World of Fantasia

神代 コウ

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 回りくどい話は抜きに、デイヴィスは早速本題へ入る。キングの反応は予想外だったが、この際そんなことはどうでもいい。今は何よりも、追い続けてきた真実を、この男に尋ねる時。

 「単刀直入に聞く。お前は人身売買の事業に手を染めているか?」

 「奴隷貿易のことか?あぁ、してるよ。一部の国では人手が足りてねぇようでな。若けりゃ若いほど、良い額で売れるぜぇ?」

 デイヴィスの予想は当たっていた。やはりキングは人の命を金で取引する下衆な者であることを再確認する。そして彼の船で、今も尚働いている船員達に視線を送る。

 彼らはまだこの事態に気付いていない。それだけキングの命令に、命懸けで働いているかのような危機せまるものを感じた。彼らも脅されてこんなことをさせられているのかと思うと、知らぬ者とはいえ不憫に思える。

 「それでか?お前の周りの船員達がこんなに若いのは・・・」

 「勿論それもある。それに他の連中に、大事な商品を傷つけられちゃぁ敵わねぇからな」

 「クズ野郎がッ・・・。人の命をなんだと・・・」

 思わず心の中で思っていた言葉が漏れてしまう。人を物のように扱うことに、この男は何も感じないのだろうか。否、こんな狂人を理解しようという方が間違っている。

 「おいおい。目の付け所が他の奴らと違うってだけだろぉ?俺ちゃんは他の奴隷商人共とは違って、高品質なものを提供することで有名な訳よ。信頼を得るには教育も重要ってわけぇ~」

 「何処まで狂ってやがるんだ・・・。お前っていう人間はッ・・・!」

 話を聞かされるだけでも虫唾が走る。到底理解できないような話ほど、つまらないものはない。それどころか、こんな男に妹が売られたかもしれないと思うと、今すぐにでもその手にした短剣を喉に突き刺し、身体に流れるその血の色を確かめたくなる程だ。

 怒りを鎮め、デイヴィスは少し躊躇いながらも、妹のことについて遠回しにゆっくりと聞いていく。

 「奴隷の中には、女や小さな子供もいるのか?」

 「当然だ。だがその辺の男共と違って管理が大変でな。女を求める連中は、より品質にうるせぇからな。飯や肌の手入れに必要なものがあったりで、金がかかる。その点、男は楽で良い。飯を食わせて適当に働かせときゃぁ、それなりにいい体つきになってくる」

 聞きたくもない奴隷の管理について、ベラベラと言葉を連ねるキング。デイヴィスはうんざりするように目を背け、大きく息を吐く。

 「もういい!子供はどうなんだ?ここにいる者達よりももっと若いのは?」

 「・・・場合によるな。仕入れる時もある。幼い子供や赤子を欲しがる客もいる。だが、そう簡単に手に入るものでもねぇからなぁ・・・」

 子供の話になると、少しだけだがキングの表情が曇ったように感じ、声のトーンも下がった。流石に幼い命には、僅かばかりの良心が痛んでいるのか。だが、このようなことに手を染めている以上、許されることではない。どんな態度を取られようと、デイヴィスの気が変わることはない。

 「それらを踏まえて・・・。お前、俺の名を知っているな?」

 「・・・デイヴィスだろ?海賊狩りの海賊、“ハウエル・デイヴィス“」

 いよいよ最も知りたかったことを、この男に尋ねる時が来た。幸か不幸か、ここまでの話を聞く限り、デイヴィスが集めた情報通り、キングは様々な国や土地で奴隷を集め、商品として客に売り飛ばしている事が分かった。

 そしてその中には幼い子供や、赤子までいる事を告げられ、デイヴィスの心臓はその鼓動を早める。胸を強く打ち付け、キングに動揺しているのが聞こえてしまいそうな程に。

 「奴隷の中に・・・“レイチェル“という少女はいたか?」

 意を決して口にした妹の名前、“レイチェル“。レイチェル・デイヴィスという名こそ、彼の探し求めていた妹の本名。もしかしたら奴隷として仕入れた時に、名前すら剥奪された可能性もある。

 いちいち一人一人の名など覚えていよう筈もないかもしれない。だが、デイヴィスはそれを確かめない訳にはいかなかった。例えキングがその名を知らずとも。

 するとキングは、デイヴィスの思いもしない行動を取り始める。キングは彼の突きつけている短剣の剣先に、喉元を僅かに刺しながら後ろを振り返ったのだ。

 キングの首は半円を描くように切り傷が刻み込まれ、ぱっくりと開いた傷口からはドロリとした赤い血液が溢れ、首元を真っ赤に染め上げていく。そしてキングは目を見開き、デイヴィスの問いに答える。

 「・・・さぁ・・・。どうだったかなぁ・・・?」

 それまでとは別人のような口調で答えたキングは、その狂気じみた目でデイヴィスの視線を釘付けにする。あまりの迫力押し黙るデイヴィス。二人の間に僅かな沈黙が訪れると、漸く気付いたのか甲板と船室から数名の船員達が、人質に取られるキングの元へと走り、集まって来た。
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