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死地への誘い
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レース初参加のシンとミアには、その服装や海賊旗のマークでは何処の海賊かまでは分からない。だが、この者達がこぞって使っていた武器は、その殆どが弓矢であった。印象としては、海賊というよりもどこかの部族のように感じる風貌と、弓術のスキルを垣間見た。
「見たことのねぇ装いだな・・・。お前ら海賊じゃぁねぇな?」
「・・・・・」
デイヴィスの質問に、男達は揃って口を継ぐんでいた。言葉が通じないというよりも、身元を明かすのを躊躇っているような、そんな様子だった。
そしてデイヴィスの言葉から、彼もまたこの者達が何者であるかを知らないようだ。ミアが一人、撃ち殺したことへの反応からも、これが演技でないことが窺える。彼の言っていた通り、ただの後続組による襲撃だったのだろうか。
「海上での戦闘ではなく、わざわざ島にいる俺達を襲撃したってことは、船での戦闘は不慣れなのか・・・それとも武装船じゃぁねぇのか・・・。俺がこの島に辿り着いた時には、既に漁られた後だった。それに人の気配もなくなっていた。その後で島に着いたお前らはこちらの船を確認し、奇襲を仕掛けた・・・」
やはりデイヴィスは、この島で誰か協力関係に持っていける者を待っていたということになる。それが例えシン達ではなく、この者達であっても同じ話を持ちかけたのだろうか。それともやはり、キングと面識のある者で特殊な潜入スキルを有するシンに狙いを定めていたのか。
「この短時間でこれだけの人員配置と奇襲の準備を整えたことには、素直に驚きだ・・・。一応聞き耳を立てていたんだがな。それにも反応しねぇとは・・・。地上戦、それも草木の多い森などの戦闘に長けた者達であると読んだ。どうだ?」
彼はこの者達が、シン達と同様レース初参加者であると見抜いた。それは幾度となくレースに挑んだ彼ならではの勘と、推測による見識によるものだろう。そして、一人の男がデイヴィスの推理を聞き、漸く口を開いた。
「我々は元々、大地を移動し旅する遊牧民だ。だが都市や街の発展により、狩場や交易ルートに規制がかかり、昔のような生き方が出来なくなった・・・。新たな生き方をするには金や権力者達の助力が必要となる。何処ぞの者とも知れぬ無名の我らに、手を差し伸べるような者はいないだろう・・・」
この者達の話を聞いてシンは、ツバキと似たような理由でレースへ参加する者の話を始めて聞くことになった。レースを見に来ている者や、そのスポンサーの中には交渉を目的とする組織の権力者や、武術や戦術を見て自軍へのスカウトをする者などもいる。
時代の変化と共に、生き方を変えねば成らぬ者や、世界へと飛び出そうとする者。そう言った者達にとってこのレースは、人生を変える大きな舞台であることを再認識させられた。
「故に賞金か、或いは権力者の力添えが必要なのだ。だが船による海上戦など、我々には到底できるものではない・・・。だから島に入り込んだ者達を狙ったり、待ち伏せをして我らの土俵へと引き摺り込んで戦っていた。それが・・・、まさかこんな少人数に制圧されるとは・・・」
シン達を襲撃した方法で、彼らは序盤を乗り越えここまでやって来たのだ。何組かの海賊達をこの戦法でねじ伏せてきたに違いない。だが、シン達もまた幾度となく死地を乗り越えて来た。
未知なるクラスやスキル、能力による強力な攻撃に比べればただの連携や熟練度の高い武術では、物怖じしなくなっていた。最初にWoFの世界へ来た時の、通常モンスターに恐怖を感じていた頃が懐かしい。
「そうか・・・。まぁ俺らもお前達を殲滅する気などない。ここは互いに矛を納め、なかったことにしようじゃぁねぇか。これ以上の犠牲なんて望んじゃいねぇだろ?」
一見、穏やかな解決案のように聞こえるが、こちらは彼らのボスらしき人物を一人殺害している。しかし、たったの三人で制圧する程の力量さを見せつけたことで、彼らの戦闘意欲を削ぎ、見逃して貰えることが好条件に思えるようになっていることだろう。
特に抵抗し争う様子を見せない彼らに、デイヴィスはシン達にも持ち掛けたある計画へ誘う。
