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動き出す悪行の権化
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チン・シーの能力で捜索出来る自軍の海賊船を粗方迎えると、船団に復帰した船への物資の補給や、船員達の治療をし準備を整えていくシュユー。彼らの話によると後退の際に本隊と逸れた後、受けていた指示通り先を行く船から感じる妖術を頼りに航路を取るも、探知はすぐに効かなくなる。
進んでいた航路を継続し、濃霧の中を進んでいくと突如自軍のものと思われる火の矢が飛んで来て戦闘を開始。姿を現したのは、自分達と同じ船に乗った見慣れた面々だったと言う。
これは、ミアが本隊に到着する前に遭遇した出来事を報告したものと同じ現象だった。つまり、後退した後逸れた海賊船は各々その現象と遭遇し、互いに戦力を削り合ってしまった形となる。それが本物の自軍であるかは分からないが。
その戦闘で妖術を扱う船員が生存しているかいないかで、今チン・シーの能力で迎えることが出来るかが決まってくる。
依然、その択一した手腕を振るうシュユーだったが、船長室の奥に消えていった主人チン・シーが部屋から出て戻って来た。どうやら近辺で探れる自軍の海賊船は全て回収し切ったようだ。
「ふむ・・・、これ以上の捜索は叶わぬようだ。シュユーよ、ご苦労であった。何か変わったことはあったか?」
合流出来なかった者達は、恐らく霧の中で襲撃を受けた際に敗北したか、妖術師を失ってしまったか。或いは距離が開き過ぎて捜索網に引っかからなかったのだろう。
そして、その中にはシン達を乗せた海賊船も含まれている。彼らの船は治療を担当する回復班と数名の戦闘員だけを残し、操縦士諸共クトゥルプスによって殺害されてしまっていたからだ。
「いえ、問題ありません。準備も着実に進んでいます」
シュユーの手際の良さに機嫌を良くしたチン・シーは、いよいよ濃霧の何処かにいるであろうロロネーの捜索に打って出る。膝を着き頭を下げるシュユーを引き連れ、船長室にある豪勢な椅子へと腰掛ける。
「聞けッ!皆のもの。これより我々は敵軍の総大将であるロロネーの首を取りに行く。仲間の船の行方や、ハオランのことは気になるが、戦闘が始まれば戦禍を聞きつけ参じるやもしれぬ。今ある戦力で陣形を組み、濃霧を突き進むぞ!」
彼女の号令は周囲の海賊船へも伝わり、各々の船の速力を調整し陣形を組み始める。態勢を整えた彼らは足並みを揃え、陣形を保ったまま付かず離れずの距離を保ち、進軍を開始した。
一方、別の場所より濃霧の中を進む船団があった。その船n一隻に、船首に立ち航路を見つめる男の姿がある。
「・・・?やけに静かじゃねぇか・・・。どういうこった?アイツらは何してやがる?」
ハオランを手に入れる為、その間邪魔が入らぬよう後退していったチン・シー海賊団の襲撃を、メデューズとクトゥルプスに任せていたロロネー。しかし、濃霧の中の海域は彼が想像していたよりも遥かに静かで、とても戦闘が行われているような様子には見えなかった。
二人の実力を知っているロロネーは、あの異形のモンスター達がそう簡単に倒されるなど思っていなかった。自身の用事が済み戦闘に合流した後に、モンスター達と一気にチン・シーを叩く手筈だった。
「おいおい・・・まさか全部やっちまったんじゃねぇだろうなぁ?それとも・・・」
海面には、所々に船の残骸や人の死体、或いは彼の差し向けた骸骨の船員達がバラバラになり、波に流され浮いている。明らかに人間同士の海戦による船の壊れ方ではない。
それはまるで、木の枝の束を握りつぶしたかのように海賊船の外装が散乱している。そのことから、あの二人がチン・シー海賊団の何隻かを撃沈させたことが伺える。だが、それなら何故姿を見せないのか。それは狩る相手がいなくなったか、或いは逆に始末されたかのどちらかだろう。
「ふん・・・まぁ構わねぇか。こっちには奴らの居場所を突き止める術がある。それに・・・コイツがいりゃぁ向こうからやって来るだろうしな」
そう言って、俯いて大人しく立ち尽くすハオランの方を見るロロネー。依然ハオランはロロネーの術中にはまり自我を失っているようだった。
そして彼の言う、向こうからこちらにやって来るとは、チン・シーがハオランを見捨てる筈がないと分かっているからだ。それに彼女の能力を知ってるロロネーは、チン・シーによるハオランのリンクの多様をある程度想定しており、その反応を頼りにこちらを探して来ることを読んでいた。
