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神代 コウ

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聖拳、靉靆を穿つ

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 その男は力任せにボードを走らせ、荒波を越えてくる。そして一番近くに見えた蟒蛇の身体へ向かって曲がって行き、鱗を突き破らんとする勢いで拳から衝撃波を放つ。

 みるみる内に海へと溢れ落ちて行く鱗。キング達の覗く先に現れたのは。何を隠そう、その人物こそチン・シー海賊団の最大戦力である“ハオラン“だったのだ。


 シン達と別れた後、彼はツバキから譲り受けたそのボードに乗り、ロロネーとの戦いで遅れた分を取り戻す為、彼女に遣わされたチン・シー海賊団の代表だったのだ。大事な重役を背負い、ハオランは様子を見ると言うことすらせず、ただ一心にレイドボスであろう巨大蟒蛇の身体へ、得意の体術を打ち込んでいく。

 外装の鱗は次々に剥がれ落ち、槍のように鋭いハオランの拳が突き刺さり、刃のように鋭利な足技による衝撃波は、その分厚い体表を切り刻む。

 「ありゃぁチン・シーんとこのハオランじゃねぇか!・・・と、言うことはあのお嬢さんも漸く追いついて来たってことかぁ!?」

 何処の海賊の到着よりも信頼できるハオランの合流に、攻勢に出るは今と言わんばかりにやる気を取り戻すキング。だが、やって来たのはハオランを乗せたジェットボードが一つだけで、チン・シー海賊団の特徴とも言える紅蓮の炎のように真っ赤な船体をした船は一隻たりとも見当たらない。

 「到着したのはハオランだけのようだぜ?ボス。奴が来た方角には、海賊船なんて一隻も見えねぇぞ?」

 「ああん?何だぁトラブルでもあったんか?」

 ミアやツクヨ、そしてチン・シー海賊団がロロネーの作り出す霧の海域やゴーストシップと激闘を繰り広げている間、キングの船団は遥か前方で財宝やアイテムを物色し、レイド戦への準備を整えていた。

 本来であれば、競争相手であるチン・シーがいないと言うことは、キングやエイヴリーにとっても絶好のチャンスなのだ。しかし、蓋を開けてみればそこには規格外の怪物が待っており、過去最大級のレイド戦を強いられることとなってしまっていた。

 「スユーフ、お前が行ってハオランの奴と話をつけてこい。現状とこれまでの経緯は話してくれて構わねぇからよ」

「お・・・俺ですか?・・・ご期待に添えられるかどうか・・・」

 「なぁ~にをかしこまってんのぉ!お前にはハオランのサポートをしてもらいてぇのよ。交流は大事よねぇ~」

 キングの指示に従い準備を整えると、スユーフはハオランの元へと向かう。その後キングは、幹部の者達にそれぞれ指示を出し、船を向かわせた。彼は仲間を他の海賊達の元へ遣わせることで、協力を促す意味と共に、それぞれの戦場の状況把握や情報収集を兼ねていた。

 彼の用心深さが、ここに来てデイヴィス達の首を苦しめる。キングの部下が戦場に散らばることで、キング暗殺計画の情報が漏洩してしまう可能性が生まれるからだ。そうなれば作戦を決行することなど不可能になる。

 デイヴィスの同胞達にとっては、そのままキングに協力することで何か恩恵が得られるかもしれない。政府に飼われる海賊達も、また別の機会を狙えばいいだけ。

 しかし、デイヴィスにとっては今しかないのだ。漸く手繰り寄せた妹の情報、そして人身売買にキングの組織が関与していると言うこと。何よりもここまで仲間や協力者を集められるのは、恐らくこれが最後となるだろう。

 一度作戦が失敗に終われば、彼の同胞やその部下達の心にキングへ歯向かう意思が失われてしまうことだろう。誰しも、そう何度も命を危険に晒すようなことをしたいとは思わない。削がれてしまった闘志は、それ相応の犠牲がなければ蘇ることはない。

 それこそデイヴィスのように、大事なものを失わなければ、人は修羅にはなれないのだから。

 ハオランの活躍により、防戦一方だった海賊達が勢いづき、彼に続かんとあちらこちらに見える蟒蛇のその巨体に向けて、各々攻撃を始める。常に動き回るその巨体は、最後尾の尻尾が来るまでは一先ず安心だった。

 身体の畝りにより生み出される海流にだけ気をつければ、然程恐ろしい相手ではない。頭部は氷の能力を有するシャーロットや、首の後方へ回り込んだエイヴリー海賊団がいる。彼らが全滅でもしない限り、動体を狙う他の海賊達は安全に戦える。

 蟒蛇の体表は分厚く、なかなか大きな傷に繋がらなくとも、着実に鱗を剥がし次の者達へのバトンを繋げていく。尻尾によって打ち上げられる海賊船もあったが、それぞれのポイントに集まる海賊同士で協力し合い、標的を打ち破らんと連携する。

 シャーロットが蟒蛇の注意を引き付けていたお陰で、無事に蟒蛇の反対側へと降り立つことが出来たエイヴリー海賊団。無防備となるその蟒蛇の首に、彼らの刃が突き立てられる。
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