「なぁ、お前らの存在を世界へ見せつける、丁度良い活躍の場を俺達が提供できるんだが・・・どうだ?ちょっと話を聞いていかねぇか?」
倒れていた彼らは立ち上がり、捨てた武器を持ちその場を去ろうとしていたが、デイヴィスの誘いに一同足を止める。そしてデイヴィスに身の上話をしていた一人の男が、少し強張った様子で興味を示すように応える。
「・・・それは、見逃す代わりに我らに協力しろと・・・。そういう事か?」
「いやいや、お前達の見逃しは無条件さ。これは俺からの提案だ。嫌ならそれはそれで構わねぇ。・・・だが、お前さんの話を聞いて力になれるかと思っただけさ」
デイヴィスの言葉に、他の者達と視線を合わせアイコンタクトを取ると、再び振り返り彼の申し出に返事をする。
「・・・話だけは聞いてみよう・・・」
そしてデイヴィスは彼らを集め、シン達にも話したキング暗殺計画について話した。だが先程の話よりも、より仲間がいることや政府に繋がりのある協力者がいることを強調して話し、危険であることを上手く誤魔化そうとしているようだった。
一通りの話を終え、彼らの中でデイヴィスの提案を吟味すると、それほど言い争うこともなく、すんなりと満場一致になったようで、代表の男がデイヴィスへ提案の返事をする。
「悪いがその話には乗れないな・・・」
「おいおい!何故だ!?他にも大勢仲間はいるんだ。それに奴に恨みを持っている者も多い。そいつらと結託すりゃぁ危ねぇ橋じゃねぇ筈だろ?」
それでも彼らの総意は変わることなく、ただただ無言で首を横に振るのみであった。確かにデイヴィスの言う通り、別の角度から話を聞けば、無茶をしない限り安全に活躍を見せつけることが出来る良い舞台のように感じる。
なのに首を縦に振らないのは、彼らが目先の利益に目を眩ませ仲間を危険に晒す愚か者でない証拠なのだ。彼らは冷静だった。確かにデイヴィスの申し出は、彼らの人生を変えるかも知れない一発逆転の大舞台であるが、ちゃんとそのリスクをも見据えていた。
「シー・ギャングは・・・キングは決して侮っては成らぬ男だ。海に生きる者でなくても、それぐらいのことは心得ている。例え今見ている我々の景色が一変しようと、足を踏み入れては成らぬ橋であることに変わりはない。我々は自分達の力で生き方を選ぶ。お前の話には乗れない・・・」
そう言い残し、彼らはデイヴィスに背を向けその場を立ち去っていく。そして彼らの最後の台詞が、シンとミアの心にも暗い影を落とす。
「見たことのねぇ装いだな・・・。お前ら海賊じゃぁねぇな?」
「・・・・・」
デイヴィスの質問に、男達は揃って口を継ぐんでいた。言葉が通じないというよりも、身元を明かすのを躊躇っているような、そんな様子だった。
そしてデイヴィスの言葉から、彼もまたこの者達が何者であるかを知らないようだ。ミアが一人、撃ち殺したことへの反応からも、これが演技でないことが窺える。彼の言っていた通り、ただの後続組による襲撃だったのだろうか。
「海上での戦闘ではなく、わざわざ島にいる俺達を襲撃したってことは、船での戦闘は不慣れなのか・・・それとも武装船じゃぁねぇのか・・・。俺がこの島に辿り着いた時には、既に漁られた後だった。それに人の気配もなくなっていた。その後で島に着いたお前らはこちらの船を確認し、奇襲を仕掛けた・・・」
やはりデイヴィスは、この島で誰か協力関係に持っていける者を待っていたということになる。それが例えシン達ではなく、この者達であっても同じ話を持ちかけたのだろうか。それともやはり、キングと面識のある者で特殊な潜入スキルを有するシンに狙いを定めていたのか。
「この短時間でこれだけの人員配置と奇襲の準備を整えたことには、素直に驚きだ・・・。一応聞き耳を立てていたんだがな。それにも反応しねぇとは・・・。地上戦、それも草木の多い森などの戦闘に長けた者達であると読んだ。どうだ?」
彼はこの者達が、シン達と同様レース初参加者であると見抜いた。それは幾度となくレースに挑んだ彼ならではの勘と、推測による見識によるものだろう。そして、一人の男がデイヴィスの推理を聞き、漸く口を開いた。
「我々は元々、大地を移動し旅する遊牧民だ。だが都市や街の発展により、狩場や交易ルートに規制がかかり、昔のような生き方が出来なくなった・・・。新たな生き方をするには金や権力者達の助力が必要となる。何処ぞの者とも知れぬ無名の我らに、手を差し伸べるような者はいないだろう・・・」
