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大海を這う巨影
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シン達の一行が到着する頃、既に戦闘は行われていた。幾多にも渡る船が集い、砲撃や魔法、凡ゆる手段を用いた攻撃が宙を飛び交う。
そしてその中心にいたのは、大海原をその巨体で這いずるようにうねらせ、まるで大陸をも締め落としそうな程の巨大な蟒蛇のような姿をしていた。一度身体を動かせば、辺りの船を簡単に飲み込んでしまうほどの大津波を起こし、長い尾が海から打ち上がれば海域一帯に嵐のような大雨が降る。
動くだけでも尋常ではない被害を齎す、今回のレースの目玉である大型モンスター。これがフォリーキャナル・レースのトリを飾る一大イベントかと、シン達が目を丸くしている。
その隣で、大粒の汗を流し言葉にならない焦りの表情を浮かべているデイヴィス。レースの経験者なら、想定していたことのはず。それなのにここまでの反応を示すものだろうか。あまりにも大袈裟な様子を窺わせるデイヴィスに、シンは声をかける。
「こッ・・・これがレイド戦なのか・・・?思っていたよりも大型のモンスターが・・・」
しかし、シンの声に全く気づく様子もない程、動揺を表に出すデイヴィス。どうしたのだとシンが彼の肩を掴んだところで、漸くデイヴィスは夢から現実に帰って来たような反応で、今まさにシンが隣にいたことを思い出した。
「どうした?デイヴィス。レース恒例のレイド戦なんだろ?」
「ぁっ・・・あぁ、レイド戦・・・。そうだな・・・そうなんだが・・・」
青ざめる彼の表情から、想定していなかった不測の事態が訪れていることが直ぐに分かった。ただそれが一体何なのかまでは、シンに計り知れるものではなかった。レイド戦の大型モンスターのことなのか、戦地に訪れている海賊達のことなのか。
或いは、計画に最終目標であるキングのことなのか。考えはじめればキリがないほど、初めての経験をするシンには想像がつかない。もどかしく口籠る彼の肩を揺らし、必死に正気に戻そうとする。
いつもの飄々とした態度はどこへ行ったのか。計画に支障が出たのなら、直ぐに彼の判断が必要になる。中止にするのか実行するのか。シンプソンやアシュトン、アンスティス達への指示はどうするのか。そもそも彼らは、デイヴィスが唖然とする程のこの光景を見て今、どう思っているのか。
「何だ!どうしたって言うんだ、デイヴィス!一体何があった!?」
「・・・今まで、これ程のモンスターと戦ったことはない・・・」
「・・・ぇ?」
「俺にも分からない・・・。何だこれは・・・。俺の知っているレイドは、こんなんじゃない・・・」
思っても見なかった言葉が彼の口から飛び出す。唖然とする二人を置き去りにし、周囲の時間は問答無用に経過する。遠くから聞こえる怒号や悲鳴は、まるで地獄かと思わせるほど悲痛な音。そして二人の耳に、徐々に聞き覚えのある声で、通信が入っていることに気がつく。
「デイヴィス!デイヴィスッ!!計画どころではないぞ!何だあのモンスターは!?あれじゃまるで俺達海賊を、まとめて始末しようとしているようじゃねぇか。こんなん・・・生きて帰れるかも怪しいぞ・・・」
「通信だ・・・。デイヴィス、シンプソン達も動揺している。どうするんだ?」
恐らく、今の彼も同じ心境だろう。見たこともない巨大なモンスターを前に、どうするべきか分からず、彼も誰かに答えを聞きたいといったところだろう。そんなデイヴィスに決断を委ねるのは酷なことだが、せめて計画を実行するのか否かは決めてもらわねば、前に進めない。
