World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
368 / 1,646

悪鬼に楯突く刃

しおりを挟む

 シンの機転によりロロネーを掻い潜り、ハオランヘ近づくことが出来たチン・シー。そのまま彼に接触を試みようとするも、まだ自我の目覚めていない彼の鋭い武術が、本来守るべき主人に向けられる。

 「・・・不可抗力とはいえ、これは罰が必要だなぁハオランッ・・・!」

 彼の間合いを深く理解した動き。紙一重でその蹴りを避けると、彼女は靡く髪の一本ですら触れさせることなく華麗に避ける。しかしそれはハオランも同じ。何せ彼女への武術指南はハオランが担当していたからだ。

 魔法から素手による武術、そして武器の扱いに至るまで、様々な戦闘方法に興味を持ち学んできたチン・シーだったが、ハオランの武術は群を抜いて素晴らしく優れていた。それに目をつけた彼女はハオランに武術の指南を申し出た。

 当然、訓練といえど主人に怪我を負わせかねない申し出に、緊急時には自らが必ず守ると言い反対したが、チン・シーは守られるべき対象に自分はいないと彼に話し、暇さえあれば訓練に彼を付き合わせた。

 故に手合わせして分かったことがある。如何に本人の身体を使おうと、本来の彼の武術には及ばない。だがそれでも触れることは叶わない。漸くここまで近づけたというのに、ハオランの中の亡霊達は新たな動きを見せたのだ。

 彼の武術を避けるとすれ違い様にその腕や足から、何やら黒い霧状ものが現れると人の腕のように変わり、追撃をするようになったのだ。

 「何だあれは・・・。ハオランの攻撃だけならまだしも、これでは近づけぬ・・・」

 一方、ロロネーを止めたシン達は、無視してチン・シーの元へ向かおうとするロロネーを、必死に食い止めていた。シンがスキルで拘束し、船員達がその首を狙う。刃を通さぬ身体を、何らかのスキルと捉えているシン達は、無尽蔵の魔力などあり得ぬと攻撃を仕掛け、ロロネーに魔力を使わせようとしていた。

 「クソッ・・・!どうなってやがる!一向に隙など生まれないぞッ・・・!」

 流石はフーファンが集めた小隊と言ったところか。船員の二人もロロネーの攻撃を掻い潜りよく戦っている。船長室にいた精鋭達とも引けを取らない動きを見せている。彼らの奮闘をサポートするように、要所要所でスキルを使いロロネーが飛んで行かぬよう縛りつける。

 「おらぁおらぁおらぁッ!そんなんじゃぁ痛くも痒くもねぇぞ!万策尽きたんならとっととくたばれぇッ!」

 シンの“繋影“はあくまで抑止に留まりつつあった。大きく機動力を削ぐことは出来ても、身動きを取れなくすることは出来ない。まるで影の縄に慣れてきたと言わんばかりに剣を振るうロロネー。

 この男にとって、身動きが取れなくなることなど取るに足らないことなのだ。避けられないのなら透過すればいい。彼らの目測とは反対に、惜しみなく身体を透過させるロロネーが次第に押しだし、その刃は厄介なシンにも向けられた。

 「こいつぁお前の仕業だなぁ?いい技持ってるじゃぁねぇか・・・。俺に従うってんなら、助けてやらんでもねぇぞぉ?」

 「誰がッ・・・お前みたいな奴にッ!」

 攻撃を避ければ、ロロネーを拘束していたスキルに隙が生まれ、男の動きを加速させる。シンも短剣で応戦するも、その攻撃はロロネーに命中することなく空を斬るばかり。

 「魔術や妖術の類なのかッ!?こんなスキル見たことないぞ・・・」

 「さぁ?どうだろうなぁ。まぁ一つ確かなのは、お前の知る必要のねぇことだよ」

 身を屈め身体を回転させると、足払いでシンの体勢を崩すロロネー。倒れ込み様のシンに刃を振り下ろすと、彼はそれを短剣で受け止める。床へ叩きつけられそうになるとシンは、自らの身体で出来た影の中へ倒れ、どこへ続くかも分からぬような真っ暗な空間へと姿を消す。

 ロロネーの剣が床に叩きつけられ、金属音を響かせるとやや離れた位置から、投擲用のナイフが数本、ロロネーの身体を貫通いていった。すると男の身体は空いた穴を再生することなく、そのまま全身を霧に変えると今度はロロネーが姿を消した。

 何処へ消えたと探すシンと船員達。シンのスキルによる拘束が解かれたロロネーが何処へ向かうか。考えてみればそんな場所など一か所しかない。ロロネーはチン・シーとハオランの接触を避けようとしていた。

 自由の身となった今、ハオランの呪縛が解かれることを警戒するならば必ずチン・シーの邪魔へ入る筈。

 「しまったッ!チン・シーの元へ行かれてッ・・・!」

 急ぎ彼女の元へ向かおうとしたところで、突然ロロネーが姿を現した。それはチン・シーの元ではなく、彼女の元へ向かおうと走り出したシンの背後だった。

 「・・・普通はそう考えるよなぁ?普通ならなぁッ!」

 ロロネーはチン・シーの元へ行く前に、邪魔者を先に排除しようとしたのだ。船長室での邪魔といい、この場でのシンによる拘束といい、散々苦渋を舐めさせられたロロネーは同じ轍を踏まぬよう、先に厄介なスキルを使うシンを始末しようとしたのだ。

 完全にしてやられたシン。今からスキルを使ったところで、ロロネーの動きを止めることは出来ない。尚且つ、自身の影に入って回避するには僅かに時間と距離が足りない。どう足掻いてもこの一撃は貰ってしまう。そう覚悟した時、ロロネーの背中を生暖かい何かが伝う。

 「・・・あぁ?」

 背中に手を回し、流れる暖かいものに触れるとその手を眼前に持ってくる。ロロネーの手は真っ赤に染まり、何故傷を負わされたのか理解出来ないといった表情で後ろを振り返る。

 男の背後に立っていたのは、木造の剣を振るい目を閉じたまま構えをとるツクヨの姿だった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...