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神代 コウ

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希望を失い欲望を果たす

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 軍艦を手に入れた彼らは、海岸沿いを進みナピス国の首都をその砲台の攻撃範囲に捉えると一斉に砲撃を開始した。容赦なく降り注ぐ鉛玉の雨は、瞬く間に首都を瓦礫の街へと変えていく。

 戦火はナピス国に住む罪もない者達をも飲み込み、ロロネー達が経験した地獄とは全く別の地獄を作り上げる。空が黒々とした煙で覆い尽くされ、悲鳴と炎で焼き尽くされていく光景が軍艦からも見えた。

 彼らの心に後悔や哀れみなど無い。ただ虐げられてきた憎しみを、悠々と暮らす者達へぶつける。死んでいった仲間の無念は、そこで暮らす知らない誰かの命で晴らされる。その者達は、自分達が何故襲われるのかも分からないまま、憎悪の炎で息絶えていく。

 何も知らないという事も、一つの業なのだ。ナピス国で暮らしている者達は、ロロネーやモーガン達のような奉公人、或いは奴隷達の労働の上で今の生活が送れている。

 例え誰が教えてくれなくとも、そこにある平穏が誰の手で支えられているのか。そしてその地獄の中で働かされる者達のことを知っても尚、平然としていられるだろうか。

 首都をほぼ壊滅状態にまで追い込んだロロネー達は、その後もナピス国の主要拠点となる街や港を襲い財宝や金銭、食料や物資などを奪い取り戦力を蓄えていく。

 疲弊し切ったナピス国とは逆に、奪われた歳月と人権を思い知らせるように吐き出していく。船も多く手に入れ彼らは軍艦では目立つと考え、攻め落とすべき場所を悉く潰し、これ以上の砲撃が必要無くなると荷物を新生ロロネー海賊団の船へ移し、二度と使えぬよう爆撃し海の藻屑へと変えた。

 復讐を果たしたモーガンは、ロロネーと袂を分かつことを切り出した。元々彼の目的はナピス国への復讐もあったのだが、そこから奪われたものを取り戻し、新たな人生を送る為でもあった。

 船や人員、物資や金なども充実し、やり直すには十分な環境になったモーガンは、海賊団を立ち上げかつてのロロネーのように、夢を追いかけ自由に世界を旅して周りたかったのだという。

 ロロネーも彼の申し出を素直に受け取り、必要なものがあれば好きなだけ持っていくといいとまで言った。何故、ナピス国の者に対し異常なまでに残虐非道な行いをして来たロロネーが、モーガンに対しここまで優遇するのか。

 勿論これが二人の別れという事もあったが、それ以上にモーガン無くしてナピス国への復讐は果たせなかったからだ。ロロネーの行き過ぎた行動は、仲間ですらも恐怖や疑念を抱くほどのものだったが、モーガンはロロネーの祈願の成就まで共に歩み、部下達を上手く説得していてくれたのだ。

 本来、モーガンがいなければ彼はまた仲間に裏切られ、その身を怨敵であるナピス国に差し出されていてもおかしくなかった。しばしばそういったモーガンの行動を目撃していたロロネーは、彼以上に信頼できる仲間はこの世にいないとまで称賛した。

 そんなモーガンが、かつての自分のように夢を追いかけ新たな人生を歩もうとしているのだ。自らの復讐に付き合わせ苦労をかけた分、手厚い送り出しをしたいと考えていた。

 モーガンはそれ程多くは望まなかった。数隻の海賊船とある程度の物資、そして自分について来てくれるという人員を少し分けて欲しいと言うものだった。しかし、やはりロロネーの行き過ぎた復讐心と、リーダーシップを発揮するモーガンでは人望に大きな差が出ていた。

 半数以上の人員がモーガンへついていくことを決め、ロロネーとモーガンの半ば同盟のような関係は終わりを告げる。惜しみながらもモーガン海賊団と別れたロロネー。それでも彼と共に、絶えぬ憎悪の炎を燃やし続けようとする者も少なくはなかった。

 それぞれが海賊団として分離した後も、ロロネーは執拗にナピス国の船を見つけては襲撃し、残酷な死を与えた者達の死体を母国へ送り付けた。その行いは止まることを知らず、協力関係を結んでいる近隣諸国へも手を出すようになって来た。

 しかし、感情に流され行動に移すロロネーのやり方が、要らぬ敵を生んでしまうことになる。船を何度も襲われた諸国が、同じ標的であるロロネーに目をつけ、その素行から今後の被害を垣間見て同盟を結び、ナピス国の船を使った陽動作戦を仕掛ける。

 憎悪で前しか見れなくなっていたロロネーはまんまと連合軍の策にハマり、取り囲まれてしまう。戦力の大半を信頼するモーガンに渡していた為、太刀打ちできる状況にはなかった。

 彼の海賊船は連合軍の砲撃を浴びながら、一点突破を仕掛け包囲網を抜けると、追っ手を振り切る為、一か八か悪天候の海域へと船を進める。何としてもロロネーをここで討ち取ろうとしていた連合軍は、執拗に彼らの後を追い続け攻撃の手を緩めなかった。

 空は黒く淀み、嵐のような雨風が吹き付ける中、ロロネー海賊団と連合軍の船は大きな波に飲まれ、行方を晦ましてしまう。それ以来、フランソワ・ロロネーの悪行はぱったりとなくなり、彼の思いとは反対にナピス国は同盟国の協力を得て、徐々に再建の動きを見せていくことになる。

 その際、彼の国が行っていた奉公人や奴隷といった制度は、一時‬的に影を潜めたが、国内の事業が発展し始めると共に、再び行われるようになってしまった。

 世界が彼の存在を忘れ、再び過ちを繰り替えしていく中、死んだと思われていたロロネーは、深い深い海底で自らの海賊船と共に深淵の闇へと落ちた。最早そこが海であるのか、自分が生きているのかさえも分からない暗闇で、ロロネーは自分の思い通りにいかない人生に、ナピス国と同じ憎悪を抱いていた。

 夢へと向かって走っていたはずが、道端に落ちていた石に気を取られ、いつしか違う道を歩んでいた。そこには奉公人時代の仲間や、ベンジャミンの思いは無く、私念を剥き出しにした自身の思いだけで、彼の道に歩みを進めた。

 フランソワ・ロロネーは、幼き無垢なる心の夢が叶わぬ代わりに、世界を知り汚れた心の欲望を果たす結果を得た。

 死して尚、耐えることのないロロネーの憎悪を叶えんと、黒いローブの男が手を差し伸べる。
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