373 / 1,646
零距離リンク
しおりを挟む
風を切るような足技に、空気を震わせるような拳。少しでも擦ればただでは済まない攻防を繰り広げる。実際のところ、チン・シーはよくハオランの動きについて行けている。
本来の実力ではないとはいえ、シンとツクヨを退けた程の力はあるのだ。それを武術の類のクラスでない彼女が相手にしていること自体がおかしいのだ。だが、そんな彼女の奮闘も、次第に勢いをなくし危険な場面が何度か訪れる。
本当は手を貸してやりたいところだが、彼女が敗北し危機に晒されることこそが本当の狙い。逸る気持ちを押し殺し、然る時を待った。すると、足が縺れたチン・シーにハオランの拳が向けられる。
咄嗟に腕を交差して防ごうとするも、彼の拳はその程度で防げるようなものではない。チン・シーはそこで、これまで使ってこなかったスキルを使う。それは他者と繋がる彼女特有の能力ではなく、一般的だが鮮麗されたファンタジーの世界では親のある魔法だった。
ハオランを傷つけることなく事を済ませるには、攻撃魔法を使うことはできない。ならば使う魔法は一つ。ハオランの重たい一撃を受けきれるだけの防御魔法。詠唱を唱えることなく、その場で効果を発揮した彼女の魔法は、麗しくか細いその腕を光で包み込み、強固なものとした。
だが彼女のスキルレベルを持ってしても防ぎ切ることは出来ず、後方へと吹き飛ばされるチン・シー。激しく打ち付けられたことで、意識が飛びそうになる彼女を追いかけハオランがやって来る。
トドメの追い討ちをかけようと歩み寄る彼だったが、チン・シーの苦しそうに咳き込む姿を見て動きが止まる。再びハオランは頭に走る痛みに悶える。シンが待ち望んでいた、その時がやって来たのだ。
思いもよらぬところまで吹き飛ばされたチン・シーに、出足が遅れたがすぐに二人のいるところまで駆け寄り瓦礫を飛び越えると、シンは渾身の技をハオランへ放つ。影が床を這いずる蛇のように素早く彼へ向かって行き、彼と周囲にあるありとあらゆる影が一つに集まる。
ハオランを蜘蛛の巣のように雁字搦めにし、動きを止める。ここぞとばかりに力を使ったシンの渾身のスキルは、武術で圧倒された彼を見事に捉えて見せた。これもチン・シーが戦って、彼の肉体を疲労させたおかげだろう。
床に手をつき咳き込んでいる彼女の元に、一本のボトルが転がってくる。それは回復薬の入ったものだった。こんなところにあるはずのない物が、チン・シーの指に触れ顔を上げるとそこには、影でハオランの動きを止めるシンの姿があった。
「さぁ早くッ!長くは保ちそうにないッ・・・!」
シンの言葉に手元のボトルの蓋を開け、中身を疑うことなく口に含み飲み込むチン・シー。身分の分からぬシンの施しを受けたのは、彼を信じ彼に自身を信じさせる為。だが何よりも今は、やっと訪れたチャンスを逃す訳にはいかない。
囮りを買って出ると言った以上、チン・シーが負傷するであろうことは容易に想像出来た。故にシンは、すぐに彼女が動けるよう回復薬を準備してくれていたのだ。彼にかけた言葉、そしてその反応を見てシンが悪い人間ではない事を見抜き、このような行動に出ることまで読んでいたのかもしれない。
回復したチン・シーが、影に囚われるハオランの元に駆け寄ると、必死に縛りを振り解こうと震える身体と、その間にも中に入り込んだ魂に乗っ取られまいと抵抗する様子が窺える。
そんな彼の頭を両手で包み込むように優しく掴むと、彼女は額をそっとハオランの頭にくっ付け、ゆっくりと意識を集中させながら目を閉じる。ゼロ距離でのリンクは効果も接続速度も、普段のそれとは比べ物にならないほど強力。
ただし、相手に密着しなければならず、抵抗させない為に拘束状態や気絶・睡眠といった状態異常などにかけなければ、ほとんどの場合成功することはない。故にシンの能力とは非常に相性の良いスキルとなった。
「世話をかけさせおって・・・。早く戻って来いッ・・・」
二人の接触部位が光を放ち、ハオランを拘束していた影から、彼の身体から力が弱まるのを感じ取ったシン。リンクが上手くいったのだろうと悟るが、万が一に備えスキルを継続し発動し続ける。
大見栄を切って張り切った分、スキルの範囲と力を強力に放ち、魔力の消費が著しく重たくなってしまっている。だが、シンの判断は間違ってなどいない。絶対に失敗の許されない中で、どれ程の力で拘束すれば良いのかも分からないのであれば、全力を出さざるを得ない。
その判断が功を奏し、難なくチン・シーがリンクを繋げることが出来たのだから。後は彼女の策が実を結ぶまで耐久するだけのこと。ここが勝敗を分ける瀬戸際。
チン・シー海賊団を救うだけでなく、ロロネーと戦っているツクヨや、戦場の何処かにいるであろうミア。そしてシン自身を生かすことにも繋がる。この濃霧から抜け出せない以上、ロロネーの敵対者は全て殺されるだろう。
