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神代 コウ

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翔炎と影の二重奏

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 腕に巻かれた銀色のガントレット。厚みのある動脈部分に取り付けられた装置が、銃弾のように撃ち出されたアンカーが砲身を削り、薄暗い船室に火の花を散らせる。

 反動で弾かれる腕を辛うじて制御し、たなびくワイヤーに軌道をズラされないようにコントロールする。摩擦の熱を帯びたアンカーは、コートの男目掛けて飛んでいく。

 反撃をされるとは思っていなかっただろう男に、シンの渾身の隠し球が刃を突き立てる。圧倒的優勢による油断に加え、不意を突かれた男にこれから逃れる術はなかった。

 アンカーはコート越しに男の胸部を貫いた。シンは撃ち放たれたその刃が男を貫通するのを見届けると、返の針を引っ掛けるようにワイヤーを巻き取る。肉に針が食い込むような感触が、ワイヤー越しに伝わってくる。

 確かな感触を得たシンは、吹き飛ばされながら男の身体を引き寄せる。シンに蹴りをお見舞いした男は、まだ着地していなかった為、その引力に逆らうことは出来ない。

 引っ張られた男の身体は、飛ばされるシンの身体に追いつかんという勢いで向かってくる。シンはワイヤーを弛ませ、空中で輪っかを作る。そしてブレーキをかけるように、もう片方の手で短剣を手にし、床に刃を突き立て飛ばされる勢いを殺す。

 床を抉りながら止まるシンの身体。そして男の身体はシンの横を通り過ぎる刹那、ワイヤーの輪っかに首を引っ掛ける。瞬時に振り向き、男の勢いに負けぬよう強く床に足をつけ踏ん張る。

 ワイヤーの両端は、それぞれ違う方へ力が働き、ピンと真っ直ぐに張られる。後は想像するのも痛々しい結果へと向かうのみ。ワイヤーの輪っかに首を通した男は、力強く張られたワイヤーの勢いで首を絞められる。

 首の皮を裂き、脊髄を両断するまでには至らなかったが、空中で急ブレーキをかけられた男の身体は、引き寄せられた勢いとワイヤーを張られた勢いが相殺したことにより、僅かに上へと持ち上がる。

 「同じ能力であるのなら、アンタに出来て俺に出来ないはずはない・・・。形勢逆転だッ!」

 シンの言葉にふと、船室の風景を改めて視界に写すデイヴィス。これだけ簡単な間違い探しはないだろう。コートの男との戦いでシンが使った武具が、いつの間にか全て、綺麗さっぱり床から姿を消していたのだ。

 シンは船室の薄暗さを利用し、床全体を自身の影で覆い、武具だけを影に取り込んでいたのだ。そして、身動きの取りようがない男目掛けて、取り込んだ数々の武具を一斉に打ち出したのだ。

 「デイヴィスッ!!」

 「あぁ!分かってるとも!」

 宙へと持ち上がった男の身体は、船室の上部に張り巡らせていたデイヴィスのワイヤーに触れる。瞬間、男の身体を蜘蛛の巣のように絡めとり、その場に固定する。

 僅かに香る油の匂い。デイヴィスのワイヤーには、特製の油が塗られており、独特の光沢を放っている。そしてデイヴィスは、捕らえた男の身体へ、灼熱の刺客を送り込む。

 「火遁・翔炎華ッ!」

 ワイヤーの油を伝い、炎が宙を翔けるように燃え広がり、艶やかな文様を浮かび上がらせる。二人の連携は見事に決まり、まるで花火を逆再生するかのように、燃え上がる男の身体を鎮火させるシンの武具。

 壮絶であっという間の出来事だった。息を飲むような緩急の激しい一幕。それまでの戦いが嘘のように静まり返り、外で戦う船員達の音が鮮明に聞こえるほどだった。

 ただ、この船に潜入した時と違うのは、その焼け焦げた鼻を突く臭いと、おどろおどろしく宙に吊られる男の姿があることだ。劇場に降ろされた幕を見ながら、怒涛の一幕を見終えた二人の心に訪れたのは、勝利の賛歌でもなく、静寂の余韻でもなく、ただただ単純に困惑という感情だけだった。

 決め手となる渾身の一撃は入れた。だが、不可解な能力や言動で惑わしてきたこの男が、これで終わったとは到底思えなかったのだ。まだ何かを隠している、これでは呆気なさすぎる。

 自分たちで手を下したはずなのに、それが全く信用できないということ程、より強い不安を駆り立てていき、二人の動きと思考を止めてしまう。

 しかし、コートの男から受けた傷で我に帰ったシンが、デイヴィスに本来の目的を思い出させ、一刻も早くキングの元へ急ぐよう伝える。この不測の事態は俺がなんとかする。そう覚悟を決めたシンは、動かぬ男から一切目を逸らさなかった。

 「デイヴィス!アンタは先に行ってくれ。これ以上、時間はかけられないだろ?」

 「ぁッ・・・あぁ、すまないシン。それと感謝を・・・。よくここまで送り届けてくれた」

 「らしくないな。全てが済んだら“また“会おう。それまで・・・」

 「あぁ、それまで死ぬなよ」

 デイヴィスに躊躇はなかった。シンを置いていくことに、彼なりに思うことはあっただろう。海賊団を結成していた頃は、仲間思いの船長であったのだ。ここまで行動を共にしてきたシン達は、彼にとって既に仲間と同じようなものになっていた。

 だが、仲間達が背中を押してくれる限り止まるわけにはいかない。長年の目的であった真実を確かめる為、デイヴィスは先へと進んでいった。
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