で生きていくことが出来ない年齢の間だけ。それ以降は、例え助けを求められようが赤の他人。対価無しにして手を貸すことなどなかった。
「キングは・・・私達の命の恩人なの。だから・・・どうか恨まないであげて・・・」
「分かったからッ!もうしゃべるな!頼むから・・・あぁ、どうか神よ。妹を連れていかないでくれ・・・」
声を上げる度、その生気は失われどんどん小さくなっていくのを聞き、デイヴィスはレイチェルの身体から人の温もりが消えていくのを、肌で感じていた。
彼女が最期に語ったのは、デイヴィスが恨みの矛先を向けていたキングの真実。それはデイヴィスの想像していたものではなく、寧ろ真逆のものだった。キングはデイヴィスと別れた後のレイチェルを救い出し、安全を確保してくれていたのだ。
それだけではない。キングは彼女に生きていく術や様々な技術、そしてまだ見ぬ世界のことを教えてくれた。まだ引き取り先の見つかっていなかったレイチェルは、キングの側近として彼の船に乗せられ、最も安全なところで様々なことを学んでいたのだった。
もう長くはない、その今にも消えてしまいそうな命の灯火を、必死に絶やさないようにするデイヴィス。そこへ、二人を突き刺すように鋭利な鉄の塊が貫いた。
生き絶えて横になる妹の手を握り、寄り添うように倒れるデイヴィス。苦しみから解放されたように、安らかに眠る妹の表情を見ながら最期を迎えようとするデイヴィスの視界に、一人の男が近づいてくる。
「会いたかったぜ?デイヴィス。この時をずっと夢に見てきた・・・。漸く友の復讐を果たせた!そして俺の願いが叶った!目の前で最愛の妹を殺された気分はどうだぁ?このクソ野郎ッ!」
既に魂は旅立ってしまったが、彼女がそこに確かにいたという証明でもあるその身体に足を乗せる男。デイヴィスが朦朧とする意識の中で、その足を辿り視線ゆっくりと登らせていく。
そこでデイヴィスが目にしたのは、予想外の人物だった。
0
お気に入りに追加
305
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…



【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する
こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」
そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。
だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。
「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」
窮地に追い込まれたフォーレスト。
だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。
こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。
これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる