World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
338 / 1,646

ブリュム・ルヴナン

しおりを挟む
 濃度の濃い霧に自軍の船を隠したロロネーは、船に乗り合わせている船員達へ総攻撃を仕掛けるよう指示を出す。すると彼の軍勢は立ち待ち姿を変え、足先から腰の辺まで質量でもあるかのようなミストに変貌し、亡霊となったのだ。

 船を使わずして海を渡れるその身体で、彼らは雄叫びを上げながら一斉に霧を突き抜け、両翼のチン・シー海賊団の元へと散らばって行った。誰もいなくなったロロネー海賊団の船は、濃い霧の中で滞在し、炎と共にその姿をゆっくりと霧の中へと溶かした。

 船員達を火の雨が降る海域から脱出させ、攻勢に転じさせる指示を出していた頃、ロロネーは自身の海賊船で、何かが霧の中で光り、小さく霧を突き抜けながらこちらに向かって来る物に気がつく。

 だが、光に気づいた時には既に銃弾は、人間の反射神経では到底避けようも無いところにまで迫っていた。ロロネーの眉が、微かな光を捉え潜ませていたのを、それが自身の命を狙って放たれた物だと気づき、目を見開く動作よりも速く銃弾は彼まで残り数メートルの位置にまで来る。

 ロロネーの脳が危険信号を身体に伝達しようとしていた時、彼と銃弾の間に何か別の物が瞬時に入り込む。すると銃弾は、その入り込んだ何かによって軌道を変えられ、何もない霧の向こう側へと消えて行ってしまった。

 既にことが済んだ後、漸くロロネーは自身に迫る危険に目を閉じて身体を逸らす。しかし、何も起こらないことに疑問を抱き、薄っすらと閉じた目を開く。そこには視界の側面から伸びる鉄製の板状のものが入り込んでおり、ロロネーを銃弾から守っていた。

 その板を目で追うと、そこには剣をロロネーの前に差し出しているハオランの姿があった。何を隠そう、彼こそがミアの銃弾からロロネーの命を守った張本人だったのだ。

 銃弾の発砲音に気づき、いち早くその狙いがロロネーであると悟り、銃弾が辿り着く前にロロネーの腰から剣を抜き、銃弾の軌道上に差し込んでいた。発砲してからそこまで出来る反射神経と、硬い装甲に風穴を空けるほどの威力を誇るライフル弾に剣を弾き飛ばされない身体能力。

 命拾いしたロロネーは、大きく溜め込んだ息を吐き出し、安堵する。

 「狙撃か・・・チン・シーの奴、この霧の中で何故俺達の位置を正確に狙って来た?」

 そういうとロロネーは少し悩んだ後、ハオランの方を見て何かを察する。彼女の能力が、他者と繋がり能力を共有する力であることは、ロロネーも事前に調べて知っていたこと。そしてその能力を、我が物とする為、彼女に戦いを挑んだ。

 しかし、如何に用心深く相手のことを調べるロロネーであっても、チン・シーの特異な能力の詳細までは掴めていなかった。故にハオランを側に置いていることで、自分の位置を相手に掴まれているなど、予想だにしていなかった。

 「・・・こいつかぁ・・・?」

 だがそこは察しの良いロロネー。今までこの濃霧の中を遠距離から狙われ、狙撃されたことなどなかった。ハオランが居ることで初めて起きた不測の事態。今までと今回の違い、そして相手の能力である共有から、チン・シーとハオランの間に共有による何かの副作用が起きているのではないかと考えたのだ。

