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視界に潜む影
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彼の足に刺さった刃の角度から推測すると、それは下方向から飛ばされて来た物のようだ。だが当然、床から手裏剣の刃部分が飛んで来るなどあり得ないことだ。
自身の足から刃をゆっくりと引き抜きながら、デイヴィスはコートの男の不可解な能力について考えていた。刃は間違いなくデイヴィスの物だった。相手の道具を跳ね返すような能力とも思ったが、跳ね返すのであれば直線的な返しになる筈。
それとも、跳ね返す能力を当てた時点で、道具の所有者がコートの男に移る仕組みなのだろうか。否、そんな難しい話ではない。デイヴィスの中で、コートの男の能力について考えれば考えるほど、何処かで見たようなものである感覚が芽生えていた。
「カラクリは分からん・・・。だが、不思議と初見ではないような気がする・・・」
何かに気づき始めているデイヴィスを尻目に、コートの男は倒れるシンの元へ歩みを進める。依然、コートの男の能力に全くと言っていいほど解明出来ずにいるシンは、痛みに俯くフリをしながら男の接近を待っていた。
「自分の技が通用しねぇのがそんなにショックかぁ?」
男がシンの近接攻撃による間合いに入ると、水面蹴りからのカポエラのような足技で飛び上がり、手にした短剣で襲いかかる。だが、まるで軌道が読まれているかのように、軽くあしらわれてしまう。
しかし、それでもシンは攻撃の手を止めなかった。聖都でアーテムやその師である朝孝から学んだ身のこなしで、必死の抵抗を見せる。短剣をわざと弾き上げ、ナイフやチャクラム、クナイなど持ち得る全ての物を使うシン。
それは決して、がむしゃらに実力を証明せんと無策で突撃している訳ではなかった。これは彼なりに考えがあっての行動だった。自身の魔力を使うスキルは、この男の未知なる能力で利用される、或いはシンの思惑とは別の効果を発動してしまっていた。
なのでシンは、魔力を一切使わない自身の身体能力のみによる攻撃を試みていた。アーテムから学んだ、複数本の短剣を用いた手数の多い戦闘スタイルは、それまで軽くあしらっていた男に腕や足を使わせ始めていた。
少しずつではあるが、男はシンの徐々にギアの上がってくる攻撃に、対処しきれなくなってきたのか、時折男の動きに合わせてたなびくコートに、シンの武器が命中する。
デイヴィスの攻撃で見せたものと同様、コートに空いた穴や切れ目はすぐに修正されていく。だが今の段階でこの状況ということは、もう少し時間を稼ぐことが出来れば、コートの下の本体に当たるかもしれない。
そしてシンはここで、ある発見をすることになる。宙を舞う武具の数が増えてくると、何故かある一定量以上に増えなくなっているということと、男のコートを貫通した武具が姿を消すということだった。
「・・・?」
不可解な現象に見舞われているような表情を浮かべるシンの顔を見て、男は再び不敵な笑みを浮かべて、挑発するようにシンの気を逸らす言葉を投げかけてくる。
「また何かに気づいたか?俺も丁度身体が温まってきた所だ。その様子だと、もうこれ以上は望めねぇか・・・」
息を上げながら必死の抵抗を見せるシンを見て、男はこれ以上続けても何もサプライズが用意されていないであろうと悟り、失望したような声色になる。
物理的な攻撃に男の意識を集中させたところで、シンは先ほど利用された自身の影を用いたスキルを織り交ぜた。
複数の宙を舞う武具を捌きながら男は、疲労するどころか更に動きのキレと威力を向上させ、手刀や蹴りを振るう風圧で攻撃を防ぎ始めた。だが一瞬、男は突然何もないところ目掛けて、回し蹴りを振るったのだ。
「・・・・・」
口には出さずとも、男の異変に気づく表情が手にとるように伝わってくるようだった。そして再び男が空振りの動作を見せた時、シンは必要最小限にまで薄めた小さな影を、床から男の足を伝いコートの中に忍び込ませることに成功した。
男は依然、自身の空振りに意識を取られている。腕や足を振るっても、そこに何もないのは確かなのだが、男はそれでも何かに反応してしまい、空振りを行ってしまう。
当人以外には分からないことだろう。実際に二人の戦う様子を見ているデイヴィスでさえ、何故時折コートの男が攻撃を空振りするのか、理解できていなかった。
