World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
447 / 1,646

エネルギーチャージ

しおりを挟む
 空中に取り残されたエイヴリー海賊団は、目の前に構える巨大蟒蛇と目が合う。すると、その大きな口をゆっくり開け、再び飲み込もうとしているかのような動きを見せる。

 だが、蟒蛇は口をゆっくり開くだけでそれ以上のことはして来ない。それがまた不気味さを倍増とさせる。下の海面では依然、蟒蛇の動きにより起こされる激しい海流に動きを制限され、手を拱いている状況だった。

 そんな中、一体何のために蟒蛇は口を開き、空中を緩やかに落下するエイヴリー海賊団を睨んでいるのか。彼らはそれを直ぐに理解することになる。

 蟒蛇の大きく開いた口の中で、何やら光が輝いて見える。その光は次第に大きくなっていき、その輝きを増幅させたのだ。船員達の間に戦慄が走る。蟒蛇が口の中で蓄えていたのは、高密度の魔力だったのだ。

 誰が見ても分かるほど、蟒蛇はこれまで以上に強力な攻撃を放とうとしている。それも真面に食らえば、被害は尋常ではない程に高密度のエネルギーが溜め込まれていっていた。

 「旦那ぁッ!ここは俺がッ・・・!」

 「マクシムッ!無茶はするなよ?」

 とても彼一人でどうにか出来るようには思えない。だが、エイヴリーは彼の意思を尊重し、野暮な真似はせずマクシムのやりたいようにさせた。それは付き合いの長い二人だからこそ、共に胸中にある思いを察することが出来るのだ。

 マクシムはロイクの竜騎士隊からドラゴンを一匹借り受けると、一人蟒蛇の大口の方へと向かって行った。彼を慕う数人の船員達が静止しようとするが、その手を振り解き、船長のエイヴリーに従うよう促す。

 如何に強いマクシムであっても、これでは余りにも愚行。別の手段を講じてもらおうと、エイヴリーの元を訪れる船員達に、彼は冷たい言葉で返した。心苦しいのエイヴリーも一緒だ。

 蟒蛇の迎撃はマクシムに任せ、エイヴリーはエイヴリーで自身のやるべきことをする。クラフト能力で各船に風を集める装置を組み込んでいくエイヴリー。風というよりも、空気の方が正確だろうか。

 エイヴリーの作ったそれは、周囲にある空気を吸い込むと、内蔵された貯蓄スペースへと溜め込む。上空に浮遊しているということは、海上よりも風の影響を受け易い。パラシュートのように広がるマストで、緩やかに降下する彼らを移動させるには、十分な風量だ。

 本当の意で動きを制限させられてしまったのは、キング達なのだ。そう思われたが、海上で海流に流されていたキング達には、エイヴリー達とは違った脅威が迫っていたようだった。

 空気を取り込む装置が、一定量の空気を取り込み終えると、エイヴリーは数個の装置を使い、徐々に蟒蛇の攻撃範囲から逃れようとする。口が開き切った蟒蛇はその骨格上、彼らの姿を視認することが出来ない。

 だがそれでも、その移動速度では範囲から外れられるかはかなり際どいところだろう。しかし装置に取り込める空気の量には限りがあり、何処まで行けば安全圏か分からない以上、節約していかなければならない。

 ここぞという時に加速し、一気に抜けようと思っていたが、ここに来て彼らを驚愕させる新たな事実が判明した。何と蟒蛇は、視認出来ないはずのエイヴリー海賊団の船を何らかの形で感知し、狙いを定めていたのだ。

 彼らの動きに合わせて、蟒蛇の首が僅かに動いていたのだ。流石のエイヴリーの表情にも焦りの反応が窺える。空気を取り込む装置のタイミングを逃せば跡形もなく、消し飛ばされそうな程にエネルギーが集中している。

 エイヴリー達が移動を開始し始めた頃、海上では荒々しく波立つ海流の中、キングの船団を外へ外へと導く奇妙な流れが出来上がっていた。彼らはその流れに乗り、蟒蛇の脅威から安全圏へ向けて距離を取っていたのだ。

 しかし、彼らを海流から逃すまいと、蟒蛇は再び尻尾を使い彼らの進行を邪魔する。海中を鞭のようにしならせた尻尾が進み、海面に近づいて来るだけで噴火寸前のように海水が盛り上がる。

 そして、二つの勢力による船団を打ち上げた時程ではないが、直撃すれば船体を粉々にするなど、容易に想像出来る勢いで連続した攻撃が繰り出される。大きく上空へ向けて聳え立った蟒蛇の尻尾は、そのまま今度は斧を振り下ろすように海面へと向かう。

 「甘い甘い。そんなんじゃ俺を海に落とすなんて、出来ないっつ~の!」

 振り下ろされる尻尾に向かい、再びキングは奇妙な能力を使う。すると蟒蛇の尻尾は速度を落とし始めた。だが、どうやらそれはキングの思っていた結果とは異なっていたようで、余裕に満ち溢れていた飄々とした態度を改めるキング。

 「ぁっ・・・あらぁ~?さっきよりも随分と力強くなったじゃな~い・・・!」

 蟒蛇の尻尾は、上空でエイヴリー海賊団を狙う、高密度のエネルギー収集に伴い、その体表の周りを淡い青白い光で覆い始めていたのだった。蟒蛇の集めていたエネルギーは、攻撃の為の予備動作だけでなく、全身を強化する効果も持っていたのだ。

 ふと、キングの視界に入った蟒蛇の眼前で標的となっているエイヴリー海賊団。そこでは大口を開けた蟒蛇が、何やら不穏な光を集めていた。

 「成る程・・・あれが原因ねぇ~・・・」

 キング達の位置からでは、もはやどうにも出来な距離。エネルギーを収集しているということは、何処かで放出もあるということ。キングは、彼らがあの蟒蛇の攻撃を何とかするか、或いは放出の的になってくれることを望んでいた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...