 「まぁいい、直ぐに会わせてやるさ・・・。その時は、“敵として“だがな・・・」

 不適な笑みを浮かべるロロネーは、その場にいることで再び狙撃されることを警戒し、直ぐに船を別の場所へと移動させ、霧の中へと消えて行った。

 「・・・・・?」

 その頃、ハオランの直ぐ側にいた筈のロロネーを狙撃したミアとチン・シー海賊団は、銃声の余韻にその結果を誰に求めたものかと、暫しの沈黙が船長室を覆う。

 「・・・外した・・・のでしょうか・・・?」

 「分からない・・・。だが、当たれば何かしらの反応がある筈なんだが・・・」

 結果が気になり沈黙を破ったのは、チン・シー海賊団の中でも参謀も務めることのあるシュユー。銃の類を殆ど扱わない彼が、ミアにこの沈黙の意と結果を求めるが、ミアにとっても異例の環境下での狙撃。

 音を呑み込む濃霧に、姿はおろか気配すら感じない標的という極めて厳しい状況であり、彼女自身も銃弾の行方は分からない。だが、このまま手を拱いていても拉致が空かないと、部屋の椅子に鎮座するチン・シーが指示を出す。

 「この霧とハオランの気配が消えていないことが答えだ。元よりこんなに簡単に奴が殺せていれば、苦労はしない。それよりも今は場所を変える。直ぐに船を出せッ!」

 いつまでも狙撃した場所に止まっていては、こちらの位置がバレ反撃を受けてしまう。それを警戒し直ぐに船を出させると、次なる策に繋がるであろう行動の指示を出す。

 しかし、それを妨げるように火の雨が降る霧の向こうから、雄叫びを上げ何かがやってくる。それに一早く気づいたのはミアだった。唖然として窓から自分の狙撃した方を眺めていると、視界の端で蜃気楼のように空気が歪むのが見えたのだ。

 それは見覚えのある実体の無い敵。最初にロロネー海賊団の衝撃を与えた海賊の亡霊の数々が、海を飛び越え霧に姿を溶かしながら襲いかかって来た。今までとは比較にならない夥しい数の亡霊が、次から次へと武器を片手に甲板の船員達へ斬りかかる。

 「てッ・・・敵襲ッ!例の亡霊が目標の海域より無数に飛来して来ますッ!」

 外にいた船員からの報告に、船長室の空気も緊張を取り戻したかのようにピリッとする。やはりロロネーの海賊船には、人間らしい人間など乗っていなかった。それ故、普通の海戦とは勝手が違うであろうことは、チン・シーも予想していた。

 「やはり奴の船には・・・。なるほど、だから船を捨てて来たのか。シュユーよ!エンチャント武器の準備はどうなっている!」

 「そちらも抜かりございません。全ての船に補充済みです」

 亡霊に物理的な攻撃は通用しない。それは一度目の戦闘で学んでいることだ。そして凍らせれば、エンチャントされていない武器であってもダメージを与えることが可能だということを、ミアが証明して見せた。もう以前のようにパニックに陥ることなく、迎え撃つことが出来る。

 「全軍に通達せよ!この数だ、敵軍も相応の戦力を引っ張り出して来たことだろう。戦い方は心得ておろうなッ!ここが正念場ぞ、武器を手に取り返り討ちにせよッ!」

 彼女の号令で船員達の士気が高まり、シュユーの用意したエンチャント武器を手に取り亡霊を迎え撃つ。しかし、これほどの戦力を掲げておいても尚、ロロネーの姿が見当たらない。彼はこのまま、チン・シー海賊団の兵力が減るのを待つつもりなのだろうか。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~

神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!! 皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました! ありがとうございます! VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。 山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・? それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい! 毎週土曜日更新(偶に休み)

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

転移先は勇者と呼ばれた男のもとだった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
 人魔戦争。  それは魔人と人族の戦争。  その規模は計り知れず、2年の時を経て終戦。  勝敗は人族に旗が上がったものの、人族にも魔人にも深い心の傷を残した。  それを良しとせず立ち上がったのは魔王を打ち果たした勇者である。  勇者は終戦後、すぐに国を建国。  そして見事、平和協定条約を結びつけ、法をつくる事で世界を平和へと導いた。  それから25年後。  1人の子供が異世界に降り立つ。      

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる

朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。 彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...