World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
418 / 1,646

消えたギルド

しおりを挟む
 一行は船で待つ仲間の元へと歩みを進める。途中、シンは自分の拘束スキルから抜け出したことについて、デイヴィスへ尋ねた。それは彼にとって見覚えのあるスキルだったからだ。アサシンのクラスへクラスチェンジする過程で身につけるスキル。それをデイヴィスが習得していたことになる。

 「アンタ・・・シーフのクラスなのか?」

 「ん?・・・あぁ、罠抜けのスキルのことか?ははは!懐かしそうな顔をしているな。アンタの想像している通りだよ。俺は以前シーフのクラスに就いていたからな」

 罠抜けのスキルは、盗賊やシーフのクラスで身につけることとなる基礎スキルの内の一つ。その名の通りトラップや相手の拘束から抜け出すことの出来るスキルで、先程のデイヴィスのように敵を出し抜いたり、潜入の為敢えて捕まり捕虜を開放するなど、単純でありながら様々な使い方が出来る便利なものだ。

 だが、彼の言葉から更なる情報を得ることができた。残念ながらシンの予想していたクラスとは違ったが、どうやらシンのクラスに近しいものであることが分かった。このまま道すがら彼の事を聞き出しておかねばと会話を進める。

 「就いていた・・・?今は違うということか?」

 協力する上で、味方が何が出来るのかというのは最も大切だと言っても過言ではないだろう。デイヴィスはシン達の大方のクラスを把握しているようだが、シン達は彼の事を知らない。正式に協力を決断したら、彼の口から語られることかもしれないが、決定権を委ねられたシンにとっては彼から得られる情報も判断材料になる。

 「そうだ。俺のクラスは“忍者“。アンタのアサシンと近いクラスだな」

 「だから罠抜けが・・・。ということは、俺と基礎スキルは大体同じという訳か・・・」

 シンとデイヴィスのクラスは、基礎的な部分ではほとんど大差はない。だが成長すればする程、その違いが現れてくる。シンのクラスであるアサシンは、より暗殺やバックアタック、クリティカル攻撃や弱点部位の特定などに特化した物理よりのクラス。

 デイヴィスのクラスである忍者は、忍術による属性攻撃や自身と味方、それぞれでサポート可能な補助スキルなど、より魔力に依存した謂わば魔法職に近いクラスになる。

 上位のクラスへクラスチェンジする為、経て来た過程が同じであっても行き着く場所が違へば、その基礎スキルの応用方法も変わってくる。例えばシンのクラスであるアサシンが手裏剣を投げれば、それは投げ方や方向によってある程度軌道が予測できる。

 しかしデイヴィスの忍者であれば、風の魔力を込める風遁を使い軌道をズラすことが出来る他、刃の部分を風の魔力で延長し攻撃範囲を広げることも出来る。逆にシンであれば手裏剣の到達箇所に影を仕込むことで、相手の視界外の場所から攻撃を当てることが可能になる。

 「だから、アンタがアサシンのクラスであると聞いた時は驚いたよ。俺がクラスチェンジする頃には既に、アサシンのギルドの噂を聞かなくなっていたもんだからな・・・。それもあって俺は・・・」

 デイヴィス隠すこともなく自らのクラスを明かしてくれた。本来であればシンの決断を待ってから明かすべき所を、彼は敢えて自らの情報を提示することでシン達の信用を得ようとしていたのかもしれない。

 だが、彼の情報の中にはシンが疑問に思っていたことに対するヒントが含まれていた。それはアサシンギルドの情報。デイヴィスがいつ頃から忍者のクラスに就いたのかは分からないが、どうやらシン達が送り込まれた世界はVRMMOのWoFとは違う部分がこれまでだけでも多く見られる。

 その中でもシンが気にしていたこと。このWoFによく似た世界では、アサシンギルドの所在が掴めないということ。何処の街や村を訪れようと誰からも有益な情報を得ることは出来ず、人の往来が多い聖都ユスティーチであっても、誰もアサシンギルドの事を知らなかったのだ。

 そして大陸間の情報伝達の多い港町グラン・ヴァーグでも、そのクラス特有のクエストやスキルの習得、専用装備などを得ることのできるギルドの情報は得られなかった。

 漸く知ることが出来た情報といえば、今まさに目の前の男の口から語られた、“アサシンギルドの噂を聞かなくなった“という情報だけ。そして不可解な点はもう一つある。この世界にアサシンギルドの情報が無い代わりに、シン達の元いた世界である現実の世界には、そのアサシンギルドが存在しているということだ。

 まだ現実の世界に起きている異変について、詳しく調べた訳でも聞いた訳でも無いが、もしも現実の世界にあるギルドが、シンのクラスであるアサシンのギルドだけだとしたら。この世界にアサシンギルドが無いことも納得がいく。

 「・・・ッ、・・・おいッ!どうした?急に考え込んで・・・。俺の話が退屈だったか?」

 デイヴィスの言葉で我に帰るシン。その様子を不思議そうに眺めるデイヴィスと、先頭を歩くミアが何か情報を掴んだのかという目で訴えかけてくる。二人の思惑とは全く別のことで考え込んでいたシンは、その場を上手く誤魔化し船への帰路へと意識を戻す。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...