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それぞれの戦地へ
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壁をすり抜けた先は、依然チン・シー海賊団の船員が、亡霊やゴーストシップと戦い続けている甲板の上だった。押し出されことでバランスを崩し、倒れそうになるチン・シーの身体を、そこに居合わせた船員の数名が支える。
彼女は直ぐに体勢を立て直すと、自分がすり抜けて来た壁を叩き、中に残して来てしまったフーファン達に声を荒立てて呼びかける。
「おいッ!何をしている!?妾を中へ戻せッ!シュユーがおらぬのなら、お前達と妾で奴を倒せばよかろうッ!?」
何度も壁を叩き、手を赤くする主人の腕を羽交い締めにし静止させようとする船員達。何故戦闘を行なっている筈の彼らが、都合よくチン・シーの出現する場所に居合わせることが出来たのか。
フーファンは船長室を脱した後、自らと共にロロネーを抑える小隊を組み、部屋へ戻る前に、作戦が成功した後のことを考慮し、チン・シーをシュユーの元まで護衛しサポートする者達を集めていたのだ。
「チン・シー様ッ!行きましょう。彼らの努力と覚悟を無駄にしてはなりません・・・」
もう帰らぬ者を見送るように、哀愁の表情を浮かべ俯く彼らの陰鬱とした空気を一蹴するように喝を入れる。彼女が何よりも嫌う策である、犠牲を買って出たフーファン達。だが恐らく、こうでもしない限りロロネーの前から逃れることは出来なかっただろう。
「馬鹿者ッ・・・、ここで終わりのような言い方をするなッ・・・!」
命令に背き、勝手な真似をしたフーファン達の行動は、主人であるチン・シーを守る為、そしてシュユーと合流しハオランを元に戻してくれると信じ、必ずや勝利へと導いてくれると確信しているからこそ、あの場に残りロロネーを止める役目を果たそうとしてくれた。
初めからチン・シーは気づいていた。だが声を出さずにはいられなかった。信じて送り出してくれたフーファン達の為にも、何としてもシュユーとハオランに合流しなければと、心を落ち着かせ、船長としてなさねばならぬことを果たしに向かう。
「・・・行くぞ。シュユーとハオランの位置は、向かいながら探す。大まかな場所は分かっているからな・・・」
主人の、仲間の窮地に意気消沈する姿やネガティブな感情を周りに見せようとしない気丈さに救われ、船員達は彼女に付き従い、戦禍に包まれる戦場を進む。
その頃、一隻の海上を走る小さな乗り物が、濃霧の中で不気味に漂う破損した海賊船を撃沈させていた。大きな波を立て何処かへ向かおうとする、黒い襲撃を受けたかのような海賊船の後ろを、小さいながらもそのスピードと機動力を生かし、海面を切り裂いて走るその小さな乗り物。
海賊船の側まで近づくと、一度その船体をグッと沈め、反動をつけて跳ね上がる。高く打ち上がったその乗り物から、一人の影が飛び出し海賊船に乗り込むと、暫くして海賊船は霧を吹き出して濃霧の中へと溶けていった。
足場が霧に消え、海へと落ちる人影をその巧みな操縦技術で拾う小さな乗り物。破損しているとはいえ、海賊船を一隻、一人で撃沈させてしまうなど、並大抵のことではない。
それをやってのけた人影の手には、少し小さめの木材で作られた神秘的な剣が握られていた。
「彼を追って来てみれば、これは一体何が起きているのやら・・・」
「既に合流してしまったようだな。恐らく奴らの軍の総攻撃が始まったに違いない。それに・・・この妙な海賊船は何だ?」
ボード状の乗り物に乗った二人組の男達。彼らは先行して向かって行ったハオランの後を追い、遅れて戦地へと赴いたシンとツクヨだった。その道中、徐々に霧は濃くなり、頼りにしていたハオランの起こす波を見失ってしまったシン達。
最後に見た波の動きを追い、ただ漠然と濃霧の中を進んでいると、チン・シー海賊団のものではない妙な雰囲気を醸し出す海賊船を見かける。この戦場において、チン・シーの海賊船でなければ、その船の持ち主はただ一人。
奇襲を仕掛けようと剣や投擲で攻撃するも、物理的な攻撃を通さず手を焼いていると、ツクヨの手にしていた日本伝承の剣、布都御魂剣が光を放ち、悪しきものを討ち払うという権能があることを知る。
彼らはまだ知らないが、亡霊やゴーストシップであるその海賊船は、邪気や悪気を払う神聖な武具の能力や力を、通常以上に受けることとなり、ミア達のように魔力を纏った攻撃で戦うよりも容易に撃沈させることが出来たのだ
布都御魂剣の力を使い、道中のゴーストシップを手当たり次第に潰し、少しでもチン・シー海賊団に降り注ぐ火の粉を払おうと尽力していた。するとその時、濃霧の奥から大砲の轟音や戦うものの声、そして戦火の様子が徐々に明らかとなって来た。
「やった・・・遂に合流できた。急ごう!直ぐにミアを探して、彼らの主人と合流しよう」
「あぁ、だがこれだけ大規模な戦場でどうやって探せば・・・」
二人には特定の誰かや場所を捜索出来るような、特殊な能力もスキルもない。無闇に探し回るのでは時間がかかり過ぎてしまう。下手をすれば危険な場所に赴いてしまい、命の危険に繋がることもあるだろう。
何せ相手は、二人が苦しめられたあのクトゥルプスを使役する程の者。どういった手段かは分からないが、あの怪異達よりも強力で厄介な能力を有していることは、容易に想像できる。
ミアの居場所も、チン・シーの居場所も分からぬまま手を拱いていると、目に見えている光景の中でも奥の方から、一際激しい戦闘をしていると思われる光が見えた。
「・・・如何やら、少なくとも“彼“の場所は分かるようだね・・・」
「誰かと戦ってる・・・。ミアかもしれないッ・・・急ごうッ!」
シンはボードのエンジンを一気に吹かし加速すると、ゴーストシップや海賊船の残骸、砲撃や弓矢の雨を掻い潜り、一際目立つ戦地へと向かう。
彼女は直ぐに体勢を立て直すと、自分がすり抜けて来た壁を叩き、中に残して来てしまったフーファン達に声を荒立てて呼びかける。
「おいッ!何をしている!?妾を中へ戻せッ!シュユーがおらぬのなら、お前達と妾で奴を倒せばよかろうッ!?」
何度も壁を叩き、手を赤くする主人の腕を羽交い締めにし静止させようとする船員達。何故戦闘を行なっている筈の彼らが、都合よくチン・シーの出現する場所に居合わせることが出来たのか。
フーファンは船長室を脱した後、自らと共にロロネーを抑える小隊を組み、部屋へ戻る前に、作戦が成功した後のことを考慮し、チン・シーをシュユーの元まで護衛しサポートする者達を集めていたのだ。
「チン・シー様ッ!行きましょう。彼らの努力と覚悟を無駄にしてはなりません・・・」
もう帰らぬ者を見送るように、哀愁の表情を浮かべ俯く彼らの陰鬱とした空気を一蹴するように喝を入れる。彼女が何よりも嫌う策である、犠牲を買って出たフーファン達。だが恐らく、こうでもしない限りロロネーの前から逃れることは出来なかっただろう。
「馬鹿者ッ・・・、ここで終わりのような言い方をするなッ・・・!」
命令に背き、勝手な真似をしたフーファン達の行動は、主人であるチン・シーを守る為、そしてシュユーと合流しハオランを元に戻してくれると信じ、必ずや勝利へと導いてくれると確信しているからこそ、あの場に残りロロネーを止める役目を果たそうとしてくれた。
初めからチン・シーは気づいていた。だが声を出さずにはいられなかった。信じて送り出してくれたフーファン達の為にも、何としてもシュユーとハオランに合流しなければと、心を落ち着かせ、船長としてなさねばならぬことを果たしに向かう。
