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神代 コウ

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炎の奇術師

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 天まで届きそうな程の水飛沫を上げ、海面へゆっくりと倒れる巨大蟒蛇。その衝撃だけで周囲一帯を飲み込んでしまう程の、大きな波が幾度に渡り襲いかかる。無論、最もその現場に近づいていたキングの船が、その被害を被る事となる。

 「ボスッ!また後先考えないで無茶な事をッ・・・!」

 「仕方ねぇさ、それがあの人なんだから・・・。さぁ、先ずはあの波を何とかしねぇとなぁ」

 キングの船に乗っていた幹部の者達であろうと思われる男達が、作戦や計画などそっちのけで自由奔放に戦いを繰り広げる船長の尻拭いをせんと、甲板に集う。術師のような格好をした者が数人と、ガタイの良い男が一人、船へ迫る大波をどうにかしようと準備を始める。

 術師達が一斉に詠唱に入ると、彼らの足元が青い光に包まれる。そして幾度となく合わせて来たであろう、息のあったピッタリのタイミングで術を発動する。すると、彼らの前にまで迫った大波は、一瞬にして氷像へと変わったのだ。

 その規模は、海域一帯を一瞬にして極寒の地の氷海へ変えてしまう程の広範囲に渡って氷漬けにした。目の前の景色が、時間が止まったと錯覚するほど静寂に包まれる。範囲から漏れた波が、大波の氷像の横をすり抜けやって来るが、その殆どが、その勢いを失っており、元より発生していた荒波と同等くらいの大きさにまで静まっていた。

 船底が接触していた海面も一緒になって凍ってしまい、彼らも身動きが取れなくなる。そこでガタイの良い男が氷海へ飛び降り、まるで刀の抜刀かのような手刀で、船底の氷を両断しながら船の周りをぐるりと回る。

 船は、時が動き出したように海面へ着水する。氷海へ降りた男は船の後ろへ回り込み、氷と船の隙間に拳から放った衝撃波を海中へと打ち放つ。直後に素早く船へと飛び乗る。すると、男の放った衝撃波は海中で爆発し、船を前方へと押し出した。

 彼らの船は氷海の上を滑り、大波の氷像へと向かって進む。ガタイの良い男が氷海へ降りている間に、術師達は既に次の準備を進めており、男が船へ戻ると同時に、再び息のあった合体魔法を放つ。

 今度は緑色の光が彼らを包み込み、周囲の風を巻き込んで彼らのローブを激しく揺らす。そして、放たれた術は船の後方へと向けられ、強烈な風を放った。その勢いに押され、船は氷海を勢いを増しながら進み、大波の弧を描く氷像へと到達すると、まるでサーフィンでもしているかのように、船で氷海を滑り、蟒蛇のいる海域から離れて行く。

 船は氷海を風を切りながら進み、先程の風の魔法で破壊した氷塊の浮かぶ海へと進んでいく。

 「フゥーーーッ!楽しい事やってんじゃないの。俺も混ぜてくれよぉ~!」

 外の騒がしさから様子を見に来たのか、一人の男が船内からやって来る。キングに似た陽気さで、燃えるような赤い髪。目を引く妖艶な泣き黒子の伊達男で、アジアン風のゆったりと服装をした男は、風を切って進む船首へと歩いて行くと、海面に残る氷海を見て指を指した。

 「さぁて!的当てゲームでもしようか!誰が一番氷塊を消せるかなぁ~!?」

 術師達は、また厄介な人が出て来たと顔を見合わせると、肩を大きく落とし溜め息を吐く。そしてその男に誘われるがまま、術師達は甲板から氷塊へ向けて魔法を放つ。

 「ジャウカーンさん!遊びじゃないですからね!」

 「それ・・・俺に言うぅ?」

 術師達が“ジャウカーン“と呼ぶ男。それはこの者の本名ではなく、キングが自分の部下につけている称号のようなもので、特に優秀な働きをする者に与えている。ジャウカーンは炎の魔法を得意とする魔術師で、指の先から細いレーザーのように高熱の魔法を放ち、氷塊を射抜いて行く。

 命中した氷塊は、高熱のレーザーが通り抜けた穴から溶け、一瞬にして海水へと戻る。それに引き換え、術師達の炎は彼の倍以上の時間をかけて氷塊を溶かして行く。次々に氷塊を溶かして行くジャウカーンは、次第に他の指も巧みに使い、更にその速度を上げる。

 そして仕舞いには、わざわざ狙うのが面倒になったのか、腕を大きく横に薙ぎ払ったジャウカーン。すると、船の前方の海面から湯気が上がり、浮かんでいた大小様々な氷塊はみるみる姿を消して行く。

 「あッ!それはズルいですよ、ジャウカーンさん・・・」

 「お前らももう少し、技の使い方を学ばねぇとなぁ~」

 陽気に笑う彼の前に、すっかり安全な海路が築かれる。凍った海の上を滑っていた勢いはいつの間にか、緩やかなものとなり、一度凍らされてから溶かされた海は、周囲に比べ波も僅かに穏やかさが残っていた。

 巨大蟒蛇に直接拳を叩き込みに行ったキングは、数発の攻撃を加えた後、海に叩きつけるように踏み込むと、その勢いを使って飛び上がり、部下達が作り上げた巨大な波の氷像へと飛び移って行った。

 またしても彼の身体は、凄まじい跳躍を見せ上空へと飛び上がる。何処へ着地したものかと、下の氷像を眺めていると彼はあるモノを見つける。そして、どうやったのか空中で軌道を変えると、彼はそれを拾い上げ、氷像を部下達の乗る船が辿った時と同様、サーフィンのように滑り降りて行く。

 船のような大きなものと違い、キングの身体は更に速度を上げ、凄まじい勢いで氷海を滑り進む。道中、洗い並みの突起を飛び越えたりしゃがんだり、手で押し除けたりして器用に躱すキング。

 瞬く間に海上を進む海賊船の見える位置にまで辿り着くと、氷海を見渡し、ジャンプ台となる良い坂を探す。そして氷の突起を手で掴みながら方向を変え、目的の波の形をした氷像へ向かい、滑り降りて来た勢いのままジャンプ台となる氷像から上空へと飛び出して行く。

 キングと“拾いモノ“の身体は、ふわりと弧を描くように海賊船の甲板目がけて滑空して行くと、寸分の狂いもなく見事に自分の海賊船へと帰って来たのだ。
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