World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
345 / 1,646

鋭敏の拳と伝承の剣

しおりを挟む
 眩い光の動きが、まるで目に見えるように降り注ぐ水飛沫をシン達の方へと吹き飛ばす。暗い地下を走る列車の光のように、徐々に迫る光はその安らかで明るい様子とは裏腹に、とてつもない悪寒を二人に与え命を脅かした。

 「シンッ!!」

 「分かってるッ!だが駄目だ・・・今からでは避けきれないッ!」

 こんなに取り乱したツクヨは初めてだった。普段の彼の言動からでは想像もつかない緊迫した声で、シンにボードを急発進させハンドルを切るように伝える。しかしシンの口にした通り、今から加速を始めてハンドルを切ったところで、最早避けることなど不可能。

 どう足掻いても、このツバキのボードの性能だけでは逃れられない一撃。寧ろこのボードだったからこそ、ここまでハオランの攻撃を避けてこれたとも言える。並大抵の船や海上を移動する手段では、今頃海に沈められていておかしくはない。

 このまま真面に貰えば、ボードごと破壊されレースへの再起はおろか、生きて再び陸地に辿り着けなくなる絶望的な状況。ツクヨは意を決したように歯を食いしばり覚悟を決めると、布都御魂剣をボードの操縦者の魔力を吸収するコア部分に近づけ、ありったけの魔力を吸わせた。

 「ッ・・・!?何をしたんだツクヨ!」

 「これしかない!しっかりハンドルを握ってるんだぞ・・・!」

 ボードはツクヨの手にした布都御魂剣の魔力を大量に吸い上げ、周囲一帯をビリビリと振るわせるほどの轟音と共にエンジンを吹かし、急加速する為の準備を始めた。だがそれでも、水飛沫の向こう側から迫り来る衝撃波を避けるには至らない。

 急加速の準備を終えたツクヨはボードの上で立ち上がり、シンと衝撃波の間に割って入るようにして、ボードから飛び出した。突然軽くなるボード。そして真横に飛び出して来たツクヨを、驚きの目で見つめるシン。

 「なッ・・・何をやっているんだぁッ!!」

 「今、私達の持ち得る最大の武器はこれしかない・・・」

 その言葉を最後に、衝撃波がツクヨを襲う。辛うじて布都御魂剣で受け止めるツクヨだが、その身体は空中で押し込まれ、ボードのハンドルを力強く握るシンへぶつかりもたれかかる。

 エンジンを吹かしたまま大きく横に押されるボード。シンはツクヨの身体に押されるままバランスを崩さないようにするので精一杯だった。だがシンにダメージはない。衝撃波をツクヨが全て受け止めてくれているおかげだ。

 海へ落ちないように踏ん張ることで、頭が他のことへ意識を回すほどの余裕を与えてくれない。ここでシンがバランスを崩せば全てが水の泡。すると、ツクヨは身体を僅かに横に傾け、シンの身体を押し出す。

 それと同時に、ボードが布都御魂剣から吸い上げた魔力を爆発させるように一気に急加速する。シンを乗せたボードは衝撃波の範囲から逃れ、無事に脱出することが出来た。衝撃波を受け止めるツクヨを残して・・・。

 「布都御魂剣といえば、日本神話における伝説の剣じゃないか・・・。私の思いに応えてくれよ・・・!」

 衝撃波はツクヨに命中する前に、布都御魂剣によって受け止められており、ツクヨの身体を大きく後方へ吹き飛ばしていた。シンが射線上から逃れると、遂に限界を迎えたのか最後の力を振り絞り、ツクヨが剣を振るうと衝撃波を両断し、勢い良く海へ入水する。

 想像も出来ないような、何か大きな物が海へ落ちたとでも言わんばかりの水飛沫が上がる。ツクヨの姿を探していたシンは、すぐに音のなる方を振り向く。ハオランの作った先程までの水飛沫の十倍以上はあるだろうか。

 巨大な水飛沫の壁と、妙に塩っ辛い大粒の雨を辺り一帯に降らせた衝撃波は、一体何処へ消えたのだろうと言うほど綺麗に無くなっていた。火の雨を掻き消しふり注ぐ水飛沫の中を、ハオランなどそっちのけでボードを走らせるシン。

 「ツクヨ・・・ツクヨッ・・・!どこいったんだ、おいッ!」

 彼の安否が心配で頭が回らない。クトゥルプスの時は意識があった。だが、今回は違う。あれだけの衝撃を一身に受けて体力を消耗している筈。意識だってあるかどうか分からない。そんな疲弊した状態で、あの能力が果たして使えるのか。咄嗟に思いつくか。

 早く姿を見つけなければと焦れば焦るほど、無駄にボードのエンジンを吹かし加速させることで自身の魔力を消費してしまっていた。そして海面に、何かが横たわっているのが彼の目に映った。

 「ツクヨッ!!」

 彼の身体はその手にした剣の能力で、まるで波打ち際に打ち上げられたかのようにうつ伏せで倒れ込み、波に身体を揺らしていた。いつの間に身につけたのか、巧みな操縦技術でツクヨの側にボードをつけると、彼の身体を片手で抱え込み、ゆっくりボードは走らせる。

 「上手く・・・いったようだね・・・。はッ・・・ハオランは・・・?」

 「先に行ってしまったよ。それより・・・もう無茶は止めてくれ。寿命が縮むようとは良く言ったもんだな・・・心配したぞ・・・」

 やはりシンは少し変わった。ツクヨは彼の口から飛び出した温かい言葉に驚かさせると同時に、この異様な世界でいい方向へと心が傾いていることにホッとして、表情が緩んだ。

 「君がそれを言うのかい?それに・・・私は家族を見つけるまで死ねないよ・・・」

 ハオランに追いつき、彼本来の意識を呼び覚ますつもりだったが、見事に巻かれてしまった。だが何も収穫がなかった訳ではない。ハオランの意識は彼の中にあり、今も尚必死に争おうとしていることが分かった。

 そして何より、二人とも重傷を負わずに済んだ。引き止められなかったのは力不足だったが、このままハオランを追い、チン・シーの本船へ合流しロロネーとの決戦に備える方が安全だ。意見が一致した二人は、僅かに残るハオランの残した波を追いかける。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

黙示録戦争後に残された世界でたった一人冷凍睡眠から蘇ったオレが超科学のチート人工知能の超美女とともに文芸復興を目指す物語。

あっちゅまん
ファンタジー
黙示録の最終戦争は実際に起きてしまった……そして、人類は一度滅亡した。 だが、もう一度世界は創生され、新しい魔法文明が栄えた世界となっていた。 ところが、そんな中、冷凍睡眠されていたオレはなんと蘇生されてしまったのだ。 オレを目覚めさせた超絶ボディの超科学の人工頭脳の超美女と、オレの飼っていた粘菌が超進化したメイドと、同じく飼っていたペットの超進化したフクロウの紳士と、コレクションのフィギュアが生命を宿した双子の女子高生アンドロイドとともに、魔力がないのに元の世界の科学力を使って、マンガ・アニメを蘇らせ、この世界でも流行させるために頑張る話。 そして、そのついでに、街をどんどん発展させて建国して、いつのまにか世界にめちゃくちゃ影響力のある存在になっていく物語です。 【黙示録戦争後に残された世界観及び設定集】も別にアップしています。 よければ参考にしてください。

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...