World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
403 / 1,646

冴える才と第六感

しおりを挟む
 上空のハオランは、下方にいるロロネーに向けて足技を放つ構えを取ると、くるくると空中で身体を回し、その脚に風を纏い始める。そして狙いを定めると、韋駄天の噴出力を加え剣閃が如く素早い足技で、かまいたちのような鋭い衝撃波を幾つも放った。

 ロロネーはたじろぐことなく、大きなダメージとなるものだけを選別し避けると、落ちてくるハオランを迎撃せんと剣を抜く。しかし、ハオランの韋駄天による空中移動を目にしているロロネーは、今度こそ逃さぬと剣を振るう前に反対の手を彼に差し伸ばす。

 「今度は逃さねぇ・・・!」

 するとロロネーの腕から水蒸気が漏れ出す。そして自らの腕を熱の篭った水蒸気に変え、目眩しを兼ねた広範囲攻撃を展開する。一瞬にして姿の見えなくなったロロネー。見失ったハオランは、一先ず水蒸気の範囲から逃れようと、韋駄天による風の噴出で斜め下へと後退する。

 無事、船に着地したハオランが立ち上がろうとしたところ、後方からの殺気に気づき前方へ飛びながら回転し、ロロネーの一閃を間一髪のところで避ける。だが後ろを向いた時には既にロロネーが接近しており、強烈な蹴りをハオランヘ浴びせる。

 辛うじてガードしたハオランだったが、背にした船内へ勢いよく吹き飛ばされていく。木材が砕け、船内の物品が散らばる大きな音を発しながら突き抜けていくハオランを、更に追撃せんとロロネーは変わった体勢を取り始める。

 低く身をかがめ、クラウチングスタートにも似た体勢から、自らの足を水蒸気爆発させ、上半身だけを爆風の勢いに乗せ大砲のようにハオランへと突っ込んでいった。ロロネーの勢いが巻き起こす風に飲まれ、シンとツクヨの身体も外へと吹き飛ばされ船の舷へと、激しく身体を打ちつけられる。

 「なッ・・・!?何て速さだッ!あのパワーでこんな速く動けるのかよッ・・・」

 「うぅッ・・・!私の目なら奴を追えるッ・・・。こんなところで倒れている場合じゃぁ・・・」

 二人とも満身創痍だった。あまりにも激しい二人の戦闘に、まるで竜巻を目の前にしたかのような圧力と風圧に心身共に押し退けられてしまう。

 船内へと蹴り飛ばされたハオランは、その勢いのまま中にある槍を手にすると、窮地に陥ったロロネーがやってみせたように、麻袋を狙い次から次へと鋭い突きを放ち、中身を散らばらせていく。そして韋駄天の風圧で勢いを殺し床に着地すると、追いかけて来るロロネーを迎撃する構えを取る。

 様々なものが風圧で巻き上げられる中を払い除けながら、ハオランの後を追うロロネーは、その先で突如として現れた槍を構える何者かのシルエットに肝を冷やした。しかし、ハオランでなければ警戒するに値しないと、ロロネーはそのシルエットの首を跳ね飛ばそうと剣を振るう。

 しかし、煙の奥から現れたのはハオランだった。予想だにしなかった槍を持つハオランの姿に驚かされたが、付け焼き刃の攻撃など通用する筈がない。何故彼が武器を手にしたのかは気になったが、慣れない武器での攻撃はかえって隙を作るだけと、構わずロロネーは突っ込んでいく。

 「武器を手にするとはッ!そんな付け焼き刃、俺には通用せんぞッ!」

 勢いよく向かって来る圧力とロロネーの挑発に、ハオランは落ち着いた様子で顔を上げる。そして槍を握る手に力が入ると、何やら奥の手でもあるかのような表情で言葉を返した。

 「試してみるか?いくぞッ!昇龍閃 シォン ロン シャンッ!!」

 そして彼は、矛先を床につけた状態から目にも留まらぬ速さで斬り上げる。流れ込んでくる風や塵が真っ二つに裂かれ、左右で時空がずれているかのような錯覚を起こす程の凄まじい槍術に、思わず身体を右側に傾け、空間の裂け目を辛うじて避けるロロネー。

 室内を分ける壁の縁を掴み勢いを一瞬にして止めると、天井に止まりハオランに斬りかかろうとする。だが彼は、矛先を斬り上げた勢いをそのままに、槍を肩の周りで一回転させ逆手で掴み取ると、韋駄天の風を利用しかかとで石突を蹴り上げ、天井のロロネー目掛けて撃ち放つ。

 頭部目掛けて放たれたハオランの槍を、首を曲げて何とか回避したものの頬に刃物で切ったようの傷が遅れて現れる。そのままロロネーは剣を振るうも、その剣先が彼に当たることはなかった。

 ロロネーの振り下ろした剣の攻撃に合わせ、水面蹴りのように床に綺麗な円を描きながら回り、身をかがめる。ロロネーは数体の亡霊をハオランに差し向け、自身も下半身に霧を集め足を作ると、床に着地し追撃に加わる。

 ハオランの見せた水面蹴りは、一見空振りのようなただ回避するだけにしては無駄な動きのように見えたが、彼の蹴りで床に落ちていた二本の剣が宙に巻き上げられており、彼はその剣を左右両方の手に一本ずつキャッチする。

 その剣は刃が湾曲したカットラスと呼ばれる種類のもので、刀身が短めで狭い室内戦などで使用されるものだった。双剣を器用に手首の周りで回転させながら、とても武闘家とは思えぬ鮮やかな剣捌きで、亡霊を竹林に流れる風のように斬り伏せていく。

 僅かな時間稼ぎにしかならなかった亡霊達の最後尾にいたロロネーの刃を、ハオランの二枚刃が受け止める。ツクヨを捻じ伏せた力を、鍛え抜かれた腕と研ぎ澄まされた技術で見事に受け切るハオラン。

 「槍に続いて剣までも・・・。拳だけではなかったのか。何故複数の武器を扱える!?」

 無言で受け止めるハオランは、ロロネーの力を利用し身体を捻るように回転させ、刀身滑らせるように受け流すと、左右に持った剣でやや斜めに挟むようにロロネーの首を斬りつける。

 「双牙刃 シュアン ヤー レンッ!!」

 ただの斬撃であれば避けるまでもないと、亡霊やロロネーの身体に常に付与されている透過の能力で対処しようとしたが、向かって来る刃の周りに薄っすらと空気の歪みが見えるのを見つける。チン・シーの海賊船に積まれている武器は、雌雄を決する舞台の前にシュユーが新たに積み込んでいたエンチャン武器であったのだ。

 当然、床に転がっていた剣はチン・シー海賊団の物で、亡霊との戦いで力尽きた船員が残した物だった。追い詰められたことで、勘が良くなったロロネー。ハオランの手にする武器がエンチャント武器であると見抜き、首から上を霧化させて緊急回避すると同時に身体を飛び退けさせる。

 一瞬の油断も許さぬ攻防を繰り広げるハオランとロロネー。重傷を負い、ダメージを抱えている状態とは思えぬ二人の戦いは、他を寄せ付けぬほど激しいものとなる。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...