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再会と開戦
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ロロネーの思惑通り、チン・シーはハオランを頼りに敵総大将の場所を暴こうとしている。これだけの時間があれば、ハオランの身体能力で既にロロネーを見つけていてもおかしくはない。
それに何より、単独行動を得意とする彼のためにチン・シーは、ウィリアムの元で一人乗り用の機動力があり、小回りの利く舟を探させていた。しかし、ウィリアムは他の海賊船の修繕や改造、新規購入に追われ少人数用の舟を新たに造る時間などなく、彼自身の店にもそのようなものは陳列していなかった。
そこで、このレースの為に密かにツバキ造船していた舟に目をつけたと言う事情があったのだ。ツバキはウィリアムに、レースに向けての造船を反対されており、完成したとしても恐らくウィリアムの許可は下りなかっただろう。
自身の造った船で大勢の人間が海を渡る。船を造る者には、そんな大勢の命を安全に確実に目的地まで送り届けられるという、技術や保証が求められる。
ツバキの船がもし、整備不良によりレースの途中で沈没するようなことがあれば、責任を背負わされるのは彼だけでなく、その師匠であるウィリアムなのだ。
いくらこれまでの実績や経験があろうと、一度の失敗で信用を失うことだってある。それよりも、船を造った本人であるツバキへのダメージは相当なものになるだろう。場合によっては、二度と造船技師として生きていくことが出来なくなってしまうだけでなく、恨みを買い命を狙われることもあるのだという。
ウィリアムは何も、意地悪でツバキの造船を認めていないのではない。彼が船を造ってくれば、それなりにちゃんと評価し、至らぬ点をしっかり指摘する。だが、この若さで技師として名乗りを上げるには、明らかに経験が不足している。
そしてウィリアムは何よりも、彼の成長を嬉しく思い、大切にしたいと思っていた。しかし、そんな思いなどまだ幼い彼に理解出来る筈もなく、強硬手段に出ることになる。
優勝候補の一人、大海賊エイヴリーが自身の海賊船の強化に使えないかと、世界でも珍しい素材をウィリアムの元へ持って来た。ツバキはそれを少しばかり拝借し、自身の造船に使用することにより、一人乗り用のウォーターボードを造り上げたのだ。
それは、乗る者の能力に作用し反映する、極めて特殊な乗り物となった。ハオランにとってこれ程相性の良い乗り物があるだろうか。彼は直ぐにツバキのボードを気に入り、購入を決断する。
ウィリアムに、このボードを造っていることがバレるのを恐れたツバキは、ハオランの差し出した莫大な金額や、いくらに相当するかも想像出来ない財宝を受け取ることなく、その代わり一つだけハオランに条件を出した。
このボードを使ってレースで活躍して欲しい。そして製作者であるツバキの名を世界に伝えて欲しいと。チン・シー海賊団のハオランと聞けば、海賊や海に関する者達の間であれば知らぬ者はいない程の知名度を誇り、その容姿から熱狂的なファンクラブがあちこちに出来る程の人物。
ツバキにとってもハオランは、これ以上ない程のクライアントだったのだ。
驚異的な身体能力と、最高の相性のボードを手にしたハオランは正しく鬼に金棒。そんな彼であれば、ロロネーの発見を果たしその首を討ち取っていたとしてもおかしくない。
濃霧の中を進軍しながら、先程までの大掛かりな捜索ではなく、彼女自身の能力でハオランの位置を手探りで探しながら船を進める。ロロネーの攻撃はいつも突然だった。故に妖術師達による術は捜索よりも防衛に向けられていた。
「・・・ッ!?ハオランの気配だ、操舵室に繋げ!」
チン・シーの捜索にハオランの反応が出る。それはつまり、それだけ近い位置にハオランがいるということ。だがこの海域に広がる濃霧は依然掛かったままであることから、ロロネーが生存している可能性が高まる。
船員達の心にあった僅かな希望は、その報告により断たれることになる。望むのなら、既に総大将の首を討ち取っていて欲しかった。だが可能性はゼロではない。それにハオランが戻って来たのであれば、チン・シーのリンクにより更に強力な戦闘が可能になる。