それこそ、手数に押され余裕がなくなってきたのだと思ってしまうほど、その変化に気づきはしない。
これはシンが、聖都で騎士隊長のイデアールとの戦いで見せた、技というにはあまりに地味だが、受けた当人には非常に厄介な効果をもたらす影のスキル、“視影“というスキルだった。
飛蚊症とう目の病気がある。視界に黒い虫が飛んでいるかのように見える現象を引き起こすもので、実際に飛んでいなくても、当人にはそこに虫がいたかのような錯覚を起こしてしまう。
視影は、その飛蚊症の症状を意図的に引き起こし、それは武術や集中力に長けた者であればあるほど、反応してしまう非常に厄介な技だ。イデアールもその症状に惑わされたが、その幻覚諸共その全てを穿つという超人的な離れ業で、強引に捻じ伏せていた。
シンは今まさに同じことを、コートの男に仕掛けた。そしてその現象に気付かれる前に、先程コートの男に忍び込ませた影の効果を発動させる。すると、男の振るった手刀が時を止められたかのように、一瞬だけピタリとその動きを止めたのだ。
勿論、それもシンの仕業であり、そのタイミングも彼の意のまま。止まった男の腕を切り落とさんという勢いで、手元でくるりと回転させ持ち替えた短剣の一閃を振り抜く。
「ッ・・・!」
「くッ・・・!?」
二人は同時に、全く同じ反応した。突然の身体の異常に驚くコートの男の反応は予測できたこと。だが何故、男の度肝を抜く渾身の一撃を振り抜いたシンまで驚いていたのか。
それは、タイミングも距離も一寸の狂いもない程上手くいった筈の一撃が、辛うじてではあるが躱されたことにある。シンの短剣には、確かにコートの袖を切りつけた感覚があった。
しかし、腕を切り落とすことはおろか、男は血の一滴すら垂らしていなかった。男のコートの袖は、深々とパックリ切られていたが、一体どんな仕組みになっているのか、すぐに修正されていった。
「こいつは驚いた・・・」
唖然とした様子で動きを止めた男に、シンはそれでも手を止めまいと、再び武具を振るう。その瞬間、船室の至るところから飛んできた何かによって、シンの破竹の勢いは一瞬にして打ち落とされた。
船室に響く金属音。バラバラと散らばる何かに、思わず視線を奪われるシンとデイヴィス。そこにあったのは、何処かへ消えていたと思われていた、シンの数々の武具だった。
自身の足から刃をゆっくりと引き抜きながら、デイヴィスはコートの男の不可解な能力について考えていた。刃は間違いなくデイヴィスの物だった。相手の道具を跳ね返すような能力とも思ったが、跳ね返すのであれば直線的な返しになる筈。
それとも、跳ね返す能力を当てた時点で、道具の所有者がコートの男に移る仕組みなのだろうか。否、そんな難しい話ではない。デイヴィスの中で、コートの男の能力について考えれば考えるほど、何処かで見たようなものである感覚が芽生えていた。
「カラクリは分からん・・・。だが、不思議と初見ではないような気がする・・・」
何かに気づき始めているデイヴィスを尻目に、コートの男は倒れるシンの元へ歩みを進める。依然、コートの男の能力に全くと言っていいほど解明出来ずにいるシンは、痛みに俯くフリをしながら男の接近を待っていた。
「自分の技が通用しねぇのがそんなにショックかぁ?」
男がシンの近接攻撃による間合いに入ると、水面蹴りからのカポエラのような足技で飛び上がり、手にした短剣で襲いかかる。だが、まるで軌道が読まれているかのように、軽くあしらわれてしまう。
しかし、それでもシンは攻撃の手を止めなかった。聖都でアーテムやその師である朝孝から学んだ身のこなしで、必死の抵抗を見せる。短剣をわざと弾き上げ、ナイフやチャクラム、クナイなど持ち得る全ての物を使うシン。
それは決して、がむしゃらに実力を証明せんと無策で突撃している訳ではなかった。これは彼なりに考えがあっての行動だった。自身の魔力を使うスキルは、この男の未知なる能力で利用される、或いはシンの思惑とは別の効果を発動してしまっていた。
なのでシンは、魔力を一切使わない自身の身体能力のみによる攻撃を試みていた。アーテムから学んだ、複数本の短剣を用いた手数の多い戦闘スタイルは、それまで軽くあしらっていた男に腕や足を使わせ始めていた。
少しずつではあるが、男はシンの徐々にギアの上がってくる攻撃に、対処しきれなくなってきたのか、時折男の動きに合わせてたなびくコートに、シンの武器が命中する。
