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神代 コウ

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退却する影

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 文字通り忍びの足で船室を離れ、上へと向かって静かな足音が離れて行くのが聞こえる。残ったのは黒焦げた男とシンだけ。足音を立てないように、吊るされた男に近づくシン。

 「死んだのか・・・?」

 恐る恐る、覗き込むようにして男を確認する。すると、やはり男は生きていた。だが、その声は目の前の骸からではなかった。では一体どこから聞こえてくるのか。シンは辺りを見渡し、姿の見えない男の声を探す。

 「悪くねぇ連携だった。だが、まだ甘ぇな。これじゃ俺は倒せねぇよ」

 シンが背後に気配を感じ振り向くと、そこには壁にもたれかかりながら腕を組むコートの男の姿があった。アンカーが繋がった先にいたのは、どこから連れて来たのか、見知らぬ者の死体が男のコートによく似たものを身につけ、吊るされていたのだ。

 「なッ・・・!いつの間に・・・」

 壁から背を離し、自分の足でたった男のコートには腹部に穴が空いたままになっていた。シンの腕から撃ち出されたアンカーによるものだろうか。傷や損傷を負えば直様再生していた男のコート。

 何故その部分だけ再生していないのか。それは次に現れた、もう一人の黒コートの男によって語られることになる。

 「時間だ。遊びはここまでにしておけ」

 「ッ!?」

 一人でも手に負えなかった相手がもう一人増えた。遅れてやって来た男は、シンとデイヴィスが戦っていた男よりも身長が高く、知的で落ち着いた口調をしていた。

 その男は、リヴァイアサンに弱体の杭を打ち込んでいた男だった。巨大な蟒蛇の姿をした神獣を、元のあるべき場所とやらに戻す準備が出来たのだろうか。何方にせよ、その男がシン達を襲っていた、もう一人の男と合流したということは、一つの目標が達成されたということだ。

 如何やら彼らは、シンにトドメを刺すつもりは無いらしい。しかしそれが更に、シンの思考を惑わせる事になる。それではこの男との戦いは、一体なんの意味があるというのだろう。

 「もう準備出来たのか!?こっちはまだ、漸く種火に付いたってところなのによぉ・・・」

 「十分だ。それで?成果はあったのか?」

 「如何だろうなぁ・・・。まぁ、面白れぇモンは見つけたよ」

 シン達と戦っていた低い男は、彼らとの戦いの中で何かを発見したと言う。それがこの男の目的だったのか、戦いの中でシンが見せた技のことを、もう一人の長身の男へ報告する。

 特に重点を置いて話したのは、身長の低い男がシンによってダメージを負わされた場面について。どう打ち負かしたではなく、どう対策を取られ看破されたかを話したのだ。

 「なるほど・・・。データに無い武器を・・・」

 「変化が起きているのは、如何やらクエストだけじゃねぇって事らしいな」

 彼らが口にするデータとは如何なるものなのか。そして変化という言葉が指し示すのは、シン達が体験していることについてのことなのか。何方にせよ、彼らはWoFを唯一の世界としている者達とは、別の存在なのかもしれない。

 「何にせよ、成すべきことは成した。我々は戻り、事の成り行きを見守るとしよう」

 二人のコートの男は、シンなど眼中にないと言わんばかりに、その場を去ろうとする。漸く自分達に起きている異変について、何か情報を持っているであろう者達を、ただただ見送るわけにはいかない。

 シンは分かっていながらも、彼らに尋ねることを止めることが出来なかった。ただ、最低限、自身の身の上を悟られぬよう心がけた。それも果たして通用していたかどうか分からない。しかしこれは、ミアやツクヨを危険に晒さない為でもある。

 「あっアンタ達は何者なんだ?何を知っている・・・?」

 二人はその頼りない声に顔を見合わせる。そして口下手な男の方ではなく、長身の落ち着いた男が口を開く。だが、大方シンの予想していた通りの返だった。確信を突くようなことは何も語らず、ただ何かを匂わせるような台詞だけを残すだけ。

 「その質問は、するべくしてした事か?それとも君の意思か・・・?何方にせよ、今はその時ではない。まぁ・・・時が訪れても、相応しくなっていてくれなければ話す事もなくなってしまうが・・・ね」

 シン達と戦闘をした男が、長身の男に背を押されるようにして先に船室から姿を消し、残った方の男も間もなくして、後を追うように出ていった。後を追いかけようなどという気は、起こらなかった。

 追えばいらぬ傷を受けるか、或いは命そのものを取られかねないからだ。それだけ実力に差があったのだ。ましてやそんな人物が二人もいては、到底生きて帰れる保証などないのだから。
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