483 / 1,646
裏舞台での一幕
しおりを挟む
しかし、あれだけ大きな光を放っていてそれに気づかぬ程、蟒蛇も間抜けではなかった。砲身に光が収束し始めた時点で、海中に潜ろうと首をかがめていた。
「おいおい・・・みんながどんな思いでここまで繋いだと思ってんだ。逃がしゃしねぇよッ!」
海中へ潜り、退避しようとする蟒蛇の側に一隻の船がやって来る。その男は、海面に聳えるその首を見上げ、鍵フックのように先の尖ったアンカーを撃ち込むと、それに繋がるワイヤーを巻き取る装置で一気に上空へと飛び上がる。
蟒蛇が海中に頭を潜り込ませたのとは反対の方に飛び越えていくと、振り向き様に蟒蛇の後頭部付近に再び別のアンカーを撃ち込み、その巨大なアーチ状になった蟒蛇の首に降り立つと、精一杯の力でワイヤーを巻き上げた。
だが、人間一人の力では蟒蛇の潜ろうとする力を止めるなど、できる筈がない。そもそもの問題として、圧倒的な質量差がある為、例え複数人の人間が束になったところで、アンカーなど撃ち込んでしまえば、それこそ海に引き摺り込まれ暗い海底へと連れて行かれてしまう。
そして何れ水圧に耐え切れなくなり、プレス機で押し潰されたかのように姿を保てなくなることだろう。しかし、その男は誰に気づかれる訳でもなく、人知れず無謀なことを実現させようと一生懸命になっている。
すると驚くことに、蟒蛇は後ろ髪を引かれるように海中から顔を上げ始めたのだ。その巨体からすれば何ともか細い糸のようなワイヤーが、徐々に蟒蛇の頭部を天へと向けさせていく。
「な・・・なるほど、これがキングの能力ってやつか。一時的にとはいえ、他人に自分の能力を付与できるなんてな・・・。全く、とんでもねぇ能力してやがるッ!」
アンカーに繋がれたワイヤーを引く男は、その身にキングの能力を付与され、不可能とされる人智を超えた力で、蟒蛇逃さない。その男は仲間達の努力を知っている。
ここまで繋いできたのは、全てはエイヴリーの作り出す兵器をお見舞いする為。命懸けで戦った仲間達が海に消えていく中、その射撃の準備が整うのを待ち、死と隣り合わせの戦闘を繰り広げ時間を稼いだ。
それらを無駄にしない為に。助けられた恩をここで返す為に。男の引く力は、巨大蟒蛇の潜ろうとする力を凌駕し、決して兵器の射線状から逃さない。
そして、蟒蛇の首が真っ直ぐ天に向けて聳え立ったところで、エイヴリーの兵器が強烈な光を放ち始める。
「これで・・・何とか致命傷は与えられる筈・・・。無駄死ににならなくて何よりだ・・・」
男は一人蟒蛇の上で戦った。周囲から見れば、蟒蛇の不自然な行動くらいにしか認知されなかったことだろう。だが、エイヴリーの作り出した兵器の攻撃を当てられるのは、この男の働きがあってこそのものだった。
キングは彼を利用すると同時に、死に場所を与えてくれたのだ。男に後悔も未練もない。このまま兵器の射撃に巻き込まれれば、苦しむことなく一瞬で消し飛ぶだけだ。
と、男が自分の役割を終え、満足そうな微笑みの中目を閉じていたところへ、一瞬にして飛び去る何かが男の身体を掴み上げ、蟒蛇の元から飛び去って行った。
「ッ・・・!?」
男が何事かと目を見開くと、後方へ吸い込まれていくような景色と、海面スレスレを飛び去る強烈な風が、男の身体を包み込んでいた。
「死なせるかよッ・・・!生きていたんだな、“マクシム“・・・!」
海中に逃げようとする蟒蛇を引きずり出していたのは、消息不明となっていたエイヴリー海賊団の幹部マクシムだった。そして彼こそが、キングによって救出された“拾いもの“であり、不測の事態に備えキングによって送り込まれた、重要なファクターだったのだ。
「ロイクッ!?どうしてここにッ!何の為に俺があそこでッ・・・!」
マクシムは紛れもなく、エイヴリー海賊団の仲間達の為に尽力した。しかし目の前に居るのは、そんな命掛けで最大級の一撃を入れる為に尽くした仲間の一人。
自身の命一つで勝利へと前進させられるのであれば本望だったが、その勝手な行動に大切な仲間を巻き込む訳にはいかない。
だがロイクもまた、生きているかも知れない仲間を見殺しにするような男ではなかった。
ロイクや彼の竜騎士隊が撤退する際、海上を行くシャーロットを助けていたロイク。自身のドラゴンから彼女に手を伸ばし後ろへ乗せると、兵器の射線上から撤退する。
その途中でシャーロットが思わぬことを言い出したのだ。
「さっき、海上で妙な船を見たぞ。見るに耐えんボロ船に一人の男が乗っていた・・・。あのまま朽ちるつもりだろうか・・・?」
何故、突然彼女がそんな事を伝えて来たのかは分からない。実際、話を聞いた時ロイク自身も、誰かも分からぬ者の為に戻ることは出来ないと思っていた。
しかし、その後に彼女が口にした男の特徴を聞いて、ロイクは動き出さずにはいられなかった。それは居なくなってしまったとばかりに思っていた仲間の一人、マクシムの特徴と一致していたからだった。
「何故それを俺に・・・?その男はどんな奴だった?」