「・・・行くぞ。シュユーとハオランの位置は、向かいながら探す。大まかな場所は分かっているからな・・・」
主人の、仲間の窮地に意気消沈する姿やネガティブな感情を周りに見せようとしない気丈さに救われ、船員達は彼女に付き従い、戦禍に包まれる戦場を進む。
その頃、一隻の海上を走る小さな乗り物が、濃霧の中で不気味に漂う破損した海賊船を撃沈させていた。大きな波を立て何処かへ向かおうとする、黒い襲撃を受けたかのような海賊船の後ろを、小さいながらもそのスピードと機動力を生かし、海面を切り裂いて走るその小さな乗り物。
海賊船の側まで近づくと、一度その船体をグッと沈め、反動をつけて跳ね上がる。高く打ち上がったその乗り物から、一人の影が飛び出し海賊船に乗り込むと、暫くして海賊船は霧を吹き出して濃霧の中へと溶けていった。
足場が霧に消え、海へと落ちる人影をその巧みな操縦技術で拾う小さな乗り物。破損しているとはいえ、海賊船を一隻、一人で撃沈させてしまうなど、並大抵のことではない。
それをやってのけた人影の手には、少し小さめの木材で作られた神秘的な剣が握られていた。
「彼を追って来てみれば、これは一体何が起きているのやら・・・」
「既に合流してしまったようだな。恐らく奴らの軍の総攻撃が始まったに違いない。それに・・・この妙な海賊船は何だ?」
ボード状の乗り物に乗った二人組の男達。彼らは先行して向かって行ったハオランの後を追い、遅れて戦地へと赴いたシンとツクヨだった。その道中、徐々に霧は濃くなり、頼りにしていたハオランの起こす波を見失ってしまったシン達。
最後に見た波の動きを追い、ただ漠然と濃霧の中を進んでいると、チン・シー海賊団のものではない妙な雰囲気を醸し出す海賊船を見かける。この戦場において、チン・シーの海賊船でなければ、その船の持ち主はただ一人。
奇襲を仕掛けようと剣や投擲で攻撃するも、物理的な攻撃を通さず手を焼いていると、ツクヨの手にしていた日本伝承の剣、布都御魂剣が光を放ち、悪しきものを討ち払うという権能があることを知る。
彼らはまだ知らないが、亡霊やゴーストシップであるその海賊船は、邪気や悪気を払う神聖な武具の能力や力を、通常以上に受けることとなり、ミア達のように魔力を纏った攻撃で戦うよりも容易に撃沈させることが出来たのだ
布都御魂剣の力を使い、道中のゴーストシップを手当たり次第に潰し、少しでもチン・シー海賊団に降り注ぐ火の粉を払おうと尽力していた。するとその時、濃霧の奥から大砲の轟音や戦うものの声、そして戦火の様子が徐々に明らかとなって来た。
「やった・・・遂に合流できた。急ごう!直ぐにミアを探して、彼らの主人と合流しよう」
「あぁ、だがこれだけ大規模な戦場でどうやって探せば・・・」
二人には特定の誰かや場所を捜索出来るような、特殊な能力もスキルもない。無闇に探し回るのでは時間がかかり過ぎてしまう。下手をすれば危険な場所に赴いてしまい、命の危険に繋がることもあるだろう。
何せ相手は、二人が苦しめられたあのクトゥルプスを使役する程の者。どういった手段かは分からないが、あの怪異達よりも強力で厄介な能力を有していることは、容易に想像できる。
ミアの居場所も、チン・シーの居場所も分からぬまま手を拱いていると、目に見えている光景の中でも奥の方から、一際激しい戦闘をしていると思われる光が見えた。
「・・・如何やら、少なくとも“彼“の場所は分かるようだね・・・」
「誰かと戦ってる・・・。ミアかもしれないッ・・・急ごうッ!」
シンはボードのエンジンを一気に吹かし加速すると、ゴーストシップや海賊船の残骸、砲撃や弓矢の雨を掻い潜り、一際目立つ戦地へと向かう。
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