故に生きてここを脱するには、彼女らと強力しロロネーを倒す他に道はない。
本来の実力ではないとはいえ、シンとツクヨを退けた程の力はあるのだ。それを武術の類のクラスでない彼女が相手にしていること自体がおかしいのだ。だが、そんな彼女の奮闘も、次第に勢いをなくし危険な場面が何度か訪れる。
本当は手を貸してやりたいところだが、彼女が敗北し危機に晒されることこそが本当の狙い。逸る気持ちを押し殺し、然る時を待った。すると、足が縺れたチン・シーにハオランの拳が向けられる。
咄嗟に腕を交差して防ごうとするも、彼の拳はその程度で防げるようなものではない。チン・シーはそこで、これまで使ってこなかったスキルを使う。それは他者と繋がる彼女特有の能力ではなく、一般的だが鮮麗されたファンタジーの世界では親のある魔法だった。
ハオランを傷つけることなく事を済ませるには、攻撃魔法を使うことはできない。ならば使う魔法は一つ。ハオランの重たい一撃を受けきれるだけの防御魔法。詠唱を唱えることなく、その場で効果を発揮した彼女の魔法は、麗しくか細いその腕を光で包み込み、強固なものとした。
だが彼女のスキルレベルを持ってしても防ぎ切ることは出来ず、後方へと吹き飛ばされるチン・シー。激しく打ち付けられたことで、意識が飛びそうになる彼女を追いかけハオランがやって来る。
トドメの追い討ちをかけようと歩み寄る彼だったが、チン・シーの苦しそうに咳き込む姿を見て動きが止まる。再びハオランは頭に走る痛みに悶える。シンが待ち望んでいた、その時がやって来たのだ。
思いもよらぬところまで吹き飛ばされたチン・シーに、出足が遅れたがすぐに二人のいるところまで駆け寄り瓦礫を飛び越えると、シンは渾身の技をハオランへ放つ。影が床を這いずる蛇のように素早く彼へ向かって行き、彼と周囲にあるありとあらゆる影が一つに集まる。
ハオランを蜘蛛の巣のように雁字搦めにし、動きを止める。ここぞとばかりに力を使ったシンの渾身のスキルは、武術で圧倒された彼を見事に捉えて見せた。これもチン・シーが戦って、彼の肉体を疲労させたおかげだろう。
床に手をつき咳き込んでいる彼女の元に、一本のボトルが転がってくる。それは回復薬の入ったものだった。こんなところにあるはずのない物が、チン・シーの指に触れ顔を上げるとそこには、影でハオランの動きを止めるシンの姿があった。
「さぁ早くッ!長くは保ちそうにないッ・・・!」
シンの言葉に手元のボトルの蓋を開け、中身を疑うことなく口に含み飲み込むチン・シー。身分の分からぬシンの施しを受けたのは、彼を信じ彼に自身を信じさせる為。だが何よりも今は、やっと訪れたチャンスを逃す訳にはいかない。
囮りを買って出ると言った以上、チン・シーが負傷するであろうことは容易に想像出来た。故にシンは、すぐに彼女が動けるよう回復薬を準備してくれていたのだ。彼にかけた言葉、そしてその反応を見てシンが悪い人間ではない事を見抜き、このような行動に出ることまで読んでいたのかもしれない。
回復したチン・シーが、影に囚われるハオランの元に駆け寄ると、必死に縛りを振り解こうと震える身体と、その間にも中に入り込んだ魂に乗っ取られまいと抵抗する様子が窺える。
そんな彼の頭を両手で包み込むように優しく掴むと、彼女は額をそっとハオランの頭にくっ付け、ゆっくりと意識を集中させながら目を閉じる。ゼロ距離でのリンクは効果も接続速度も、普段のそれとは比べ物にならないほど強力。
ただし、相手に密着しなければならず、抵抗させない為に拘束状態や気絶・睡眠といった状態異常などにかけなければ、ほとんどの場合成功することはない。故にシンの能力とは非常に相性の良いスキルとなった。
「世話をかけさせおって・・・。早く戻って来いッ・・・」
二人の接触部位が光を放ち、ハオランを拘束していた影から、彼の身体から力が弱まるのを感じ取ったシン。リンクが上手くいったのだろうと悟るが、万が一に備えスキルを継続し発動し続ける。
大見栄を切って張り切った分、スキルの範囲と力を強力に放ち、魔力の消費が著しく重たくなってしまっている。だが、シンの判断は間違ってなどいない。絶対に失敗の許されない中で、どれ程の力で拘束すれば良いのかも分からないのであれば、全力を出さざるを得ない。
その判断が功を奏し、難なくチン・シーがリンクを繋げることが出来たのだから。後は彼女の策が実を結ぶまで耐久するだけのこと。ここが勝敗を分ける瀬戸際。
チン・シー海賊団を救うだけでなく、ロロネーと戦っているツクヨや、戦場の何処かにいるであろうミア。そしてシン自身を生かすことにも繋がる。この濃霧から抜け出せない以上、ロロネーの敵対者は全て殺されるだろう。
故に生きてここを脱するには、彼女らと強力しロロネーを倒す他に道はない。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる