World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
522 / 1,646

真実との接触

しおりを挟む
 「早く!次の弾だッ!」
 「こっちのモンスターを排除してくれ!運搬の邪魔だ!」

 船内と違い、声が鮮明に聞こえてくる。その慌ただしい様子から、侵入者に意識を割くほどの余裕がないことが伺える。これではデイヴィスの潜伏スキルがなくても、気付かれないのではと思ってしまうほどだ。

 「さぁて、奴らが忙しくしてる間に、キングの位置を特定するか・・・」

 周囲の気配を察知するスキルを使い、デイヴィスが乗り込んだ船の周辺にいる者達の気配を読み取る。すると、彼のスキルによる包囲網の中に、幾つか強い気配を放つ反応があった。

 一つは、キングの防衛にあたるダラーヒムの気配。キングの船を囲うように陣形を展開し、小型モンスターの討伐を主に担っているようだ。だが、群がる虫のようなモンスターの多さに、全てを倒しきることが出来ず、討ち漏らしが発生しているという状況らしい。

 そしてもう一つが、少し離れた位置でダラーヒムの船団と同じく、キングやその防衛にあたる者達を守るために結界を張る、トゥーマーンの気配。ダラーヒムの軍と同じようにキングの船団を囲うように船を配置し、自軍の船と連携した大きなドーム状の結界が張られている。

 蜃気楼のように景色が歪んでおり、肉眼でも確認できる程の結界は、それ相応に強力な効果をもたらしているはず。しかし、小型のモンスターはそれを全く気にすることなく突っ込んで行く。

 圧倒的な数で押し切り、前をいくモンスターの後ろについて突進していくと、結界の穴を潜り込めてしまうようだ。そしてリヴァイアサンの攻撃は、トゥーマーンの結界を通過することで、威力を弱体化させてくれていた。

 だが、それでも甚大な被害になる事には変わりない。それを防ぐように前線で戦っているのが、残りのジャウカーンとスユーフ達になる。スユーフの軍は、キングの指示に従いハオランのバックアップを行いつつ共闘することで、チン・シーへの義理立てを企てているようだ。

 しかし、その二人に関してはデイヴィスのスキル範囲外であり、彼が察知することはなかった。つまり現状、キングを守る大きな壁になり得るのは、ダラーヒムの軍とトゥーマーンの軍という事になる。

 それでは、最も重要なキングは一体何処にいるのか。それは、彼らの防衛陣形の中にいるリヴァイアサンの身体の一部の最前線で飛び回っていた。あろう事か、総大将であるキング自身が最もリヴァイアサンへのダメージを稼ぐ形になっていたのだ。

 その圧倒的な能力を遺憾無く発揮し、リヴァイアサンの身体をあちこちに引き摺り回しては、到底人の拳の威力とは思えない一撃を、次から次へとお見舞いしていた。

 「おいおい・・・。なんつぅ戦い方してやがんだ。あんな戦い方じゃ、命がいくつあっても足らないだろうに・・・。それを諸共しないのが、キングの力って訳か」

 巨大なモンスターの身体を、まるで山を動かすかの如く動かし、その拳の痕でダムが作れてしまいそうな程、強烈な打撃を叩き込んでいる。これが自身に向けられるかと思うと、まるで大型の巨人を生身で相手にしなければならないような、無謀さを感じてしまう。

 だが、キングの強さはデイヴィスも勿論知っていた。それがどのような原理で、どんな弱点があるかは分からないが、彼にはそんな相手でもどうにかできる奥の手があった。

 幾つかの船を飛び回り、定期的にデイヴィスが潜伏しているキングの本船へと戻ってくるような動きをしている。流石の彼でも、空を飛び回り続ける力は無いらしい。

 戻ってくる度に僅かな休憩を取りながら、船員達へ指示を出している。若い船員達は彼の指示を忠実にこなそうと、必死で走り回り剣を振るう。まるで、そうしなければ殺されてしまうのではないかと脅されているかのようだった。

 そんな、まだ幼い者達が必死に働かされているところを見て、デイヴィスはその度に妹の事を思い出してしまう。妹もこうして、こき使われているのだろうか。酷い扱いを受けているのではないだろうか。食事は出来ているだろうか。そもそも、生きているのだろうか。

 デイヴィス海賊団の時代から、ずっと愛用してきた短剣を引き抜く。そしてそんな思いが現れているかのように、グリップを握る手に力が入る。

 「漸くここまで来た。もうすぐだ・・・。もうすぐで真実を確かめる事が出来る・・・。絶対にしくじらねぇ・・・」

 息を澄まし、姿を潜めてその時を待つ。そしていよいよ、キングがひと段落をつけ自身の船へと戻って来る。勢いよく戻って来たわりには、船はあまり揺れなかった。キングなりに、船に残っている者達のことを配慮して、力をコントロールしたのだろう。

 「FOOO・・・。みんな、上手いことやってる~?少し休んだら俺ちゃん、もっかい行ってくっからねぇ~。・・・それに、もうそろそろだろうからねぇ・・・」

 最後に口にした言葉だけ、誰にも聞こえないような声で意味深に言い残すキング。それが何を意味してのことなのかは、彼にしか分からない。一息つくように、豪勢に作られた椅子にどかっと腰掛けるキング。

 それを見計らっていたデイヴィスが物陰から飛び出し、キングの背後から刃を喉に突き立てる。

 「よぉ・・・。会いたかったぜ?キング・・・」

 「・・・ふぅ~ん・・・。アンタ、誰に刃を向けてんのか分かってんの?」

 想像していた以上に冷静なキングの反応に、デイヴィスは少し面食らってしまったが、そのまま彼は長年追い求めていた真実を、キングから聞き出そうとする。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...