World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
416 / 1,646

死地への誘い

しおりを挟む
 レース初参加のシンとミアには、その服装や海賊旗のマークでは何処の海賊かまでは分からない。だが、この者達がこぞって使っていた武器は、その殆どが弓矢であった。印象としては、海賊というよりもどこかの部族のように感じる風貌と、弓術のスキルを垣間見た。

 「見たことのねぇ装いだな・・・。お前ら海賊じゃぁねぇな?」

 「・・・・・」

 デイヴィスの質問に、男達は揃って口を継ぐんでいた。言葉が通じないというよりも、身元を明かすのを躊躇っているような、そんな様子だった。

 そしてデイヴィスの言葉から、彼もまたこの者達が何者であるかを知らないようだ。ミアが一人、撃ち殺したことへの反応からも、これが演技でないことが窺える。彼の言っていた通り、ただの後続組による襲撃だったのだろうか。

 「海上での戦闘ではなく、わざわざ島にいる俺達を襲撃したってことは、船での戦闘は不慣れなのか・・・それとも武装船じゃぁねぇのか・・・。俺がこの島に辿り着いた時には、既に漁られた後だった。それに人の気配もなくなっていた。その後で島に着いたお前らはこちらの船を確認し、奇襲を仕掛けた・・・」

 やはりデイヴィスは、この島で誰か協力関係に持っていける者を待っていたということになる。それが例えシン達ではなく、この者達であっても同じ話を持ちかけたのだろうか。それともやはり、キングと面識のある者で特殊な潜入スキルを有するシンに狙いを定めていたのか。

 「この短時間でこれだけの人員配置と奇襲の準備を整えたことには、素直に驚きだ・・・。一応聞き耳を立てていたんだがな。それにも反応しねぇとは・・・。地上戦、それも草木の多い森などの戦闘に長けた者達であると読んだ。どうだ?」

 彼はこの者達が、シン達と同様レース初参加者であると見抜いた。それは幾度となくレースに挑んだ彼ならではの勘と、推測による見識によるものだろう。そして、一人の男がデイヴィスの推理を聞き、漸く口を開いた。

 「我々は元々、大地を移動し旅する遊牧民だ。だが都市や街の発展により、狩場や交易ルートに規制がかかり、昔のような生き方が出来なくなった・・・。新たな生き方をするには金や権力者達の助力が必要となる。何処ぞの者とも知れぬ無名の我らに、手を差し伸べるような者はいないだろう・・・」

 この者達の話を聞いてシンは、ツバキと似たような理由でレースへ参加する者の話を始めて聞くことになった。レースを見に来ている者や、そのスポンサーの中には交渉を目的とする組織の権力者や、武術や戦術を見て自軍へのスカウトをする者などもいる。

 時代の変化と共に、生き方を変えねば成らぬ者や、世界へと飛び出そうとする者。そう言った者達にとってこのレースは、人生を変える大きな舞台であることを再認識させられた。

 「故に賞金か、或いは権力者の力添えが必要なのだ。だが船による海上戦など、我々には到底できるものではない・・・。だから島に入り込んだ者達を狙ったり、待ち伏せをして我らの土俵へと引き摺り込んで戦っていた。それが・・・、まさかこんな少人数に制圧されるとは・・・」

 シン達を襲撃した方法で、彼らは序盤を乗り越えここまでやって来たのだ。何組かの海賊達をこの戦法でねじ伏せてきたに違いない。だが、シン達もまた幾度となく死地を乗り越えて来た。

 未知なるクラスやスキル、能力による強力な攻撃に比べればただの連携や熟練度の高い武術では、物怖じしなくなっていた。最初にWoFの世界へ来た時の、通常モンスターに恐怖を感じていた頃が懐かしい。

 「そうか・・・。まぁ俺らもお前達を殲滅する気などない。ここは互いに矛を納め、なかったことにしようじゃぁねぇか。これ以上の犠牲なんて望んじゃいねぇだろ?」

 一見、穏やかな解決案のように聞こえるが、こちらは彼らのボスらしき人物を一人殺害している。しかし、たったの三人で制圧する程の力量さを見せつけたことで、彼らの戦闘意欲を削ぎ、見逃して貰えることが好条件に思えるようになっていることだろう。

 特に抵抗し争う様子を見せない彼らに、デイヴィスはシン達にも持ち掛けたある計画へ誘う。

 「なぁ、お前らの存在を世界へ見せつける、丁度良い活躍の場を俺達が提供できるんだが・・・どうだ?ちょっと話を聞いていかねぇか?」

 倒れていた彼らは立ち上がり、捨てた武器を持ちその場を去ろうとしていたが、デイヴィスの誘いに一同足を止める。そしてデイヴィスに身の上話をしていた一人の男が、少し強張った様子で興味を示すように応える。

 「・・・それは、見逃す代わりに我らに協力しろと・・・。そういう事か?」

 「いやいや、お前達の見逃しは無条件さ。これは俺からの提案だ。嫌ならそれはそれで構わねぇ。・・・だが、お前さんの話を聞いて力になれるかと思っただけさ」

 デイヴィスの言葉に、他の者達と視線を合わせアイコンタクトを取ると、再び振り返り彼の申し出に返事をする。

 「・・・話だけは聞いてみよう・・・」

 そしてデイヴィスは彼らを集め、シン達にも話したキング暗殺計画について話した。だが先程の話よりも、より仲間がいることや政府に繋がりのある協力者がいることを強調して話し、危険であることを上手く誤魔化そうとしているようだった。

 一通りの話を終え、彼らの中でデイヴィスの提案を吟味すると、それほど言い争うこともなく、すんなりと満場一致になったようで、代表の男がデイヴィスへ提案の返事をする。

 「悪いがその話には乗れないな・・・」

 「おいおい!何故だ!?他にも大勢仲間はいるんだ。それに奴に恨みを持っている者も多い。そいつらと結託すりゃぁ危ねぇ橋じゃねぇ筈だろ?」

 それでも彼らの総意は変わることなく、ただただ無言で首を横に振るのみであった。確かにデイヴィスの言う通り、別の角度から話を聞けば、無茶をしない限り安全に活躍を見せつけることが出来る良い舞台のように感じる。

 なのに首を縦に振らないのは、彼らが目先の利益に目を眩ませ仲間を危険に晒す愚か者でない証拠なのだ。彼らは冷静だった。確かにデイヴィスの申し出は、彼らの人生を変えるかも知れない一発逆転の大舞台であるが、ちゃんとそのリスクをも見据えていた。

 「シー・ギャングは・・・キングは決して侮っては成らぬ男だ。海に生きる者でなくても、それぐらいのことは心得ている。例え今見ている我々の景色が一変しようと、足を踏み入れては成らぬ橋であることに変わりはない。我々は自分達の力で生き方を選ぶ。お前の話には乗れない・・・」

 そう言い残し、彼らはデイヴィスに背を向けその場を立ち去っていく。そして彼らの最後の台詞が、シンとミアの心にも暗い影を落とす。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...