この者達の話を聞いてシンは、ツバキと似たような理由でレースへ参加する者の話を始めて聞くことになった。レースを見に来ている者や、そのスポンサーの中には交渉を目的とする組織の権力者や、武術や戦術を見て自軍へのスカウトをする者などもいる。
時代の変化と共に、生き方を変えねば成らぬ者や、世界へと飛び出そうとする者。そう言った者達にとってこのレースは、人生を変える大きな舞台であることを再認識させられた。
「故に賞金か、或いは権力者の力添えが必要なのだ。だが船による海上戦など、我々には到底できるものではない・・・。だから島に入り込んだ者達を狙ったり、待ち伏せをして我らの土俵へと引き摺り込んで戦っていた。それが・・・、まさかこんな少人数に制圧されるとは・・・」
シン達を襲撃した方法で、彼らは序盤を乗り越えここまでやって来たのだ。何組かの海賊達をこの戦法でねじ伏せてきたに違いない。だが、シン達もまた幾度となく死地を乗り越えて来た。
未知なるクラスやスキル、能力による強力な攻撃に比べればただの連携や熟練度の高い武術では、物怖じしなくなっていた。最初にWoFの世界へ来た時の、通常モンスターに恐怖を感じていた頃が懐かしい。
「そうか・・・。まぁ俺らもお前達を殲滅する気などない。ここは互いに矛を納め、なかったことにしようじゃぁねぇか。これ以上の犠牲なんて望んじゃいねぇだろ?」
一見、穏やかな解決案のように聞こえるが、こちらは彼らのボスらしき人物を一人殺害している。しかし、たったの三人で制圧する程の力量さを見せつけたことで、彼らの戦闘意欲を削ぎ、見逃して貰えることが好条件に思えるようになっていることだろう。
特に抵抗し争う様子を見せない彼らに、デイヴィスはシン達にも持ち掛けたある計画へ誘う。
「なぁ、お前らの存在を世界へ見せつける、丁度良い活躍の場を俺達が提供できるんだが・・・どうだ?ちょっと話を聞いていかねぇか?」
倒れていた彼らは立ち上がり、捨てた武器を持ちその場を去ろうとしていたが、デイヴィスの誘いに一同足を止める。そしてデイヴィスに身の上話をしていた一人の男が、少し強張った様子で興味を示すように応える。
「・・・それは、見逃す代わりに我らに協力しろと・・・。そういう事か?」
「いやいや、お前達の見逃しは無条件さ。これは俺からの提案だ。嫌ならそれはそれで構わねぇ。・・・だが、お前さんの話を聞いて力になれるかと思っただけさ」
デイヴィスの言葉に、他の者達と視線を合わせアイコンタクトを取ると、再び振り返り彼の申し出に返事をする。
「・・・話だけは聞いてみよう・・・」
そしてデイヴィスは彼らを集め、シン達にも話したキング暗殺計画について話した。だが先程の話よりも、より仲間がいることや政府に繋がりのある協力者がいることを強調して話し、危険であることを上手く誤魔化そうとしているようだった。
一通りの話を終え、彼らの中でデイヴィスの提案を吟味すると、それほど言い争うこともなく、すんなりと満場一致になったようで、代表の男がデイヴィスへ提案の返事をする。
「悪いがその話には乗れないな・・・」
「おいおい!何故だ!?他にも大勢仲間はいるんだ。それに奴に恨みを持っている者も多い。そいつらと結託すりゃぁ危ねぇ橋じゃねぇ筈だろ?」
それでも彼らの総意は変わることなく、ただただ無言で首を横に振るのみであった。確かにデイヴィスの言う通り、別の角度から話を聞けば、無茶をしない限り安全に活躍を見せつけることが出来る良い舞台のように感じる。
なのに首を縦に振らないのは、彼らが目先の利益に目を眩ませ仲間を危険に晒す愚か者でない証拠なのだ。彼らは冷静だった。確かにデイヴィスの申し出は、彼らの人生を変えるかも知れない一発逆転の大舞台であるが、ちゃんとそのリスクをも見据えていた。
「シー・ギャングは・・・キングは決して侮っては成らぬ男だ。海に生きる者でなくても、それぐらいのことは心得ている。例え今見ている我々の景色が一変しようと、足を踏み入れては成らぬ橋であることに変わりはない。我々は自分達の力で生き方を選ぶ。お前の話には乗れない・・・」
そう言い残し、彼らはデイヴィスに背を向けその場を立ち去っていく。そして彼らの最後の台詞が、シンとミアの心にも暗い影を落とす。
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