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アンスティスとロバーツ
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アシュトン曰く、アンスティスは優し過ぎたのだという。それ故、デイヴィスがいなくなった後、実質的な権力を手に入れたロバーツに多くの者がついて行き、その中の一人として彼もいた。
だが、合理的で組織全体としての利益を優先したロバーツのやり方に、彼は疑問を抱き何ども衝突を起こしていたのだという。木を見るのではなく森を見ていたロバーツと、森は木によって成り立っていると考えていたアンスティスでは、互いの意思が交わらぬのは当然のことと言えるだろう。
その噂は、かつての仲間伝いにアシュトンの耳にも届いていた。何度かアンスティスを諭すような手紙を送ったが、彼がそれを受け入れることはなかった。後に彼はロバーツ海賊団を離れ、自身と考えを共にする者達とアンスティス海賊団を結成。
ロバーツと対立することこそなかったものの、ロバーツの元を離れた者の多くがアンスティスを頼り、彼の元に少しずつ集まっていたのだという。当然、その中にはロバーツに対し、良くない感情を抱く者もいたが、アンスティスはもう彼に関わるなと仲間達をロバーツから遠ざけていたそうだ。
そして今回のデイヴィスによる招集の話が上がった時、アシュトンはロバーツとアンスティスの接触を気にしていたのだ。何か大きな目的を果たそうとする時に、身内間で問題を抱えていては、いざと言う時に致命的な事故が起こることを懸念していたのだ。
「奴の人間性自体は問題ないのだが・・・。部下達の抱える問題が今も残っているのだとしたら、少し危険かもしれない。そんなところだ・・・」
「個人ではなく、組織としての彼らに何か問題がある・・・と?」
ロバーツのことについて話していなかったと、アシュトンは先程の発言だけでは誤解を生んでしまったと、少し訂正を入れる。だが彼の口にした名前はあまりにも有名だったようで、ツクヨもまた現実世界での知識としてその名を知っていた。
「・・・すまない、少し語弊があったようだ。アンスティスはデイヴィスに対し友好的であることに違いはない。他の仲間であるロバーツという男と、少し因縁があるのだ」
「ロバーツ・・・?あの、バーソロミュー・ロバーツのことですか!?」
「なんだ、知っていたのか?」
しかし、何かに気づいたような反応を示したツクヨが、慌てて視線をシンに送る。その様子からシンは、彼が現実世界での知識をこの世界の住人に話していいものなのかを尋ねるような顔だと、すぐに悟る。
だがこの世界では、単純に同一の名前が使われているだけで現実での知識と合致していると言われれば、そうとは限らない。人物によっては史実になぞった逸話があったりするのだろうが、基本的には別人と思っていいだろう。
アシュトンに感づかれないよう、小さく首を横に振るシン。それを見てツクヨは上手くその事を誤魔化すように動く。その点の臨機応変さは、流石年上の社会人といったところだろうか。相手の意図を汲み、顔色を伺うのは彼らの住む世界の、国柄の特徴だろうか。
「開会式の会場で耳にしたんですよ。か・・・彼もこのレースでは有力な海賊団の一つだって!」
「流石はロバーツといったところか。良くも悪くも、その名は海賊界隈では少し目立ち過ぎているのかもしれないな・・・」
キングやチン・シー達レースの常連組という括りではなく、海賊の世界で名の知れているロバーツ。友好関係も広いが、その分恨みを買うこともあるだろう。彼の首を狙ってレースに参加したという者も少なからずいるに違いない。
キング暗殺計画の前に、ロバーツの周辺で問題が起こっていなければ良いのだが。アシュトンの問いを上手く躱し、何とか話を終えたツクヨは、船の進路上に何やら煙のようなものが上がっているのを視界に捉える。
「あれは・・・」
彼の反応に、何事かと顔を上げ進路上を確認するアシュトン。すると、その煙がデイヴィスやアシュトンの指示した次なる目的地。話題に上がっていたアンスティスと合流する島付近である事を悟る。
「我々の次の目的地だ。僅かに音も聞こえる・・・。戦いが行われているかも知れんぞ!」
すぐに部屋を飛び出したアシュトンはデイヴィスの元へ向かう。シンは取り敢えずこのままの航路で進むようツクヨに伝えると、後の行動を確認するためアシュトンの後を追い、デイヴィスと合流する。
「デイヴィスッ!目的地付近で煙を確認。戦闘が行われている可能性がある。このままではこちらの存在を気取られるぞ」
「アンスティスッ・・・。俺達はこのまま目的地へ向かう!アシュトンッ!お前の部隊は潜水艇で回り込み、様子を見てくれ。追ってこちらから合図を送る」
「了解ッ」
デイヴィスの指示を受け、アシュトンは直ぐ様甲板へ出るとそのまま海へと飛び込んで行った。そしてデイヴィスもまた甲板へ出ると、こちらの指示を受け取るため双眼鏡で覗くシンプソンの船員に、少し離れてついて来るよう指示を送る。
「先ずはこの船で様子を見に行く。船が一隻なら相手も油断するはずだ。シンプソンの部隊を後方に配置し、俺達はこのまま目的地へ向かう。既にアシュトンの部隊が先行してくれている。戦闘になったら敵を包囲し、殲滅する。アンスティスの一味を誤射しないように!」
有無を言わさずテキパキと指示を飛ばすデイヴィスの姿に、シン達も自然と彼の指示に従った。それまでの飄々としていた彼から想像もつかぬ統率力。これがかつてのデイヴィス海賊団船長の姿なのだろうかと、彼の背中を見て思うシンだった。
だが、合理的で組織全体としての利益を優先したロバーツのやり方に、彼は疑問を抱き何ども衝突を起こしていたのだという。木を見るのではなく森を見ていたロバーツと、森は木によって成り立っていると考えていたアンスティスでは、互いの意思が交わらぬのは当然のことと言えるだろう。
その噂は、かつての仲間伝いにアシュトンの耳にも届いていた。何度かアンスティスを諭すような手紙を送ったが、彼がそれを受け入れることはなかった。後に彼はロバーツ海賊団を離れ、自身と考えを共にする者達とアンスティス海賊団を結成。
ロバーツと対立することこそなかったものの、ロバーツの元を離れた者の多くがアンスティスを頼り、彼の元に少しずつ集まっていたのだという。当然、その中にはロバーツに対し、良くない感情を抱く者もいたが、アンスティスはもう彼に関わるなと仲間達をロバーツから遠ざけていたそうだ。
そして今回のデイヴィスによる招集の話が上がった時、アシュトンはロバーツとアンスティスの接触を気にしていたのだ。何か大きな目的を果たそうとする時に、身内間で問題を抱えていては、いざと言う時に致命的な事故が起こることを懸念していたのだ。
「奴の人間性自体は問題ないのだが・・・。部下達の抱える問題が今も残っているのだとしたら、少し危険かもしれない。そんなところだ・・・」
「個人ではなく、組織としての彼らに何か問題がある・・・と?」
ロバーツのことについて話していなかったと、アシュトンは先程の発言だけでは誤解を生んでしまったと、少し訂正を入れる。だが彼の口にした名前はあまりにも有名だったようで、ツクヨもまた現実世界での知識としてその名を知っていた。
「・・・すまない、少し語弊があったようだ。アンスティスはデイヴィスに対し友好的であることに違いはない。他の仲間であるロバーツという男と、少し因縁があるのだ」
「ロバーツ・・・?あの、バーソロミュー・ロバーツのことですか!?」
「なんだ、知っていたのか?」
しかし、何かに気づいたような反応を示したツクヨが、慌てて視線をシンに送る。その様子からシンは、彼が現実世界での知識をこの世界の住人に話していいものなのかを尋ねるような顔だと、すぐに悟る。
だがこの世界では、単純に同一の名前が使われているだけで現実での知識と合致していると言われれば、そうとは限らない。人物によっては史実になぞった逸話があったりするのだろうが、基本的には別人と思っていいだろう。
アシュトンに感づかれないよう、小さく首を横に振るシン。それを見てツクヨは上手くその事を誤魔化すように動く。その点の臨機応変さは、流石年上の社会人といったところだろうか。相手の意図を汲み、顔色を伺うのは彼らの住む世界の、国柄の特徴だろうか。
「開会式の会場で耳にしたんですよ。か・・・彼もこのレースでは有力な海賊団の一つだって!」
「流石はロバーツといったところか。良くも悪くも、その名は海賊界隈では少し目立ち過ぎているのかもしれないな・・・」
キングやチン・シー達レースの常連組という括りではなく、海賊の世界で名の知れているロバーツ。友好関係も広いが、その分恨みを買うこともあるだろう。彼の首を狙ってレースに参加したという者も少なからずいるに違いない。
キング暗殺計画の前に、ロバーツの周辺で問題が起こっていなければ良いのだが。アシュトンの問いを上手く躱し、何とか話を終えたツクヨは、船の進路上に何やら煙のようなものが上がっているのを視界に捉える。
「あれは・・・」
彼の反応に、何事かと顔を上げ進路上を確認するアシュトン。すると、その煙がデイヴィスやアシュトンの指示した次なる目的地。話題に上がっていたアンスティスと合流する島付近である事を悟る。
「我々の次の目的地だ。僅かに音も聞こえる・・・。戦いが行われているかも知れんぞ!」
すぐに部屋を飛び出したアシュトンはデイヴィスの元へ向かう。シンは取り敢えずこのままの航路で進むようツクヨに伝えると、後の行動を確認するためアシュトンの後を追い、デイヴィスと合流する。
「デイヴィスッ!目的地付近で煙を確認。戦闘が行われている可能性がある。このままではこちらの存在を気取られるぞ」
「アンスティスッ・・・。俺達はこのまま目的地へ向かう!アシュトンッ!お前の部隊は潜水艇で回り込み、様子を見てくれ。追ってこちらから合図を送る」
「了解ッ」
デイヴィスの指示を受け、アシュトンは直ぐ様甲板へ出るとそのまま海へと飛び込んで行った。そしてデイヴィスもまた甲板へ出ると、こちらの指示を受け取るため双眼鏡で覗くシンプソンの船員に、少し離れてついて来るよう指示を送る。
「先ずはこの船で様子を見に行く。船が一隻なら相手も油断するはずだ。シンプソンの部隊を後方に配置し、俺達はこのまま目的地へ向かう。既にアシュトンの部隊が先行してくれている。戦闘になったら敵を包囲し、殲滅する。アンスティスの一味を誤射しないように!」
有無を言わさずテキパキと指示を飛ばすデイヴィスの姿に、シン達も自然と彼の指示に従った。それまでの飄々としていた彼から想像もつかぬ統率力。これがかつてのデイヴィス海賊団船長の姿なのだろうかと、彼の背中を見て思うシンだった。
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