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表舞台への覚悟
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アシュトンの潜水艇が浮上して来た。大きな船に釣られるように、次々に別の潜水艇が海面へと上がってくる。先頭を行くシンプソンの船団と、中央で友軍を探すデイヴィスやシン達の船の前に現れた。
速力を落とし、一旦足並みを揃え態勢を整える暗殺チームの一行。ウォルターと逸れたアンスティスの船団は、依然後方より全体の動きを把握しテイルという状況にある。
潜水艇がひとしきり海面へ上がり切った頃、先頭のシンプソンの部隊より、デイヴィスが探していたロバーツの船団がいるという通達が入る。
「デイヴィス、聞こえるか?前方で巨大な標的に攻撃を仕掛けているロバーツの船を見つけた」
甲板にいる筈のデイヴィスへ、シンプソンの船から連絡があったことを伝えに走るシン。しかし、外で見張っている筈の彼ならば、海賊船に飾られる大きな海賊旗を、既に見つけていてもおかしくないのではないだろうか。
違和感を感じつつも、甲板への扉を開けてデイヴィスを探す。
「おい!アンタの仲間から通信が入ったぞ」
するとそこには、空を見上げて呆然とするデイヴィスの姿があった。その手には双眼鏡が握られており、今にも落としてしまいそうなほど、指に力が入っていないようだった。
再び呼びかけたシンの声に反応したデイヴィスだったが、こちらを向くことなく足を後ろへと後退させ、大粒の汗を流し青ざめていた。何も語らぬ彼の視線を辿ると、そこには雲海から僅かに顔を覗かせて優雅に泳ぐ蟒蛇の頭部があり、その大きな瞳にすれ違い様に視線を向けられているかのような感覚に陥った。
蛇に睨まれた蛙のように身動き一つ取れなくなる。息をすればこちらの存在が気取られてしまうのではないか、生き物としての本能が思わず呼吸を止めてしまう。
その大きな目は、巨大な円盤状の未確認飛行物体と見まごう程の存在感。流れるように通り過ぎて行った蟒蛇の頭部は、そのまま再び雲海へと戻っていくと、その場に他の場所で戦う海賊達の標的と同じような身体を残していく。
「・・・おいおいおい・・・、あんなモノどうやって・・・」
突然の出来事に、何をしに来たのか頭から抜けてしまっていたシンは、蟒蛇の頭部が姿を消すのと同時に、金縛りにあったかのように動かなくなった思考と身体が解放され、デイヴィスにシンプソンからの通達を報告する。
「ロバーツの船が・・・。あっ・・・あぁ、分かった。直ぐに合流し、奴から現状を伺おう。無闇に手を出さないように、シンプソン達へ報告を入れてくれ」
「アンタはどうする?」
「俺は引き続き、ここで戦場の様子を伺う」
「分かった。一通り用が済んだら俺も直ぐに戻る」
少数しか乗り合わせていなツバキの船では、無駄に人員を割くことは出来ない。外で何かあった時に、一人では心許ないと思ったシンは、船内へ戻りデイヴィスの伝言を彼の仲間達に伝えた後、ミアと共に彼のサポートに回ろうと足早に操舵室へ向かう。
船内にいても人手は足りていると思ったのか、通路でミアとすれ違う。何処へいくのかとシンが尋ねると、彼がしようと思っていたのと同じように、彼女も甲板へ向かおうとしていた。
デイヴィスの伝語をシンプソンらに伝えたら直ぐに自分も向かうと伝え、二人はそれぞれの場所へと向かう。慌ただしくなる船内。その前方では、同じく空を見ていたであろうシンプソンの船団が見えるが、甲板に船員は見えるのだが不気味なくらい声がしなかった。
恐らく、デイヴィスとシンが目撃したものと同じものを目の当たりにしたのだろう。上空で顔を見せた蟒蛇は、そこで丁度エイヴリー海賊団の幹部、ロイクの竜騎士隊とリーズの眷族をまとめて飲み込んだ後だったのだ。
辛うじて大口から逃れた竜騎士隊の者達は、直ぐに戦線を離脱。そして船長であるエイヴリーの元へ、この一大事を伝えに急行した。次弾装填の準備を進めるエイヴリーの戦艦に、少数となった竜騎士隊が姿を表す。
「船長!ロイクさんのとこのドラゴンが戻って来ました・・・」
「何だ?何かあったってぇのか?」
「分かりません・・・。ですがロイクさんのドラゴンは見当たりません。それに数も少数です。伝達というわけでもなさそうですが・・・」
