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小さき者の見聞
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ヘラルトの言うリヴァイアサンとは、旧約聖書に描かれる天地創造にて、神が造りし海中の怪物として登場する。同じく神に造られた生物で、地上の怪物として描かれるベヒモスと呼ばれるものがいる。
名称は、書かれた書物や書いた人物により異なるようで、二体の怪物はそれぞれ、大海のリヴァイアサン、大地のベヒモスと称され、ベヒモスを最高の生物、リヴァイアサンを最強の生物と記されていたそうだ。
最強の生物と言われるだけあり、その巨大な身体は移動するだけで海の流れを変え、凡ゆる属性の魔法を意のままに操る、まさに神獣の名に恥じない暴君として描かれる。
「あれがその、“リヴァイアサン“だってぇのか?」
「あくまで僕の予想ですが・・・。これだけの人達が集まり、力を合わせても倒せないなんて・・・。もう、そうとしか思えないですよ」
何処からともなく聞こえて来た声が言った通り、最初の一体目が本当に幻影だとしたら、まだあの蟒蛇は本来の力を披露しておらず、その体力もまた実体とは全く別物であることは明らかだろう。
「おもしれぇじゃぁねぇか。本当に奴がその神獣ってぇんなら、俺達はまさに神に挑もうとしているのも同然じゃねぇか。いいねぇ、俄然やる気が出てくるってもんよ!」
「なッ・・・!何を言ってるんですか!?神獣ですよ!?神獣ッ!!神に造られたとされるのは僕達も同じですが、その規模や能力はまるで別物なんですよ!作り物が創造主の域を目指すなんてッ・・・!」
エイヴリーの好奇心を止めるように、ヘラルトは書物で身につけた知識を余すことなく使い説得を試みるが、知識こそあれで海賊としてはまだ船員と呼べる域にすら達していない新人の言葉で止まる彼等ではなかった。
「無駄だよ、ヘラルト。未知のものを前にした我々に、歩みを止めるなどという選択肢はないんだ。お前も探求者なら分かるだろう?」
声を荒立てるヘラルトを、アルマンが諭すように静かに語りかける。研究熱心という言葉では足らないほど、新たな知識に貪欲なアルマンなら分からない話ではないが、この大船団の船長で海賊界隈でもその名を知らない者はいないほどの大物が、そんな無鉄砲な筈がないと思っていた。
アルマンの言葉に、エイヴリーの表情を伺うヘラルト。すると彼は、落ちついた様子で二人の会話を聞いていた。その目は真っ直ぐ曇りのない眼で少年を見つめている。まるで誰に否定されようと、どんな困難が待ち受けていようと、傷つくことを顧みず、夢を追い続ける少年のような心を持った瞳のように。
「あんまり、くせぇことを言うつもりはねぇけどよぉ、ヘラルト。人は成長し進化をしてきた生き物だ。それは今も昔も変わらねぇ。時には越えられない壁を前に尻込みする時もあっただろうよ。それでも人は歩みを止めなかった・・・」
神妙な面持ちで語り始めるエイヴリーに、思わず面食らうヘラルト。それは彼が言葉で語るような人間ではないと思っていたからだった。先陣を切る猛き将のように、その行動や背中で語るような、まさに漢と呼ぶに相応しい見た目をしていたエイヴリー。
そんな彼からは想像もできない言葉の数々。珍しい光景にヘラルトは、彼に描いていた幻の姿を払拭することになる。
「成長・・・進化・・・。でも、いくら前に進もうと僕等が神に近づくなんて・・・」
「人にはその神獣なんてものみてぇな力も体格もねぇ。人は他の生物に比べて弱く脆い生き物だ。その代わり人には、他の生物にはねぇ急成長の能力がある。一人ではなし得なくとも、道を切り開いていた者の後ろには必ずついて来る者達がいる。先陣を行く者が倒れても、後ろの者が次の先陣となり道を紡いでいく」
原初の人間として知られるアダムとイヴ。彼等もまた他の生物達と変わらず、意思を持たない者として存在していたが、知恵の実食べることで自身の意思を持ち始め、エデンを追放されたという話がある。
知恵をつけた人間は、当初からは想像もできないような進化を遂げて来た。明かりを灯すため火を起こしていた彼等は、電気を使い夜中でも全く恐怖に怯えることのない生活を手にし、腹を満たす為に行っていた狩りは、家畜を育て繁殖させることで食に困ることも無くなった。
そしてまさに、エイヴリーがクラフトで作り出した兵器レールガンもまた、魔法を扱えぬ者達が作り出した、魔法にも負けぬ魔法のような兵器だ。その威力は生半可な魔法使いの魔法などとは比べ物にならないほどの威力を誇る。
魔法のある世界でも、誰しもが魔法を使える訳ではない。だが、その違いがあるからこそ、魔法を使ってみたいと言う意思が生まれ、人は試行錯誤し発明という進化を遂げてきた。
「ヘラルト・・・。誰が書いたかも分からねぇ物ばっかり読んでねぇで、お前はもっと進化をしようと前へ進む実際の人間を見た方がいい。百聞は一見に如かず・・・。知識だけじゃぁ心は成長しねぇんだからな」
エイヴリーの言葉は少年の胸に刺さるものがあった。実際、少年は旅をしてきて自らの足で各地を周り、彼の言う“実際の人間“を見てきたつもりでいた。しかしヘラルトが見て来たのは、そこにある書物ばかりで、向き合って来たのは人間ではなく文字や言葉だったのだ。
名称は、書かれた書物や書いた人物により異なるようで、二体の怪物はそれぞれ、大海のリヴァイアサン、大地のベヒモスと称され、ベヒモスを最高の生物、リヴァイアサンを最強の生物と記されていたそうだ。
最強の生物と言われるだけあり、その巨大な身体は移動するだけで海の流れを変え、凡ゆる属性の魔法を意のままに操る、まさに神獣の名に恥じない暴君として描かれる。
「あれがその、“リヴァイアサン“だってぇのか?」
「あくまで僕の予想ですが・・・。これだけの人達が集まり、力を合わせても倒せないなんて・・・。もう、そうとしか思えないですよ」
何処からともなく聞こえて来た声が言った通り、最初の一体目が本当に幻影だとしたら、まだあの蟒蛇は本来の力を披露しておらず、その体力もまた実体とは全く別物であることは明らかだろう。
「おもしれぇじゃぁねぇか。本当に奴がその神獣ってぇんなら、俺達はまさに神に挑もうとしているのも同然じゃねぇか。いいねぇ、俄然やる気が出てくるってもんよ!」
「なッ・・・!何を言ってるんですか!?神獣ですよ!?神獣ッ!!神に造られたとされるのは僕達も同じですが、その規模や能力はまるで別物なんですよ!作り物が創造主の域を目指すなんてッ・・・!」
エイヴリーの好奇心を止めるように、ヘラルトは書物で身につけた知識を余すことなく使い説得を試みるが、知識こそあれで海賊としてはまだ船員と呼べる域にすら達していない新人の言葉で止まる彼等ではなかった。
「無駄だよ、ヘラルト。未知のものを前にした我々に、歩みを止めるなどという選択肢はないんだ。お前も探求者なら分かるだろう?」
声を荒立てるヘラルトを、アルマンが諭すように静かに語りかける。研究熱心という言葉では足らないほど、新たな知識に貪欲なアルマンなら分からない話ではないが、この大船団の船長で海賊界隈でもその名を知らない者はいないほどの大物が、そんな無鉄砲な筈がないと思っていた。
アルマンの言葉に、エイヴリーの表情を伺うヘラルト。すると彼は、落ちついた様子で二人の会話を聞いていた。その目は真っ直ぐ曇りのない眼で少年を見つめている。まるで誰に否定されようと、どんな困難が待ち受けていようと、傷つくことを顧みず、夢を追い続ける少年のような心を持った瞳のように。
「あんまり、くせぇことを言うつもりはねぇけどよぉ、ヘラルト。人は成長し進化をしてきた生き物だ。それは今も昔も変わらねぇ。時には越えられない壁を前に尻込みする時もあっただろうよ。それでも人は歩みを止めなかった・・・」
神妙な面持ちで語り始めるエイヴリーに、思わず面食らうヘラルト。それは彼が言葉で語るような人間ではないと思っていたからだった。先陣を切る猛き将のように、その行動や背中で語るような、まさに漢と呼ぶに相応しい見た目をしていたエイヴリー。
そんな彼からは想像もできない言葉の数々。珍しい光景にヘラルトは、彼に描いていた幻の姿を払拭することになる。
「成長・・・進化・・・。でも、いくら前に進もうと僕等が神に近づくなんて・・・」
「人にはその神獣なんてものみてぇな力も体格もねぇ。人は他の生物に比べて弱く脆い生き物だ。その代わり人には、他の生物にはねぇ急成長の能力がある。一人ではなし得なくとも、道を切り開いていた者の後ろには必ずついて来る者達がいる。先陣を行く者が倒れても、後ろの者が次の先陣となり道を紡いでいく」
原初の人間として知られるアダムとイヴ。彼等もまた他の生物達と変わらず、意思を持たない者として存在していたが、知恵の実食べることで自身の意思を持ち始め、エデンを追放されたという話がある。
知恵をつけた人間は、当初からは想像もできないような進化を遂げて来た。明かりを灯すため火を起こしていた彼等は、電気を使い夜中でも全く恐怖に怯えることのない生活を手にし、腹を満たす為に行っていた狩りは、家畜を育て繁殖させることで食に困ることも無くなった。
そしてまさに、エイヴリーがクラフトで作り出した兵器レールガンもまた、魔法を扱えぬ者達が作り出した、魔法にも負けぬ魔法のような兵器だ。その威力は生半可な魔法使いの魔法などとは比べ物にならないほどの威力を誇る。
魔法のある世界でも、誰しもが魔法を使える訳ではない。だが、その違いがあるからこそ、魔法を使ってみたいと言う意思が生まれ、人は試行錯誤し発明という進化を遂げてきた。
「ヘラルト・・・。誰が書いたかも分からねぇ物ばっかり読んでねぇで、お前はもっと進化をしようと前へ進む実際の人間を見た方がいい。百聞は一見に如かず・・・。知識だけじゃぁ心は成長しねぇんだからな」
エイヴリーの言葉は少年の胸に刺さるものがあった。実際、少年は旅をしてきて自らの足で各地を周り、彼の言う“実際の人間“を見てきたつもりでいた。しかしヘラルトが見て来たのは、そこにある書物ばかりで、向き合って来たのは人間ではなく文字や言葉だったのだ。
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