World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
506 / 1,646

一点突破

しおりを挟む
 おどろおどろしかった体内の景色は、一変して幻想的な光景へと変わる。彼らを消化しようと垂れていた酸は、鍾乳洞の氷柱のように美しく垂れ下がり、人間の臓物を巨大化させたかのように不気味に動いていた肉壁は、氷の結晶となると一気に別物となった。

 器用にも、飲み込まれた彼らの身体は誰一人凍らせることなく、自身の周りの肉壁のみ氷の景色へ変えたことを見るに、はなから彼らを氷でコーティングするくらいのことは雑作もなかっただろう。

 「すッ・・・凄い。一瞬にして・・・」

 「なんて魔力量だ・・・」

 シャーロットの能力を初めて見る竜騎士隊の隊員達が、呆然として空いた口が塞がらないといった様子だった。ロイクやマクシムも初見ではなかったが、目の前で彼女の美しい技を魅せられ、思わず息を呑み言葉を失った。

 「さて、どうだろうなぁ・・・。これで外皮まで到達出来ただろうか?」

 「手応えはどうなんだ?」

 「そんなものは知らぬ。だが、広範囲に展開はした。このデカブツの外に及ぶくらいにはな・・・」

 足場の出来た蟒蛇の体内で、氷でコーティングされた足元をスパイクのように変え、一歩一歩慎重に歩き進め、凍った壁を撫でるように触るシャーロット。

 海上に氷で作った別の景色を、丸ごと再現した彼女であれば外皮の向こう側にまでスキルが反映されていてもおかしくない。だがその場合、身体の一部だけが氷漬けになっている状態で、他の部位が動き出したらどうなってしまうのだろう。

 切断されても貫かれても再生し続けてきた蟒蛇の身体は、どんな状況に置かれても元通りになってしまうのかもしれない。それこそ消滅させるくらいの威力がなければ倒しきれないのかもしれない。

 命の危機に晒されている彼らに、そこまで先のことを想像する余裕はない。今はただ目の前の難題を解決しなければ、心に休息はやってこない。体内を氷漬けにしたことにより、一先ずは溶かされ消化されると言うことはなくなった。

 しかし、このどこまで凍ったか分からない分厚い氷の壁を、今度は打ち砕かなければならない。シャーロットの指先を鳴らす動作で砕けるのではないかとロイクが持ちかけるが、彼女はそれでは外まで打ち砕くことは不可能だろうと言った。

 「あとはこれを粉砕するだけの力を加えれば、氷がどこまで到達しているのか分かるのだがな」

 「分かった、やってみよう。ただ俺達はこの酸の影響で本来の力が出せない。アンタの力も借りたいんだが・・・」

 「この不快な空間から出られるのなら協力しよう。・・・だが、どうするのだ?期待されても困るから先に言っておくが、私の攻撃に貫通力の高いものはないからな」

 策を提案したのはマクシムだった。蟒蛇に飲み込まれた彼らの中で最も力を温存しているのはシャーロットだ。彼女の魔法を最後の追い討ちにし、途中まではロイクの竜騎士隊の力や自身のスキルの力を合わせ、一点突破を狙おうとしていた。

 周囲が氷漬けになったことで、ドラゴンも自由に身動きが取れるようになり、彼らも足場が安定した。竜騎士隊は一斉に槍を構え、マクシムの指示した箇所に狙いを定める。

 ドラゴン達にもブレスの準備をさせ、ロイクとマクシム自身も、持ちうる全ての力を込めてスキルを発動する。そしてマクシムの合図で一斉に竜騎士隊の槍とドラゴンのブレスが放たれる。

 魔力を帯びた竜騎士隊の槍は、凍った蟒蛇の肉壁に突き刺さり、穴を掘るように削っていく。ドラゴンのブレスは炎の属性を持ってはいたが、その分衝突の威力は竜騎士隊の槍よりも重たい一撃を打ち込んだ。

 畳み掛けるように、人一倍威力の高い槍を放つロイクと、鋼糸を振りまわし次々に衝撃波を放つマクシム。皆の一丸となった攻撃により、蟒蛇の凍った体内に大きな穴が開いていく。

 そして極め付けはシャーロットによる一撃だ。氷の氷柱をいくつも形成し宙に浮かべると、彼らの攻撃がひと段落ついたところで一気に打ち込んでいく。奥にまで突き刺さった彼女の氷柱は、まるで壁に咲いた花のように大きな塊を作った。

 そしてシャーロットが締めに指を鳴らすと、その巨大な氷の塊は勢いよく弾け飛ぶ。彼らの元へ飛んでくるかけらをマクシムが器用に糸で絡め、穴の方へと投げてダメ押しの追撃をする。

 外からみた蟒蛇の身体は、内側から徐々に膨れ上がっていき、遂にその分厚い肉の壁を貫いてみせた。

 突然、蟒蛇の身体に起きた変化に驚く、食われなかった竜騎士隊の隊員とヘラルト。もう間も無くレールガンの準備が整うという中、なんと先に内側から突き破り、仲間達が姿を表したのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...