慌てて戻って来た竜騎士隊が、戦艦へと戻って来ると、ドラゴンを繋ぐこともなく飛び降り、声を荒立てながら船内へと向かう。騒がしい足音が近づいてくると、飛び込むようにロイクの部下がなだれ込んで来た。
「せッ船長・・・!ロイクさんがッ・・・!竜騎士隊は壊滅です!我々以外全員、あの怪物に飲み込まれましたッ!」
「なッ・・・!?」
「そんなこと・・・」
絶望の表情で必死にこれだけは伝えねばと帰還して来た彼らの報告を受け、驚きのあまり唖然とするアルマンと、こうも呆気なく強者の仲間がいなくなってしまうものなのかと絶望するヘラルト。
一人目を瞑り、冷静でいるエイヴリーは戻って来た彼らに暫しの休憩を支持すると、部隊長であるロイクに代わり、新たな命令を彼らに託す。
「次のレールガンによる一撃で、あのデカブツの身体に風穴を開ける。砲撃を貫通力特化に変更してな・・・。今の内に準備を整えておけ。“入り口“が出来たらお前らが中に入って探しに行け・・・」
船長の命令に、まるでこれから死んでこいと命令されたかのように目を丸くして驚愕する竜騎士隊の船員。あんな怪物の身体の中に、わざわざ自分から入って行くなど正気の沙汰ではない。
彼らの表情は血の気が引いたかのように青ざめ、身体は小刻みに震えている。誰もエイヴリーとは目を合わせず、下を向いて彼の命令を拒絶しているようだった。勇気を振り絞って、一人の隊員が口を開くが、エイヴリーの命令に変更はなかった。
「むッ・・・無理です!それじゃぁまるで、死にに行けと言っているのと同じではないですか!?どうして・・・」
「・・・俺達はここを離れることは出来ない・・・。それにドラゴンはお前達じゃねぇとろくに動けねぇときてる。これは“お前達にしか出来ない“ことだ。アイツらはまだ死んじゃいねぇ。ロイクの召喚獣であるドラゴンが消えてねぇのが、何よりの証拠だ。アイツらだってお前らの迎えが来るのを待ってる。同じ時間を直ぐ近くで過ごして来たのはお前達だろ?なら、アイツらだってお前らが来てくれるのを待ってる筈だ。そうは思わねぇか?」
ドラゴンは簡単に手懐けられるものではない。エイヴリーを含め、ロイクの部隊の者以外では、例え乗れたとしても意思を通わせた動きや連携は決して取ることが出来ないだろう。エイヴリーの言う通り、彼らしかいないのだ。
大船団を率いる大黒柱のエイヴリーが、自身でもなく幹部の者達でもなく、彼らにしか出来ないと言っている。それが彼ら一般船員にとって何よりも嬉しく、仲間達との絆もまさにエイヴリーの言う通りだった。
エイヴリーの言葉に、再び立ち上がる勇気と力を授かり、その瞳には光が戻る。命令通り直ぐに出発の準備を始める竜騎士隊の隊員達。その様子を見ていたヘラルトが、エイヴリーにあるお願いをする。
「せッ・・・船長!僕も行って来ます!」
「何ぃ・・・?」
少年の目は、先程の隊員達と同じように光に満ち溢れていた。確かに彼の能力であれば、飛行能力を持つ生き物を描き出し、蟒蛇の体内へ向かうことが可能だが、まさか入ったばかりの少年から、そのような言葉が飛び出すとは思っていなかったエイヴリー。
「僕も人傳じゃなくて、自分で自分の物語を紡いでみたいんです!もし僕が死ぬようなことがあったら、僕の荷物は全て貴方に差し上げます。だから・・・」
ヘラルトもまた、エイヴリーの言葉によってこれまでの自分と決別せんと、胸に決めていたようだった。安全なところで人が命を賭して戦う、まさに物語のような場面を目の前にして、観戦者ではなく自らも舞台に立ちたいと思い始めていた。
世界を見て回ろうと言うのは、故郷の仲間達の思いでもあるが、彼自身の望みでもあった。その為に潜り込んだ海賊船で、彼らを利用したくはなかったのだ。こんな自分を招き入れてくれたからには、自分も傍観者ではいられない。
少年の決意の眼差しを受け、エイヴリーも断る理由はなかった。大地を離れ、この大海原の世界へ飛び出したからには、自分の命の責任は自分自身にある。何が起ころうと、誰も守ってはくれない。ヘラルトも、無意識にそのことを理解していたのだろう。
「いいんだな・・・?ここでお前の旅は終わるかもしれんぇんだぞ?」
「承知の上です。僕も“覚悟“を決めましたから!」
明るく笑顔で返すヘラルト。それを見せられたら、最早気持ちよく送り出す他なかった。アルマンも少年に餞別の言葉を送っていたが、本気で言っているのか、それはまるでこれが最期だとでも言わんばかりの言葉の数々だった。