チン・シー海賊団の最強の手駒が、まさか相手の手に落ちているとは思ってもいないであろう彼らの反応に、ロロネーの気は高まる。最早彼にとってメデューズやクトゥルプスがどうなっていようと、知ったことではなかった。
ただハオランを手に入れるまでの時間稼ぎを達成してくれたのであれば、それでよかったのだから。
進んでいた航路を継続し、濃霧の中を進んでいくと突如自軍のものと思われる火の矢が飛んで来て戦闘を開始。姿を現したのは、自分達と同じ船に乗った見慣れた面々だったと言う。
これは、ミアが本隊に到着する前に遭遇した出来事を報告したものと同じ現象だった。つまり、後退した後逸れた海賊船は各々その現象と遭遇し、互いに戦力を削り合ってしまった形となる。それが本物の自軍であるかは分からないが。
その戦闘で妖術を扱う船員が生存しているかいないかで、今チン・シーの能力で迎えることが出来るかが決まってくる。
依然、その択一した手腕を振るうシュユーだったが、船長室の奥に消えていった主人チン・シーが部屋から出て戻って来た。どうやら近辺で探れる自軍の海賊船は全て回収し切ったようだ。
「ふむ・・・、これ以上の捜索は叶わぬようだ。シュユーよ、ご苦労であった。何か変わったことはあったか?」
合流出来なかった者達は、恐らく霧の中で襲撃を受けた際に敗北したか、妖術師を失ってしまったか。或いは距離が開き過ぎて捜索網に引っかからなかったのだろう。
そして、その中にはシン達を乗せた海賊船も含まれている。彼らの船は治療を担当する回復班と数名の戦闘員だけを残し、操縦士諸共クトゥルプスによって殺害されてしまっていたからだ。
「いえ、問題ありません。準備も着実に進んでいます」
シュユーの手際の良さに機嫌を良くしたチン・シーは、いよいよ濃霧の何処かにいるであろうロロネーの捜索に打って出る。膝を着き頭を下げるシュユーを引き連れ、船長室にある豪勢な椅子へと腰掛ける。
「聞けッ!皆のもの。これより我々は敵軍の総大将であるロロネーの首を取りに行く。仲間の船の行方や、ハオランのことは気になるが、戦闘が始まれば戦禍を聞きつけ参じるやもしれぬ。今ある戦力で陣形を組み、濃霧を突き進むぞ!」
彼女の号令は周囲の海賊船へも伝わり、各々の船の速力を調整し陣形を組み始める。態勢を整えた彼らは足並みを揃え、陣形を保ったまま付かず離れずの距離を保ち、進軍を開始した。
一方、別の場所より濃霧の中を進む船団があった。その船n一隻に、船首に立ち航路を見つめる男の姿がある。
「・・・?やけに静かじゃねぇか・・・。どういうこった?アイツらは何してやがる?」
ハオランを手に入れる為、その間邪魔が入らぬよう後退していったチン・シー海賊団の襲撃を、メデューズとクトゥルプスに任せていたロロネー。しかし、濃霧の中の海域は彼が想像していたよりも遥かに静かで、とても戦闘が行われているような様子には見えなかった。
二人の実力を知っているロロネーは、あの異形のモンスター達がそう簡単に倒されるなど思っていなかった。自身の用事が済み戦闘に合流した後に、モンスター達と一気にチン・シーを叩く手筈だった。
「おいおい・・・まさか全部やっちまったんじゃねぇだろうなぁ?それとも・・・」
海面には、所々に船の残骸や人の死体、或いは彼の差し向けた骸骨の船員達がバラバラになり、波に流され浮いている。明らかに人間同士の海戦による船の壊れ方ではない。
それはまるで、木の枝の束を握りつぶしたかのように海賊船の外装が散乱している。そのことから、あの二人がチン・シー海賊団の何隻かを撃沈させたことが伺える。だが、それなら何故姿を見せないのか。それは狩る相手がいなくなったか、或いは逆に始末されたかのどちらかだろう。
「ふん・・・まぁ構わねぇか。こっちには奴らの居場所を突き止める術がある。それに・・・コイツがいりゃぁ向こうからやって来るだろうしな」
そう言って、俯いて大人しく立ち尽くすハオランの方を見るロロネー。依然ハオランはロロネーの術中にはまり自我を失っているようだった。
そして彼の言う、向こうからこちらにやって来るとは、チン・シーがハオランを見捨てる筈がないと分かっているからだ。それに彼女の能力を知ってるロロネーは、チン・シーによるハオランのリンクの多様をある程度想定しており、その反応を頼りにこちらを探して来ることを読んでいた。
チン・シー海賊団の最強の手駒が、まさか相手の手に落ちているとは思ってもいないであろう彼らの反応に、ロロネーの気は高まる。最早彼にとってメデューズやクトゥルプスがどうなっていようと、知ったことではなかった。
ただハオランを手に入れるまでの時間稼ぎを達成してくれたのであれば、それでよかったのだから。
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