452 / 1,646
キングの危惧
しおりを挟む
人の力だけで移動するには骨が折れる距離を飛んで来た筈のキングだったが、その着地の瞬間はまるで紙が空から降って来たかのように、静かで振動もなく降り立つ。キングは途中で見つけた“拾いモノ“を、ドサッと床に下ろす。彼が肩に担いで持って来たのは“人“だった。
「船長、どうでしたか?」
「ん~・・・。口から吐こうとしたブレスの時のように、能力向上効果を得ていたらいくら俺ちゃんでも、ちと厳しいかもしれねぇなぁ・・・」
蟒蛇へ直接攻撃を仕掛けに行ったキングが、その手応えを語る。凄まじく強烈な攻撃を叩き込んでいたように思えた。確かにダメージは入っていただろう。だがそれは、無防備な状態であったからこそのモノだった。
キングは、蟒蛇本来の実力の片鱗を垣間見た。それは、マクシムやロイクが決死の思いで阻止した高出力のブレスの時に見せた光。大口に集っていたエネルギーは、攻撃の為の前準備をしており、自身の能力を向上させる、所謂バフ効果をその巨体に宿していた。
その間は、キングの能力も通り辛くなり、真面にダメージが与えられなかった。そして何より、直接蟒蛇に触れたキングだからこそ分かることがあった。蟒蛇が高出力のエネルギーで得ていたバフ効果は、偶然身に付けたものではなく、自分の意思で行っていた事だったのだ。
つまり、このレイドボスである巨大蟒蛇は、モンスターのように本能で戦っているのではなく、意思を持って戦っているのだ。そこに一体なんの問題があるのか。要するに蟒蛇は、まだ全力で戦ってなどいなかったのだ。
もしその気なら、初めからできたのではないだろうか。いや、出来ただろう。敢えてやってこなかったのは、手を抜いていたのか、それとも出来なかったのか。それは計り知れる事ではなかったが、蟒蛇の底知れぬ力を垣間見ることが出来ただけでも収穫だろう。
それを収穫と言って良いものかは分からないが。
「おぉ?ボス、戻ったんだな!?一人で抜け駆けなんて、連れねぇじゃねえの。・・・それで?今回は俺達だけでいけちゃいそうな相手だったんか?」
戻って来たキングへ話しかけて来たのは、船員達と氷塊を溶かしていたジャウカーン。実力を買われている証拠だろうか、ボスであるキングとも親しげに話しかけている。キングも特にそれについて触れることもないことから、彼らの関係は長くに渡ってこのような形であったのだろう。
「あぁ、ジャウカーンか。全くお前は、騒がしくなってこねぇとやる気にならねぇなぁ」
「それりゃぁボスも同じだろう?」
「否定はしねぇよ。けど、今回はちぃとばかし、やりたい放題でどうにかなる相手じゃなさそうなのよねぇ・・・」
キングの言葉に、それまで陽気であったジャウカーンの表情が変わる。絶対的な力を持っているキングが、普段の調子が出ていないほど言葉に余裕がない。キングの力を持ってしても、苦戦を強いられる相手なのだろう。
様子見に行ったキングが大人しくなって帰って来ただけで、その緊張感が伝わってくる。周囲にいた術師や船員達も、妙に様子の変わるジャウカーンに言葉を飲み込み、キングの話を待っていた。
「・・・キング、他の奴らにも収集を掛けた方が良いのでは・・・?」
表情だけでなく、言葉遣いまで変わるジャウカーン。事態を察したのかと気づいたキングも、いつもの飄々としてふざけた態度をとることもなく、状況と今後の戦略について考え、彼らに指示を出す。
「いやぁ・・・一箇所に集まるのは良くねぇ・・・。ジャウカーン、お前も自分の船団に戻れ。各々先ずは、自分達に降り掛かる厄を対処することに尽力しろ。生き残ることを考えるんだ。攻勢に出るのは、他の海賊らが出揃った後だ・・・」
キングの指示に、何も迷うことなく速やかに動き出す船員達。その中で一人、ジャウカーンだけが最後に残り、ある一つの疑問を彼に投げ掛ける。それは今、この戦場にある最大戦力を集結させることで、巨大蟒蛇を討伐出来ないかというものだった。
「キング・・・一つだけ良いか?」
「なぁに~?逃げたいなんてのは聞かないよ?」
「ハッ・・・まさか。・・・他の海賊共を待つということは、エイヴリーの奴らを利用したとしても倒すのは厳しい。そういうことなのか・・・?」
彼の質問に、キングは答えることなく暫くの沈黙が二人の中にあった。そして直ぐにキングは、余計なことを考えず、今出した指示に従えとジャウカーンに促す。それはキングの答えだった。
例えエイヴリー海賊団の戦力と協力したところで、余裕を持って今回のレイド戦を乗り切れるかと問われたら、二つ返事で頷くことは出来なかったのだ。事態を重く見たジャウカーンは、静かに何度か頷き直ぐに自分の船団へ戻る為の準備へと入った。
しかし、キングの船団が準備を整えるのを静かに待ってくれるほど、巨大蟒蛇は優しくはなかった。キングに海中へと押し込まれた蟒蛇は、暫しの沈黙を経て起き上がり、気絶から目覚めて海面へと再び頭部を持ち上げた。
