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甘い餌
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時は少しだけ遡り、シンとデイヴィスがまだキングの船に潜入する前。ロバーツが友軍へ連絡を入れている頃。デイヴィスが到着し、計画の準備が整ったという事が、各船に伝えられる。
彼らは予定通り、デイヴィスの信号弾を待つ為、それぞれの準備に入る。キングとの戦闘に発展すれば、その強大で広範囲なスキルで船団諸共壊滅されかねない。
そこでロバーツ達が考案したのが、船長と数人の仲間だけを連れ、キングの船へ乗り込むという作戦だった。各海賊の船長と幹部クラスの者達が数名いれば、敵に気づかれたとしても交戦状態に入ってしまえば、仲間を巻き込む危険性がある為、存分に能力を発揮出来ない筈。
そして移動手段には、アシュトンの用意した少人数用の潜水艦を用いる手筈となっている。最大乗員数が三名ほどの小さなものだ。だが、だからこそ速度もあり気付かれづらい動きが可能となる。
一気に接近した各海賊の船長と側近達でキングの船団へ乗り込み、暴れるのが彼らの目的となる。デイヴィスはキングの暗殺を目的としているだけなので、政府に繋がりのある海賊達はキングとその幹部達の首を探すのも目的になる。
直接キングを始末しなくとも、彼らにはキングらの首を持ち帰ることで、政府から莫大な賞金と望めば地位や名誉も与えられる手筈になっている。だからこそ、彼らはキングの一大組織という危険な相手に立ち向かう意志を示していたのだ。
「皆の士気は高いようだな」
「そりゃぁそうだろう。一生遊んで暮らせる報酬が目前にあるんだからな。俺もこれを機に政府の連中に飼われてみようかね・・・」
ロバーツと合流し、最終調整に入っているウォルター。彼はデイヴィスやロバーツの呼びかけで集まった、アンスティスと同じ意志でここに来ている。だが政府の海賊達に与えられる報酬を聞けば、そちらに靡きたくなるのも分からない話ではない。
「馬鹿言え。政府がそんなことを本当にするとでも?」
「だが、キングの組織が邪魔になっているのも事実。自ら手を汚さず目的が達成できるのなら安いもんだろ?それに、一生遊んで暮らせる賞金とは言ったが、それはあくまでキングの首を持ち帰った“海賊団“にだ。いくら船長とはいえど、独り占めにしようもんなら内部抗争が起こるだろうよ」
「なるほど。賞金を送った連中を見張り、抗争が起きたらそれに乗じて回収しようって魂胆か?ったく・・・何処までも海賊を馬鹿にしてやがんなぁ」
これはあくまで彼らの憶測に過ぎない。しかし、十分に考えられる話だ。国や街の秩序と平和を守る筈である、国境を越えた世界的組織である政府が、善良な国民達を惨殺するような海賊に、そのような莫大な金を渡したと知られれば、いい顔をするものはいないだろう。
公の場に明るみになる前に、賞金を受け取った海賊ごとこの世から抹消し、不安の種を取り除こうとするのは、正義を掲げる彼らであっても同じことだ。誰しもがそうだろう。自分の知られたくない秘密を知っている人物がいたら、いつそれが流出するかと不安で夜も眠れなくなることだろう。
「さぁ、準備できた。政府が良からぬことを考えているのなんて、今に始まった話じゃないだろ?それじゃぁまた、キングの船で会おうロバーツ」
「あぁ、色々とありがとうウォルター。お前のおかげで事がスムーズに運んだ。アンスティスにも、全てが終わったらちゃんと礼をしなきゃな」
「期待して待つとしよう」
危険な戦地へ向かう者達の言葉とは思えない会話で、暖かい微笑みすら浮かべながら別れる二人。ウォルターは、アシュトンの潜水艦を受け取りに彼のいる潜水艇へ向かう。
既に何組かの海賊達の元へ、アシュトンから潜水艇が送られていた。信頼出来ない連中を近づけさせたくないと、アシュトンは政府の海賊達や戦闘でそれどころではない者達のところへ潜水艦を次々に送り込んでいく。
今でも連絡を取り合う仲であるロバーツやシンプソン、そしてアンスティスらは、アシュトンの忙しい状況を少しでも緩和させる為、自ら潜水艇を取りに行く。
「燃料に余裕はない。片道切符だと思え。水中での待機は難しいから、各自で上手く隠しておけ」
「了解」
それぞれの潜水艦や海賊船に、潜水艦の仕様や用途を伝えるアシュトン。一同もこれだけ良い物を準備されたのだ。贅沢なことは言えない。限られた時間、限られた推進力で計画を実行しなければならないのだ。
「さぁ!俺も行くとすっかぁ!」
ウォルターを見送り、顔を両手で叩いて気合を入れるロバーツ。彼は側近を連れていかないようだ。万が一のことを考え、自身の亡き後にでも海賊団として機能出来るようにしたかったようだ。
多くの命が助かる選択をしてきた彼だったが、この計画はあくまで個人的な理由が大きかった為、流石に部下達の命までは一緒に連れて行く事が出来なかった。
ある海賊は、潜水艦を自分達の船で囲むようにして隠し、ある海賊は、物資船の中へ積み込み偽造する。船の横へピタリと着け、影に隠す。そして今か今かと、その時を待ち侘び、緊張と興奮で鳴り止まない鼓動を確かめていた。
彼らは予定通り、デイヴィスの信号弾を待つ為、それぞれの準備に入る。キングとの戦闘に発展すれば、その強大で広範囲なスキルで船団諸共壊滅されかねない。
そこでロバーツ達が考案したのが、船長と数人の仲間だけを連れ、キングの船へ乗り込むという作戦だった。各海賊の船長と幹部クラスの者達が数名いれば、敵に気づかれたとしても交戦状態に入ってしまえば、仲間を巻き込む危険性がある為、存分に能力を発揮出来ない筈。
そして移動手段には、アシュトンの用意した少人数用の潜水艦を用いる手筈となっている。最大乗員数が三名ほどの小さなものだ。だが、だからこそ速度もあり気付かれづらい動きが可能となる。
一気に接近した各海賊の船長と側近達でキングの船団へ乗り込み、暴れるのが彼らの目的となる。デイヴィスはキングの暗殺を目的としているだけなので、政府に繋がりのある海賊達はキングとその幹部達の首を探すのも目的になる。
直接キングを始末しなくとも、彼らにはキングらの首を持ち帰ることで、政府から莫大な賞金と望めば地位や名誉も与えられる手筈になっている。だからこそ、彼らはキングの一大組織という危険な相手に立ち向かう意志を示していたのだ。
「皆の士気は高いようだな」
「そりゃぁそうだろう。一生遊んで暮らせる報酬が目前にあるんだからな。俺もこれを機に政府の連中に飼われてみようかね・・・」
ロバーツと合流し、最終調整に入っているウォルター。彼はデイヴィスやロバーツの呼びかけで集まった、アンスティスと同じ意志でここに来ている。だが政府の海賊達に与えられる報酬を聞けば、そちらに靡きたくなるのも分からない話ではない。
「馬鹿言え。政府がそんなことを本当にするとでも?」
「だが、キングの組織が邪魔になっているのも事実。自ら手を汚さず目的が達成できるのなら安いもんだろ?それに、一生遊んで暮らせる賞金とは言ったが、それはあくまでキングの首を持ち帰った“海賊団“にだ。いくら船長とはいえど、独り占めにしようもんなら内部抗争が起こるだろうよ」
「なるほど。賞金を送った連中を見張り、抗争が起きたらそれに乗じて回収しようって魂胆か?ったく・・・何処までも海賊を馬鹿にしてやがんなぁ」
これはあくまで彼らの憶測に過ぎない。しかし、十分に考えられる話だ。国や街の秩序と平和を守る筈である、国境を越えた世界的組織である政府が、善良な国民達を惨殺するような海賊に、そのような莫大な金を渡したと知られれば、いい顔をするものはいないだろう。
公の場に明るみになる前に、賞金を受け取った海賊ごとこの世から抹消し、不安の種を取り除こうとするのは、正義を掲げる彼らであっても同じことだ。誰しもがそうだろう。自分の知られたくない秘密を知っている人物がいたら、いつそれが流出するかと不安で夜も眠れなくなることだろう。
「さぁ、準備できた。政府が良からぬことを考えているのなんて、今に始まった話じゃないだろ?それじゃぁまた、キングの船で会おうロバーツ」
「あぁ、色々とありがとうウォルター。お前のおかげで事がスムーズに運んだ。アンスティスにも、全てが終わったらちゃんと礼をしなきゃな」
「期待して待つとしよう」
危険な戦地へ向かう者達の言葉とは思えない会話で、暖かい微笑みすら浮かべながら別れる二人。ウォルターは、アシュトンの潜水艦を受け取りに彼のいる潜水艇へ向かう。
既に何組かの海賊達の元へ、アシュトンから潜水艇が送られていた。信頼出来ない連中を近づけさせたくないと、アシュトンは政府の海賊達や戦闘でそれどころではない者達のところへ潜水艦を次々に送り込んでいく。
今でも連絡を取り合う仲であるロバーツやシンプソン、そしてアンスティスらは、アシュトンの忙しい状況を少しでも緩和させる為、自ら潜水艇を取りに行く。
「燃料に余裕はない。片道切符だと思え。水中での待機は難しいから、各自で上手く隠しておけ」
「了解」
それぞれの潜水艦や海賊船に、潜水艦の仕様や用途を伝えるアシュトン。一同もこれだけ良い物を準備されたのだ。贅沢なことは言えない。限られた時間、限られた推進力で計画を実行しなければならないのだ。
「さぁ!俺も行くとすっかぁ!」
ウォルターを見送り、顔を両手で叩いて気合を入れるロバーツ。彼は側近を連れていかないようだ。万が一のことを考え、自身の亡き後にでも海賊団として機能出来るようにしたかったようだ。
多くの命が助かる選択をしてきた彼だったが、この計画はあくまで個人的な理由が大きかった為、流石に部下達の命までは一緒に連れて行く事が出来なかった。
ある海賊は、潜水艦を自分達の船で囲むようにして隠し、ある海賊は、物資船の中へ積み込み偽造する。船の横へピタリと着け、影に隠す。そして今か今かと、その時を待ち侘び、緊張と興奮で鳴り止まない鼓動を確かめていた。
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