World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
406 / 1,646

トドメの一撃

しおりを挟む
 シンのおかげで、無事にロロネーの意識の中へと潜り込むことが出来たチン・シー。彼女の計らいにより、煙に巻かれた中でロロネー位置を探知することが出来た。これは彼女のリンク能力を普段から使用している、チン・シー海賊団の一味であることが大きく左右している。

 通常、リンクとは対象に接続し様々なものを共有する能力だが、日頃から多くの戦いの中でチン・シーとリンクして来たハオランやシュユー達は、彼女のリンク能力を感じ取ることが出来るようになったいた。

 リンク無しに言葉をやり取りすることは出来ないが、彼女が何かを発していることぐらいは感じ取ることが出来る。故に、爆風と煙の中でハオランは、迫りくるロロネーの気配に気づき、反撃の動きをとることが出来ていたのだ。

 「ロロネーよ、お前の悪事もここまでよ・・・」

 「その声は・・・、チン・シー・・・?何故だ、何処にいる?」

 まるで幻聴でも聴いているかのように、フラフラと歩き始め周囲を見渡すロロネー。ハオランの暗器による一撃は、その衰弱した身体に深く染み渡り、それまでの勢いを一気に削り取るものとなった。

 「そこに居られたのですか・・・。なるほど、だからシンさんはあんなことを・・・」

 シンの言っていたチン・シーの所在。彼女は無事で、まだ戦う意志がある。それはシンのスキルに乗り、ロロネーの意思の中へリンクし、男の内なる者との決着をつけるという意味だった。

 ロロネーの本体をハオランが。内なるロロネーをチン・シーが。双方からこの悪逆非道の道を歩む者を打ち払わんとしていた。憔悴したロロネーにそれを理解することは出来なかった。

 チン・シーは未だ見つからず、船上の何処かに潜んでいるのではないか。そんな幻覚を探し、哀れにも声を上げ続けている。決して見つかることのない、彼女の実像を探して。

 「出てこいッ!コソコソと汚ねぇ真似をしやがって・・・。お前の仕業だろ?俺の身体が思い通りに動かなかったのは・・・」

 「最早これまで・・・。主人よ、この者に引導をくれてやりましょう!」

 これ以上の反撃はない。ハオランは残る全ての力をその拳に乗せ、得意の武術による攻撃の体勢に入る。彼の周りに再び風が巻き起こり、力を貯める拳に光が宿る。それだけ大きな反応を起こしていれば、当然ロロネーも彼の予備動作に気づく。

 だが、ロロネーにこれを避けるだけの余力は残っていない。男は自身に向けられる殺気の中心へ向けて、歩き始める。船上の様子を見に、下の階層からシンが現れ、変わり果てたロロネーの様子を見て勝敗の行方を悟る。

 最早手を貸すまでもないだろう。未だ布都御魂剣の能力を発動し続けているツクヨに、これ以上ロロネーと戦うことは無いと合図を送る。気を張っていたツクヨから肩の力がぬけ、床に深く腰を下ろす。

 「終わった・・・のか?まだロロネーは生きているようだけど・・・」

 「終わらせるのはこれから。次の一撃で最期になるだろう・・・」

 最期になるとは、どちら側のことなのか。それもシンの落ち着いた様子を見れば、自ずと答えは見えて来るだろう。

 それよりもシンが気になったのは、ロロネーの身体に幾つも打ち込まれた手裏剣と、僅かに光りを反射させ漸く視認出来るほどの、細く糸のように伸ばされた鉄線だった。

 見るからに暗殺や不意打ちをするのに適した道具。正しくシンのクラスであるアサシンが使うような暗器そのものだった。何故彼がこんなものを持っているのか。そして何処でその扱い方を覚えたのか。

 もしかしたらハオラン自身、或いはその知り合いにアサシンギルドとの関係があるのではないだろうか。これまで街や村でアサシンギルドを探していたシンだったが、何故か何処にもその所在を知る者はおらず、同じアサシンの者達とも出会わない。

 そもそも、アサシンギルドというものが公に晒されているものでもない、少し特殊なギルドであることも一つの要因となっている。

 ハオランがロロネーを倒した暁には、何かヒントとなるものが得られるかもしれない。シンの中にはそんな期待も生まれ始めていた。

 ロロネーがハオランの間合いに近づく。アサシンのスキルは敵の急所を捉える、謂わばクリティカルを狙った攻撃がメインとなる。ハオランの攻撃にその技術が応用されているのならば、彼の風を纏った武器の効果もあり、想像以上のダメージが入っていることだろう。

 「・・・そんな見え見えの攻撃が、俺に・・・当たるかよッ・・・」

 無言でその時を待つハオラン。そしてロロネーが彼の間合いに、一歩足を踏み入れた瞬間、天をも穿つ程の拳と衝撃波が男の身体を貫いた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...