近くにまで迫っているかもしれない、ロロネーの存在に緊張感の高まる一同。いつ如何なる方法で攻撃を仕掛けて来るか分からない。早急にハオランと合流し、最大戦力を手元に置きたいと、不安に覆われながらも急ぎチン・シーの指示に従い準備を整え、舵を切り航路を変える。
そして慎重に濃霧の中を進んでいると、周囲の警戒に当たっていた者が遂に霧の向こう側に近づく影をその目に捉える。
「ふッ・・・船が一隻、こちらに向かって来ますッ!」
「一隻・・・?ハオランが船を奪って帰って来たのでしょうか?」
船員の報告に、思わず言葉を漏らすシュユー。そして反応を感じ取っている筈のチン・シーへ視線を送るも、彼女はハオランの帰還を喜ばしく思うどころか、眉間に皺を寄せ難しい顔をしている。
そして、同じくマストに上り周囲の警戒に当たっていたミアが、近づいて来る海賊船に人影を発見する。だが、そのスコープのレンズに写る人影は一つではなく二つあった。
「二人いる・・・。あれは、ハオランと・・・」
横に並ぶ二つの影は、一つはハオラン。だが様子がおかしく、どこか気の抜けたように憮然とそこに立ち尽くしている。そしてその隣には、ミア達がグラン・ヴァーグの街で見た時とは違い、海賊らしく豪勢なマントを羽織ったロロネーが、腕を組んで立っていた。
「・・・ロロネー・・・」
スコープから目を外すと、肉眼でその海賊船の方を見つめて息を飲むミア。何度か危ない目にもあったが、今眼前に迫るこの男を倒せば、漸くこの戦いも終わる。どんな手段で攻撃を仕掛けてくるかは分からないが、こうして堂々と姿を現したということは、何か勝算があってのことなのだろう。
海賊チン・シーの船団を前に、ロロネー両腕をいっぱいに広げ高笑いをしながら開戦の合図とでも言わんばかりに声を発する。
「さぁ、チン・シーよぉ!ちょいと待たせちまったが、始めようじゃぁねぇかッ!勝敗がつく頃には、どちらかの海賊団が消滅してるって訳だ。こいつぁちょっとした騒ぎになるなぁ。そんじゃいくぜッ!野郎共ぉッ!!」
男の号令を合図に、濃霧の中からそれまで確認出来なかったロロネー海賊団の影が次々と現れ始める。その数は現在のチン・シー海賊団の数を上回る数で、周囲を取り囲んでいた。
それに何より、単独行動を得意とする彼のためにチン・シーは、ウィリアムの元で一人乗り用の機動力があり、小回りの利く舟を探させていた。しかし、ウィリアムは他の海賊船の修繕や改造、新規購入に追われ少人数用の舟を新たに造る時間などなく、彼自身の店にもそのようなものは陳列していなかった。
そこで、このレースの為に密かにツバキ造船していた舟に目をつけたと言う事情があったのだ。ツバキはウィリアムに、レースに向けての造船を反対されており、完成したとしても恐らくウィリアムの許可は下りなかっただろう。
自身の造った船で大勢の人間が海を渡る。船を造る者には、そんな大勢の命を安全に確実に目的地まで送り届けられるという、技術や保証が求められる。
ツバキの船がもし、整備不良によりレースの途中で沈没するようなことがあれば、責任を背負わされるのは彼だけでなく、その師匠であるウィリアムなのだ。
いくらこれまでの実績や経験があろうと、一度の失敗で信用を失うことだってある。それよりも、船を造った本人であるツバキへのダメージは相当なものになるだろう。場合によっては、二度と造船技師として生きていくことが出来なくなってしまうだけでなく、恨みを買い命を狙われることもあるのだという。
ウィリアムは何も、意地悪でツバキの造船を認めていないのではない。彼が船を造ってくれば、それなりにちゃんと評価し、至らぬ点をしっかり指摘する。だが、この若さで技師として名乗りを上げるには、明らかに経験が不足している。
そしてウィリアムは何よりも、彼の成長を嬉しく思い、大切にしたいと思っていた。しかし、そんな思いなどまだ幼い彼に理解出来る筈もなく、強硬手段に出ることになる。
優勝候補の一人、大海賊エイヴリーが自身の海賊船の強化に使えないかと、世界でも珍しい素材をウィリアムの元へ持って来た。ツバキはそれを少しばかり拝借し、自身の造船に使用することにより、一人乗り用のウォーターボードを造り上げたのだ。
