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それぞれの空の旅
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宙を舞う無数の海賊船。周りには大きな水の滴が飛び交い、暗雲の空や荒れた海、そして彼らの現状をその水面に映していた。上昇が最高点に達すると、打ち上げられた全てのものが無重力状態のようになる。
そこから彼らが辿る軌跡など、想像するに容易い。重量や船体により個体差はあるものの、上空に舞い上げられた全てのものは、まるで海に引っ張られるかのように降下を始める。
「船外へ飛ばされた奴らを引き戻せッ!」
エイヴリー海賊団の船では、マクシムが直ぐに飛ばされた者達を鋼糸で繋ぎ止め、船へと引き戻していた。そしてヴァンパイア種のリーズは、その特殊なクラスで彼らの窮地を救う。
彼女の眷族である蝙蝠を複数呼び出すと、タクティシャンのクラスとは別に、もう一つのクラスでその数を無数に増やしていく。リーズの就いているクラスは、どちらも彼女自身の種族としての能力を活かす組み合わせになっていた。
様々な物や、元々いる眷族を拡大縮小させる変化のクラス、タクティシャンに加え、生物の数や個体数を自在に操れる能力を持つ、“インキュベータ“のクラスに就いていた。
インキュベータのスキルは、生物の増殖や減少など数に関する変更を瞬時に行えるスキルがある。これにより、生まれたばかりの生物を一気に成長した姿へ変えたり、或いはそのまま老化させることも可能だ。
そしてその能力は、細胞レベルにまで適用することが出来る。これにより生物の身体の一部を壊死させるという、生物にとって恐ろしく有効的な能力を有している。
リーズはインキュベータの能力で、数に限りのある眷族を増殖させ、最も力を発揮出来る身体にまで成長させる。成体となった蝙蝠は、周囲に散らばった船員達の元へ飛んで行くと、リーズのもう一つクラス、タクティシャンで大きく変化し、船員達を彼女の居る船へと運んだ。
幹部達がそれぞれ自分に出来ることを各自で判断し動いている間、エイヴリーは何をしていたか。彼はこの状況を乗り越えるための重要なファクターであることに変わりない。周囲に散らばる破損した船の残骸を、自身のクラフト能力で可能な限り集め、彼の居る船を少しずつ大きく組み替えていく。
そして粗方十分な大きさにまで船を変形させていくと、最後に集めていた各船のマスト部分を使い、大きなパラシュートのようなものを作り出し、ゆっくりと海へ向かった降下していく。
残りの集め切れなかった船も同様、残った船の材料で形をコンパクトに変形させ、それぞれのマストを同じようにパラシュートに変えていった。
協力関係ではあるが、決して仲間ではないキングの海賊団。仲間達の救出を第一にこなし、大凡全ての作業を完了したエイヴリー海賊団は、そのまま瓦礫や打ち上げられた海水が重力を加え霰のように降り注ぐ中をゆっくり降りていく。一方、その間キングの海賊団はどうなっているのか。
「おおぃ、小僧!手を貸してやろうか?」
エイヴリーがキングへ呼び掛ける。無論、彼の能力を使えばキング達の船も変形させられ、この状況から助け出すこともできる。だが、彼らの界隈で相手に貸しを作るということは、弱みを握られるも同然。
どんなに窮地に陥ろうとも、命乞いなどしない者達も数多くいるだろう。そしてキング海賊団も、その内の一つであった。世界に名の知れた組織のギャングが、こんなところで一海賊であるエイヴリーに貸しを作るなど、他の部下達に示しがつかない。
「アンタのクラフトで、俺ちゃんの船をカッコ良く変形させて貰うのも悪くないけど・・・。そのお誘いを受けるほど、柔じゃないのよ俺達ぃ~」
「そうかい・・・。折角良い船にドレスアップしてやろうと思ったのになぁ。残念だぜぇ、小僧」
「“小僧“じゃなくて“キング“だっつーの。そんなんだから老けが進むんじゃないのぉ?それに余計なお世話だっての・・・。アンタのカッコイイより、俺ちゃんのカッコイイの方が、カッコイイからぁーッ!」
そう言って、エイヴリー海賊団の船団よりも重力の影響を受け、降下の勢いが徐々に上がっていくキングの船達。そのまま加速していきながら、他の残骸諸共海へ向けて一直線に落ちていく。
エイヴリー達の船との間の差が広がっていき、ぶつかった衝撃で無残に粉々になる船の残骸が浮遊する、海面近くにまでキングの船団が落ちてくる。次は彼らの船が残骸へ変わり、一帯を血の海に染め上げる番。そう思われていたが、組織を引っ張っていくキングがこのまま終わる筈もなく、彼は彼の能力で自分の船団を安全に海へと着水させる。
なんと、驚いたことにキングの船団は、海面が近づいて来ると同時に急降下の勢いが弱まり、まるで何かに吊るされているかのようにゆっくりと海面へ降り立ったのだ。一隻二隻と、次々に海へ戻って来るキングの船団。
海も上空も、未だ蟒蛇の脅威に晒されていることに変わりはないが、ここでエイヴリーとキングの間で、立場が逆転した。無事に海へ戻ることが出来たキングの船団は、海を移動することが出来るが、上空にいるエイヴリーの船団はそうはいかない。
宙にいる間は、自分達の意思で移動することなど出来ず、ゆっくりとした落下の速度のまま身を任せるしかなかったのだ。この状態では、蟒蛇が何かしらの攻撃を仕掛けて来た時に対応し切れない。
「のんびり空の旅なんかしてて良いのかえぇ?二度目のお誘いは受け付けないから、よろしくーーーッ!」
