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色のない世界で
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シンがスキルによる魔力消費を気にしている頃、ハオランとリンクしていたチン・シーに動きがあった。しかし、それは戦況を良い方へと運ぶ吉報ではなく、彼の不安を煽る事態となる。
ハオランに額を合わせていたチン・シーが、具合悪そうに小さく呻き声をあげ出し、フラフラとしているのだ。それに気がついたシンは、急ぎスキルを継続したまま彼女に近づくと、その途中でチン・シーは限界を迎えたのか、突然膝から崩れ落ちてしまったのだ。
駆け寄ったシンが支えとなり床に倒れ込むのは阻止出来たが、どうやら彼女は意識を失っているようだった。
「おいおいおいおいッ!ちょっとッ・・・!どうしたっていうんだ!?」
上手くいったと思われていた作戦に、突如暗雲が立ち込める。余りの出来事に、シンは彼女の目を覚まされることに夢中になり、身体を揺する。だがチン・シーから返事が返ってくることはなく、心なしか息もしていないのではないかと思えてならない。
口元に手を当て呼吸を確認すると、何と彼女は息をしていなかった。
「なッ・・・!息が・・・一体何があったんだ!?成功したんじゃなかったのかぁッ!?」
彼女の作戦が失敗に終われば、シン達の生存も絶望的になる。誰か彼女の船団の者がいれば何か分かるのかもしれないが、船員達はツクヨと共にロロネーと戦闘中。シュユーは船長命令で本船にある船長室へ向かってしまった。
辺りは人気がなく、少し遠いところでは絶えずロロネーの差し向けた亡霊と戦っているチン・シー海賊団の奮闘する雄叫びが聞こえてくる。誰に頼ることも出来ず、ただ目の前で意識を失い呼吸すらしていない彼女を抱えることしかできない。
彼の頭の中は真っ白になる。チン・シーは言葉以上に策を巡らせ、戦場に吹く風をいつも追い風にして来た。彼女の言葉に、作戦に従っていれば全てが上手くいく。シンの心のどこかで、そんな風に思っていた。
心の主柱を失い、どうしたら良いのか分からず焦るシンだったが、何もチン・シーは死んでいる訳ではなかった。これは彼女のリンク能力に関する、副作用のような者だったのだ。
零距離で対象とのリンクを果たすことで、普段の共有の能力とは一味違った特別な効果を発揮していた。
大勢の魂が入り込んでしまったハオランを呼び覚ますには、通常のリンクのような共有ではとてもじゃないが無理があった。そこで彼女は、彼の中に入り込んだ魂と同様、自身の魂をハオランの中へ送り込み、彼の魂へと会いに行ったのだ。
魂を失ったチン・シーの肉体は、まるで生命の宿らない人形のように崩れ落ち、シンに受け止められる形となったのだった。事前にそれを知らされていなかったシンが慌てふためくのも無理もない話だろう。
それでは一体、彼女の魂はハオランの中でどうなってしまったのか。
真っ暗な色のない世界。嵐のように風が吹き荒び、荒々しい波を立てる何処かの大海原。身体は宙に浮き、突風に流されてしまうほど軽い。その奇妙な空間には、至る所に人面の人魂のような悍しい姿の霊魂が飛び交い、呻き声を上げながら時折襲い掛かって来る。
海を泳ぐように空間を進み、本当にここがハオランの中とも分からないその世界で、彼の魂を探す。リンクで他者の身体に干渉するのは初めてではなかったが、ハオランの中がこんなにも暗く寂しいものであるとは、とても信じられなかったチン・シー。
飛び交う魂が彼女の身体を擦り抜けていく度に、まるで精神を蝕まれるような感覚に陥り、意志の力を削り取っていく。過去にこんな精神世界は経験したことがないが、彼が自我を取り戻せない理由がなるほど良く分かる。
自分の身体ではない者には、目的を見失わせる効果が含まれているが、当の本人の魂が飛び交う悍しいものに触れると、その姿は身近な信頼する者の姿と声色に変わり、辛辣な言葉で心を抉ぐるのだ。
目的を見失いそうになるその世界で、ハオランの魂を呼び覚ますという目的だけは見失わぬよう意志を強く持ち、何処にいるかも分からぬ広大な空間を探す。もしや既に飲み込まれているかもしれない。
そんな想像や憶測すら蝕まれる中、大きく荒れる波の中に小さな小舟が漂流しているのが視界に入る。何処を見渡せど、それまで舟など見かけることはなかったが故に、彼がいるのではないかという希望が湧いて来る。
そして舟を覗くと、そこには小さく蹲る黒い霧のようなものが人形を象っているのが見えた。
「・・・ハオランッ・・・!」