その体表は、キングの危惧していた青白い光に包まれていた。
「船長、どうでしたか?」
「ん~・・・。口から吐こうとしたブレスの時のように、能力向上効果を得ていたらいくら俺ちゃんでも、ちと厳しいかもしれねぇなぁ・・・」
蟒蛇へ直接攻撃を仕掛けに行ったキングが、その手応えを語る。凄まじく強烈な攻撃を叩き込んでいたように思えた。確かにダメージは入っていただろう。だがそれは、無防備な状態であったからこそのモノだった。
キングは、蟒蛇本来の実力の片鱗を垣間見た。それは、マクシムやロイクが決死の思いで阻止した高出力のブレスの時に見せた光。大口に集っていたエネルギーは、攻撃の為の前準備をしており、自身の能力を向上させる、所謂バフ効果をその巨体に宿していた。
その間は、キングの能力も通り辛くなり、真面にダメージが与えられなかった。そして何より、直接蟒蛇に触れたキングだからこそ分かることがあった。蟒蛇が高出力のエネルギーで得ていたバフ効果は、偶然身に付けたものではなく、自分の意思で行っていた事だったのだ。
つまり、このレイドボスである巨大蟒蛇は、モンスターのように本能で戦っているのではなく、意思を持って戦っているのだ。そこに一体なんの問題があるのか。要するに蟒蛇は、まだ全力で戦ってなどいなかったのだ。
もしその気なら、初めからできたのではないだろうか。いや、出来ただろう。敢えてやってこなかったのは、手を抜いていたのか、それとも出来なかったのか。それは計り知れる事ではなかったが、蟒蛇の底知れぬ力を垣間見ることが出来ただけでも収穫だろう。
それを収穫と言って良いものかは分からないが。
「おぉ?ボス、戻ったんだな!?一人で抜け駆けなんて、連れねぇじゃねえの。・・・それで?今回は俺達だけでいけちゃいそうな相手だったんか?」
戻って来たキングへ話しかけて来たのは、船員達と氷塊を溶かしていたジャウカーン。実力を買われている証拠だろうか、ボスであるキングとも親しげに話しかけている。キングも特にそれについて触れることもないことから、彼らの関係は長くに渡ってこのような形であったのだろう。
「あぁ、ジャウカーンか。全くお前は、騒がしくなってこねぇとやる気にならねぇなぁ」
「それりゃぁボスも同じだろう?」
「否定はしねぇよ。けど、今回はちぃとばかし、やりたい放題でどうにかなる相手じゃなさそうなのよねぇ・・・」
キングの言葉に、それまで陽気であったジャウカーンの表情が変わる。絶対的な力を持っているキングが、普段の調子が出ていないほど言葉に余裕がない。キングの力を持ってしても、苦戦を強いられる相手なのだろう。
様子見に行ったキングが大人しくなって帰って来ただけで、その緊張感が伝わってくる。周囲にいた術師や船員達も、妙に様子の変わるジャウカーンに言葉を飲み込み、キングの話を待っていた。
「・・・キング、他の奴らにも収集を掛けた方が良いのでは・・・?」
表情だけでなく、言葉遣いまで変わるジャウカーン。事態を察したのかと気づいたキングも、いつもの飄々としてふざけた態度をとることもなく、状況と今後の戦略について考え、彼らに指示を出す。
「いやぁ・・・一箇所に集まるのは良くねぇ・・・。ジャウカーン、お前も自分の船団に戻れ。各々先ずは、自分達に降り掛かる厄を対処することに尽力しろ。生き残ることを考えるんだ。攻勢に出るのは、他の海賊らが出揃った後だ・・・」
キングの指示に、何も迷うことなく速やかに動き出す船員達。その中で一人、ジャウカーンだけが最後に残り、ある一つの疑問を彼に投げ掛ける。それは今、この戦場にある最大戦力を集結させることで、巨大蟒蛇を討伐出来ないかというものだった。
「キング・・・一つだけ良いか?」
「なぁに~?逃げたいなんてのは聞かないよ?」
「ハッ・・・まさか。・・・他の海賊共を待つということは、エイヴリーの奴らを利用したとしても倒すのは厳しい。そういうことなのか・・・?」
彼の質問に、キングは答えることなく暫くの沈黙が二人の中にあった。そして直ぐにキングは、余計なことを考えず、今出した指示に従えとジャウカーンに促す。それはキングの答えだった。
例えエイヴリー海賊団の戦力と協力したところで、余裕を持って今回のレイド戦を乗り切れるかと問われたら、二つ返事で頷くことは出来なかったのだ。事態を重く見たジャウカーンは、静かに何度か頷き直ぐに自分の船団へ戻る為の準備へと入った。
しかし、キングの船団が準備を整えるのを静かに待ってくれるほど、巨大蟒蛇は優しくはなかった。キングに海中へと押し込まれた蟒蛇は、暫しの沈黙を経て起き上がり、気絶から目覚めて海面へと再び頭部を持ち上げた。
その体表は、キングの危惧していた青白い光に包まれていた。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる