World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
457 / 1,646

残された者の責務

しおりを挟む
 キングの船団が次々に蟒蛇の第二波を乗り越えて行く。次第に第二波は、蟒蛇により吹き飛ばされていたエイヴリー海賊団の元へもやって来る。キングの船団とは違い、仲間の救援の為、比較的一箇所に集まると言う形になっているエイヴリー海賊団。

 上空ではロイクによる竜騎士隊の援護と、リーズがやや前方に出て、飛んで来る氷塊の弾数を減らしていると言う状況。そしてエイヴリーの居る本隊は、彼のクラフト能力で世界でも有数の硬さで有名な鉱物で出来た船体に組み変えられ、氷塊の衝突から守っていた。

 「船長ッ!また氷塊が飛んで来ます!」

 「何だってんだぁ?いつまでこんなことを続けるつもりだ!?化物さんよぉ」

 いくら硬い素材で船を固めようと、ダメージは無効に出来ている訳ではない。船体の劣化や損傷を抑える為、ある程度の隙を伺い新たに組み替える作業が必要になって来る。

 だが、この大船団を何度もエイヴリー一人のスキルで組み替え続けるのは、長く持つものではなく何れ魔力切れを起こし、それこそ最大戦力である船長が、今後に控える大事な時に戦闘不能になり兼ねない。

 氷塊を撃ち落としながら、エイヴリーの魔力残量に気を配っていたロイクは、今よりも更に高度を上げ、氷塊の攻撃範囲から離れ、戦線を一時的に離れる。彼は身を危険に晒しながらも、雷鳴走る暗雲の中を突き進み、前方で戦うキングの船団の様子を見に行った。

 少しでも有益な情報を持ち帰る為、ロイクはキング海賊団の船団の中でも、最後尾で氷塊を迎撃するダラーヒムの部隊の戦い方を目にする。しかし、情報を得るにはダラーヒムの戦い方と言うものはあまりにもシンプルだった。

 エイヴリー海賊団と同じく、氷塊を受け止める戦闘スタイルのダラーヒム隊では、第二波に紛れる罠に気付くことは出来ない。未だ蟒蛇の第二波に紛れる光弾の存在を知らないエイヴリー海賊団にとって、貴重な情報となる。

 その情報を知っているか否かで、被害の度合いは大きく変わって来る。自分達と殆ど変わらぬ迎撃手段をとるダラーヒム隊の上空を飛び去り、ロイクは更に前へと進む。だが不運なことに、その先にいるスユーフの部隊も、ダラーヒムの部隊と同じく物理攻撃による迎撃をしている。

 天候が悪く、思うように進めない中、上空から見える光景もある程度距離を縮めなければ確認することも出来ない。ここまで来て手ぶらで変えることは許されない。こうしている間にも、仲間達は疲弊し怪我を負っている。

 「クソッ・・・!何も掴めないままじゃぁ、戻れねぇよ・・・。マクシム・・・お前ならもっといい方法を思い付いていたのかも知れねぇな。だからその分まで、俺が俺に出来ることするんだッ・・・!」

 ドラゴンの首を優しく撫で、もう少しだけ頑張ってくれと声を掛ける。ドラゴンもそれに応えるように翼を力強く羽ばたかせる。そして雲の向こうで、大きな水飛沫をあえるような音が聞こえて来た。

 今までとは明らかに違う戦場。そこにはきっと、別の迎撃手段で迎える方法があると信じ、雲の中から高度を下げ、音のする方へ向かうロイク。彼の目に映った光景は、海面より幾つもの水柱が上空へと吹き上げ、氷塊から船団を守るトゥーマーンの部隊が第二波を受け止めていた。

 そしてロイクはその光景である異変に気がつくことになる。それは一部の氷塊らしき物が水柱に命中すると、何故か海面が爆発するような反応が見られたのだ。

 「・・・?あれは・・・何が起きているんだ?」

 ただ氷塊を弾くだけなら、そんな反応は起きない。様子を見る為、更に戦地へと近づくロイク。すると、彼が氷塊だと思っていた物は氷塊ではなく、魔力が大砲のように象られ飛んで来ている光弾であることに気がついた。

 光弾は、トゥーマーンの放つ魔法に反応し、水柱の発生源である海面目がけて形を変え、貫いていたのだった。ロイクの観察はジャウカーンに引けを取らなかった。直ぐに光弾が何に反応しているかを突き止めた彼は、その情報をエイヴリーや仲間の元へ届ける為、無線の届く範囲にまで戻ろうとした。

 だがそこで、ロイクはあることについて思考を巡らせた。エイヴリーの能力であれば、ダラーヒムと同じく、魔力で物の形を変えた後の物なので、直接光弾に魔力が触れる訳ではない。だが、上空でロイクと同じく氷塊の迎撃に当たっていたリーズは違う。

 彼女の迎撃方法は、眷族達を使い氷塊自体を小さく変化させるスキルを用いている。つまり、魔力を直接氷塊に当て大きさを変えているのだ。このまま何も知らず、蟒蛇の第二波を受ければ、彼女は無事では済まないだろう。

 「マズイッ!このままではリーズがッ・・・!」

 ロイクは素早い直進飛行で移動するドラゴンを召喚し乗り換えると、ここまで送り届けてくれたドラゴンに別れを告げ、自分の身体を新しいドラゴンに括り付ける。前線まで辿り着くよりも、更に危険を犯さなければ氷塊の速度は追い越せない。

 蟒蛇のブレスを止めた時、本隊へ合流するのが自分ではなくマクシムであったら。あの時、出来ることを行うことが出来なかったロイクは自分を責め、例え海に落ち絶命しようとも、その前に必ず役目を果たすのだと強い決意を胸に、再び雷光が駆け巡る暗雲の中を戻って行った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転生貴族の異世界無双生活

guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。 彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。 その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか! ハーレム弱めです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!

べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...