「何やら細いワイヤーのような物と、それを射出する装置を身に付けていたな・・・」
「おいおい・・・みんながどんな思いでここまで繋いだと思ってんだ。逃がしゃしねぇよッ!」
海中へ潜り、退避しようとする蟒蛇の側に一隻の船がやって来る。その男は、海面に聳えるその首を見上げ、鍵フックのように先の尖ったアンカーを撃ち込むと、それに繋がるワイヤーを巻き取る装置で一気に上空へと飛び上がる。
蟒蛇が海中に頭を潜り込ませたのとは反対の方に飛び越えていくと、振り向き様に蟒蛇の後頭部付近に再び別のアンカーを撃ち込み、その巨大なアーチ状になった蟒蛇の首に降り立つと、精一杯の力でワイヤーを巻き上げた。
だが、人間一人の力では蟒蛇の潜ろうとする力を止めるなど、できる筈がない。そもそもの問題として、圧倒的な質量差がある為、例え複数人の人間が束になったところで、アンカーなど撃ち込んでしまえば、それこそ海に引き摺り込まれ暗い海底へと連れて行かれてしまう。
そして何れ水圧に耐え切れなくなり、プレス機で押し潰されたかのように姿を保てなくなることだろう。しかし、その男は誰に気づかれる訳でもなく、人知れず無謀なことを実現させようと一生懸命になっている。
すると驚くことに、蟒蛇は後ろ髪を引かれるように海中から顔を上げ始めたのだ。その巨体からすれば何ともか細い糸のようなワイヤーが、徐々に蟒蛇の頭部を天へと向けさせていく。
「な・・・なるほど、これがキングの能力ってやつか。一時的にとはいえ、他人に自分の能力を付与できるなんてな・・・。全く、とんでもねぇ能力してやがるッ!」
アンカーに繋がれたワイヤーを引く男は、その身にキングの能力を付与され、不可能とされる人智を超えた力で、蟒蛇逃さない。その男は仲間達の努力を知っている。
ここまで繋いできたのは、全てはエイヴリーの作り出す兵器をお見舞いする為。命懸けで戦った仲間達が海に消えていく中、その射撃の準備が整うのを待ち、死と隣り合わせの戦闘を繰り広げ時間を稼いだ。
それらを無駄にしない為に。助けられた恩をここで返す為に。男の引く力は、巨大蟒蛇の潜ろうとする力を凌駕し、決して兵器の射線状から逃さない。
そして、蟒蛇の首が真っ直ぐ天に向けて聳え立ったところで、エイヴリーの兵器が強烈な光を放ち始める。
「これで・・・何とか致命傷は与えられる筈・・・。無駄死ににならなくて何よりだ・・・」
男は一人蟒蛇の上で戦った。周囲から見れば、蟒蛇の不自然な行動くらいにしか認知されなかったことだろう。だが、エイヴリーの作り出した兵器の攻撃を当てられるのは、この男の働きがあってこそのものだった。
キングは彼を利用すると同時に、死に場所を与えてくれたのだ。男に後悔も未練もない。このまま兵器の射撃に巻き込まれれば、苦しむことなく一瞬で消し飛ぶだけだ。
と、男が自分の役割を終え、満足そうな微笑みの中目を閉じていたところへ、一瞬にして飛び去る何かが男の身体を掴み上げ、蟒蛇の元から飛び去って行った。
「ッ・・・!?」
男が何事かと目を見開くと、後方へ吸い込まれていくような景色と、海面スレスレを飛び去る強烈な風が、男の身体を包み込んでいた。
「死なせるかよッ・・・!生きていたんだな、“マクシム“・・・!」
海中に逃げようとする蟒蛇を引きずり出していたのは、消息不明となっていたエイヴリー海賊団の幹部マクシムだった。そして彼こそが、キングによって救出された“拾いもの“であり、不測の事態に備えキングによって送り込まれた、重要なファクターだったのだ。
「ロイクッ!?どうしてここにッ!何の為に俺があそこでッ・・・!」
マクシムは紛れもなく、エイヴリー海賊団の仲間達の為に尽力した。しかし目の前に居るのは、そんな命掛けで最大級の一撃を入れる為に尽くした仲間の一人。
自身の命一つで勝利へと前進させられるのであれば本望だったが、その勝手な行動に大切な仲間を巻き込む訳にはいかない。
だがロイクもまた、生きているかも知れない仲間を見殺しにするような男ではなかった。
ロイクや彼の竜騎士隊が撤退する際、海上を行くシャーロットを助けていたロイク。自身のドラゴンから彼女に手を伸ばし後ろへ乗せると、兵器の射線上から撤退する。
その途中でシャーロットが思わぬことを言い出したのだ。
「さっき、海上で妙な船を見たぞ。見るに耐えんボロ船に一人の男が乗っていた・・・。あのまま朽ちるつもりだろうか・・・?」
何故、突然彼女がそんな事を伝えて来たのかは分からない。実際、話を聞いた時ロイク自身も、誰かも分からぬ者の為に戻ることは出来ないと思っていた。
しかし、その後に彼女が口にした男の特徴を聞いて、ロイクは動き出さずにはいられなかった。それは居なくなってしまったとばかりに思っていた仲間の一人、マクシムの特徴と一致していたからだった。
「何故それを俺に・・・?その男はどんな奴だった?」
「何やら細いワイヤーのような物と、それを射出する装置を身に付けていたな・・・」
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる