363 / 1,646
死地を抜けるは非道の技
しおりを挟む
ハオランの攻撃を止めるのは、並大抵の力では相殺すら厳しい。力に力をぶつけてしまえば、単純に力の強い方が打ち勝つ。ハオランの武術は常軌を逸した強さである為、いくら二人分の力とはいえ到底抑えられるものではない。
シンはアサシンのスキル“繋影“で、自らの影とハオランの影を繋ぎ、少しでも彼の力を抑えようとしたが、逆に彼の力に引っ張られてしまう。
甲板の上をまるで雪上を滑るスキーのように引かれ、その道すがらシンは船上にある凡ゆる影とハオランの影を繋げることで、何とかツクヨの力で受け止められるくらいに、勢いを弱めることに成功した。
「おいおいおいおいッ!ここまでして漸く相殺・・・だと!?」
グラン・ヴァーグでの一件以来、久々に会うこととなったシンに、シュユーは何故彼がここにいるのかと少し驚いたが、ツクヨやミアがいるのであれば彼がこの海域にいるのも当然であろうと、感情の修正を図る。
突然舞い込んだ情報に気を取られ、伝えなければならないことを思い出したシュユーは、ハオランの身に起きている事態を、タイミングを計っていたのではないかと思うほど都合よく現れた彼らに、思惑があろうと企みがあろうと今はそんなことはどうでもいい。
ただ主人の元へ、チン・シーの元へ情報を届けてくれればそれだけでいい。そしてシンやツクヨは信用に足人物だと、シュユーは判断している。丁度ツクヨが話の流れを作ってくれている。このまま彼らに、先程見た光景を伝えればきっと行動に移してくれる。
「魂だ・・・!ハオランの中に複数の魂のようなものが入っている。彼の身体から一つだけ、抜け出していくのを見た!頼むッ・・・あの方に、チン・シー様にこのことを伝えてくれッ!」
ハオランの身体から飛び出して行った魂。一つであれば、あの時点でハオランが正気に戻っている筈だ。それが依然変わりなく、彼を苦しめている。肉体に別の魂が入るという感覚がどういったものなのか、シュユーには想像も出来なかったが、ハオランは身体能力だけでなく、精神面でも決して弱くない。
一つや二つの魂に、自我を押し込まれてしまうほど、ハオランの魂は弱くない。共に同じ時を過ごして来たからこそ、それは断言できる。
と、いうことはつまり、彼の身体の中には彼の精神が埋れるほどの魂が押し込まれる程の量か、或いは強靭な精神力の魂が入れられているかのどちらかだろう。だが後者である可能性は低いというのが、シュユーの見解だった。
より注意が散漫になるのは、大きな一つの障害よりも複数の障害だ。数による力というのは、物理的なものだけでなく精神的にも厄介なものだ。今回の場合、一網打尽という手段が取れない以上、尚更だろう。
「複数の魂だって・・・?しかし、この身体の中に複数人いるとして、こんなに上手く扱えるものなのかい?要するに、ハンドルは一つなのに対して目的地の違う操縦士が複数で、そのハンドルを取り合っているようなものだろ?」
ツクヨの言う通り魂の数だけ自我があり、それぞれが自分の思うように身体を動かそうとすれば、ここまで精密な動きで攻撃してくると言うのもおかしな話だ。だがその点に関しては、シュユーやシン達にとってメリットにしかなり得ない。
それこそ、合体ロボットのようにそれぞれが協調性を持ち、一人で操縦する以上の力を発揮出来なければ意味がないからだ。ロロネーの配下にそんなことが出来るだろうか。
ましてや、彼の部下に生きた人間はいない。モンスターのように意思を持たぬ亡霊ばかりの一団では、簡単な指示には従えても、人間のように考えて行動することはない。
「そこは深く考えなくても大丈夫なはず・・・。本来の身体の持ち主である彼以上に、今より精密な攻撃を仕掛けてくることはない。つまり、今より弱くなっても強くなることはないのです」
これはシュユーの仮説だが、魂が抜ければ抜けるほど、中にいるハオランの力が解放され、内側から自身の身体を取り戻すことが可能になるかもしれない。追い詰められ窮地に立たされていたシュユーだが、シン達の増援のおかげで、状況は良い方向へと向かっている。
「なるほど・・・。じゃぁ掻き乱せば更にその魂とやらを追い出せるかもしれないって訳だけだ。ツクヨ!一人でハオランの攻撃を捌けるか?」
「力やスピードじゃ彼に敵わないけど・・・、少しの間凌ぐのであればいける!」
シンはシュユーとツクヨの会話を聞いて、ハオランの中にある魂を追い出す策を実行しようとする。このまま現状のハオランに追われながら、シュユーに託された伝言を何処に居るのか分からないチン・シーの元へ向かうのは、些か厳しいと判断してのことだった。
「何か良い方法が・・・?」
シュユーには、ハオランを正気に戻す手立てがない。故にチン・シーの元へ連れていく他なかった。無論、シンにも彼を完全に正気に戻すことはできない。だが、もしかしたらある程度ハオランの魂を表に持ってくることなら出来るかもしれない。
「アイツの使っていた技を真似るようで癪だが・・・」
そう言うとシンは、一度ハオランを縛り付けていた“繋影“を解く。するとハオランの動きは軽くなり、ツクヨへの攻撃は激化した。彼が辛うじてまだ耐えてくれている内に、シンは前の戦いでヒントを得た、ある新スキルを発動する。
彼の口にしたアイツとは、グレイス海賊団を苦しめた残虐非道な海賊、ロッシュのことだったのだ。そして、ロッシュの用いたパイロットのスキルによる、他者を操縦し操る能力を模したシンなりの影の術、“操影“を放つ。
シンはアサシンのスキル“繋影“で、自らの影とハオランの影を繋ぎ、少しでも彼の力を抑えようとしたが、逆に彼の力に引っ張られてしまう。
甲板の上をまるで雪上を滑るスキーのように引かれ、その道すがらシンは船上にある凡ゆる影とハオランの影を繋げることで、何とかツクヨの力で受け止められるくらいに、勢いを弱めることに成功した。
「おいおいおいおいッ!ここまでして漸く相殺・・・だと!?」
グラン・ヴァーグでの一件以来、久々に会うこととなったシンに、シュユーは何故彼がここにいるのかと少し驚いたが、ツクヨやミアがいるのであれば彼がこの海域にいるのも当然であろうと、感情の修正を図る。
突然舞い込んだ情報に気を取られ、伝えなければならないことを思い出したシュユーは、ハオランの身に起きている事態を、タイミングを計っていたのではないかと思うほど都合よく現れた彼らに、思惑があろうと企みがあろうと今はそんなことはどうでもいい。
ただ主人の元へ、チン・シーの元へ情報を届けてくれればそれだけでいい。そしてシンやツクヨは信用に足人物だと、シュユーは判断している。丁度ツクヨが話の流れを作ってくれている。このまま彼らに、先程見た光景を伝えればきっと行動に移してくれる。
「魂だ・・・!ハオランの中に複数の魂のようなものが入っている。彼の身体から一つだけ、抜け出していくのを見た!頼むッ・・・あの方に、チン・シー様にこのことを伝えてくれッ!」
ハオランの身体から飛び出して行った魂。一つであれば、あの時点でハオランが正気に戻っている筈だ。それが依然変わりなく、彼を苦しめている。肉体に別の魂が入るという感覚がどういったものなのか、シュユーには想像も出来なかったが、ハオランは身体能力だけでなく、精神面でも決して弱くない。
一つや二つの魂に、自我を押し込まれてしまうほど、ハオランの魂は弱くない。共に同じ時を過ごして来たからこそ、それは断言できる。
と、いうことはつまり、彼の身体の中には彼の精神が埋れるほどの魂が押し込まれる程の量か、或いは強靭な精神力の魂が入れられているかのどちらかだろう。だが後者である可能性は低いというのが、シュユーの見解だった。
より注意が散漫になるのは、大きな一つの障害よりも複数の障害だ。数による力というのは、物理的なものだけでなく精神的にも厄介なものだ。今回の場合、一網打尽という手段が取れない以上、尚更だろう。
「複数の魂だって・・・?しかし、この身体の中に複数人いるとして、こんなに上手く扱えるものなのかい?要するに、ハンドルは一つなのに対して目的地の違う操縦士が複数で、そのハンドルを取り合っているようなものだろ?」
ツクヨの言う通り魂の数だけ自我があり、それぞれが自分の思うように身体を動かそうとすれば、ここまで精密な動きで攻撃してくると言うのもおかしな話だ。だがその点に関しては、シュユーやシン達にとってメリットにしかなり得ない。
それこそ、合体ロボットのようにそれぞれが協調性を持ち、一人で操縦する以上の力を発揮出来なければ意味がないからだ。ロロネーの配下にそんなことが出来るだろうか。
ましてや、彼の部下に生きた人間はいない。モンスターのように意思を持たぬ亡霊ばかりの一団では、簡単な指示には従えても、人間のように考えて行動することはない。
「そこは深く考えなくても大丈夫なはず・・・。本来の身体の持ち主である彼以上に、今より精密な攻撃を仕掛けてくることはない。つまり、今より弱くなっても強くなることはないのです」
これはシュユーの仮説だが、魂が抜ければ抜けるほど、中にいるハオランの力が解放され、内側から自身の身体を取り戻すことが可能になるかもしれない。追い詰められ窮地に立たされていたシュユーだが、シン達の増援のおかげで、状況は良い方向へと向かっている。
「なるほど・・・。じゃぁ掻き乱せば更にその魂とやらを追い出せるかもしれないって訳だけだ。ツクヨ!一人でハオランの攻撃を捌けるか?」
「力やスピードじゃ彼に敵わないけど・・・、少しの間凌ぐのであればいける!」
シンはシュユーとツクヨの会話を聞いて、ハオランの中にある魂を追い出す策を実行しようとする。このまま現状のハオランに追われながら、シュユーに託された伝言を何処に居るのか分からないチン・シーの元へ向かうのは、些か厳しいと判断してのことだった。
「何か良い方法が・・・?」
シュユーには、ハオランを正気に戻す手立てがない。故にチン・シーの元へ連れていく他なかった。無論、シンにも彼を完全に正気に戻すことはできない。だが、もしかしたらある程度ハオランの魂を表に持ってくることなら出来るかもしれない。
「アイツの使っていた技を真似るようで癪だが・・・」
そう言うとシンは、一度ハオランを縛り付けていた“繋影“を解く。するとハオランの動きは軽くなり、ツクヨへの攻撃は激化した。彼が辛うじてまだ耐えてくれている内に、シンは前の戦いでヒントを得た、ある新スキルを発動する。
彼の口にしたアイツとは、グレイス海賊団を苦しめた残虐非道な海賊、ロッシュのことだったのだ。そして、ロッシュの用いたパイロットのスキルによる、他者を操縦し操る能力を模したシンなりの影の術、“操影“を放つ。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる