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神代 コウ

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初めての善行

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 彼は警備の隙を見ると、奴隷として働かされている者達のところまでやって来ると、脱出の手引きをする。しかし彼らはロロネーについて行こうとはしなかった。それもかつてのロロネー達と同じ心境からだった。

 逃げ出せば殺される。例え死を免れても厳しい罰が与えられ、労働環境は更に酷くなる。恐怖による抑止。ここでも脱走しようとする者がいなくなる頃だったのだろう。だが、彼らの中にも少なからず、このままここに居続ければいずれ殺されると思っている者もいる筈。

 そういった者達の心に、ここにいれば飼い殺しにされるであろうことを訴えるロロネー。まちまちだが、何人かはロロネーの言葉に脱出を決意する者も現れたが、なかなか決心をつけられないでいるようだった。

 説得に時間をかけていると警備の者に気付かれ、仲間を呼ぶ笛が鳴らされる。自分の後ろにいろと手を広げ、眼前の警備隊を素早く始末するロロネー。だが見つかった事にパニックを起こした奴隷達は、あちらこちらに散らばってしまい、逃げようとした者は警備隊の者達に射殺されてしまう。

 せめて手の届く範囲の者達だけでも助けようと、警備隊を始末したルートから奴隷達を逃していく。しかし、彼らの向かったその先でも悲鳴が聞こえて来る。後方に煙幕とトラップを仕掛け、前方の様子を見にいくと、そこらにある物を投げつけ増援できた警備隊の足を止めていた。

 素早く壁を駆け、前方に並べられたバリケード超えて行くロロネー。警備隊の銃弾を潜り抜け、短剣と盗賊クラスの手捌きで銃や手榴弾を奪うと、あっという間に相手を制圧してみせる。

 敷地の構造は奴隷である彼らの方がよく把握している事だろう。ロロネーは彼らに先陣を任せ、脱出のルートを案内させる。最後尾で殿を務めながら彼らを逃して行くが、当然全ての銃弾を捌くことなど不可能であり、流れ弾が奴隷達を襲う。

 真面な食事を与えられていない彼らにとって、銃弾の一発でも瀕死の重傷となってしまう。中には転んだだけで足の骨を折ってしまい、涙ながらに助けを求める者を置き去りにせざるを得ない状況にも直面した。

 直接死ぬところを目にしている訳ではないが、通路を曲がった途端に泣き叫んでいた者の声が途絶えると、ロロネーの胸を締め付けるような衝撃が襲う。彼らの為に脱出を促したが、果たして本当に正しいことだったのだろうかと思うようになってしまった。

 自身の押し付けがましい正義感の為に、彼らの命が失われてしまった。誰かのために何かをしようとしたのが初めてだったロロネーは、奉公人時代の自分達を救ってくれたベンジャミンの姿を思い描いていた。

 だがこの状況は、あの時とは全く違う光景を彼の目に映し出した。そこにあったのは、希望に安堵する者達の顔ではなく、すぐ後ろの背後に迫った死の恐怖に絶叫し涙する絶望の表情だった。

 人を助けようとする善行ですら上手くいかない事に、ロロネーの心は掻き乱された。彼らを助けようとしたことは間違いだったのだろうか。あのまま奴隷の生活を送っていれば、少なからず死ぬことはなかったのではないだろうか。

 彼らが死の恐怖に追われるように、ロロネーも後悔と迷いに纏わり付かれてしまっていた。それでも身体は必死に彼らを逃がそうと動き続ける。

 そこへ、一人の奴隷が壁の方を指差して何かを叫んでいるのに気が付いた。

 「ココッ!オクニ ミチ アルッ!」

 ロロネーは警備隊の者からくすねた手榴弾を使い壁を爆破すると、その向こうに洞窟の穴のような通路が現れたのだ。奴隷達は一斉に穴に飛び込んでいく。如何やら彼らは、その通路がどこへ繋がっているのかを知っているようだった。

 警備隊にバレないように、最後尾から少し距離を取り足止めをするロロネーは、最後の奴隷が穴に入るのを確認すると、煙幕で警備隊の視界を奪いもう一つの手榴弾で天井を破壊し、通路へ通じる穴を塞いだ。

 通路に響く僅かな足音を聞き取り、奴隷達に追いついたロロネー。壁の向こうでは銃声や怒号を上げる警備隊の声が聞こえてくるが、この通路には気付いていないのか、追ってくる様子はない。

 「この通路はなんだ?」

 「我々が密かに掘っていた、外の世界への穴だよ。まだ完成はしていないが、上を行くより遥かに安全だろう」

 奴隷の一人がロロネーの問いに答えた。彼が驚いたのは、通路の存在を教えてくれた奴隷とは違い、この者が普通に言葉を話している事にだった。ロロネーの奉公人時代の時も、年齢や性別に関係なく多くの者が連れてこられていたが、中には言葉を話せる人もいた。

 ここにいた奴隷達も、どこからか集められた者達で、そういった教養にも個人差があるのだろう。

 「アンタ、言葉が話せるんだな・・・」

 「私だけではないよ。他にも何人か話せる者はいるが、彼らの前では隠していたんだ」

 何故言葉を話せるということを隠す必要があったのか。ロロネーは過去の記憶を辿ると、そういえば言葉を流暢に話せる者はロロネー達とは別の場所へと連れて行かれていた。

 そこで初めて気がついたことだったが、ロロネーが共に過ごしていた奉公人達も普通に話しており、彼はそこから言葉を学んでいったが、誰も警備や雇用人とその関係者の前では口を開かなかった。それは正しく、今目の前にいる彼と同じように。

 「何故だ?」

 「言葉を話せるということは、彼らにとって邪魔にしかならないからだよ。意思の疎通ができるという事は、良からぬ企てや反乱の計画を立てるからさ。他の者達と連携が取れない方が、奴隷として使いやすいからだろうね」

 自分の知らないところで、かつての仲間達はそんなリスクを背負っていたのかと気付かされたロロネー。そんな中でも言葉を教えてくれ、外の世界のことを話して希望を与えてくれていたのだ。

 何も知らずに過ごしていたが、彼らは仲間を励まし挫けそうになる心を支えてくれていたのかもしれない。そんな仲間達を仕方がなかったとはいえ、ロロネーは何人もあの土地に埋めていたのだ。時には脱出などと余計なことをして、残された自分達へ連帯責任という罰を強いられたことを不快に思いながら。

 「そうだったのか・・・。そんなことが・・・」

 一人ではきっと生きていなかった。誰とも口を聞かず、外の世界のことも知らず、希望もないままあそこで働いていたら、自ら命を絶っていたかもしれない。ロロネーは後悔した。もしその事を知っていれば、もう少し違った未来に出来たかも知れない。救えた命があったかも知れない。

 そう思うと、生かされた自分の命には何か意味があるのかも知れない。その思いが、ロロネーの行った初めての善行に纏わり付く重荷を振り解いてくれた。より一層彼らを助けなければという思いに駆られる。

 通路を駆け抜けながら話している内に、彼らが立ち止まる通路の行き止まりにまでやって来る。如何やら彼らの掘った穴はここまで。ここからは壁に向かって穴を掘り、外に出るかロロネーの持っていた爆弾に頼るしかない。

 彼らを掻き分け、行き止まりにやって来るロロネー。壁に耳を当て、盗賊のクラスで身につけたスキル“聞き耳“を立て、外の様子を伺う。どこまで来たのかは分からないが、外に人の気配や声は感じない。

 例えここで大きな爆発が起ころうと、少なくともすぐに襲撃されることはないだろう。安全を確認したロロネーは奴隷達を後ろに下げ、奪った手榴弾で通路に穴を開ける。先にロロネーが穴を出て外の安全を確認すると、通路に残る奴隷達を次々に外へと連れ出した。

 警備隊の者達に、爆発の音は届いていないようだ。奴隷達は喜びに歓喜し、喜びの涙に泣き崩れる者もいた。これこそロロネーの求めていた光景。かつて自分達を助けてくれたベンジャミンのように、ロロネーの善行もまた彼らの人生を救うことが出来たのだ。

 すると、先ほど通路で話してくれた奴隷の男がロロネーに近づき、喜びに湧き上がる彼らに代わり、代表としてお礼を伝えた。通路では暗くてよく見えなかったが、彼もまた酷く痩せ細り、白い髭を蓄えたお世辞にも若いとは言えない風貌をしていた。

 「ありがとう。君が来てくれなかったら、生きてここを抜け出すことなど出来なかっただろう」

 「しかし、アンタ達の掘っていた隠し通路が完成していたら、誰も死なずに脱出できたかも知れない・・・。俺のせいで、何人も犠牲を出してしまった・・・」

 歓喜で湧いている中、一人俯くロロネーにその男はそっと肩に手を乗せて励ました。

 「そんな事はない。通路の存在はいずれ気付かれていた事だろう。外に出す代わりに我々から情報を引き出そうとしている警備隊の様子を見たことがある。当然喋ったところで、生かしておく筈も無いがね。あのままだったらきっと希望は絶たれていたよ」

 その男の言葉に、ロロネーの心は救われた。彼らのような奴隷として働かされる者達を救う事で、かつての仲間達への償いを果たせたような気がした。何も知らないロロネーを励まし、夢を与えてくれた彼らの思いを、代わりに叶えようという思いが彼の中に芽生える。

 「私達はすぐにこの国を発たなければならない。ろくな礼も出来ずに申し訳ない」

 「構わんさ。礼が欲しくてした事じゃぁない。・・・それで、礼の代わりじゃないが、一つ聞きたいことがある」

 「何だ?私達に答えられることであれば、何でも話そう」

 ロロネーは難破し、見知らぬ土地へとやって来た。彼もまたこの土地で散々非道な事をしてしまっている為、長居は出来ない。せめてここが何処なのかを知りたかった。

 「ここは何という国なんだ?出来ればこの国と周辺諸国の地図が手に入れば助かるんだが・・・」

 自分が今、世界の何処にいるのか。ベンジャミンのところで学んでいた頃、僅かにだが世界の様々な地図を見たことがあったのを思い出す。地図か何かがあれば、その時の記憶を辿り、難破したグラン・ヴァーグの海域へと戻れるかも知れない。

 そう思っていたロロネーだったが、奴隷の男の口から想像もしていなかった名前を聞く事になる。

 「すまない・・・地図は持っていないんだ。だが近くの町や村に行けば、手に入るかも知れない。それとここは、“ナピス国“という国だ。文明の発達と共に労働が増え、私達のような者が多く増える国で・・・・・」

 「・・・“ナピス国“・・・!?」

 それはかつて、ロロネーが地獄のような日々を過ごした奉公先の国名だった。
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