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逸話の暗殺者
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潜水艇から別の者が現れる。デイヴィスにアシュトンと呼ばれる男に、何やらジェスチャーをしているようだ。それを見てアシュトンもジャスチャーで返すと、潜水艇から出て来た者は再び船へと戻って行く。
「デイヴィス、アンタが来る少し前にこの島に来た俺達は、先客の海賊を殲滅していた。戦闘が終了して間も無く、仲間が複数の船がこちらへ向かっているのを察知した。休む間も無い連戦は流石にキツくてな・・・。一旦、海中へ身を隠し隙を伺おうとしてたんだ」
「なるほど。この財宝やアイテムの多さは、その海賊団の戦利品だったって訳か。横取りしちまうような真似して悪かったな」
シン達一行が島に訪れる前に、既に戦闘は行われていた。少し前とは言っていたが、一体どれくらい前の出来事なのだろうか。次の島を目指している間、シン達には戦火の音や人の声などは聞こえてこなかった。
共に帆を進めていたシンプソン海賊団からも、そのような報告は回っていない。だが大きな音も立てず、ここまで海賊船をバラバラに出来るのだろうか。それとも彼らにはそれが出来る手段でもあるとでも言うのか。
ここまでの経緯をデイヴィスに語ったアシュトンは、シンの方を見ながら彼が何者であるかを尋ねる。シンプソンの時と同様、シンがキング暗殺計画の協力者であり、目的の敵船へ潜入するためのキーマンである事を話す。
「そうか・・・。だが、他者を自分の私念に巻き込む事を嫌っていたアンタが、随分と変わったものだな。俺達はともかく、赤の他人にまで協力を乞うとは・・・。角が立つようで申し訳ないが、彼に一体何が出来ると言うのだ?潜入ならアンタの十八番じゃなかったか?」
嘗てのデイヴィスを知る者なら当然の疑問と言えるだろう。忍者のクラスに就いている彼ならば、他人の協力がなくとも十分に気づかれる事なく潜入できそうなものだ。それをわざわざ人数を増やし、目立ちやすくしてまで連れて行こうと言うのだから、余程の能力を持っていると思われても仕方がない。
「確かに潜入は得意だが、相手はあのキングだ・・・。どんな索敵要因を連れているかわからない。乱闘になれば紛れ込んで、誰にも気づかれる事なく潜入できるかも知れねぇと考えていたが、どうも不安ってぇのは拭えねぇものでな・・・」
彼もまた用心深く、慎重な男なのだろう。どんなに万全を期したとしても、本当にそれが一寸の隙もない完全無欠のものであるかを疑ってしまうのだ。だが準備において考え過ぎるということは、何も悪いことではない。
誰しも一度は経験したことがあるだろう。大事な日を控えた前夜に、様々な事を考えてしまい眠れなくなると言う事を。不慮の事故で予定が狂うかも知れない。急な体調不良があるかも知れない。考え始めたらキリがなく、あり得ない事でも起きるのではないかと思い込んでしまう。
デイヴィスもまた、そのタイプの人間であった。嘗て自分の勝手な行動で仲間を危険な目に合わせてしまった彼は、余計にその沼にハマっていた。それに比べれば、一人とは何とも気が楽なものだった。
何があろうと、何が起ころうとそれは自分で判断した事であり、自分で決めた事なのだ。責任は全て自分にある。誰かと居れば、感じる責任というのはその数だけ大きく膨れ上がるもの。
多くの者に救援を送ったり、政府に与する者を刺激し目的の相手に差し向けるなど、多くの人間を動かしたデイヴィスの胸中には、再び嘗ての重圧がのし掛かっていた。
人を惹きつける何かは持っているのだろうが、そういった点ではデイヴィスも普通の人間なのだろうということが伺える。人を導き、引っ張っていくのであればそういった心の持ち用というものも重要なポイントとなるだろう。
よっぽどの天才肌やカリスマ性でもなければ、人は自分と同じ人らしい弱さを目にする事で、彼も自分と同じ人なのだと安心し、支えたいと思うもの。そういった面で、聖都ユスティーチを納めていたシュトラールは、デイヴィスのような人種とは真逆のカリスマ性があったことになる。
自分の信じた道を疑う事なく突き進む、勇ましく堂々としたその後ろ姿に、彼を信じ道を共にする信者達が多くいた。例えそれが正しい道であろうと、間違った道であろうと関係ないのだ。道に迷う者達は、自らの歩みで道を記す悠然たる者を頼りにしてしまうのだから。
「そんな時に風の噂で聞いたのが、彼の存在さ。聞いて驚けよ?何とシンはあの“アサシン“のクラスに就いていたんだ」
「アサシンだと・・・?逸話の中のクラスだと思っていたが・・・まさか実在していたとは・・・」
シンはアシュトンの反応を見て、やはりこの世界では、アサシンのクラスが非常に珍しいものとして扱われているのだと実感した。
「・・・そんなに珍しいものなのか・・・?」
彼は何を言っているのだといった様子で、アシュトンがデイヴィスの方を見る。両手を身体の横に広げ、頭を傾げながら肩を軽く持ち上げるデイヴィス。
「寧ろアンタは、どうやってアサシンになったのだ・・・?」
正直に答えたところで、彼らは信じてくれるのだろうか。他のクラスと同じように、アサシンギルドというものが各地に点在しており、他にも多くの人々がアサシンのクラスに就いていたのだと。
アサシンの他にも、珍しいクラスというものは存在するようで、グレイスの“裁定者“は特殊なアイテム“アストレアの天秤“というものを手にする事で就くことの出来る変わったクラスであり、チン・シーのクラス“リンカー“もまた特殊な方法でしか就くことの出来ないクラスである。