それを苦笑いで聞いた少年は、最後にエイヴリーへ一礼だけして、竜騎士隊の隊員達の元へ、その大きなノートと筆を抱え走り出していった。
速力を落とし、一旦足並みを揃え態勢を整える暗殺チームの一行。ウォルターと逸れたアンスティスの船団は、依然後方より全体の動きを把握しテイルという状況にある。
潜水艇がひとしきり海面へ上がり切った頃、先頭のシンプソンの部隊より、デイヴィスが探していたロバーツの船団がいるという通達が入る。
「デイヴィス、聞こえるか?前方で巨大な標的に攻撃を仕掛けているロバーツの船を見つけた」
甲板にいる筈のデイヴィスへ、シンプソンの船から連絡があったことを伝えに走るシン。しかし、外で見張っている筈の彼ならば、海賊船に飾られる大きな海賊旗を、既に見つけていてもおかしくないのではないだろうか。
違和感を感じつつも、甲板への扉を開けてデイヴィスを探す。
「おい!アンタの仲間から通信が入ったぞ」
するとそこには、空を見上げて呆然とするデイヴィスの姿があった。その手には双眼鏡が握られており、今にも落としてしまいそうなほど、指に力が入っていないようだった。
再び呼びかけたシンの声に反応したデイヴィスだったが、こちらを向くことなく足を後ろへと後退させ、大粒の汗を流し青ざめていた。何も語らぬ彼の視線を辿ると、そこには雲海から僅かに顔を覗かせて優雅に泳ぐ蟒蛇の頭部があり、その大きな瞳にすれ違い様に視線を向けられているかのような感覚に陥った。
蛇に睨まれた蛙のように身動き一つ取れなくなる。息をすればこちらの存在が気取られてしまうのではないか、生き物としての本能が思わず呼吸を止めてしまう。
その大きな目は、巨大な円盤状の未確認飛行物体と見まごう程の存在感。流れるように通り過ぎて行った蟒蛇の頭部は、そのまま再び雲海へと戻っていくと、その場に他の場所で戦う海賊達の標的と同じような身体を残していく。
「・・・おいおいおい・・・、あんなモノどうやって・・・」
突然の出来事に、何をしに来たのか頭から抜けてしまっていたシンは、蟒蛇の頭部が姿を消すのと同時に、金縛りにあったかのように動かなくなった思考と身体が解放され、デイヴィスにシンプソンからの通達を報告する。
「ロバーツの船が・・・。あっ・・・あぁ、分かった。直ぐに合流し、奴から現状を伺おう。無闇に手を出さないように、シンプソン達へ報告を入れてくれ」
「アンタはどうする?」
「俺は引き続き、ここで戦場の様子を伺う」
「分かった。一通り用が済んだら俺も直ぐに戻る」
少数しか乗り合わせていなツバキの船では、無駄に人員を割くことは出来ない。外で何かあった時に、一人では心許ないと思ったシンは、船内へ戻りデイヴィスの伝言を彼の仲間達に伝えた後、ミアと共に彼のサポートに回ろうと足早に操舵室へ向かう。
船内にいても人手は足りていると思ったのか、通路でミアとすれ違う。何処へいくのかとシンが尋ねると、彼がしようと思っていたのと同じように、彼女も甲板へ向かおうとしていた。
デイヴィスの伝語をシンプソンらに伝えたら直ぐに自分も向かうと伝え、二人はそれぞれの場所へと向かう。慌ただしくなる船内。その前方では、同じく空を見ていたであろうシンプソンの船団が見えるが、甲板に船員は見えるのだが不気味なくらい声がしなかった。
恐らく、デイヴィスとシンが目撃したものと同じものを目の当たりにしたのだろう。上空で顔を見せた蟒蛇は、そこで丁度エイヴリー海賊団の幹部、ロイクの竜騎士隊とリーズの眷族をまとめて飲み込んだ後だったのだ。
辛うじて大口から逃れた竜騎士隊の者達は、直ぐに戦線を離脱。そして船長であるエイヴリーの元へ、この一大事を伝えに急行した。次弾装填の準備を進めるエイヴリーの戦艦に、少数となった竜騎士隊が姿を表す。
「船長!ロイクさんのとこのドラゴンが戻って来ました・・・」
「何だ?何かあったってぇのか?」
「分かりません・・・。ですがロイクさんのドラゴンは見当たりません。それに数も少数です。伝達というわけでもなさそうですが・・・」
慌てて戻って来た竜騎士隊が、戦艦へと戻って来ると、ドラゴンを繋ぐこともなく飛び降り、声を荒立てながら船内へと向かう。騒がしい足音が近づいてくると、飛び込むようにロイクの部下がなだれ込んで来た。
「せッ船長・・・!ロイクさんがッ・・・!竜騎士隊は壊滅です!我々以外全員、あの怪物に飲み込まれましたッ!」