それは、乗る者の能力に作用し反映する、極めて特殊な乗り物となった。ハオランにとってこれ程相性の良い乗り物があるだろうか。彼は直ぐにツバキのボードを気に入り、購入を決断する。
ウィリアムに、このボードを造っていることがバレるのを恐れたツバキは、ハオランの差し出した莫大な金額や、いくらに相当するかも想像出来ない財宝を受け取ることなく、その代わり一つだけハオランに条件を出した。
このボードを使ってレースで活躍して欲しい。そして製作者であるツバキの名を世界に伝えて欲しいと。チン・シー海賊団のハオランと聞けば、海賊や海に関する者達の間であれば知らぬ者はいない程の知名度を誇り、その容姿から熱狂的なファンクラブがあちこちに出来る程の人物。
ツバキにとってもハオランは、これ以上ない程のクライアントだったのだ。
驚異的な身体能力と、最高の相性のボードを手にしたハオランは正しく鬼に金棒。そんな彼であれば、ロロネーの発見を果たしその首を討ち取っていたとしてもおかしくない。
濃霧の中を進軍しながら、先程までの大掛かりな捜索ではなく、彼女自身の能力でハオランの位置を手探りで探しながら船を進める。ロロネーの攻撃はいつも突然だった。故に妖術師達による術は捜索よりも防衛に向けられていた。
「・・・ッ!?ハオランの気配だ、操舵室に繋げ!」
チン・シーの捜索にハオランの反応が出る。それはつまり、それだけ近い位置にハオランがいるということ。だがこの海域に広がる濃霧は依然掛かったままであることから、ロロネーが生存している可能性が高まる。
船員達の心にあった僅かな希望は、その報告により断たれることになる。望むのなら、既に総大将の首を討ち取っていて欲しかった。だが可能性はゼロではない。それにハオランが戻って来たのであれば、チン・シーのリンクにより更に強力な戦闘が可能になる。
近くにまで迫っているかもしれない、ロロネーの存在に緊張感の高まる一同。いつ如何なる方法で攻撃を仕掛けて来るか分からない。早急にハオランと合流し、最大戦力を手元に置きたいと、不安に覆われながらも急ぎチン・シーの指示に従い準備を整え、舵を切り航路を変える。
そして慎重に濃霧の中を進んでいると、周囲の警戒に当たっていた者が遂に霧の向こう側に近づく影をその目に捉える。
「ふッ・・・船が一隻、こちらに向かって来ますッ!」
「一隻・・・?ハオランが船を奪って帰って来たのでしょうか?」
船員の報告に、思わず言葉を漏らすシュユー。そして反応を感じ取っている筈のチン・シーへ視線を送るも、彼女はハオランの帰還を喜ばしく思うどころか、眉間に皺を寄せ難しい顔をしている。
そして、同じくマストに上り周囲の警戒に当たっていたミアが、近づいて来る海賊船に人影を発見する。だが、そのスコープのレンズに写る人影は一つではなく二つあった。
「二人いる・・・。あれは、ハオランと・・・」
横に並ぶ二つの影は、一つはハオラン。だが様子がおかしく、どこか気の抜けたように憮然とそこに立ち尽くしている。そしてその隣には、ミア達がグラン・ヴァーグの街で見た時とは違い、海賊らしく豪勢なマントを羽織ったロロネーが、腕を組んで立っていた。
「・・・ロロネー・・・」
スコープから目を外すと、肉眼でその海賊船の方を見つめて息を飲むミア。何度か危ない目にもあったが、今眼前に迫るこの男を倒せば、漸くこの戦いも終わる。どんな手段で攻撃を仕掛けてくるかは分からないが、こうして堂々と姿を現したということは、何か勝算があってのことなのだろう。
海賊チン・シーの船団を前に、ロロネー両腕をいっぱいに広げ高笑いをしながら開戦の合図とでも言わんばかりに声を発する。
「さぁ、チン・シーよぉ!ちょいと待たせちまったが、始めようじゃぁねぇかッ!勝敗がつく頃には、どちらかの海賊団が消滅してるって訳だ。こいつぁちょっとした騒ぎになるなぁ。そんじゃいくぜッ!野郎共ぉッ!!」
男の号令を合図に、濃霧の中からそれまで確認出来なかったロロネー海賊団の影が次々と現れ始める。その数は現在のチン・シー海賊団の数を上回る数で、周囲を取り囲んでいた。
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