故に彼らも、この世界から消滅したクラスであるという認識ではないようでもあった。これならば少しは、他のアサシンがいるであろう可能性も期待できるだろうか。
「デイヴィス、アンタが来る少し前にこの島に来た俺達は、先客の海賊を殲滅していた。戦闘が終了して間も無く、仲間が複数の船がこちらへ向かっているのを察知した。休む間も無い連戦は流石にキツくてな・・・。一旦、海中へ身を隠し隙を伺おうとしてたんだ」
「なるほど。この財宝やアイテムの多さは、その海賊団の戦利品だったって訳か。横取りしちまうような真似して悪かったな」
シン達一行が島に訪れる前に、既に戦闘は行われていた。少し前とは言っていたが、一体どれくらい前の出来事なのだろうか。次の島を目指している間、シン達には戦火の音や人の声などは聞こえてこなかった。
共に帆を進めていたシンプソン海賊団からも、そのような報告は回っていない。だが大きな音も立てず、ここまで海賊船をバラバラに出来るのだろうか。それとも彼らにはそれが出来る手段でもあるとでも言うのか。
ここまでの経緯をデイヴィスに語ったアシュトンは、シンの方を見ながら彼が何者であるかを尋ねる。シンプソンの時と同様、シンがキング暗殺計画の協力者であり、目的の敵船へ潜入するためのキーマンである事を話す。
「そうか・・・。だが、他者を自分の私念に巻き込む事を嫌っていたアンタが、随分と変わったものだな。俺達はともかく、赤の他人にまで協力を乞うとは・・・。角が立つようで申し訳ないが、彼に一体何が出来ると言うのだ?潜入ならアンタの十八番じゃなかったか?」
嘗てのデイヴィスを知る者なら当然の疑問と言えるだろう。忍者のクラスに就いている彼ならば、他人の協力がなくとも十分に気づかれる事なく潜入できそうなものだ。それをわざわざ人数を増やし、目立ちやすくしてまで連れて行こうと言うのだから、余程の能力を持っていると思われても仕方がない。
「確かに潜入は得意だが、相手はあのキングだ・・・。どんな索敵要因を連れているかわからない。乱闘になれば紛れ込んで、誰にも気づかれる事なく潜入できるかも知れねぇと考えていたが、どうも不安ってぇのは拭えねぇものでな・・・」
彼もまた用心深く、慎重な男なのだろう。どんなに万全を期したとしても、本当にそれが一寸の隙もない完全無欠のものであるかを疑ってしまうのだ。だが準備において考え過ぎるということは、何も悪いことではない。
誰しも一度は経験したことがあるだろう。大事な日を控えた前夜に、様々な事を考えてしまい眠れなくなると言う事を。不慮の事故で予定が狂うかも知れない。急な体調不良があるかも知れない。考え始めたらキリがなく、あり得ない事でも起きるのではないかと思い込んでしまう。
デイヴィスもまた、そのタイプの人間であった。嘗て自分の勝手な行動で仲間を危険な目に合わせてしまった彼は、余計にその沼にハマっていた。それに比べれば、一人とは何とも気が楽なものだった。
何があろうと、何が起ころうとそれは自分で判断した事であり、自分で決めた事なのだ。責任は全て自分にある。誰かと居れば、感じる責任というのはその数だけ大きく膨れ上がるもの。
多くの者に救援を送ったり、政府に与する者を刺激し目的の相手に差し向けるなど、多くの人間を動かしたデイヴィスの胸中には、再び嘗ての重圧がのし掛かっていた。
人を惹きつける何かは持っているのだろうが、そういった点ではデイヴィスも普通の人間なのだろうということが伺える。人を導き、引っ張っていくのであればそういった心の持ち用というものも重要なポイントとなるだろう。
よっぽどの天才肌やカリスマ性でもなければ、人は自分と同じ人らしい弱さを目にする事で、彼も自分と同じ人なのだと安心し、支えたいと思うもの。そういった面で、聖都ユスティーチを納めていたシュトラールは、デイヴィスのような人種とは真逆のカリスマ性があったことになる。
自分の信じた道を疑う事なく突き進む、勇ましく堂々としたその後ろ姿に、彼を信じ道を共にする信者達が多くいた。例えそれが正しい道であろうと、間違った道であろうと関係ないのだ。道に迷う者達は、自らの歩みで道を記す悠然たる者を頼りにしてしまうのだから。
「そんな時に風の噂で聞いたのが、彼の存在さ。聞いて驚けよ?何とシンはあの“アサシン“のクラスに就いていたんだ」
「アサシンだと・・・?逸話の中のクラスだと思っていたが・・・まさか実在していたとは・・・」
シンはアシュトンの反応を見て、やはりこの世界では、アサシンのクラスが非常に珍しいものとして扱われているのだと実感した。
「・・・そんなに珍しいものなのか・・・?」
彼は何を言っているのだといった様子で、アシュトンがデイヴィスの方を見る。両手を身体の横に広げ、頭を傾げながら肩を軽く持ち上げるデイヴィス。
「寧ろアンタは、どうやってアサシンになったのだ・・・?」
正直に答えたところで、彼らは信じてくれるのだろうか。他のクラスと同じように、アサシンギルドというものが各地に点在しており、他にも多くの人々がアサシンのクラスに就いていたのだと。
アサシンの他にも、珍しいクラスというものは存在するようで、グレイスの“裁定者“は特殊なアイテム“アストレアの天秤“というものを手にする事で就くことの出来る変わったクラスであり、チン・シーのクラス“リンカー“もまた特殊な方法でしか就くことの出来ないクラスである。
故に彼らも、この世界から消滅したクラスであるという認識ではないようでもあった。これならば少しは、他のアサシンがいるであろう可能性も期待できるだろうか。
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