493 / 1,646
小さき者の見聞
しおりを挟む
ヘラルトの言うリヴァイアサンとは、旧約聖書に描かれる天地創造にて、神が造りし海中の怪物として登場する。同じく神に造られた生物で、地上の怪物として描かれるベヒモスと呼ばれるものがいる。
名称は、書かれた書物や書いた人物により異なるようで、二体の怪物はそれぞれ、大海のリヴァイアサン、大地のベヒモスと称され、ベヒモスを最高の生物、リヴァイアサンを最強の生物と記されていたそうだ。
最強の生物と言われるだけあり、その巨大な身体は移動するだけで海の流れを変え、凡ゆる属性の魔法を意のままに操る、まさに神獣の名に恥じない暴君として描かれる。
「あれがその、“リヴァイアサン“だってぇのか?」
「あくまで僕の予想ですが・・・。これだけの人達が集まり、力を合わせても倒せないなんて・・・。もう、そうとしか思えないですよ」
何処からともなく聞こえて来た声が言った通り、最初の一体目が本当に幻影だとしたら、まだあの蟒蛇は本来の力を披露しておらず、その体力もまた実体とは全く別物であることは明らかだろう。
「おもしれぇじゃぁねぇか。本当に奴がその神獣ってぇんなら、俺達はまさに神に挑もうとしているのも同然じゃねぇか。いいねぇ、俄然やる気が出てくるってもんよ!」
「なッ・・・!何を言ってるんですか!?神獣ですよ!?神獣ッ!!神に造られたとされるのは僕達も同じですが、その規模や能力はまるで別物なんですよ!作り物が創造主の域を目指すなんてッ・・・!」
エイヴリーの好奇心を止めるように、ヘラルトは書物で身につけた知識を余すことなく使い説得を試みるが、知識こそあれで海賊としてはまだ船員と呼べる域にすら達していない新人の言葉で止まる彼等ではなかった。
「無駄だよ、ヘラルト。未知のものを前にした我々に、歩みを止めるなどという選択肢はないんだ。お前も探求者なら分かるだろう?」
声を荒立てるヘラルトを、アルマンが諭すように静かに語りかける。研究熱心という言葉では足らないほど、新たな知識に貪欲なアルマンなら分からない話ではないが、この大船団の船長で海賊界隈でもその名を知らない者はいないほどの大物が、そんな無鉄砲な筈がないと思っていた。
アルマンの言葉に、エイヴリーの表情を伺うヘラルト。すると彼は、落ちついた様子で二人の会話を聞いていた。その目は真っ直ぐ曇りのない眼で少年を見つめている。まるで誰に否定されようと、どんな困難が待ち受けていようと、傷つくことを顧みず、夢を追い続ける少年のような心を持った瞳のように。
「あんまり、くせぇことを言うつもりはねぇけどよぉ、ヘラルト。人は成長し進化をしてきた生き物だ。それは今も昔も変わらねぇ。時には越えられない壁を前に尻込みする時もあっただろうよ。それでも人は歩みを止めなかった・・・」
神妙な面持ちで語り始めるエイヴリーに、思わず面食らうヘラルト。それは彼が言葉で語るような人間ではないと思っていたからだった。先陣を切る猛き将のように、その行動や背中で語るような、まさに漢と呼ぶに相応しい見た目をしていたエイヴリー。
そんな彼からは想像もできない言葉の数々。珍しい光景にヘラルトは、彼に描いていた幻の姿を払拭することになる。
「成長・・・進化・・・。でも、いくら前に進もうと僕等が神に近づくなんて・・・」
「人にはその神獣なんてものみてぇな力も体格もねぇ。人は他の生物に比べて弱く脆い生き物だ。その代わり人には、他の生物にはねぇ急成長の能力がある。一人ではなし得なくとも、道を切り開いていた者の後ろには必ずついて来る者達がいる。先陣を行く者が倒れても、後ろの者が次の先陣となり道を紡いでいく」
原初の人間として知られるアダムとイヴ。彼等もまた他の生物達と変わらず、意思を持たない者として存在していたが、知恵の実食べることで自身の意思を持ち始め、エデンを追放されたという話がある。
知恵をつけた人間は、当初からは想像もできないような進化を遂げて来た。明かりを灯すため火を起こしていた彼等は、電気を使い夜中でも全く恐怖に怯えることのない生活を手にし、腹を満たす為に行っていた狩りは、家畜を育て繁殖させることで食に困ることも無くなった。
そしてまさに、エイヴリーがクラフトで作り出した兵器レールガンもまた、魔法を扱えぬ者達が作り出した、魔法にも負けぬ魔法のような兵器だ。その威力は生半可な魔法使いの魔法などとは比べ物にならないほどの威力を誇る。
魔法のある世界でも、誰しもが魔法を使える訳ではない。だが、その違いがあるからこそ、魔法を使ってみたいと言う意思が生まれ、人は試行錯誤し発明という進化を遂げてきた。
「ヘラルト・・・。誰が書いたかも分からねぇ物ばっかり読んでねぇで、お前はもっと進化をしようと前へ進む実際の人間を見た方がいい。百聞は一見に如かず・・・。知識だけじゃぁ心は成長しねぇんだからな」
エイヴリーの言葉は少年の胸に刺さるものがあった。実際、少年は旅をしてきて自らの足で各地を周り、彼の言う“実際の人間“を見てきたつもりでいた。しかしヘラルトが見て来たのは、そこにある書物ばかりで、向き合って来たのは人間ではなく文字や言葉だったのだ。
