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落ちるは赤い海
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全身を深紅に染め上げ、そこにある景色を軒並み飲み込んでしまいそうな程黒々と開いた穴を背にする二人の勇士の姿が、向こう側の世界から差し込む光でまるで後光に照らされているかのように見える。
二人を乗せたボードは、そのまま水飛沫を上げて海面を叩きつけるように着水する。沈んだ船体が浮力によって持ち上がるのと同時に、来た道を振り返るように旋回し向きを変える。
「・・・悪いが、もう少しだけ付き合ってもらうぞ」
「ど・・・どうした?何か不都合な・・・」
スユーフがボードに掴まりながら、ペンキを被ったかのような顔を手で拭い振り払う。神妙な声で語りかけるハオランを尻目に、血が目に入らぬよう気遣いながら彼が見据える景色を、その細めで捉える。
すると、目が覚めたかのように見開いた彼の目は、その瞳に不覚にも幻想的で美しいとさえ思えてしまうほど、見たこともない超常現象を写し込む。
スユーフの部隊の後押しもあり、漸く蟒蛇の身体に開通させた風穴が、徐々に閉じていっていたのだ。彼等の通って来た穴に人魂のように淡く光球体がいくつも集まり、欠けたピースを埋めていくように蟒蛇の身体に開いた穴を修復していた。
「こッ・・・!これは一体ッ・・・」
「完全に治る前に、出来る限りの手を尽くしたい・・・。だが、私一人では不可能だ。力を貸してくれ」
返事を待たずして、ボードのエンジンをフルスロットルにして急発進するハオラン。穴の塞がる速度は、その大きさに見合わぬ速さで治っていき、どんどん小さくなっていく。のんびりしていたのでは、接近する前に道は閉ざされてしまう。
だが、彼も元来た道を戻るつもりはないらしい。勢いよく海面を飛び跳ねて進むボードは、上空に浮かび上がる巨大なワーム状の架け橋の手前でUターンするように急ブレーキをかけ、まるで弾丸のように勢いをつけた水飛沫を巻き上げて速度を落とす。
「ボードを任せる!」
「まッ・・・待て!操縦できないぞ!?」
「ハンドルを握っていてくれればそれで構わない。そのままアクセルもかけず、ただ真っ直ぐ進んでくれ!」
ハオランはスユーフを一人ボードに残したまま飛び上がり、蟒蛇の身体に開いた穴の高さにまで到達する。彼はその足に履いているエンチャント装備、韋駄天の力で穴に向かって一気に距離を詰める。
彼は何かを確かめるように、穴の中を飛び交う光の玉を眺め、その修復の様子を観察する。赤子の声とも女性の声ともよく似た、高音の環境音を耳にし、ハオランはここまで来る前のある体験を思い出し、それと酷似していたことを思い出す。
「これは・・・。いや、気のせいか・・・。やはり“あの時“とは少し違う・・・」
彼の言う“あの時“とは、ロロネーによって体内に無数の魂を入れられた時の体験のことだった。その時も同じように、真っ暗な空間で知らない誰かの声が無数に飛び交っていた。
その時は何重にも折り重なって聞こえてくる様々な感情を剥き出しにした声に、精神を汚染されそうになっていた彼は、自らの殻に閉じこもり自我を保っていた。
いつ終わるかも分からぬ永遠にも感じられた地獄のような時を過ごした彼は、外の声も届かぬ深淵へと落ちていったが、奇しくもそんな暗闇から救い出すにはもってこいの能力を持っていたチン・シーと、新たな力を身につけたシンによって救われた。
蟒蛇の身体に開いた風穴の内部の光景が、彼の中でその時の光景と重なっていた。もしかしたら、蟒蛇の超回復の能力に何か通ずるものがあるのではないかと踏んだハオランだったが、どうやら彼の想像していたものとは違っていたようだった。
修復を行なっているのが人の魂や、何らかの生物の霊魂であるのなら、チン・シー海賊団の到着を待てば解決出来たのだろう。しかし、それが分かったことで彼の中にあった疑念は取り除かれ、心置きなく手を下すことが出来るようになる。
「そうか・・・誰かの魂を媒体にしている訳ではない、ということか。それなら何も気にする必要はないな・・」
彼は空中で身を翻し、素早い突きのような足技で無数の衝撃波を風穴に向けて放つ。弾丸の如く突き刺さるハオランの衝撃波を受け、まだ修復しきれていない傷口からドロっとした赤黒いタールの飛沫を上げる。
ひとしきり打ち込んだところで足を止めると、今度は風穴の縁にまで急接近したハオラン。これで最後と言わんばかりに、全身全霊を込めた寸勁を体内に打ち込む。
衝撃が破裂する前に、海面でボードを走らせるスユーフの元へと戻っていく。同時に、彼が風穴に向けて打ち放った寸頸の衝撃hがお、大きな爆発を起こす。
「な・・・何をしていたんだ?」
「奴の超回復の原理を調べていた」
「調べる?アンタに分かるのか?」
「中を通過している時に見た光に心当たりがあったんだが・・・、どうやら私の見当違いだったようだ。だからせめて、治るよりも早い破壊を試みたが・・・」