そして案の定、ただ海賊達を上空へ打ち上げただけで蟒蛇の攻撃が終わることもなく、ゆっくり降下するエイヴリー海賊団は、目の前に吊るされた餌のように恰好の的となった。
そこから彼らが辿る軌跡など、想像するに容易い。重量や船体により個体差はあるものの、上空に舞い上げられた全てのものは、まるで海に引っ張られるかのように降下を始める。
「船外へ飛ばされた奴らを引き戻せッ!」
エイヴリー海賊団の船では、マクシムが直ぐに飛ばされた者達を鋼糸で繋ぎ止め、船へと引き戻していた。そしてヴァンパイア種のリーズは、その特殊なクラスで彼らの窮地を救う。
彼女の眷族である蝙蝠を複数呼び出すと、タクティシャンのクラスとは別に、もう一つのクラスでその数を無数に増やしていく。リーズの就いているクラスは、どちらも彼女自身の種族としての能力を活かす組み合わせになっていた。
様々な物や、元々いる眷族を拡大縮小させる変化のクラス、タクティシャンに加え、生物の数や個体数を自在に操れる能力を持つ、“インキュベータ“のクラスに就いていた。
インキュベータのスキルは、生物の増殖や減少など数に関する変更を瞬時に行えるスキルがある。これにより、生まれたばかりの生物を一気に成長した姿へ変えたり、或いはそのまま老化させることも可能だ。
そしてその能力は、細胞レベルにまで適用することが出来る。これにより生物の身体の一部を壊死させるという、生物にとって恐ろしく有効的な能力を有している。
リーズはインキュベータの能力で、数に限りのある眷族を増殖させ、最も力を発揮出来る身体にまで成長させる。成体となった蝙蝠は、周囲に散らばった船員達の元へ飛んで行くと、リーズのもう一つクラス、タクティシャンで大きく変化し、船員達を彼女の居る船へと運んだ。
幹部達がそれぞれ自分に出来ることを各自で判断し動いている間、エイヴリーは何をしていたか。彼はこの状況を乗り越えるための重要なファクターであることに変わりない。周囲に散らばる破損した船の残骸を、自身のクラフト能力で可能な限り集め、彼の居る船を少しずつ大きく組み替えていく。
そして粗方十分な大きさにまで船を変形させていくと、最後に集めていた各船のマスト部分を使い、大きなパラシュートのようなものを作り出し、ゆっくりと海へ向かった降下していく。
残りの集め切れなかった船も同様、残った船の材料で形をコンパクトに変形させ、それぞれのマストを同じようにパラシュートに変えていった。
協力関係ではあるが、決して仲間ではないキングの海賊団。仲間達の救出を第一にこなし、大凡全ての作業を完了したエイヴリー海賊団は、そのまま瓦礫や打ち上げられた海水が重力を加え霰のように降り注ぐ中をゆっくり降りていく。一方、その間キングの海賊団はどうなっているのか。
「おおぃ、小僧!手を貸してやろうか?」
エイヴリーがキングへ呼び掛ける。無論、彼の能力を使えばキング達の船も変形させられ、この状況から助け出すこともできる。だが、彼らの界隈で相手に貸しを作るということは、弱みを握られるも同然。
どんなに窮地に陥ろうとも、命乞いなどしない者達も数多くいるだろう。そしてキング海賊団も、その内の一つであった。世界に名の知れた組織のギャングが、こんなところで一海賊であるエイヴリーに貸しを作るなど、他の部下達に示しがつかない。
「アンタのクラフトで、俺ちゃんの船をカッコ良く変形させて貰うのも悪くないけど・・・。そのお誘いを受けるほど、柔じゃないのよ俺達ぃ~」
「そうかい・・・。折角良い船にドレスアップしてやろうと思ったのになぁ。残念だぜぇ、小僧」
「“小僧“じゃなくて“キング“だっつーの。そんなんだから老けが進むんじゃないのぉ?それに余計なお世話だっての・・・。アンタのカッコイイより、俺ちゃんのカッコイイの方が、カッコイイからぁーッ!」
そう言って、エイヴリー海賊団の船団よりも重力の影響を受け、降下の勢いが徐々に上がっていくキングの船達。そのまま加速していきながら、他の残骸諸共海へ向けて一直線に落ちていく。
エイヴリー達の船との間の差が広がっていき、ぶつかった衝撃で無残に粉々になる船の残骸が浮遊する、海面近くにまでキングの船団が落ちてくる。次は彼らの船が残骸へ変わり、一帯を血の海に染め上げる番。そう思われていたが、組織を引っ張っていくキングがこのまま終わる筈もなく、彼は彼の能力で自分の船団を安全に海へと着水させる。
なんと、驚いたことにキングの船団は、海面が近づいて来ると同時に急降下の勢いが弱まり、まるで何かに吊るされているかのようにゆっくりと海面へ降り立ったのだ。一隻二隻と、次々に海へ戻って来るキングの船団。
海も上空も、未だ蟒蛇の脅威に晒されていることに変わりはないが、ここでエイヴリーとキングの間で、立場が逆転した。無事に海へ戻ることが出来たキングの船団は、海を移動することが出来るが、上空にいるエイヴリーの船団はそうはいかない。
宙にいる間は、自分達の意思で移動することなど出来ず、ゆっくりとした落下の速度のまま身を任せるしかなかったのだ。この状態では、蟒蛇が何かしらの攻撃を仕掛けて来た時に対応し切れない。
「のんびり空の旅なんかしてて良いのかえぇ?二度目のお誘いは受け付けないから、よろしくーーーッ!」
そして案の定、ただ海賊達を上空へ打ち上げただけで蟒蛇の攻撃が終わることもなく、ゆっくり降下するエイヴリー海賊団は、目の前に吊るされた餌のように恰好の的となった。
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