デイヴィスの攻撃で見せたものと同様、コートに空いた穴や切れ目はすぐに修正されていく。だが今の段階でこの状況ということは、もう少し時間を稼ぐことが出来れば、コートの下の本体に当たるかもしれない。
そしてシンはここで、ある発見をすることになる。宙を舞う武具の数が増えてくると、何故かある一定量以上に増えなくなっているということと、男のコートを貫通した武具が姿を消すということだった。
「・・・?」
不可解な現象に見舞われているような表情を浮かべるシンの顔を見て、男は再び不敵な笑みを浮かべて、挑発するようにシンの気を逸らす言葉を投げかけてくる。
「また何かに気づいたか?俺も丁度身体が温まってきた所だ。その様子だと、もうこれ以上は望めねぇか・・・」
息を上げながら必死の抵抗を見せるシンを見て、男はこれ以上続けても何もサプライズが用意されていないであろうと悟り、失望したような声色になる。
物理的な攻撃に男の意識を集中させたところで、シンは先ほど利用された自身の影を用いたスキルを織り交ぜた。
複数の宙を舞う武具を捌きながら男は、疲労するどころか更に動きのキレと威力を向上させ、手刀や蹴りを振るう風圧で攻撃を防ぎ始めた。だが一瞬、男は突然何もないところ目掛けて、回し蹴りを振るったのだ。
「・・・・・」
口には出さずとも、男の異変に気づく表情が手にとるように伝わってくるようだった。そして再び男が空振りの動作を見せた時、シンは必要最小限にまで薄めた小さな影を、床から男の足を伝いコートの中に忍び込ませることに成功した。
男は依然、自身の空振りに意識を取られている。腕や足を振るっても、そこに何もないのは確かなのだが、男はそれでも何かに反応してしまい、空振りを行ってしまう。
当人以外には分からないことだろう。実際に二人の戦う様子を見ているデイヴィスでさえ、何故時折コートの男が攻撃を空振りするのか、理解できていなかった。
それこそ、手数に押され余裕がなくなってきたのだと思ってしまうほど、その変化に気づきはしない。
これはシンが、聖都で騎士隊長のイデアールとの戦いで見せた、技というにはあまりに地味だが、受けた当人には非常に厄介な効果をもたらす影のスキル、“視影“というスキルだった。
飛蚊症とう目の病気がある。視界に黒い虫が飛んでいるかのように見える現象を引き起こすもので、実際に飛んでいなくても、当人にはそこに虫がいたかのような錯覚を起こしてしまう。
視影は、その飛蚊症の症状を意図的に引き起こし、それは武術や集中力に長けた者であればあるほど、反応してしまう非常に厄介な技だ。イデアールもその症状に惑わされたが、その幻覚諸共その全てを穿つという超人的な離れ業で、強引に捻じ伏せていた。
シンは今まさに同じことを、コートの男に仕掛けた。そしてその現象に気付かれる前に、先程コートの男に忍び込ませた影の効果を発動させる。すると、男の振るった手刀が時を止められたかのように、一瞬だけピタリとその動きを止めたのだ。
勿論、それもシンの仕業であり、そのタイミングも彼の意のまま。止まった男の腕を切り落とさんという勢いで、手元でくるりと回転させ持ち替えた短剣の一閃を振り抜く。
「ッ・・・!」
「くッ・・・!?」
二人は同時に、全く同じ反応した。突然の身体の異常に驚くコートの男の反応は予測できたこと。だが何故、男の度肝を抜く渾身の一撃を振り抜いたシンまで驚いていたのか。
それは、タイミングも距離も一寸の狂いもない程上手くいった筈の一撃が、辛うじてではあるが躱されたことにある。シンの短剣には、確かにコートの袖を切りつけた感覚があった。
しかし、腕を切り落とすことはおろか、男は血の一滴すら垂らしていなかった。男のコートの袖は、深々とパックリ切られていたが、一体どんな仕組みになっているのか、すぐに修正されていった。
「こいつは驚いた・・・」
唖然とした様子で動きを止めた男に、シンはそれでも手を止めまいと、再び武具を振るう。その瞬間、船室の至るところから飛んできた何かによって、シンの破竹の勢いは一瞬にして打ち落とされた。
船室に響く金属音。バラバラと散らばる何かに、思わず視線を奪われるシンとデイヴィス。そこにあったのは、何処かへ消えていたと思われていた、シンの数々の武具だった。
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