「・・・先ずは・・・、先に戦場へ到達しているであろう友軍に合流し、状況を確認する・・・。何をするにもそれからだ。エイヴリーやキングは?奴らは何をしている・・・。とっくに到着している筈じゃないのか?・・・それとも・・・、アイツらの戦力を持ってしても苦戦するというのか・・・?」
デイヴィスの言う通り、先ずは戦場に先に辿り着いている者達に現状を確認する必要がある。これは一体どういった状況なのか。そもそもこのレイド戦に勝ち目はあるのか。優勝候補の海賊達の所在など、この場に集う戦力も把握しなければならない。
場合によっては計画など実行している暇などない。生き残る為にも、今は気持ちを押し殺し、怨敵であるキングとも協力しなければ、この絶望的な状況を切り抜けることも出来ないかもしれない。
先を行くシンプソンの船団が、周囲を確認しかつての仲間の海賊旗を探す。デイヴィスが集めた友軍の中には、彼らの他にも昔の同僚がいる。そして何より、彼の親友でもあるロバーツもいる筈なのだ。
可能であるのならば、ロバーツと合流することが最も望ましい。現状の把握と連携が一変に取れるのは彼の船団が一番だからだ。
必死に友軍を探す一行。彼らが到着するよりも前、このレイドが行われる戦地には数多くの海賊船が集まりつつあった。その船団の中には当然、優勝候補筆頭のエイヴリー海賊団の船や、デイヴィス達の標的であるキングの船団も既に到着していた。
時間はシン達がチン・シー海賊団と共に、フランソワ・ロロネーと死闘を繰り広げているところまで遡る。レースを駆け抜け、先頭を行っていたのは、大方の人間が予想していた通りエイヴリー海賊団だった。
「船長、間も無くレイド戦の戦地です!」
「あぁ、オメェに言われなくたって分かっとるわ」
低く響くような声が聞こえる。知らせた船員の数倍はあろうかという程大柄な体格をした男が、暗雲立ち込める海域を前にして悠然たる態度で臨んでいた。如何にも高価でありそうな羽織を着飾り、どこで手に入れたのか、まるで王座のように大きな椅子に腰掛けて肘をついている。
その周りには様々な格好をした屈強な者達は、怪しげな衣装に身を包んだ者など、幹部と思わしき錚々たる面子が揃っていた。
そしてその中心にいたのは、大海原をその巨体で這いずるようにうねらせ、まるで大陸をも締め落としそうな程の巨大な蟒蛇のような姿をしていた。一度身体を動かせば、辺りの船を簡単に飲み込んでしまうほどの大津波を起こし、長い尾が海から打ち上がれば海域一帯に嵐のような大雨が降る。
動くだけでも尋常ではない被害を齎す、今回のレースの目玉である大型モンスター。これがフォリーキャナル・レースのトリを飾る一大イベントかと、シン達が目を丸くしている。
その隣で、大粒の汗を流し言葉にならない焦りの表情を浮かべているデイヴィス。レースの経験者なら、想定していたことのはず。それなのにここまでの反応を示すものだろうか。あまりにも大袈裟な様子を窺わせるデイヴィスに、シンは声をかける。
「こッ・・・これがレイド戦なのか・・・?思っていたよりも大型のモンスターが・・・」
しかし、シンの声に全く気づく様子もない程、動揺を表に出すデイヴィス。どうしたのだとシンが彼の肩を掴んだところで、漸くデイヴィスは夢から現実に帰って来たような反応で、今まさにシンが隣にいたことを思い出した。
「どうした?デイヴィス。レース恒例のレイド戦なんだろ?」
「ぁっ・・・あぁ、レイド戦・・・。そうだな・・・そうなんだが・・・」
青ざめる彼の表情から、想定していなかった不測の事態が訪れていることが直ぐに分かった。ただそれが一体何なのかまでは、シンに計り知れるものではなかった。レイド戦の大型モンスターのことなのか、戦地に訪れている海賊達のことなのか。
或いは、計画に最終目標であるキングのことなのか。考えはじめればキリがないほど、初めての経験をするシンには想像がつかない。もどかしく口籠る彼の肩を揺らし、必死に正気に戻そうとする。