思わずチン・シーの口から言葉が漏れる。頭で考えて選んだ訳ではなく、自然と内から溢れて彼女の感情。その純粋な言葉が彼に届いたのか、舟の上の影が僅かに顔を上げる。
ハオランに額を合わせていたチン・シーが、具合悪そうに小さく呻き声をあげ出し、フラフラとしているのだ。それに気がついたシンは、急ぎスキルを継続したまま彼女に近づくと、その途中でチン・シーは限界を迎えたのか、突然膝から崩れ落ちてしまったのだ。
駆け寄ったシンが支えとなり床に倒れ込むのは阻止出来たが、どうやら彼女は意識を失っているようだった。
「おいおいおいおいッ!ちょっとッ・・・!どうしたっていうんだ!?」
上手くいったと思われていた作戦に、突如暗雲が立ち込める。余りの出来事に、シンは彼女の目を覚まされることに夢中になり、身体を揺する。だがチン・シーから返事が返ってくることはなく、心なしか息もしていないのではないかと思えてならない。
口元に手を当て呼吸を確認すると、何と彼女は息をしていなかった。
「なッ・・・!息が・・・一体何があったんだ!?成功したんじゃなかったのかぁッ!?」
彼女の作戦が失敗に終われば、シン達の生存も絶望的になる。誰か彼女の船団の者がいれば何か分かるのかもしれないが、船員達はツクヨと共にロロネーと戦闘中。シュユーは船長命令で本船にある船長室へ向かってしまった。
辺りは人気がなく、少し遠いところでは絶えずロロネーの差し向けた亡霊と戦っているチン・シー海賊団の奮闘する雄叫びが聞こえてくる。誰に頼ることも出来ず、ただ目の前で意識を失い呼吸すらしていない彼女を抱えることしかできない。
彼の頭の中は真っ白になる。チン・シーは言葉以上に策を巡らせ、戦場に吹く風をいつも追い風にして来た。彼女の言葉に、作戦に従っていれば全てが上手くいく。シンの心のどこかで、そんな風に思っていた。
心の主柱を失い、どうしたら良いのか分からず焦るシンだったが、何もチン・シーは死んでいる訳ではなかった。これは彼女のリンク能力に関する、副作用のような者だったのだ。
零距離で対象とのリンクを果たすことで、普段の共有の能力とは一味違った特別な効果を発揮していた。
大勢の魂が入り込んでしまったハオランを呼び覚ますには、通常のリンクのような共有ではとてもじゃないが無理があった。そこで彼女は、彼の中に入り込んだ魂と同様、自身の魂をハオランの中へ送り込み、彼の魂へと会いに行ったのだ。
魂を失ったチン・シーの肉体は、まるで生命の宿らない人形のように崩れ落ち、シンに受け止められる形となったのだった。事前にそれを知らされていなかったシンが慌てふためくのも無理もない話だろう。
それでは一体、彼女の魂はハオランの中でどうなってしまったのか。
真っ暗な色のない世界。嵐のように風が吹き荒び、荒々しい波を立てる何処かの大海原。身体は宙に浮き、突風に流されてしまうほど軽い。その奇妙な空間には、至る所に人面の人魂のような悍しい姿の霊魂が飛び交い、呻き声を上げながら時折襲い掛かって来る。
海を泳ぐように空間を進み、本当にここがハオランの中とも分からないその世界で、彼の魂を探す。リンクで他者の身体に干渉するのは初めてではなかったが、ハオランの中がこんなにも暗く寂しいものであるとは、とても信じられなかったチン・シー。
飛び交う魂が彼女の身体を擦り抜けていく度に、まるで精神を蝕まれるような感覚に陥り、意志の力を削り取っていく。過去にこんな精神世界は経験したことがないが、彼が自我を取り戻せない理由がなるほど良く分かる。
自分の身体ではない者には、目的を見失わせる効果が含まれているが、当の本人の魂が飛び交う悍しいものに触れると、その姿は身近な信頼する者の姿と声色に変わり、辛辣な言葉で心を抉ぐるのだ。
目的を見失いそうになるその世界で、ハオランの魂を呼び覚ますという目的だけは見失わぬよう意志を強く持ち、何処にいるかも分からぬ広大な空間を探す。もしや既に飲み込まれているかもしれない。
そんな想像や憶測すら蝕まれる中、大きく荒れる波の中に小さな小舟が漂流しているのが視界に入る。何処を見渡せど、それまで舟など見かけることはなかったが故に、彼がいるのではないかという希望が湧いて来る。
そして舟を覗くと、そこには小さく蹲る黒い霧のようなものが人形を象っているのが見えた。
「・・・ハオランッ・・・!」
思わずチン・シーの口から言葉が漏れる。頭で考えて選んだ訳ではなく、自然と内から溢れて彼女の感情。その純粋な言葉が彼に届いたのか、舟の上の影が僅かに顔を上げる。
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