「なッ・・・!?」
「そんなこと・・・」
絶望の表情で必死にこれだけは伝えねばと帰還して来た彼らの報告を受け、驚きのあまり唖然とするアルマンと、こうも呆気なく強者の仲間がいなくなってしまうものなのかと絶望するヘラルト。
一人目を瞑り、冷静でいるエイヴリーは戻って来た彼らに暫しの休憩を支持すると、部隊長であるロイクに代わり、新たな命令を彼らに託す。
「次のレールガンによる一撃で、あのデカブツの身体に風穴を開ける。砲撃を貫通力特化に変更してな・・・。今の内に準備を整えておけ。“入り口“が出来たらお前らが中に入って探しに行け・・・」
船長の命令に、まるでこれから死んでこいと命令されたかのように目を丸くして驚愕する竜騎士隊の船員。あんな怪物の身体の中に、わざわざ自分から入って行くなど正気の沙汰ではない。
彼らの表情は血の気が引いたかのように青ざめ、身体は小刻みに震えている。誰もエイヴリーとは目を合わせず、下を向いて彼の命令を拒絶しているようだった。勇気を振り絞って、一人の隊員が口を開くが、エイヴリーの命令に変更はなかった。
「むッ・・・無理です!それじゃぁまるで、死にに行けと言っているのと同じではないですか!?どうして・・・」
「・・・俺達はここを離れることは出来ない・・・。それにドラゴンはお前達じゃねぇとろくに動けねぇときてる。これは“お前達にしか出来ない“ことだ。アイツらはまだ死んじゃいねぇ。ロイクの召喚獣であるドラゴンが消えてねぇのが、何よりの証拠だ。アイツらだってお前らの迎えが来るのを待ってる。同じ時間を直ぐ近くで過ごして来たのはお前達だろ?なら、アイツらだってお前らが来てくれるのを待ってる筈だ。そうは思わねぇか?」
ドラゴンは簡単に手懐けられるものではない。エイヴリーを含め、ロイクの部隊の者以外では、例え乗れたとしても意思を通わせた動きや連携は決して取ることが出来ないだろう。エイヴリーの言う通り、彼らしかいないのだ。
大船団を率いる大黒柱のエイヴリーが、自身でもなく幹部の者達でもなく、彼らにしか出来ないと言っている。それが彼ら一般船員にとって何よりも嬉しく、仲間達との絆もまさにエイヴリーの言う通りだった。
エイヴリーの言葉に、再び立ち上がる勇気と力を授かり、その瞳には光が戻る。命令通り直ぐに出発の準備を始める竜騎士隊の隊員達。その様子を見ていたヘラルトが、エイヴリーにあるお願いをする。
「せッ・・・船長!僕も行って来ます!」
「何ぃ・・・?」
少年の目は、先程の隊員達と同じように光に満ち溢れていた。確かに彼の能力であれば、飛行能力を持つ生き物を描き出し、蟒蛇の体内へ向かうことが可能だが、まさか入ったばかりの少年から、そのような言葉が飛び出すとは思っていなかったエイヴリー。
「僕も人傳じゃなくて、自分で自分の物語を紡いでみたいんです!もし僕が死ぬようなことがあったら、僕の荷物は全て貴方に差し上げます。だから・・・」
ヘラルトもまた、エイヴリーの言葉によってこれまでの自分と決別せんと、胸に決めていたようだった。安全なところで人が命を賭して戦う、まさに物語のような場面を目の前にして、観戦者ではなく自らも舞台に立ちたいと思い始めていた。
世界を見て回ろうと言うのは、故郷の仲間達の思いでもあるが、彼自身の望みでもあった。その為に潜り込んだ海賊船で、彼らを利用したくはなかったのだ。こんな自分を招き入れてくれたからには、自分も傍観者ではいられない。
少年の決意の眼差しを受け、エイヴリーも断る理由はなかった。大地を離れ、この大海原の世界へ飛び出したからには、自分の命の責任は自分自身にある。何が起ころうと、誰も守ってはくれない。ヘラルトも、無意識にそのことを理解していたのだろう。
「いいんだな・・・?ここでお前の旅は終わるかもしれんぇんだぞ?」
「承知の上です。僕も“覚悟“を決めましたから!」
明るく笑顔で返すヘラルト。それを見せられたら、最早気持ちよく送り出す他なかった。アルマンも少年に餞別の言葉を送っていたが、本気で言っているのか、それはまるでこれが最期だとでも言わんばかりの言葉の数々だった。
それを苦笑いで聞いた少年は、最後にエイヴリーへ一礼だけして、竜騎士隊の隊員達の元へ、その大きなノートと筆を抱え走り出していった。
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