World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
485 / 1,646

偽りの勝利

しおりを挟む
 永き時の中で風化し、老朽化したビルを倒壊させたかのようにゆっくりと崩れ落ちる蟒蛇の頭部。海面を叩きつけるように大きな水飛沫を上げながら、周囲の海域に大きな波を立てる。

 キングの思っていた以上に、エイヴリーのクラフトしたレールガンが効いていたのだろうか。見た目以上に、蟒蛇の身体にダメージを蓄積させ、その意識を刈り取る程の一撃だったのか。

 「ッ・・・!?倒した・・・?それとも意識を飛ばしただけか・・・?」

 困惑するキングとは反対に、圧倒的な大きさと繊細な魔力で大いに彼等を苦しめた巨大なレイドボスを倒せたことに、船員達は歓喜の声をあげ、迫る波に備え各々の仕事へと取り掛かっている。

 しかし、どうにも腑に落ちないといった様子のキング。そしてそれは、他の海賊船内でも同じだった。エイヴリーやロバーツ、直接間近で戦っていたシャーロットや、蟒蛇に押し負け撤退していたヴェインもまた、これで終わりという呆気ない結果を、まだ飲み込めずにいた。

 「あのでっけぇ首を、根本から吹き飛ばしてやるつもりだったんだがな・・・。エネルギーの充填もクラフトも申し分ない出来だ。あれくらいのもんなら、風穴くれぇは空けられるだけの威力は、十分過ぎる程あった・・・」

 「しかし結果は見ての通り・・・。ある程度体表は焼け焦げてはいるが、突き破るまでには至っていない。レールガンの威力を相殺させるだけの防御壁を、衝突の瞬間に展開したということだろう」

 完璧な状態と言って良いほど、万全の状態で放ったレールガンによる一撃を防がれ、自信を挫かれたエイヴリーの元へ、一部始終を見ていた幹部のアルマンが近づき、彼なりの見解を述べる。

 「魔物風情がここまで器用なことが出来るとは・・・。少々興味深いが、野生の本能的なものなのかも知れないし、中には知性を持つ魔物も少なくない。あそこまで大きく育ったのだから、知性を持っていたとしても不思議ではあないが・・・」

 アルマンの言う、知性を持った魔物にも色々な種類がいる。生まれつき人語を話す魔物や、殺害した人間の所有物を漁り、食料や薬物を使うことで経験という形で知識をつけていくモノなど、経緯は様々だ。

 そういった知識を得た魔物達は、用途を分かった上で魔法を攻撃の為だけではなく、防御に使ったり相手を騙すために使用したりと、まるで人間と同じように様々な用途を見出し、独自の武器へとスキルを成長・変化させていくことがある。

 そしてそれは、長寿の魔物であればあるほど知識を豊富に溜め込み、人間を凌駕する魔力で想像を絶するような魔法や技を習得するケースが多い。

 手に追えなくなった魔物は、レイド対象の魔物と定められ、人間達や様々な種族の者達の有志を集い、討伐隊が結成されたり、このレースのようにお祭りごとの一部に組み込まれることもある。

 「そんな奴が、こうもあっさりとやられるかぁ?」

 「それは・・・その個体によるのでは?知性の有無が体力に影響するとは思えない。いや・・・スキルの成長や魔力の使い方から、ステータスに影響する能力を身につけることもあるのか?」

 再び一人で考え初めてしまったアルマン。魔法やスキルの使い分けや、新たな技への昇格が可能とあらば、自身のステータスを向上させる、所謂バフ効果を持つスキルを使えるのも不思議ではない。

 蟒蛇の頭部が沈み暫く経つと、他の場所に見られた蟒蛇の長い身体の数々も、徐々に動きを止めていき海に引き摺り込まれるように沈んでいく。各所で戦っていた海賊達も、蟒蛇が姿を消したことでレイド戦が終了したものと思っているようだった。

 「やはり先頭グループのエイヴリーやキングに、大分削られていたようだな」

 「これじゃぁ挽回は無理か・・・。仕方ねぇ、参加出来ただけでも儲けものか・・・」

 蟒蛇の身体を攻撃していた海賊達が、それぞれ船を動かし始め前方にいるキングやロバーツ等の方へと前進していく。キング暗殺計画を目論んでいたロバーツ等の船は呆気に取られ、歩みを止めてしまっていた。

 「お・・・終わったのか?」

 「どうするんだ、ロバーツ。これでは・・・」

 「分かってる。よもやここまでエイヴリーの兵器が強力だったとは・・・。今、行くしかないのか?まだデイヴィスも来ていないのに・・・」

 思った以上にエイヴリー海賊団の兵器が強力で、想定していたよりも大分速く戦闘が終了してしまったことで、計画が崩れてしまったロバーツ。そもそもこれではキングの隙を突くというのも不可能であり、然程魔力の消費も稼げていない。

 デイヴィスが到着するまでに、キングの船団とやり合い、彼等を疲弊させるしかないのか。それで政府側についている海賊達が、果たして動いてくれるだろうか。これでは単なる海賊同士の抗争に過ぎない。

 そうなれば戦力の差は明らか。対人戦において、キング等の攻撃を凌ぎ切ることなどロバーツ達には不可能だ。一度攻撃の意思を見せて仕舞えば、海の藻屑に変わるのは、あっという間のことだろう。

 ロバーツやフィリップス、アーチャーやモーティマーの船団が動きを止める中、キングのシー・ギャングもまた状況を整理しているのか動く気配がない。

 そして、キングやエイヴリーの予想通り、これで終わりなどではなかった。寧ろここまでは前座に過ぎない。蟒蛇との本当の戦いはこれからだったのだから・・・。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...