いつもの飄々とした態度はどこへ行ったのか。計画に支障が出たのなら、直ぐに彼の判断が必要になる。中止にするのか実行するのか。シンプソンやアシュトン、アンスティス達への指示はどうするのか。そもそも彼らは、デイヴィスが唖然とする程のこの光景を見て今、どう思っているのか。
「何だ!どうしたって言うんだ、デイヴィス!一体何があった!?」
「・・・今まで、これ程のモンスターと戦ったことはない・・・」
「・・・ぇ?」
「俺にも分からない・・・。何だこれは・・・。俺の知っているレイドは、こんなんじゃない・・・」
思っても見なかった言葉が彼の口から飛び出す。唖然とする二人を置き去りにし、周囲の時間は問答無用に経過する。遠くから聞こえる怒号や悲鳴は、まるで地獄かと思わせるほど悲痛な音。そして二人の耳に、徐々に聞き覚えのある声で、通信が入っていることに気がつく。
「デイヴィス!デイヴィスッ!!計画どころではないぞ!何だあのモンスターは!?あれじゃまるで俺達海賊を、まとめて始末しようとしているようじゃねぇか。こんなん・・・生きて帰れるかも怪しいぞ・・・」
「通信だ・・・。デイヴィス、シンプソン達も動揺している。どうするんだ?」
恐らく、今の彼も同じ心境だろう。見たこともない巨大なモンスターを前に、どうするべきか分からず、彼も誰かに答えを聞きたいといったところだろう。そんなデイヴィスに決断を委ねるのは酷なことだが、せめて計画を実行するのか否かは決めてもらわねば、前に進めない。
「・・・先ずは・・・、先に戦場へ到達しているであろう友軍に合流し、状況を確認する・・・。何をするにもそれからだ。エイヴリーやキングは?奴らは何をしている・・・。とっくに到着している筈じゃないのか?・・・それとも・・・、アイツらの戦力を持ってしても苦戦するというのか・・・?」
デイヴィスの言う通り、先ずは戦場に先に辿り着いている者達に現状を確認する必要がある。これは一体どういった状況なのか。そもそもこのレイド戦に勝ち目はあるのか。優勝候補の海賊達の所在など、この場に集う戦力も把握しなければならない。
場合によっては計画など実行している暇などない。生き残る為にも、今は気持ちを押し殺し、怨敵であるキングとも協力しなければ、この絶望的な状況を切り抜けることも出来ないかもしれない。
先を行くシンプソンの船団が、周囲を確認しかつての仲間の海賊旗を探す。デイヴィスが集めた友軍の中には、彼らの他にも昔の同僚がいる。そして何より、彼の親友でもあるロバーツもいる筈なのだ。
可能であるのならば、ロバーツと合流することが最も望ましい。現状の把握と連携が一変に取れるのは彼の船団が一番だからだ。
必死に友軍を探す一行。彼らが到着するよりも前、このレイドが行われる戦地には数多くの海賊船が集まりつつあった。その船団の中には当然、優勝候補筆頭のエイヴリー海賊団の船や、デイヴィス達の標的であるキングの船団も既に到着していた。
時間はシン達がチン・シー海賊団と共に、フランソワ・ロロネーと死闘を繰り広げているところまで遡る。レースを駆け抜け、先頭を行っていたのは、大方の人間が予想していた通りエイヴリー海賊団だった。
「船長、間も無くレイド戦の戦地です!」
「あぁ、オメェに言われなくたって分かっとるわ」
低く響くような声が聞こえる。知らせた船員の数倍はあろうかという程大柄な体格をした男が、暗雲立ち込める海域を前にして悠然たる態度で臨んでいた。如何にも高価でありそうな羽織を着飾り、どこで手に入れたのか、まるで王座のように大きな椅子に腰掛けて肘をついている。
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