名称は、書かれた書物や書いた人物により異なるようで、二体の怪物はそれぞれ、大海のリヴァイアサン、大地のベヒモスと称され、ベヒモスを最高の生物、リヴァイアサンを最強の生物と記されていたそうだ。
最強の生物と言われるだけあり、その巨大な身体は移動するだけで海の流れを変え、凡ゆる属性の魔法を意のままに操る、まさに神獣の名に恥じない暴君として描かれる。
「あれがその、“リヴァイアサン“だってぇのか?」
「あくまで僕の予想ですが・・・。これだけの人達が集まり、力を合わせても倒せないなんて・・・。もう、そうとしか思えないですよ」
何処からともなく聞こえて来た声が言った通り、最初の一体目が本当に幻影だとしたら、まだあの蟒蛇は本来の力を披露しておらず、その体力もまた実体とは全く別物であることは明らかだろう。
「おもしれぇじゃぁねぇか。本当に奴がその神獣ってぇんなら、俺達はまさに神に挑もうとしているのも同然じゃねぇか。いいねぇ、俄然やる気が出てくるってもんよ!」
「なッ・・・!何を言ってるんですか!?神獣ですよ!?神獣ッ!!神に造られたとされるのは僕達も同じですが、その規模や能力はまるで別物なんですよ!作り物が創造主の域を目指すなんてッ・・・!」
エイヴリーの好奇心を止めるように、ヘラルトは書物で身につけた知識を余すことなく使い説得を試みるが、知識こそあれで海賊としてはまだ船員と呼べる域にすら達していない新人の言葉で止まる彼等ではなかった。
「無駄だよ、ヘラルト。未知のものを前にした我々に、歩みを止めるなどという選択肢はないんだ。お前も探求者なら分かるだろう?」
声を荒立てるヘラルトを、アルマンが諭すように静かに語りかける。研究熱心という言葉では足らないほど、新たな知識に貪欲なアルマンなら分からない話ではないが、この大船団の船長で海賊界隈でもその名を知らない者はいないほどの大物が、そんな無鉄砲な筈がないと思っていた。
アルマンの言葉に、エイヴリーの表情を伺うヘラルト。すると彼は、落ちついた様子で二人の会話を聞いていた。その目は真っ直ぐ曇りのない眼で少年を見つめている。まるで誰に否定されようと、どんな困難が待ち受けていようと、傷つくことを顧みず、夢を追い続ける少年のような心を持った瞳のように。
「あんまり、くせぇことを言うつもりはねぇけどよぉ、ヘラルト。人は成長し進化をしてきた生き物だ。それは今も昔も変わらねぇ。時には越えられない壁を前に尻込みする時もあっただろうよ。それでも人は歩みを止めなかった・・・」
神妙な面持ちで語り始めるエイヴリーに、思わず面食らうヘラルト。それは彼が言葉で語るような人間ではないと思っていたからだった。先陣を切る猛き将のように、その行動や背中で語るような、まさに漢と呼ぶに相応しい見た目をしていたエイヴリー。
そんな彼からは想像もできない言葉の数々。珍しい光景にヘラルトは、彼に描いていた幻の姿を払拭することになる。
「成長・・・進化・・・。でも、いくら前に進もうと僕等が神に近づくなんて・・・」
「人にはその神獣なんてものみてぇな力も体格もねぇ。人は他の生物に比べて弱く脆い生き物だ。その代わり人には、他の生物にはねぇ急成長の能力がある。一人ではなし得なくとも、道を切り開いていた者の後ろには必ずついて来る者達がいる。先陣を行く者が倒れても、後ろの者が次の先陣となり道を紡いでいく」
原初の人間として知られるアダムとイヴ。彼等もまた他の生物達と変わらず、意思を持たない者として存在していたが、知恵の実食べることで自身の意思を持ち始め、エデンを追放されたという話がある。
知恵をつけた人間は、当初からは想像もできないような進化を遂げて来た。明かりを灯すため火を起こしていた彼等は、電気を使い夜中でも全く恐怖に怯えることのない生活を手にし、腹を満たす為に行っていた狩りは、家畜を育て繁殖させることで食に困ることも無くなった。
そしてまさに、エイヴリーがクラフトで作り出した兵器レールガンもまた、魔法を扱えぬ者達が作り出した、魔法にも負けぬ魔法のような兵器だ。その威力は生半可な魔法使いの魔法などとは比べ物にならないほどの威力を誇る。
魔法のある世界でも、誰しもが魔法を使える訳ではない。だが、その違いがあるからこそ、魔法を使ってみたいと言う意思が生まれ、人は試行錯誤し発明という進化を遂げてきた。
「ヘラルト・・・。誰が書いたかも分からねぇ物ばっかり読んでねぇで、お前はもっと進化をしようと前へ進む実際の人間を見た方がいい。百聞は一見に如かず・・・。知識だけじゃぁ心は成長しねぇんだからな」
エイヴリーの言葉は少年の胸に刺さるものがあった。実際、少年は旅をしてきて自らの足で各地を周り、彼の言う“実際の人間“を見てきたつもりでいた。しかしヘラルトが見て来たのは、そこにある書物ばかりで、向き合って来たのは人間ではなく文字や言葉だったのだ。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる