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アンスティスの薬品
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時折していた騒々しい物音と、自然現象では起こり得ぬ程の大きな波と水飛沫を上げていたのが、まるで嘘のように静まり返る。爆撃による影響は、戦場となった海域に船の残骸として残されていた。
一方的に襲われたアンスティスの海賊船は、大きく破損しゆっくりと海の中へと引き摺り込まれるようにして沈んでいく。だが、その一帯に波を立てるものや助けを求めるような声はない。
そのことから、生存者がいる可能性は限りなく薄まり、アンスティスの船で優秀な働きをしていた管理者である、ウォルターという人物の生存も絶望的に思えた。
激しい戦闘経て、静かに船の残骸を揺らす海域へ彼らを乗せた船がやって来る。周囲を見渡し、殿を務めていたアシュトン海賊団の潜水艇を探す。すると、海の中から黒い影がゆっくりと浮上し、その姿を現した。
船体から海水が滝のように流れ落ちる。一頻り甲板の水が流れ落ちると、黒い鉄板に覆われたその姿は何とも言えない存在感と圧力を感じさせる。何隻か浮上してきたところで、船とは別の小さな影達もまた海面へと上がって来る。
徐々にその影は人の形へと変わり、海を覗き込むシン達の前に再びその姿を現す。見る限り大きな傷もなく、寧ろ初めてシン達の前に現れた時とは違う、魔力によって水中を動きやすくするようなヒレを連想とさせる形状を覗かせた。
その中の一人が周囲の者達に腕を振り合図を送ると、彼らは再び海中へと散開していき、指示を出した者は身体に巻きついているワイヤーを使い、シン達の船へと勢い良く飛び上がり、甲板へと降り立った。
「アシュトン!良かった、無事だったようだな・・・」
「当然だ。あの程度のモンスターにやられているようでは、海中を進む潜水艇を乗りこなすことなど出来ない。通常の航海とはまた勝手が違うのでな・・・。して、アンスティスの奴とは合流出来たのか?」
モンスター達との戦闘で、海上の様子を把握していなかったアシュトンに、これまでの経緯とアンスティスとの会話の内容を粗方かいつまんで説明するデイヴィス。モンスター襲撃の理由や、攻撃を受けた際に仲間が行方不明になってしまったこと。無くなった薬品の話など、海中の生態に詳しい彼ならば何か分かるのではないかと、言葉を連ねる。
「確かに・・・。普段海上の者を襲わぬ奴らにしては珍しいことだ。アンスティスの元から無くなったという薬品に、彼らを刺激する何かが含まれていた可能性も考えられる・・・」
「偶然無くなったのではない・・・と?」
「あくまで可能性の話だ。・・・だが、奴の作り出す薬品であれば、特定のモンスターを意図的に錯乱状態にさせるような効果を持った薬品があってもおかしくない。寧ろそれを期待して奴の同行を図ったのではないか?デイヴィス・・・」
「あぁ・・・。アンスティスの薬品は、万が一キングとの戦闘になった際の奥の手になる。倒すことが出来なくとも、奴の魔の手から逃れられる、それだけでも十分過ぎるくらいだからな・・・。まぁ、生き残ったとしても死期が延期されるのと、死に場所が変わるくらいの違いしかないがな・・・」
「キングの命を狙って無事でいられる筈がないからな・・・。この計画の失敗は即ち俺達の死を意味する・・・」
アンスティスのクラス、ファーマシストのスキルで生み出される薬物は、通常の薬物とは異なる様々な効果を敵味方関係なく与える、取り扱いには十分注意が必要な危険物になり得る。
だがそれこそが、今回の計画の要の一つにもなっている。その為に、レイド戦の現場へ向かう一行の中に彼を選んだのだ。現地へ到着するまでの間に、アンスティスに作って貰いたい物があり、そのレシピと材料は集めていた。
漸く集った計画実行の為に必要な戦力である三つの海賊団。かつてはデイヴィスの元で苦楽を共にしていた彼らは、紆余曲折あり別々の道を辿った。それが彼の呼びかけにより、再び一丸となって大きな事を起こそうと動き始める。
一行は計画実行の地を目指す道すがら、アンスティスの元へ集めた資材や物品を送りながら帆を進める。心を許した者以外との接触を好まないアンスティスは、これまでの者達とは違い、ウィリアムの弟子が居ると聞いても何の興味も示す事なく、シン達の船へやって来ることはなかった。
また同じ話をさせられるのではないかと、気が気ではなかったツバキはそれを知り安堵した様子を見せた。部門は違えど、同じく様々な知識を探求する者として、寧ろツバキの方がアンスティスに興味を持っていたくらいだ。
計画に必要な物ができ次第、彼の船に上がりアシュトンのスーツから発想を得たガントレットに次ぐ、新たな発明品が生まれるのではないかと、シンとデイヴィスは少し期待していた。
一方的に襲われたアンスティスの海賊船は、大きく破損しゆっくりと海の中へと引き摺り込まれるようにして沈んでいく。だが、その一帯に波を立てるものや助けを求めるような声はない。
そのことから、生存者がいる可能性は限りなく薄まり、アンスティスの船で優秀な働きをしていた管理者である、ウォルターという人物の生存も絶望的に思えた。
激しい戦闘経て、静かに船の残骸を揺らす海域へ彼らを乗せた船がやって来る。周囲を見渡し、殿を務めていたアシュトン海賊団の潜水艇を探す。すると、海の中から黒い影がゆっくりと浮上し、その姿を現した。
船体から海水が滝のように流れ落ちる。一頻り甲板の水が流れ落ちると、黒い鉄板に覆われたその姿は何とも言えない存在感と圧力を感じさせる。何隻か浮上してきたところで、船とは別の小さな影達もまた海面へと上がって来る。
徐々にその影は人の形へと変わり、海を覗き込むシン達の前に再びその姿を現す。見る限り大きな傷もなく、寧ろ初めてシン達の前に現れた時とは違う、魔力によって水中を動きやすくするようなヒレを連想とさせる形状を覗かせた。
その中の一人が周囲の者達に腕を振り合図を送ると、彼らは再び海中へと散開していき、指示を出した者は身体に巻きついているワイヤーを使い、シン達の船へと勢い良く飛び上がり、甲板へと降り立った。
「アシュトン!良かった、無事だったようだな・・・」
「当然だ。あの程度のモンスターにやられているようでは、海中を進む潜水艇を乗りこなすことなど出来ない。通常の航海とはまた勝手が違うのでな・・・。して、アンスティスの奴とは合流出来たのか?」
モンスター達との戦闘で、海上の様子を把握していなかったアシュトンに、これまでの経緯とアンスティスとの会話の内容を粗方かいつまんで説明するデイヴィス。モンスター襲撃の理由や、攻撃を受けた際に仲間が行方不明になってしまったこと。無くなった薬品の話など、海中の生態に詳しい彼ならば何か分かるのではないかと、言葉を連ねる。
「確かに・・・。普段海上の者を襲わぬ奴らにしては珍しいことだ。アンスティスの元から無くなったという薬品に、彼らを刺激する何かが含まれていた可能性も考えられる・・・」
「偶然無くなったのではない・・・と?」
「あくまで可能性の話だ。・・・だが、奴の作り出す薬品であれば、特定のモンスターを意図的に錯乱状態にさせるような効果を持った薬品があってもおかしくない。寧ろそれを期待して奴の同行を図ったのではないか?デイヴィス・・・」
「あぁ・・・。アンスティスの薬品は、万が一キングとの戦闘になった際の奥の手になる。倒すことが出来なくとも、奴の魔の手から逃れられる、それだけでも十分過ぎるくらいだからな・・・。まぁ、生き残ったとしても死期が延期されるのと、死に場所が変わるくらいの違いしかないがな・・・」
「キングの命を狙って無事でいられる筈がないからな・・・。この計画の失敗は即ち俺達の死を意味する・・・」
アンスティスのクラス、ファーマシストのスキルで生み出される薬物は、通常の薬物とは異なる様々な効果を敵味方関係なく与える、取り扱いには十分注意が必要な危険物になり得る。
だがそれこそが、今回の計画の要の一つにもなっている。その為に、レイド戦の現場へ向かう一行の中に彼を選んだのだ。現地へ到着するまでの間に、アンスティスに作って貰いたい物があり、そのレシピと材料は集めていた。
漸く集った計画実行の為に必要な戦力である三つの海賊団。かつてはデイヴィスの元で苦楽を共にしていた彼らは、紆余曲折あり別々の道を辿った。それが彼の呼びかけにより、再び一丸となって大きな事を起こそうと動き始める。
一行は計画実行の地を目指す道すがら、アンスティスの元へ集めた資材や物品を送りながら帆を進める。心を許した者以外との接触を好まないアンスティスは、これまでの者達とは違い、ウィリアムの弟子が居ると聞いても何の興味も示す事なく、シン達の船へやって来ることはなかった。
また同じ話をさせられるのではないかと、気が気ではなかったツバキはそれを知り安堵した様子を見せた。部門は違えど、同じく様々な知識を探求する者として、寧ろツバキの方がアンスティスに興味を持っていたくらいだ。
計画に必要な物ができ次第、彼の船に上がりアシュトンのスーツから発想を得たガントレットに次ぐ、新たな発明品が生まれるのではないかと、シンとデイヴィスは少し期待していた。
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