そう言ってハオランは蟒蛇の身体に開いた風穴の方を見上げる。それにつられスユーフも彼の見上げる先へ視線を移す。上空から垂れる蟒蛇の血が海水を侵食し、禍々しい光景が広がる中で、どれだけ手を尽くしてもみるみる治る風穴を眺めていると、ここが地獄ではないのかと錯覚してしまいそうになる。
二人を乗せたボードは、そのまま水飛沫を上げて海面を叩きつけるように着水する。沈んだ船体が浮力によって持ち上がるのと同時に、来た道を振り返るように旋回し向きを変える。
「・・・悪いが、もう少しだけ付き合ってもらうぞ」
「ど・・・どうした?何か不都合な・・・」
スユーフがボードに掴まりながら、ペンキを被ったかのような顔を手で拭い振り払う。神妙な声で語りかけるハオランを尻目に、血が目に入らぬよう気遣いながら彼が見据える景色を、その細めで捉える。
すると、目が覚めたかのように見開いた彼の目は、その瞳に不覚にも幻想的で美しいとさえ思えてしまうほど、見たこともない超常現象を写し込む。
スユーフの部隊の後押しもあり、漸く蟒蛇の身体に開通させた風穴が、徐々に閉じていっていたのだ。彼等の通って来た穴に人魂のように淡く光球体がいくつも集まり、欠けたピースを埋めていくように蟒蛇の身体に開いた穴を修復していた。
「こッ・・・!これは一体ッ・・・」
「完全に治る前に、出来る限りの手を尽くしたい・・・。だが、私一人では不可能だ。力を貸してくれ」
返事を待たずして、ボードのエンジンをフルスロットルにして急発進するハオラン。穴の塞がる速度は、その大きさに見合わぬ速さで治っていき、どんどん小さくなっていく。のんびりしていたのでは、接近する前に道は閉ざされてしまう。
だが、彼も元来た道を戻るつもりはないらしい。勢いよく海面を飛び跳ねて進むボードは、上空に浮かび上がる巨大なワーム状の架け橋の手前でUターンするように急ブレーキをかけ、まるで弾丸のように勢いをつけた水飛沫を巻き上げて速度を落とす。
「ボードを任せる!」
「まッ・・・待て!操縦できないぞ!?」
「ハンドルを握っていてくれればそれで構わない。そのままアクセルもかけず、ただ真っ直ぐ進んでくれ!」
ハオランはスユーフを一人ボードに残したまま飛び上がり、蟒蛇の身体に開いた穴の高さにまで到達する。彼はその足に履いているエンチャント装備、韋駄天の力で穴に向かって一気に距離を詰める。
彼は何かを確かめるように、穴の中を飛び交う光の玉を眺め、その修復の様子を観察する。赤子の声とも女性の声ともよく似た、高音の環境音を耳にし、ハオランはここまで来る前のある体験を思い出し、それと酷似していたことを思い出す。
「これは・・・。いや、気のせいか・・・。やはり“あの時“とは少し違う・・・」
彼の言う“あの時“とは、ロロネーによって体内に無数の魂を入れられた時の体験のことだった。その時も同じように、真っ暗な空間で知らない誰かの声が無数に飛び交っていた。
その時は何重にも折り重なって聞こえてくる様々な感情を剥き出しにした声に、精神を汚染されそうになっていた彼は、自らの殻に閉じこもり自我を保っていた。
いつ終わるかも分からぬ永遠にも感じられた地獄のような時を過ごした彼は、外の声も届かぬ深淵へと落ちていったが、奇しくもそんな暗闇から救い出すにはもってこいの能力を持っていたチン・シーと、新たな力を身につけたシンによって救われた。
蟒蛇の身体に開いた風穴の内部の光景が、彼の中でその時の光景と重なっていた。もしかしたら、蟒蛇の超回復の能力に何か通ずるものがあるのではないかと踏んだハオランだったが、どうやら彼の想像していたものとは違っていたようだった。
修復を行なっているのが人の魂や、何らかの生物の霊魂であるのなら、チン・シー海賊団の到着を待てば解決出来たのだろう。しかし、それが分かったことで彼の中にあった疑念は取り除かれ、心置きなく手を下すことが出来るようになる。
「そうか・・・誰かの魂を媒体にしている訳ではない、ということか。それなら何も気にする必要はないな・・」
彼は空中で身を翻し、素早い突きのような足技で無数の衝撃波を風穴に向けて放つ。弾丸の如く突き刺さるハオランの衝撃波を受け、まだ修復しきれていない傷口からドロっとした赤黒いタールの飛沫を上げる。
ひとしきり打ち込んだところで足を止めると、今度は風穴の縁にまで急接近したハオラン。これで最後と言わんばかりに、全身全霊を込めた寸勁を体内に打ち込む。
衝撃が破裂する前に、海面でボードを走らせるスユーフの元へと戻っていく。同時に、彼が風穴に向けて打ち放った寸頸の衝撃hがお、大きな爆発を起こす。
「な・・・何をしていたんだ?」
「奴の超回復の原理を調べていた」
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そう言ってハオランは蟒蛇の身体に開いた風穴の方を見上げる。それにつられスユーフも彼の見上げる先へ視線を移す。上空から垂れる蟒蛇の血が海水を侵食し、禍々しい光景が広がる中で、どれだけ手を尽くしてもみるみる治る風穴を眺めていると、ここが地獄ではないのかと錯覚してしまいそうになる。
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